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本編

第1話 これは転生ですか

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 痛い、体と頭が痛い。体が熱い。
 ぼんやりとした意識の中、ベットに寝ているようである。天井から白いレースの天蓋が見える。レースの天蓋って。私の部屋ではないね。私の部屋に天蓋などない。古い中古平屋の一軒家。ベットではなく、畳に布団が敷いてある妹たちと一緒の部屋だぞ。どこ、ここは?ハッと、覚醒。しかし、体を起こそうとするも、痛くて動けない。
 そうこうしている間に、さまざまの情報、記憶が頭に流れ込んできた。
 
 なにこれ?
 
 今まで過ごしてきた記憶、金髪、碧の目の男の子と隣にいる可愛らしい女の子に詰め寄って喚いている記憶と、周りの人たちの嘲笑する声、年上の男性に腕を掴まれ、パーティ会場から追い出されそうな記憶、そして喚きながら階段から落ちそうになっている記憶が流れ込んできた。

 いったいこれは誰の記憶。
「ンン?」

 動かすことができた右手を見ると、白いぷっくりとした手。白い手だ。ぷくぷくというか肉付きのよい手と腕。グーパーグーパーと動かせば、意思通りに動く。これ私の手ですか?私の手は、剣ダコのある、野菜作りで日焼けした、シミのある手だぞ。この、ぷくぷくととした白い手はなんですか?シミがないのですが。

 ガチャッ、ガタッ
「お、お嬢さま、お嬢さまがお目覚めになられましたっ」
 誰かが入ってきて、慌ただしく出ていった。

 また、誰かが来る気配。
 ガチャ、バタン
「アイリ!」
「アイリちゃん」
「........」
「「「お嬢さま」」」

 先ほどから流れ込んだ記憶にある父、母、兄、あと双子の弟がいるようだが、小さいので今はいない。そして執事、侍女、メイド達があとに続いて入ってきた。
 見た感じヨーロッパ中世の頃の衣装、黒以外の髪の色と瞳の色。どないなっとるねんっ、とツッコミを入れたくなる状況。

 父親は、アイスブルーの髪色に、アメジストのような暖かな薄い紫色の瞳。母親は、プラチナブロンドの髪色にロイヤルブルーの瞳。美しい瞳です。吸い込まれそうな深い青。お兄さまはお母さまの髪と瞳の色を受け継ぎ,プラチナブロンド、ロイヤルブルー。
 私は何?と、自分の髪の毛をみると、アイスブルー。瞳は何?これでお母さまの瞳を受け継いでいるなら、全体的寒々しい色合いになってしまう。氷の令嬢か??鏡が見たいよー。

 みなさん、美男美女です。両親、前世の私より若いよ、絶対。30歳前半だよね。20歳代といっても通じる。
 
 これは、妹達がよく読んでいた本に出てくる異世界転生ですかね?

 異世界転生:今まで過ごしていた世界で子供や猫を助けようとして、車に轢かれて亡くなり、神様や女神に導かれ、異世界に転生させられるという話。
 うん?亡くなった?私死んだの?神様や女神様にあったかしら?お約束のテンプレな展開はなかったよね。ないね。

 部屋に入ってきた人たちを見つめるしかなかった。

 母は泣き疲れた様子、父は母の体を支えて、心配して疲れ切った様子。兄は憎しみを込めた目で私を見ていた。

 前世と言っていいのか、地球の日本というところで生まれ育った。
 兵藤 愛莉。41歳独身。
 幼少期から20歳代まで日本のバブル期(古いかな)を過ごしていた。
 父は会社経営者。私はいわゆるお嬢さまだった。あらゆる習い事、ピアノ、バイオリン、そろばん、習字、英会話、乗馬を習っていた。バレエは私には合わなかった。特に力を注いでいたものは、剣道だった。近所にある剣道場に5歳から通い始め、大学時代まで続けていた。それなりの成績を残したとだけ記しておこう。

 工学分野の大学を卒業して、宇宙工学に力を注ぐ会社へ就職した。
 しかし、無情にもバブルが崩壊した。そして、父の会社もバブル崩壊の影響を受けてしまった。ガラリと生活が変わった。

 負債の為、今までに家を手放し、郊外に中古の平屋一軒家へ引っ越した。売れるものは売った。

 母も父の会社経営を手伝うようになった。両親が働いている為、弟と双子の妹たちの面倒を私が見るようになった。
 そのため、家から通えるように転職をした。転職先は商品開発する会社だ。開発することは楽しいので、転職先に不満はない。

 家では、不慣れながらも、本やご近所のおじいちゃん、おばあちゃんの手と知恵を借り、なんとか、庭に畑を作り野菜と果物を育てた。野菜は、じゃがいも、さつまいも、玉ねぎ、トマト、ナス、きゅうり、ネギなどである。果物といってもいちごやブルーベリーだけど。両親、弟妹達とみんなで野菜の収穫するのは楽しかった。泥だらけになりながらも、笑い合い、収穫したじゃがいもなどを蒸し、バターで食べるのは美味しかった。
 お金がないながらも、みんなで笑い合って楽しく過ごしていた。
 
 もちろん、私だって、恋人の一人や二人や三人?くらい、いましたよ。でも、小さい弟や妹の行事が重なって、行けなくなること多数。そのうち振られるパターン。これでも結婚願望はあったのよ。子供も欲しかったな。

 弟や妹達も大きくなり、妹たちが結婚し、子供ができた。甥っ子、姪っ子かわゆい。弟も結婚が決まった。両親には、私が結婚できなかったことが悔やまれていたみたいだけど、こればかりはしょうがない。ご縁である。両親に孫ができ、老後の楽しみができてよかったね。

 それから私は、35歳遅咲きではあるが、オタ活にハマっていった。乙女ゲームではない。乙女ゲームは妹達がやっていた。私は、男性アイドルグループが歌って踊って、声優さんが甘く囁くゲームだ。子猫ちゃんと呼ばれてキャーキャーしていました。二次元の男性にハマっていった。その声優さん達のライブイベントへ行くうちに、同じ仲間になった人たちとオタ活をした。一緒にライブへ行き、飲みに行っては盛り上がっていた。同じ目的の仲間は楽しい。

 前世最後の記憶とでもいうのでしょうか、飲みに行っていた。だいぶ飲み明かしていた。御前様ですね。
 お店を出て、みんな酔っ払いなのでハグし合い、今後のオタ活を讃え合い、手を振って別れた。
 ちょうど桜が散る時期で、桜が風に舞う様子を見ながら、千鳥足で自宅に帰る途中、歩道橋を降りて、階段を踏み外したまでを思い出した。あー、そういうことだ。酔っ払って階段から落ちたが、お酒飲んで、感覚が麻痺していたのだろう、痛みは感じなかった。あの時死んでしまったのか。
 寂しいなあ。もう家族に会えないのか。

 泣いている私の頭を、今の両親が撫でてくれていた。

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