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学園編-学園武術会

お前の隣に

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 気を失っていたのは一瞬……

 あいつに操られていた時の記憶は残っている。
 アセリアがゆっくりと目を開く。

 だが……いったいその一瞬で何があったのか。
 全く雰囲気の変わった敵《ふたり》……

 
 進化したヴァニの手甲《こぶし》が、
 ナイツにヒットするが、寸前で発動した漆黒の盾がそれを防ぐ。

 ゲイスの魔力を当てられてることで、
 その盾の能力も向上しているのかもしれない……

 「……さすがはトップ3と称されるだけの人間、今取ってつけたように形を変えただけの武器《のうりょく》に……」
 ヴァニの一撃でぶっとばされた、身体を尻餅をついた体制で頭を起こし、そう勝ち誇ったように言う。


 「壱の型……」
 そうヴァニが呟くように言う。

 黒い手甲が外側に少しだけ開くように、手甲とヴァニの腕に隙間ができ、
 そこから銃口の先のような円筒が覗く。

 「……爆撃拳《ショットガン》」
 その言葉と同時に銃口の先が火を噴くと、カランと火薬の筒のようなものがリングに落ちる。

 その爆発に火力と勢いを増したヴァニの手甲《こぶし》がその防がれた盾ごとナイツの身体を吹っ飛ばす。

 ナイツも盾でそれを防ぎながらその体制は崩さずに、両足で地面をこすり土煙を撒き散らしながら後退していく。


 ナイツはゆっくりと体制を立て直すと、標的《ヴァニ》の方を一瞬見ると……


 「なっ?」
 ヴァニが目を見開き目を点にするように驚く……

 3学年……トップに君臨する実力者……
 やはり、その動きだけは簡単に追うことなどできない。

 反応すら許されないまま背後を取られる。

 「ぐっ……」
 ナイツの回し蹴りが背後から頭部にヒットする。
 地面を転がるように吹っ飛ばされる。


 「弐の型……」
 そう立ちひざを突きなんとか体制を起こしながら……
 まだ、遠くに立つナイツに手甲《みぎて》を向ける。

 手甲が再び形を変化させる。
 今度は銃口が手の甲から突き出すように現れる。

 「火炎弾《ロケットパンチ》ッ」
 その言葉と共に真っ赤な球体がナイツ目掛け飛ぶ。

 予想していなかった技に反応が遅れ、その一撃を身体で受け止める。

 弾を両手で受け止めるように身体に抱えていたが、ささえきれなくなったように、
 再びその身体《ナイツ》が吹き飛ばされる。


 ・
 ・
 ・


 「面白い……」
 操られ仲間同士が争うという最悪な状況……
 誰もが……不快さと不安で見守る中、一人……
 アストリアだけは楽しそうにヴァニの姿を見ている。


 「先ほどの、小娘《レイン》……そして、脳筋小僧《ヴァニ》……中々どうして、面白い奴が揃っているな」
 そう、アストリアが二人を評価する。

 「でも……アストリア……この状況は……」
 最悪な状況は抜け出せていない……
 さすがに観客者もなぜ仲間同士でそんなことをしているのかは理解できているが……異様な状況化で仲間同士で争っている風景に……

 「あの馬鹿《ヴァニ》には、勝ちしか見えていないだろうな……だが勝つ相手《てき》を間違えている気がするけどな……」
 恐らく、皆が求める勝利とヴァニが今見ている勝ちは違っている……
 そう今も対峙している味方《ふたり》を見る……


