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語られる真実。自由に不自由にそれは語られる。
しおりを挟む
消毒液と包帯をナギちゃんの腕に巻く。
少し可哀相だと思ったが、ロープのようなもので彼女の右手首をきつくしばりあげた。
毒を体内にまわすのは危険だが、長時間血の流れをを止めてしまうのも危険だ。
早くきちんとした医者に見せないと……
そのためにも、ボクは次を殺人鬼《はんにん》と最後の戦いとしよう。
そのために、ボクはそれを確かめなくてはいけない……
ボクはペンライトを手に持つと……
部屋のドアを閉め、とある人物の部屋に向かいドアを開けた。
鍵はかかっていなかった。
侑陽アケミに与えられた部屋。
ドアを開けてすぐ……それは見つかった。
「……痴れ事だ、それ……を見なくても、わかっていただろ、逸見トウタ」
ボクは自分に向かってそう言った。
ボクが見たそれ……
首から下の無い侑陽アケミの生首を見てボクはそう言った。
長い間、その姿を消していた……侑陽アケミは、
こんなにもあっさりとボクの前にその姿を現す。
そうだ……
ボクは最初から彼女《それ》を見ていた、
ボクは最初に犯人《そんなもの》を見ていない。
「犯人がわかったのかとーた?」
ボクはナギちゃんを抜かした、
緑木 ナエ
公明 ヒイラギ
鳴響 リンネ
空伊芦 アオ
紫索 キッカイ
水之 シラベ
分限 ネイネ
の7名を客間に集めた。
「わからないことは、まだたくさんある……ただ、侑陽クレミが誰なのか、それはわかったよ」
ボクのその言葉に……
7名が7人の顔を見比べている。
「侑陽クレミは間違いなく、ここに来た14人の中に居る」
ボクがそう答える。
「この8人の中に、犯人がいるって言うのか?」
ネイネちゃんがそう叫ぶように言った。
「……いないよ」
ボクはそう返す。
「ちょ、とーた、何言って……」
アオちゃんがそんなボクの言葉に戸惑うように返す。
「最初に……月鏡 ウミの部屋で殺人が起きた……それをボク、ナギちゃん、ヒイラギの3人で確認した」
ボクはそう語り始める。
「その時、暗闇につつまれて断言はできないが、客間にはボクたち3名と夕日アケミ、そして月鏡 ウミの本人、5名以外は客間に居た事になる」
ボクは言う。
「二つ目の事件、海場 ゴウ……これに関してはいつ、殺されていたのかもわからない……時間帯によっては誰にでもできたし、誰にもできない……」
ボクはそう続ける。
「誰にもできないって……?」
不思議そうにキッカイが言うが……
「いや……侑陽クレミが犯人だとするのなら、それは関係ないんだ」
ボクはその疑問を断ち切る。
「3人目……この屋敷の主、志念 マキ」
ボクの言葉に全員が息を呑む。
「ボクとヒイラギとナギちゃんがその現場を目にする前……ボク、ヒイラギ、ナギちゃん、ナエちゃん、アオちゃん、シラベくんの6人で一緒にいた」
その言葉に名前のあがらなかった、キッカイとネイネちゃん、リンネちゃんが息を呑む。
「4人目……荒川 アラシ、これも、2つ目の事件同様に、時間が特定できていない以上、誰にも可能であったし、誰にも不可能な事件」
ボクはそう続ける。
「2つの事件が可能か不可能かもわからないのに……誰が犯人だって言うの」
リンネちゃんがそうボクに尋ねる。
「確かにここに居る8名とボクを庇ってくれたナギちゃんを合わせた9名から、特定するなら難しい」
ボクはそう続ける。
「……でも、ここに居ない6名から探すとすれば話は変わってくるんだ」
ボクの台詞に全員が不思議そうにする。
「まって、だって……それ以外の人間は死んで……」
そうアオちゃんが返すが……
「侑陽アケミ……?」
リンネちゃんがそう尋ねる。
ずっと行方不明だった一人……
「でも……おかしいよ、姉妹なんだろ?本当は一人だったとかそんな馬鹿な話……」
そんなネイネちゃんの台詞に
「もちろん、違う」
ボクは返す。
「……それに、侑陽アケミは死んでいた……ボクは間違いなくそれを見た」
ボクの言葉に再度、全員が息を呑む。
「この事件を知るには……やはり注目するのは最初の事件なんだ……一つ、ボクがこの事件を振り返って語った部分で言っていない事がある」
以前に見間違えた部分を訂正した。
「さっきから、何言ってるのさっ!!」
久々に口を開いたナエちゃんが少し強い口調で言う。
酷な話だ……それでも……
ん……?
