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異世界編-神の遊戯

期待(2)

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 答えを探している……

 期待《こたえ》を探している……


 「あなたに……追いつきたいと……」

 その瞳は……ユーキを見ているのか、
 その後ろのクレイを見ているのか……


 「そんな期待に答えたかった……」


 その期待が僕を支えていたんだ……

 僕はそんな期待に答えたかったんだ……



 ・

 ・

 ・


 自分に降りかかる悪意や不都合から逃れるように生きてきた。

 逃足《にげる》ことだけが能力《とくい》だったから……


 それでも、そんな能力に得意げになっていた僕なんかを……

 地底に落とせるだけの能力者なんて山ほどいる。


 そんな……現実《ぜつぼう》を見る中で……

 救ってくれたのは……

 僕はそんな彼女の救いになりたかった……

 そんな期待に答えたいと思ったんだ。


 そんな彼女の利用《きたい》されることを望み……

 僕はそんな彼女が利用《きたい》する師に出会った。


 例えるのなら悪のような存在だった。

 ユーキ=クサナギと名乗ったその男……


 正直、最初は嫌悪しかなかった。

 それでも、僕は……彼女の期待に答えるため、

 そんな彼女の師に自分も弟子入りした。

 そんな、男の修行は、優しさなど無くて……

 悪と暴力だけが支配していて……


 「どーした、誰かに期待されるだけの人間になりたいんだろ?」

 未だ、僕の名前すら覚えていないだろう人間《ユーキ》は、
 能力《かたな》も使わず、拳で僕の顔を殴り飛ばす。


 ユーキは手に入れたサンドバックにただ欲求を満たすように、
 何度も、何度も僕の顔を殴り飛ばす。


 「どーした?こんな弱者《じぶん》が嫌なんじゃないのか?期待される強者《なにか》になりてぇんじゃないのか?」

 「こんなの……こんなのは……」

 振り下ろされる拳に……
 そんなデタラメな暴力に……

 クレイさんと出会う前の自分の記憶が蘇る……

 「いやだ……こんなの……」

 こんなのは……期待などとは程遠い……

 自分が手に入れたい力とは程遠い……


 「どーした?何が違う……ずっと、ずっと……こんな暴力みたいな世界で苦しんでいたんじゃないのか?」


 「だから……だから……僕は……」


 「……だから?期待……するのか?期待《それ》をお前を守ってくれるのか?そんな暴力《りふじん》からお前を守るのか?」

 「期待はするな……期待される人間になれ……そんな欲望《きぼう》はお前を強くする……」

 「その欲望《きたい》だけがお前を強くする……その期待《ことば》はお前の力だ原動力だ……忘れんじゃねー、期待《さいきょう》など……言葉など……失ってからはその期待《ことば》の続きを語るなど難しいんだよっ」