 ・
 ・
 ・


 再びナイツの運動力に圧倒されるように、
 攻撃のラッシュをヴァニが浴びている。

 手甲を盾にするようにその一撃、一撃を受け止めながら耐え続ける。

 その攻撃の一瞬の隙を突く様に、ヴァニの手甲がナイツを捕らえる。

 その一撃《チャンス》を逃すわけにはいかない……

 「壱の型……爆撃拳《ショットガン》」
 火力の増した手甲《こぶし》が再び凄い勢いで吹き飛ぶが……

 上空で体制を持ち直し、両足と両手を地面につけると、
 地を削るようにその勢いを殺す。

 「……くぅ……」
 追い込んでいると思ったヴァニの方が少しだけ苦しそうな表情をする。

 新たに得た能力《ちから》……
 その力は自分の想像より遥かに高いが……

 同時に身体《まりょく》の消耗も激しい……

 その隙をナイツが逃す訳もなく、その姿を再び見失う。

 途端に身体のあっちこっちに痛みが走る。
 もう……何処から攻撃されてるかさえも目で追うことすら適わない。

 最後《ラッシュ》に回し蹴りで再び、リングを転がるように吹っ飛ばされる。

 
 遠のく意識の中でラビのカウントの声が響いている……


 「5……4……3……」
 ラビのカウントを止める。

 ゆっくりと立ち上がる……


 「俺が……あんたを超えるなんておこがましいか……」
 そう……ナイツに向け言い放つ。

 無言で再び蹴り飛ばされるヴァニ。

 「……悔しいだろ」
 黙って起き上がる……

 「お前に出会って殴られて……世界が違って見えた……」
 誰かに語りかけるように……

 「そんなお前に助けられて……そんなお前なら頼れると思った……」
 振りかざした手甲が回避され、さらにヴァニの身体が蹴り飛ばされる。

 「……そんなお前に頼られたい……と思った」
 そうヴァニが起き上がり誰かに語りかける。

 「そんなお前は……生徒会長《すごいやつ》まで倒しちまって……」
 ………

 「そんな凄い奴らにまで頼られて学園《あく》を戦って……」
 ヴァニがさびしそうに笑う……

 「………そんなお前と同じ景色を見たいと思うのはおこがましいか?」
 そう誰かに語る……

 「さっさと終わりにしろっ」
 そうゲイスがナイツに命じる。

 「……参の型……」
 地面に手甲を押し付ける。

 「火槍《バースト》」
 そう地面に拳《だん》を放つ

 ナイツの真下から爆発が起こり、その身体が上空に投げ飛ばされる。

 「弐の型……火炎弾《ロケットパンチ》」
 上空に投げ飛ばされたナイツを狙う。
 上空で体制を直し、シールドを創り出し、
 その火弾を止めるが、
 相殺するようにシールドが砕け落ちる。

 「壱の型……爆撃拳《ショットガン》」
 再び地面を殴ると同時に両足で上空に飛び上がる。

 「壱の型……爆撃拳《ショットガン》」
 ナイツと同じ高さまで飛び上がるとその手甲《こぶし》を振り下ろす。

 凄い勢いでナイツの身体が地面に突き落とされる。


 かなり上空まで自分の身体を投げ飛ばしたヴァニの身体も、
 情けなく着地を失敗するように地面に叩きつけられる。


 会場が静まりかえっている。
 その異様な仲間同士の戦いに……

 客席も……

 そのハイレベル過ぎる戦いに……

 アセリアとゲイスも……

 「10、9、8……」
 思い出したようにラビがカウントを開始する……

 のらりと……操られるようにナイツが起き上がる。

 「7……6……」
 悔しい……じゃないか……
 動かない身体を懸命に動かそうと努力する……

 「5……4……」
 あと……少し……だろ……
 お前が見た景色……

 お前と並んで……

 「3……2……」

 ……見る……

 「……1……」

 ……んだ。

 「……立ち上がりました……ヴァニ選手」
 ラビの声と共に注目が集まる。

 ……さすがに限界だ……

 「なぁ……終わりにしよーぜ……お互いの本気《さいごのいちげき》で……」
 その言葉に反応するように……

 ナイツの右腕に凄まじい黒い炎が集まる。

 「壱の型……」

 互いに互いの拳が互いの頬をとらえる。

 「爆撃拳《ショットガン》」
 互いの身体が場外目掛け一直線で吹っ飛んでいく……

 多分……場外は免れることはできない……だが……

 忘れかけていた……勝利《やくそく》……

 「弐の型……」
 吹き飛ばされる身体の右手をなんとか動かす。

 「火炎弾《ロケットパンチ》」
 火球を飛ばす。

 「なっ!?」
 火球はゲイスの身体を捕らえ……同じく場外へと吹き飛ばす……

 3つの身体がそれぞれ場外へと落ちる……

 会場が静まりかえっている……

 「ヴァニ選手……場外……勝者、ゲイス選手とアセリア選手です」
 ほんの少し早く場外に落ちたのはヴァニの身体だった……

 「くっそ……負けちまった……」
 「わりぃ……」
 ヴァニが悔しそうに天を仰ぎ……気を失った。
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