真実を語ろうと一歩前に足を動かすとくしゃりと何かを踏み潰した。
足元にライトの光を当てる。
紙切れが一枚。
ボクはそれを拾い上げた……
その顔が一気に真っ青になる。
「あなたの宝物を貰うよ、トウタ君」
そう短い文章が書いてある。
次の瞬間、2階からドアを破壊するような大きな音が鳴り響く。
ボクは床を蹴り、全力でボクにあたえられた部屋を目指した。
たどり着くと、仮面をつけた殺人鬼と虚ろな目のナギちゃんが互いにナイフを突きつけあうように対峙している。
ボクは近くにたてかけられていたモップを手にすると、その殺人鬼に飛び掛る。
が、くるりとボクに標的を変えた殺人鬼は鋭い蹴りをボクに浴びせると、ボクは情けなく後ろに倒れこむ。
「させねーって」
ボクに追い討ちをかけようとした殺人鬼の前にヒイラギがまわりこみ、
逆に鋭い蹴りを決めるが、殺人鬼はそれを瞬時に回避する。
隙をあたえないように、ヒイラギがラッシュを続けるが、
それらを全て回避していく、殺人鬼。
そして……
「つぅ……ぐっ」
殺人鬼は床に転がったモップの尾を踏むと、勢いよく立ち上がったモップの先がヒイラギの顎にクリーンヒットする。
次は、ヒイラギがサンドバックのように仮面の殺人鬼にラッシュを入れられる。
「ヒイラギっ」
ネイネちゃんが倒れこんだヒイラギを心配そうに名を呼ぶ。
「ってぇ~、何者だっての、防いでるってのに鉄の棒にでも殴られている痛みだ」
ヒイラギがよろりと起き上がり、すぐさまボクの前に立つ。
「もう……よせ、ヒイラギ……」
ボクはそんなヒイラギを止めるが……
「俺の前で、お前の自己犠牲は成立させねぇって言ってるだろ、それに……俺、結構強いんだ」
そう言うが……さすがに相手が悪すぎる。
ヒイラギが再び、飛び掛るもその攻撃は全てかわされ、
鋭いカウンターを何発も受けて、再び倒れこむ。
「ヒイラギ」
ネイネちゃんが、再び心配そうに名を呼ぶ。
「侑陽なんちゃらだか、殺人鬼だか……しらねーーけど、俺の友達に手をださせねーー」
心配そうにかけよったネイネちゃんの手を遮り、ヒイラギが再び立ち上がる。
素手では、この男は折れないと判断したのか、
殺人鬼の右手にナイフが握られている……
負けを認めるなら今かもしれない……
「……ボクの負けだ……だからボクの友達《たからもの》を奪わないで、ウミちゃん」
ボクはそう、目の前の仮面の殺人鬼に言った。
「えっ……?」
全員が驚いている様子だったが、ヒイラギは今まで誰とやりあってるつもりだったのか……目を点にしている。
「あははははっ」
殺人鬼は楽しそうに笑い、その仮面と帽子を脱ぎ捨てる。
綺麗な青い髪がこぼれるように現れ、
綺麗な容姿が現れる。
「月鏡 ウミ……彼女が……侑陽 クレミ……?」
そうリンネちゃんが……こぼす。
「そんな……わけ……」
ナエちゃんが信じたくないというようにウミちゃんを見る。
「ごめんね、ナエ……あなたが私をどう受け入れようと、私はずっと宝物《ともだち》だからね」
ウミちゃんは優しくナエちゃんの頭を撫でた。
いったい……彼女《さつじんき》の目的がなんであったのか……理解ができない。
ボクに負けを認めさせることが目的だったのだろうか……
