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本編

間話 叔父テッシーと甥セドリック様

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 お疲れ様会の演目は"剣舞"と"殺陣"の融合。静動の剣の舞を見せることである。

 バイロンが持ってきた音楽の中に、琴やハープや二胡のような音楽があった。途中ドラムのように激しくなる音楽、これよ。中華風音楽。この音楽はバイロンのおじいさまが諸外国に行った時に録音してきた音楽だ。前世だったら録音、録画禁止のあれが出てくるよ。映画泥棒!

「私がイメージしていたのはこの音楽よ!」

 またどんな感じでやるかを音楽に合わせて踊ってみた。途中、セドリック様とジョージ様と殺陣をしてみたら、なかなか様になっていたと思う。

「凄くいい、本当にこれはいい」
「これでやっていこう」

 あとは衣装だ。ここはテッシーと相談だ。
「呼び出してごめんね、テッシー」

「いいわーよ。アイリちゃんの呼び出しは楽しいからいいのよん。今度は何を考えたの?」

「今度宿泊野外活動があるの」

「私も行ったわ。もうテントを作るのも大変、ご飯作るのも大変だけど味もまずかったわ。汗臭いし、もう最悪だったわよ。ボンボンの子達にご飯を作らせるのは酷よ。作り方が書いてあったからって作れるものじゃないわよ」

「大変なんだね。お疲れ様会があるでしょ、そこで催す衣装を作ろうと思ったの。
 演目は剣舞で、静と動を合わせた踊 ダンスにするの。それで男の子は漢服、女の子は天女風にしようと思ったの。イメージを書いてきたから見てくれる」

「何この男性の衣装。見たことがないデザインじゃないの。でもかっこいいわ。異国の洋服みたいだわ」

「これをみんなで揃えて踊ろうと思うの。黒と赤がいいか、黒とお青がいいか考え中なの。黒も金の縁取りしたり、裾を刺繍したりと色々考えると楽しいのよ」

「そうねぇ、対比で考えると黒と赤だけど、黒は確定ね。あとはその着る子達がイメージに合っているかよね。合わせてみればいいのではないの?どれがその子に似合っているか」

「サイズをあらかた作って調整すればいいものね。どうしようかな、うちにみんな呼んで試着会でもしようかしら」

「いいわね、ワタシも行くわよ」

「もちろん。そうだ、テッシーの甥のセドリック様がいるけど仲良いの?」

「うーん、ワタシあの家出ちゃった人だから、甥は二度見ただけかな。あと兄に何を言われているかわからないし。兄は嫡男として厳しく育てられたから、頭ガチガチの堅物なのよ。私のこういうのは気に入らないと思うのよ。でも、ワタシは甥に会うの楽しみよ」
もしかして、テッシーのお兄さまは脳筋か?

「みんなに提案してみるわね」

 その後、家にクラスメイト招いた。
「みんないらっしゃい。わざわざうちに来てもらってごめんなさい。衣装合わせで気に入らなかったら言ってね。まだ時間があるから」

「アイリ嬢、色々準備をしていただき感謝する。衣装合わせをすると聞いて、ウキウキしてこちらに来訪したのだ」

「アイちゃん、お招きいただきありがとうございます。楽しみよ」

 みんなが楽しそうな笑顔。さあ、今回考えたデザイン紹介。そしてテッシーを紹介。

「今回一緒に考えた、我が家の商会の専属デザイナー、テオドール様です。テオドール様は我が商会になくてはならない素晴らしにデザイナーです。ひとこと挨拶お願いしてもいいですか、テッシー⁈」

「あら、いいわよ。みなさん、ごきげんよう。ワタクシ、ル・ソレイユ商会、ドレス部門のルミエール専属デザイナー、テオドールです。テッシーと呼んでね。よろしくお願いしますわ」
 みんなポカンとしていた。テッシーの喋りが女性だったことに戸惑いを感じていた。

「き、貴様はテオドール・パルカス・ド・セレンタール、我が一族の恥と言われた者。なぜ、ここにいるのだ」

「あらー、兄上の息子のセドリックじゃないの。久しぶりね。大きくなって。ワタシはアイリちゃんの商会のデザイナーをしているのよ。今回もあなた達の衣装を作ることになったのよ」