 ただ、ひたすら……そんな暴力が……期待が……

 もちろん、そんな暴力《きたい》の意味などわからない……


 ・


 ・


 ・


 「どーした……いいじゃねぇか……神域魔力……お前が目指した力がそれだったのなら……期待されるものだったのだろ?」

 リルトをユーキは見詰め合うように……


 「戸惑ってんじゃねぇよ……期待《ゆめ》を叶えろよ……」

 「僕は……」


 リルトの魔力が弱まる……


 何を手に入れたかった……

 学園で理不尽な暴力に合って……クレイに助けられて……

 そんなクレイの期待《ちから》になりたくて……


 「でも……」

 転入生に……負けて……捨てられた。


 「……ぐっ!」

 ユーキは地面に刀を突き刺すと、拳でリルトを殴り飛ばす。


 「どーした、どっかの誰かに負けたのか、期待《ひてい》されたのか?」

 「どーした、あの時のお前は俺がどれだけ殴り続けても、その期待《よくぼう》は捨てなかったぜ」



 「僕は……僕には……もう……」

 期待……なんて……

 「期待は一方通行なんだ……期待するものは何もしないんだ……」

 「期待……するんじゃねぇ、されるんだ……」

 
 「何があった……たった一度の何かで諦めてんじゃねーぞ、誰かに好きな女が奪われたか?誰かにそんな存在を否定されたか?」

 「諦めてんじゃねーぞ、期待してんじゃねー……奪い返せ、そいつより強くなれ……言え、言ってみろ……誰だ、誰にやられた……」

 そう言う本人が理不尽に暴力《こぶし》を何度もリルトに振り下ろしながら……


 「俺が……てめぇの変わりにぶん殴ってやるよ……」

 強くなりたかった……

 そんな憧れた女性に期待していた……

 どこかで自分《ユーキ》の代わりに彼女《マキカ》が最強になればいいと……


 その期待を自ら壊してしまった……

 そして、そんな期待を勝手に背負って……


 刀狩り……そんな悪役を勝手に名乗り……


 その最中に、右手を失って……
 そんな期待《さいきょう》とは程遠い場所で燻っている。


 「……そんな、お前に誰も期待しねぇって言うのなら、俺が期待してやる、リルト、負けんじゃねぇよ……強くなるんだろ」

 そんな男に自分を重ね合わせて……

 そして、馬乗りになった体制で、何度も何度も理不尽に拳を振り下ろす。


 「何をしてる、もう……やめ……」

 ろと、その異常な光景を止めに入ったクレイを……


 「邪魔すんじゃねーよっ」

 リルトに振り下ろそうとした拳を停止させると、
 そのまま裏拳でクレイの頬を殴り飛ばす。

 あの日、あの時から、この男の正常など壊れている。
 正義も期待も……自分の力を表現するだけの理由に過ぎなくて……


 「クレイさんっ!!ユーーーキィ!!」

 リルトの拳がユーキの身体を吹き飛ばす。

 「お前に……あんたなんかに……僕はっ!!」

 入れ替わるように、馬乗りになるリルトが何度もユーキの身体に拳を振り下ろす。


 「やりゃ……できるじゃねぇか、リルト」

 そう、嬉しそうにユーキは不適に笑いながら……
 振り上げた拳でリルトの身体を吹き飛ばす……


 二人とも自分の能力《かたな》……武器《あし》を忘れ……
 殴り合って擦り切れた顔でにらみ合いながら……

 拳を構える。


 「憧れていたんだ……」

 我侭に……理不尽に……傲慢に……
 そんな存在を主張するような男《ユウキ》に……


 ずっと……ずっと、嫌なこと怖いことから逃げてきた……

 だけど、この男は、あえて真っ向からその場所に飛び込んで……




 重ね合わせていたんだ……

 憧れを自分が……手にかけたあの日から……

 いつも、その右手は震えていた。

 そんな右腕すら失ったはずなのに……今もあの感触を思い出す。


 勝手に背負った期待は余りにも大きすぎて……

 そんな期待《つみ》を支えに生きてきた……


 クレイを見るこの男《ユウキ》に……何かを期待したのだろうか……


 「期待《ゆめ》の続きが見たかった……」

 自分よりもずっと、ずっと強かった女……

 そんな女に勝手に寄せた自分の勝手な期待を勝手に壊した自分《だれか》が言えたことではないが……


 「そんな……期待《えがお》の理由が知りたかった……」

 気まぐれに渡した布に手を伸ばす少女……
 そんな真剣勝負の中で……

 突き刺さった刀の痛みすらも……
 そんな苦痛《えがお》に……


 目の前の、刀を抜き取る……


 「さぁ……死合おうか……」

 ずっと……ずっと探していた……

 その笑顔の意味を……

 それを知るための……死に場所を……


 「期待する、それは人間を弱くする……だったらその反対……期待されれば人は強くなる……」

 そんな持論でユーキは手にした刀を……

 天叢雲剣をリルトの目の前に、地面に突き刺す……


 「抜け……神器は……神域に達したお前にこそ相応しい……俺の期待に答えろ」

 もはや、この男の考えになど、誰も理解が追いつかない。


 ユーキは違う刀を能力化《インストール》するように……
 一本の刀を手にする。


 「さぁ……死合おうか……」

 わけもわからずに、リルトは目の前の刀を抜き取る。


 刀の扱いなど素人に近いリルト……
 それでも、神器……神域の魔力は……

 そんな鈍《かたな》とそんな実力に匹敵する。


 そんな命のやり取りでしか……

 責任の取り方を知らない……

 その答え探しのやり方がわからない……

 期待に答える方法を知らない……


 そんな腐敗する世界のなかで……そんな期待《かんかく》だけを探して……


 そんな期待《かたな》は……


 何度目かの鍔迫り合いの中で……


 音を立てて砕け散り……


 その期待《えがお》の意味が知りたかった……

 そんな期待《ゆめ》の続きを見たかった……


 死ねばその期待に答えられると思っていたのだろうか……


 そんなリルトの刀は致命傷を避けるように……

 ユーキの身体に突き刺さる。



 「僕の負けだ……そんなあんたの期待には答えられない……僕はそんなあんたの期待《いきざま》に憧れた……だから……」


 あの日、あの時……何を壊した……

 ただ……笑顔の意味が知りたくて……


 「あなたは生きてください……多分、僕が知らない彼女《だれか》もそれを期待しています……」

 そうリルトは戦意を損失するように両手を上にかざす。

 「(あなたの)生存《それ》が……その笑顔《こたえ》です……」

 何もしらない男《リルト》はすべてを見透かすようにそう、ユーキに告げる。

 
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