「あなたを守るためなら、殺人鬼にでも私はなれるの……」
ウミちゃんは、ナエちゃんに優しく微笑みかけると……
ゆっくり歩き出して……
ボクの前に立つ。
「ねぇ……トウタ君、あなたみたいな人間にもやっぱり大事なものはあるんだね……」
そう、いつものように嫌味っぽく投げ捨て……
「ねぇ……トウタ君……」
そう言って……
「にゃっ!!」
「えっ?」
「へっ?」
それぞれが反応を示す。
虚ろな目をしていたナギちゃんの目が一瞬で猫の様な目に変わり……
不意にボクに口づけするウミちゃんの姿を見ている。
「わたしも……あなたの宝物になることはできるのかな?」
そう女性らしく微笑んだ。
「それじゃ……マキが隠ぺいするつもりだったとはいえ、その本人が殺されたとなれば、志念家も黙っていないと思うからね、わたしはしばらく身を隠すとするよ」
そう言って、部屋の窓の方に向かうと、そのまま窓を突き破るように外に落下する。
慌てて、その後を追って、窓の外を見るがその姿は何処にも無かった。
彼女はいったい何者なのか……だったのか……
それについて、再び知ることになるのは、数日後、再びあいつと出会った時だった。
・
・
・
あの屋敷の事件から10日後……
ボクは学校を出て、校門に差し掛かった。
他の生徒たちがある一箇所を避けるように下校している。
ボクもその視線の先に気がつき、それに習うように帰宅しようとするが……
「おぃおぃ、無視をするなっ、この俺はてめぇを待っていたんだ、逸見トウタ」
名指しで呼ばれてしまう。
自称、調律者……ジェイケイだったか?
「どうだ……あれから、何事もなかったか?」
そう、少し優しくジェイケイが言う。
「さすがに……しばらく事情聴取され続けたよ」
こんな無法地帯のような島でも、それなりに法は機能している。
「それで、ボクに何かよう……水之 シラベ君?」
ボクはジェイケイをその名で呼んだ。
「お、何だ気づいていたのか、逸見 トウタ」
そうジェイケイはケラケラと笑い出した。
「まぁ、その何だ、答え合わせというこうぜ」
そうジェイケイは切り出し……
「答え合わせ?犯人は月鏡 ウミだった」
そうボクがそう返すが……
ボクはそれを見て、そんなものは見ていなかった。
最初に首の無い月鏡 ウミの服を着せられた侑陽 アケミの死体を見て、
ボクはそれとそんなものを見間違えた。
ボクは最初に侑陽《それ》を見ていたし月鏡《そんなもの》は見ていなかった。
体格の似ていた、彼女たちの体系からボクは誤解することなく、
その嘘の真実を受け入れた。
「なぁ……それで、お前は納得しているのか?」
そうジェイケイ……水之シラベは続ける。
「今回の犯人は、月鏡 ウミであり、侑陽 クレミだったんだよな?」
シラベはそうボクに問う。
肯定する言葉を寸前で飲み込む。
まて……結局、月鏡 ウミはなぜ……主人どころか、侑陽 アケミまで殺したんだ?
姉妹……殺したいほど仲の悪い人間だったのか?
とてもそうは思えない……
「逸見トウタ……俺はな、侑陽 クレミと月鏡 ウミは別人だと思うぜ?」
そうシラベは続ける。
「な……じゃぁ、侑陽 クレミは?」
……それじゃ、今回の事件は?