「やめてくれ。父上が一族の恥だから関わるなと言っていた。アイリ嬢、私は気分が悪い。帰らせてもらう」
 クラスメートたちがオロオロしていた。

「ちょっと待って、セドリック様」
 私は腰に手を当ててビシッと言った。前世のジェンダーの思想だ。この世界で異端の考えだろうけど、人権問題よ。

「なぜ男は男らしく強い男であれ、女は女らしく淑やかにの概念がそもそもおかしいのよ。男だって可愛いものが好きな人もいる、男らしくない人もいる。女だって、女らしくできない人もいる、剣や走り回っている方が好きな人もいるのよ。本当は男に生まれたかった、女に生まれたかったと思う人たちはいると思う。でも、生まれた性別は自分では選べないのよ。結局男に生まれてしまったから、男らしくしなければと必死になるけど、心が疲れていくのよ。テッシーは本当は女性に生まれたかもしれない。でも幼少の頃から武家に生まれ、男だから剣術を一生懸命していたと思うのよ。心は可愛いものが好き、裁縫の方が好き、でも男だから剣術をしないといけない、男らしくしないといけないと葛藤しながら頑張っていたと思うのよ。その男だからという思いとなぜ男何だろうという狭間で心が疲れてしまうのよ。そういう人がいるということだけでも心の片隅に置いていて欲しい。誰もが生まれは選べないのよ。セドリック様も今世は貴族公爵嫡男として生を受けた。その嫡男としての重責があると思うのよ。男だから、長男だからやらなくてはいけないってね。それに対してあなたは答えようと必死に頑張っている。一緒の班になって初めて会話して行動して、あなたの人となりがわかり、そういうあなただから、男だから女だからの概念ではなく、人権、人の権利の方を考えて欲しいなぁと思っているの。セドリック様は政治の中枢に行く人だと思っているの。あなたは武より武もできるけど政の方だと思うのだけどね?」
 セドリック様は目を見開いて、私を見つめていた。

「はははは、すごいね、アイリ嬢は。みんなの前で告白するのも重いかもしれないが、ずっと俺は武将より政治の方に進みたいと思っていた。でも嫡男だからという思いがあり頑張ってきた。弟の方が体格的、剣術的にも武将として優れていると思っている。もちろん頭の出来は俺の方が上だけどな」

「いいじゃないの、嫡男は経営ができないとダメなのだから、脳筋の弟では衰退させてしまうわよ。あっ、ごめんなさい、弟くんが頭が悪いとは言っていないわよ。それで、騎士団長は弟にやってもらって、あなたは公爵嫡男としての領地経営などを全うしながら政治の方にいけばいいのではないの?ダメなの?」

「そういう考えが思いつかなかった。嫡男だから騎士団長に上り詰めないとと思っていた」

「親族で政治の中枢にいる人とかいないの?」

「母方はみんな文官や大臣をしている人もいた」

「ふふふっ、脳筋頭じゃなく、お母様方の政治の頭脳の方を引き継いだのね。よかったわね、脳筋じゃなくて」
 突如セドリック様がお腹を抱えて笑い出した。

「アイリ嬢、あなたはすごい人だね。今までずっと悩んでいたことがバカらしくなってきた。そうだね、騎士団長に上り詰めるのは弟でいいんだ。弟に領地経営は無理だから、そちらは嫡男として俺が経営し、あとは文官にならばいいのだ。そしてゆくゆくは大臣として中枢でやっていきたい。的を得ているな、脳筋、あははは、脳筋かぁ」
 楽しそうで良かったよ。

「はぁ、改めて、テオドール叔父様、失礼なことを言いすみませんでした。テオ叔父様にも人権?だったかな?があるのでおれ、いや私はテオ叔父様の生き方を尊重します。私の相談にものってください、お願いします」

 テッシー泣いていた。
「もう、ヤダァ。アイリちゃんはいつもワタシを泣かすのよ。いつも嬉しい言葉を言ってくれるのよ。そうね、兄さんは真面目で堅物だから、理解が難しいと思うのよ。あれこそ脳筋よ、脳筋。領地経営はあなたの母親が実質やっているのだから、兄上、姉上に頭が上がらないでしょ?
だから兄さんにガツンと言ってやればいいのよ!
嫡男として俺の方が頭がいいから、領地を豊かにできるのは俺だ!だけど騎士団長は弟に上り詰めてもらう。俺は政治の中枢で大臣とか上り詰める。いいな、脳筋野郎が!ってね。どう?」
 いや、父親に脳筋野郎が!なんて言えないだろう。でもおかしい。笑いが込み上げてきた。

「テッシー、父親に脳筋野郎がー、なんて言えないよ、あははは。脳筋野郎って、あははは」
 セドリック様もツボにハマっていた。脳筋野郎。

 セドリック様の今後のことは母方の祖父と伯父に相談しながら決めると言っていた。いい方向にいけばいいね。

 テッシーとセドリック様は叔父と甥の関係に修復された。

 そして、その後衣装が決まった。絶対、お疲れ様会でするような催しではないわよ、これ?
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