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異世界編-神の遊戯

壊れたモノ

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 聞きなれない、お経の音が響いていて……
 見知らぬ親戚の顔が並んでいて……
 僕はただ……その現実を受け止められずに居た。


 そんな会場に、気がつけば僕は一人取り残されていて、
 目の前の……正義《あね》が笑う遺影《しろくろのしゃしん》を見ながら……
 それでも現実を受け止められずに居た。



 ・
 ・
 ・


 現実世界……20××年……

 真っ暗な部屋、ゲーミングチェアに座り、僕はそのパソコンの画面に没頭している。
 その映し出すゲームの世界では僕は英雄だった。

 知っている……それは僕が勝者だからだ。
 強者は正義、弱者は……

 だから、明日には……僕の正義は簡単に裏返る。


 そんな、閉じこもった僕の世界のドアが開かれる。


 「ちょっと何よこれっ!」

 僕が部屋の前に置いた簡単なバリケードが簡単に壊されている。
 そのダンボールのバリケードを壊し、姉の顔がひょっこりと覗かせる。


 「な……なんだよ……ねぇちゃん、学校はどうしたんだよ」

 開いた扉から流れ込む日の光に、今が平日の昼間だということを知る。

 「な、なんだよじゃないでしょ、あんたこそ、学校……どうするのっ!!」

 お節介をやくように姉がまゆを吊り上げながら言う。

 「お母さん泣いてるよ、それにあんたの担任に私がいつも呼び出されるのっ」

 迷惑なんだけどという目を向けられる。


 「ほっとけよ……僕はあんな場所に……」

 居場所は無い。

 「大丈夫……私たちが何とかするから」

 姉がそうにっこりと笑う。
 居場所の無い僕の世界……

 ここだけが僕の世界……
 そんな場所から連れ出すお節介な正義の味方に……
 僕は……

 文武両道、そんな自慢の姉の彼氏と姉に連れられて、
 僕は再び、日常《じごく》へと足を踏み入れる。


 「やめなよ……」

 学校裏で、暴力を振るわれていた僕に姉の自慢の彼氏《せいぎ》は、
 そんな、男たちの拳を止めて、数人いた男たちを簡単にねじ伏せた。

 弱者《ぼく》を守る正義《あねのかれし》はそこに居て……
 僕は確かにそれに守られていた。

 それから、僕にも平凡が訪れた。

 だけど、数日後……
 姉とその彼氏の姿を見かけなくなり……
 家族と交流の無かった僕は、それでも、その平凡を続けようとした。

 しばらく、おとなしかったクラスメイトがニヤニヤと僕を見ながら、
 再び、僕は校舎裏に呼び出され、殴られた僕の体はあっという間にその場に這い蹲り、その頭に男の一人が僕のあたまに靴底を押し付けている。


 その男が僕の頭のよこに自分のスマホを投げ捨てると、
 動画が流れている。


 「も……もう……やめてくれ」

 なさけない……そんな正義《おとこ》の声が聞こえてくる。
 学園のOBが混じっていると思われる大人数に、
 正義は容赦なく敗れ去って……

 辱められるように、すっぱだかの姿をさらけ出している。


 奥からは姉の悲鳴も聞こえていて……

 「おいっ……告げ口されないように徹底的にやれよ」

 リーダーらしい男の声が聞こえてきて……


 正義は簡単に悪に正される……
 

 僕は流れる涙の意味もわからなくて……
 僕と入れ替わるように登校拒否となった姉の彼氏……
 そして、自殺した姉……

 数日後に行われた姉の葬式も……
 僕には全く理解が追いつかなくて……


 数日後の教室……
 僕は購入した折りたたみ式のバタフライナイフを制服のポケットへと忍び込ませて……


 「はぁ……動画を見せろ?」

 クラスメイトは僕のそんな言葉に圧のある言葉と睨みをきかせる。

 直接、手をくだした訳じゃない……それでも、なんでこいつらは今もこうして普通に笑っているんだ?
 なんで、こいつらの日常は正されているんだ?

 正義とはなんだ?正しいとはなんだ?

 おもしろ半分に再び僕の前で男の携帯から動画が流れる。

 僕は冷静に怒りを抑えながら、手にしたナイフの刃を起こし、そのスマホの画面に突き刺した。
 くそ……思ったより頑丈だ……

 僕は、何度も何度もその刃をスマホの画面へと突き刺して……
 やがて動画が流れなくなるほど、それを破壊した。


 「おい、てめぇ何してんだよ……いいや、新しいスマホに買い替えたかったんだ、お前……金だせ……」

 よと男が僕に言う台詞は続かなくて……


 「きゃーーーーーーっ」

 そんな女子の悲鳴が教室に響き渡る。


 「……なんだ、スマホを壊すより簡単じゃないか」

 ずっと怯えていたそれは……
 僕のせいで、壊れた正義の味方を壊したそれは……

 手にした、凶器《やいば》がそれの喉を簡単に切り裂く。
 簡単に目の前の悪《ゴミ》を壊した。

 躊躇などしない……
 目の前の仲間も同様に切り裂く。

 スマホなんかよりも簡単に次々と壊れていく。
 簡単に壊れていく。

 簡単に僕は壊れていく。


 動画の映像を思い出す。
 僕は……男《リーダー》となる男を捜しあてると、
 躊躇無くその刃でその男の喉を突き刺した。

 返り血を浴びた僕の体に人々が悲鳴をあげている。
 警察のサイレンの音がそこらに響き渡っていて……

 僕は逃れるように、導かれるようにその建物に入った。


 「転生者を求める者と転生者になりたい者のマッチングが完了しました」

 目の前の女が僕にそう告げる。


 ・
 ・
 ・


 「壊す、壊れろ……壊せ……」

 第一部隊、第二部隊を退け……
 第三部隊を前に……

 リスカはいかれた目を向ける。
 いかなる攻撃も、能力で修復し、
 そして、そんな猛者たちをたった一人で払い退ける。

 負けなどしない……
 そんな全ての正しさを否定しろ。

 「壊す…壊れろ、壊せ……」

 そう……僕はとっくに壊れている。


 「コメットっ」

 握った石を握りつぶすように、作り出した石くずを空中に放り投げる。


 「魔槍《まそう》……飛べっ!!」

 コメットはレスの結界に防がれている。
 そんなコメットの開放で無防備になった身体に、
 アストリアの魔槍が突き刺さる。

 「ここで、終わらせるっ!!」

 容赦なくライトの魔力の剣が追い討ちをかけるように、切り捨てられる。


 「壊す……壊れろぉ、壊せぇ」

 壊れた身体は、それ以上に壊れない……
 白目の目に黒目《ひとみ》が宿る。

 リスカの周囲の流れる魔力に瘴気が宿るように、
 その瘴気にあてられた、第三勢力の部隊は弾き飛ばされるように、
 地面を転げまわる。

 これだけの勢力を前にしても、
 目の前の男は止められない。
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