「……安心しろ、犯人は月鏡 ウミで間違いないさ」
シラベはそう付け加え……
「月鏡 ウミは誰にでも成り代われるスーパースターなんだろ?」
そうシラベは言う。
確かに彼女はあらゆる部活動を掛け持つほどのスーパーガールだ。
「目的のために自分と体系のにている殺人鬼の姉妹の一人に成り代わることさえ、彼女にとっては容易だったんじゃないか?」
そうシラベが僕に告げる。
「目的のために……?」
ボクはそう疑問を口にする。
「姉妹の一人に成り代わる……?彼女はあの屋敷に行く前に……侑陽アケミと侑陽クレミが雇われるその前に侑陽クレミを殺して入れ替わっていたと?」
そう……ボクが問う。
「あぁ……志念 マキの仮面を外せという命令にできない理由ってのはそこにあったんじゃねーのか?」
そうシラベは僕に答えた。
「でも……どうして、そんなことを……」
ウミちゃんがそんなことする理由が……
「逸見トウタ、てめぇが大事なもんを守りたいと思う同様に、彼女もまた大事なものを守ろうとしたんだろ?」
そう答える。
「大事なもの……緑樹 ナエ……?」
そうボクの脳裏に彼女の姿が浮かぶ。
当初の志念マキの殺人計画と思われるリストの中には……
彼女の名前が入っていた。
だから、彼女は殺人鬼の一人と成り代わってまで、彼女を救おうとしたのだろうか。
そんな事まで彼女は可能だと言うのだろうか……
「そんな、大事な宝物《ともだち》の想い人がてめぇだって言うんだからな」
そうシラベはにやりと笑って……
「そんな、殺人鬼にてめぇが目つけられるのも自然な話だろ」
そう言った。
「まぁ、そんな殺人鬼にまでてめぇは随分と気に入られたみたいだけどな」
そうケラケラ笑い出す。
「じゃあなっ……っても、逸見トウタ、てめぇとは近々会うことになりそうだけどな」
そうシラベは右手をあげて、その場を去っていった。
「おーい、とーた」
ヒイラギがボクに声をかける。
「ちょっ……ヒイラギ待ってよ、今日はわたしとスタバの新作飲みに行くって約束だろ?」
ネイネちゃんがその後ろを追ってくる。
「な……そんな約束してねーよ」
そうヒイラギが返すが……
「ひど、女の約束より、同姓と遊ぶこと優先するの?ヒイラギ、あんたホモじゃないよね?」
少し心配そうにネイネちゃんが問う……
「んな訳ねーだろっ、女には男の友情ってのが理解できねーんだよっ」
そうきゃんきゃん騒ぎ立て……
「わかったよ、とーたも一緒なら行く、それでいいだろ?」
そうヒイラギが妥協する。
「……ボクの意思は?」
ボクがそう呟くが……
「あははぁー、ねぇ僕も一緒に行っていい?」
いつの間にか立っている茶髪の女生徒。
右手に包帯を巻いている。
肌の色はだいぶ良くなった。
ウミちゃんが姿を消したあの日、あの場に残していった解毒剤の効果が効いているようだ。
ボクたちは二人、ヒイラギとネイネちゃんのデートに付き合うことになる。
そんな中でボクは思う。
不羈乃 ナギ 彼女の存在こそが一番の謎なんじゃないかと……
ボクがそこにたどり着く日はくるのだろうか……
それが、不自由なボク、逸見トウタと、
自由を名乗る、不羈乃 ナギの出会いと、最初の事件だった。
ただ……今は……この時間を楽しもう。 痴れ事だけどね……。
少し可哀相だと思ったが、ロープのようなもので彼女の右手首をきつくしばりあげた。
毒を体内にまわすのは危険だが、長時間血の流れをを止めてしまうのも危険だ。
早くきちんとした医者に見せないと……
そのためにも、ボクは次を殺人鬼《はんにん》と最後の戦いとしよう。
そのために、ボクはそれを確かめなくてはいけない……
ボクはペンライトを手に持つと……
部屋のドアを閉め、とある人物の部屋に向かいドアを開けた。
鍵はかかっていなかった。
侑陽アケミに与えられた部屋。
ドアを開けてすぐ……それは見つかった。
「……痴れ事だ、それ……を見なくても、わかっていただろ、逸見トウタ」
ボクは自分に向かってそう言った。
ボクが見たそれ……
首から下の無い侑陽アケミの生首を見てボクはそう言った。
長い間、その姿を消していた……侑陽アケミは、
こんなにもあっさりとボクの前にその姿を現す。
そうだ……
ボクは最初から彼女《それ》を見ていた、
ボクは最初に犯人《そんなもの》を見ていない。
「犯人がわかったのかとーた?」
ボクはナギちゃんを抜かした、
緑木 ナエ
公明 ヒイラギ
鳴響 リンネ
空伊芦 アオ
紫索 キッカイ
水之 シラベ
分限 ネイネ
の7名を客間に集めた。
「わからないことは、まだたくさんある……ただ、侑陽クレミが誰なのか、それはわかったよ」
ボクのその言葉に……
7名が7人の顔を見比べている。
「侑陽クレミは間違いなく、ここに来た14人の中に居る」
ボクがそう答える。
「この8人の中に、犯人がいるって言うのか?」
ネイネちゃんがそう叫ぶように言った。
「……いないよ」
ボクはそう返す。
「ちょ、とーた、何言って……」
アオちゃんがそんなボクの言葉に戸惑うように返す。
「最初に……月鏡 ウミの部屋で殺人が起きた……それをボク、ナギちゃん、ヒイラギの3人で確認した」
ボクはそう語り始める。
「その時、暗闇につつまれて断言はできないが、客間にはボクたち3名と夕日アケミ、そして月鏡 ウミの本人、5名以外は客間に居た事になる」
ボクは言う。
「二つ目の事件、海場 ゴウ……これに関してはいつ、殺されていたのかもわからない……時間帯によっては誰にでもできたし、誰にもできない……」
ボクはそう続ける。
「誰にもできないって……?」
不思議そうにキッカイが言うが……
「いや……侑陽クレミが犯人だとするのなら、それは関係ないんだ」
ボクはその疑問を断ち切る。
「3人目……この屋敷の主、志念 マキ」
ボクの言葉に全員が息を呑む。
「ボクとヒイラギとナギちゃんがその現場を目にする前……ボク、ヒイラギ、ナギちゃん、ナエちゃん、アオちゃん、シラベくんの6人で一緒にいた」
その言葉に名前のあがらなかった、キッカイとネイネちゃん、リンネちゃんが息を呑む。
「4人目……荒川 アラシ、これも、2つ目の事件同様に、時間が特定できていない以上、誰にも可能であったし、誰にも不可能な事件」
ボクはそう続ける。
「2つの事件が可能か不可能かもわからないのに……誰が犯人だって言うの」
リンネちゃんがそうボクに尋ねる。
「確かにここに居る8名とボクを庇ってくれたナギちゃんを合わせた9名から、特定するなら難しい」
ボクはそう続ける。
「……でも、ここに居ない6名から探すとすれば話は変わってくるんだ」
ボクの台詞に全員が不思議そうにする。
「まって、だって……それ以外の人間は死んで……」
そうアオちゃんが返すが……
「侑陽アケミ……?」
リンネちゃんがそう尋ねる。
ずっと行方不明だった一人……
「でも……おかしいよ、姉妹なんだろ?本当は一人だったとかそんな馬鹿な話……」
そんなネイネちゃんの台詞に
「もちろん、違う」
ボクは返す。
「……それに、侑陽アケミは死んでいた……ボクは間違いなくそれを見た」
ボクの言葉に再度、全員が息を呑む。
「この事件を知るには……やはり注目するのは最初の事件なんだ……一つ、ボクがこの事件を振り返って語った部分で言っていない事がある」
以前に見間違えた部分を訂正した。
「さっきから、何言ってるのさっ!!」
久々に口を開いたナエちゃんが少し強い口調で言う。
酷な話だ……それでも……
ん……?
真実を語ろうと一歩前に足を動かすとくしゃりと何かを踏み潰した。
足元にライトの光を当てる。
紙切れが一枚。
ボクはそれを拾い上げた……
その顔が一気に真っ青になる。
「あなたの宝物を貰うよ、トウタ君」
そう短い文章が書いてある。
次の瞬間、2階からドアを破壊するような大きな音が鳴り響く。
ボクは床を蹴り、全力でボクにあたえられた部屋を目指した。
たどり着くと、仮面をつけた殺人鬼と虚ろな目のナギちゃんが互いにナイフを突きつけあうように対峙している。
ボクは近くにたてかけられていたモップを手にすると、その殺人鬼に飛び掛る。
が、くるりとボクに標的を変えた殺人鬼は鋭い蹴りをボクに浴びせると、ボクは情けなく後ろに倒れこむ。
「させねーって」
ボクに追い討ちをかけようとした殺人鬼の前にヒイラギがまわりこみ、
逆に鋭い蹴りを決めるが、殺人鬼はそれを瞬時に回避する。
隙をあたえないように、ヒイラギがラッシュを続けるが、
それらを全て回避していく、殺人鬼。
そして……
「つぅ……ぐっ」
殺人鬼は床に転がったモップの尾を踏むと、勢いよく立ち上がったモップの先がヒイラギの顎にクリーンヒットする。
次は、ヒイラギがサンドバックのように仮面の殺人鬼にラッシュを入れられる。
「ヒイラギっ」
ネイネちゃんが倒れこんだヒイラギを心配そうに名を呼ぶ。
「ってぇ~、何者だっての、防いでるってのに鉄の棒にでも殴られている痛みだ」
ヒイラギがよろりと起き上がり、すぐさまボクの前に立つ。
「もう……よせ、ヒイラギ……」
ボクはそんなヒイラギを止めるが……
「俺の前で、お前の自己犠牲は成立させねぇって言ってるだろ、それに……俺、結構強いんだ」
そう言うが……さすがに相手が悪すぎる。
ヒイラギが再び、飛び掛るもその攻撃は全てかわされ、
鋭いカウンターを何発も受けて、再び倒れこむ。
「ヒイラギ」
ネイネちゃんが、再び心配そうに名を呼ぶ。
「侑陽なんちゃらだか、殺人鬼だか……しらねーーけど、俺の友達に手をださせねーー」
心配そうにかけよったネイネちゃんの手を遮り、ヒイラギが再び立ち上がる。
素手では、この男は折れないと判断したのか、
殺人鬼の右手にナイフが握られている……
負けを認めるなら今かもしれない……
「……ボクの負けだ……だからボクの友達《たからもの》を奪わないで、ウミちゃん」
ボクはそう、目の前の仮面の殺人鬼に言った。
「えっ……?」
全員が驚いている様子だったが、ヒイラギは今まで誰とやりあってるつもりだったのか……目を点にしている。
「あははははっ」
殺人鬼は楽しそうに笑い、その仮面と帽子を脱ぎ捨てる。
綺麗な青い髪がこぼれるように現れ、
綺麗な容姿が現れる。
「月鏡 ウミ……彼女が……侑陽 クレミ……?」
そうリンネちゃんが……こぼす。
「そんな……わけ……」
ナエちゃんが信じたくないというようにウミちゃんを見る。
「ごめんね、ナエ……あなたが私をどう受け入れようと、私はずっと宝物《ともだち》だからね」
ウミちゃんは優しくナエちゃんの頭を撫でた。
いったい……彼女《さつじんき》の目的がなんであったのか……理解ができない。
ボクに負けを認めさせることが目的だったのだろうか……
「あなたを守るためなら、殺人鬼にでも私はなれるの……」
ウミちゃんは、ナエちゃんに優しく微笑みかけると……
ゆっくり歩き出して……
ボクの前に立つ。
「ねぇ……トウタ君、あなたみたいな人間にもやっぱり大事なものはあるんだね……」
そう、いつものように嫌味っぽく投げ捨て……
「ねぇ……トウタ君……」
そう言って……
「にゃっ!!」
「えっ?」
「へっ?」
それぞれが反応を示す。
虚ろな目をしていたナギちゃんの目が一瞬で猫の様な目に変わり……
不意にボクに口づけするウミちゃんの姿を見ている。
「わたしも……あなたの宝物になることはできるのかな?」
そう女性らしく微笑んだ。
「それじゃ……マキが隠ぺいするつもりだったとはいえ、その本人が殺されたとなれば、志念家も黙っていないと思うからね、わたしはしばらく身を隠すとするよ」
そう言って、部屋の窓の方に向かうと、そのまま窓を突き破るように外に落下する。
慌てて、その後を追って、窓の外を見るがその姿は何処にも無かった。
彼女はいったい何者なのか……だったのか……
それについて、再び知ることになるのは、数日後、再びあいつと出会った時だった。
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あの屋敷の事件から10日後……
ボクは学校を出て、校門に差し掛かった。
他の生徒たちがある一箇所を避けるように下校している。
ボクもその視線の先に気がつき、それに習うように帰宅しようとするが……
「おぃおぃ、無視をするなっ、この俺はてめぇを待っていたんだ、逸見トウタ」
名指しで呼ばれてしまう。
自称、調律者……ジェイケイだったか?
「どうだ……あれから、何事もなかったか?」
そう、少し優しくジェイケイが言う。
「さすがに……しばらく事情聴取され続けたよ」
こんな無法地帯のような島でも、それなりに法は機能している。
「それで、ボクに何かよう……水之 シラベ君?」
ボクはジェイケイをその名で呼んだ。
「お、何だ気づいていたのか、逸見 トウタ」
そうジェイケイはケラケラと笑い出した。
「まぁ、その何だ、答え合わせというこうぜ」
そうジェイケイは切り出し……
「答え合わせ?犯人は月鏡 ウミだった」
そうボクがそう返すが……
ボクはそれを見て、そんなものは見ていなかった。
最初に首の無い月鏡 ウミの服を着せられた侑陽 アケミの死体を見て、
ボクはそれとそんなものを見間違えた。
ボクは最初に侑陽《それ》を見ていたし月鏡《そんなもの》は見ていなかった。
体格の似ていた、彼女たちの体系からボクは誤解することなく、
その嘘の真実を受け入れた。
「なぁ……それで、お前は納得しているのか?」
そうジェイケイ……水之シラベは続ける。
「今回の犯人は、月鏡 ウミであり、侑陽 クレミだったんだよな?」
シラベはそうボクに問う。
肯定する言葉を寸前で飲み込む。
まて……結局、月鏡 ウミはなぜ……主人どころか、侑陽 アケミまで殺したんだ?
姉妹……殺したいほど仲の悪い人間だったのか?
とてもそうは思えない……
「逸見トウタ……俺はな、侑陽 クレミと月鏡 ウミは別人だと思うぜ?」
そうシラベは続ける。
「な……じゃぁ、侑陽 クレミは?」
……それじゃ、今回の事件は?
「……安心しろ、犯人は月鏡 ウミで間違いないさ」
シラベはそう付け加え……
「月鏡 ウミは誰にでも成り代われるスーパースターなんだろ?」
そうシラベは言う。
確かに彼女はあらゆる部活動を掛け持つほどのスーパーガールだ。
「目的のために自分と体系のにている殺人鬼の姉妹の一人に成り代わることさえ、彼女にとっては容易だったんじゃないか?」
そうシラベが僕に告げる。
「目的のために……?」
ボクはそう疑問を口にする。
「姉妹の一人に成り代わる……?彼女はあの屋敷に行く前に……侑陽アケミと侑陽クレミが雇われるその前に侑陽クレミを殺して入れ替わっていたと?」
そう……ボクが問う。
「あぁ……志念 マキの仮面を外せという命令にできない理由ってのはそこにあったんじゃねーのか?」
そうシラベは僕に答えた。
「でも……どうして、そんなことを……」
ウミちゃんがそんなことする理由が……
「逸見トウタ、てめぇが大事なもんを守りたいと思う同様に、彼女もまた大事なものを守ろうとしたんだろ?」
そう答える。
「大事なもの……緑樹 ナエ……?」
そうボクの脳裏に彼女の姿が浮かぶ。
当初の志念マキの殺人計画と思われるリストの中には……
彼女の名前が入っていた。
だから、彼女は殺人鬼の一人と成り代わってまで、彼女を救おうとしたのだろうか。
そんな事まで彼女は可能だと言うのだろうか……
「そんな、大事な宝物《ともだち》の想い人がてめぇだって言うんだからな」
そうシラベはにやりと笑って……
「そんな、殺人鬼にてめぇが目つけられるのも自然な話だろ」
そう言った。
「まぁ、そんな殺人鬼にまでてめぇは随分と気に入られたみたいだけどな」
そうケラケラ笑い出す。
「じゃあなっ……っても、逸見トウタ、てめぇとは近々会うことになりそうだけどな」
そうシラベは右手をあげて、その場を去っていった。
「おーい、とーた」
ヒイラギがボクに声をかける。
「ちょっ……ヒイラギ待ってよ、今日はわたしとスタバの新作飲みに行くって約束だろ?」
ネイネちゃんがその後ろを追ってくる。
「な……そんな約束してねーよ」
そうヒイラギが返すが……
「ひど、女の約束より、同姓と遊ぶこと優先するの?ヒイラギ、あんたホモじゃないよね?」
少し心配そうにネイネちゃんが問う……
「んな訳ねーだろっ、女には男の友情ってのが理解できねーんだよっ」
そうきゃんきゃん騒ぎ立て……
「わかったよ、とーたも一緒なら行く、それでいいだろ?」
そうヒイラギが妥協する。
「……ボクの意思は?」
ボクがそう呟くが……
「あははぁー、ねぇ僕も一緒に行っていい?」
いつの間にか立っている茶髪の女生徒。
右手に包帯を巻いている。
肌の色はだいぶ良くなった。
ウミちゃんが姿を消したあの日、あの場に残していった解毒剤の効果が効いているようだ。
ボクたちは二人、ヒイラギとネイネちゃんのデートに付き合うことになる。
そんな中でボクは思う。
不羈乃 ナギ 彼女の存在こそが一番の謎なんじゃないかと……
ボクがそこにたどり着く日はくるのだろうか……
それが、不自由なボク、逸見トウタと、
自由を名乗る、不羈乃 ナギの出会いと、最初の事件だった。
ただ……今は……この時間を楽しもう。 痴れ事だけどね……。
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悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
深淵の迷宮
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。
葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
どうかしてるから童話かして。
アビト
ミステリー
童話チックミステリー。平凡高校生主人公×謎多き高校生が織りなす物語。
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おかしいんだ。
可笑しいんだよ。
いや、犯しくて、お菓子食って、自ら冒したんだよ。
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日常生活が退屈で、退屈で仕方ない僕は、普通の高校生。
今まで、大体のことは何事もなく生きてきた。
ドラマやアニメに出てくるような波乱万丈な人生ではない。
普通。
今もこれからも、普通に生きて、何事もなく終わると信じていた。
僕のクラスメイトが失踪するまでは。
【完結】湖に沈む怪~それは戦国時代からの贈り物
握夢(グーム)
ミステリー
諏訪湖の中央に、巨大な石箱が沈んでいることが発見された。その石箱の蓋には武田家の紋章が。
―――これは武田信玄の石櫃なのか?
石箱を引き上げたその夜に大惨劇が起きる。逃げ場のない得体のしれないものとの戦い。
頭脳派の時貞と、肉体派の源次と龍信が立ち向かう。
しかし、強靭な外皮をもつ不死身の悪魔の圧倒的な強さの前に、次々と倒されていく……。
それを目の当たりにして、ついに美人レポーターの碧がキレた!!
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この物語は、以下の4部構成で、第1章の退屈なほどの『静』で始まり、第3章からは怒涛の『動』へと移ります。
映画やアニメが好きなので、情景や場面切り替えなどの映像を強く意識して創りました。
読んでいる方に、その場面の光景などが、多少でも頭の中に浮かんでもらえたら幸いです^^
■第一章 出逢い
『第1話 激情の眠れぬ女騎士』~『第5話 どうやって石箱を湖に沈めた!?』
■第二章 遭遇
『第6話 信長の鬼伝説と信玄死の謎』~『第8話 過去から来た未来刺客?』
■第三章 長い戦い
『第9話 貴公子の初陣』~『第15話 遅れて来た道化師』
■第四章 祭りの後に
『第16話 信玄の石棺だったのか!?』~『第19話 仲間たちの笑顔に』
※ごゆっくりお楽しみください。
忍ばない探偵
Primrose
ミステリー
時は戦国時代。真田幸村に仕える忍びの一族がいた。その名も猿飛家。彼らは忍の中でも群を抜いて優秀な忍を輩出していた。だがしかし、次期頭首との呼び声も高い少年、猿飛佐助は、類まれなる頭脳と忍の才能がありながら、全く陰に隠れ、忍ぶことをしなかった。
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
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