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真に知るべき好感度は?

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 青野卓哉は主人公ではない。但し彼の行動は物語を大きく変えてしまっていた。

(そもそも彼女たちは青野の事を毛嫌いしてるし、あいつが問題を起こすのも時間の問題となれば……俺の役目も終わりが近いな)

 そうなったら、義人は彼女たちとの関係が元の他人に戻るだろうと思っていた。しかし、卓哉が彼女たちの運命を捻じ曲げた影響は大きいものだった。


「じゃあ、今日はこれで解散って事で……」
「その前に友田君、次の休日って空いてるかしら?」
「瀬戸先輩? ええ、空いてますけど……」
「青野君に誘われないように先約を作っておきたいのだけれど、いいかしら? 彼と遭遇しないように、二人で遠出をしましょう」
「ああ、そういう事でしたら喜んで」

 氷織が卓哉からの猛アタックに困っている時に、義人が間に入って彼の暴走を止めた事が何度かあった。常にしっかりした性格で誰かに助けられる経験が無かった彼女は、初めて自分の味方をしてくれた義人に興味を抱いていたのである。

「けど、俺でいいんですか?」
「ええ、貴方が一番信頼できるから。行き先が決まったらまた連絡するわ」
「わかりました」

 やや頬を染めながら信頼という言葉を口にした彼女は、自分で言った言葉に照れて顔を背けた。義人はそれに気づかなかったが、何かを察した優紀が氷織に詰め寄った。

「ちょっと瀬戸先輩! 抜け駆けは無しですよ!」
「何の事かしら? 貴女も先週、同じような理由を付けて彼を連れまわしたそうじゃない、私も参考にしたまでなのだけれど?」
「うぐっ! そ、それは……」
「……二人きりで行く理由の説明にはなってないんよねー。インドアなうちには取れない手段だわー」
「私も先輩とおでかけしたいなー……」
 
 堂々としらを切る氷織と、先を越されたと肩を落とす三人。何を話しているのかいまいち掴めない義人に、千紗が話題を切り替えた。
 

「ねーよっしー、うちと今度期間限定イベント参加する約束忘れてないよねー?」
「あ、ああ。こないだネトゲ始めたばっかの俺じゃ、全然貢献にならないと思うんだけどな……」
「いーのいーの、こういうのは楽しむのが一番大事なんだしさー」

 義人は卓哉と知り合った辺りからネトゲを始めていて、そこで千紗とも知り合いになった。義人の素人なりになんでも吸収して上達しようとする姿を、千紗はとても気に入ったのである。
 ちなみに卓哉からの誘いはスルーしているが、義人とはちゃっかり遊んでいる。

「……ねえ、あんたいつの間にあだ名呼びになったわけ?」
「ハンドルネームなんだからしゃーないじゃん、ねーよっしー」
「現実でもそう呼ぶ理由は無いんじゃ無いかしら? な、なら私も名前で……」
「うぅ……、ゲームはダメダメだから付いていけない……」

 千紗は三人が割り込めないネトゲ内で、しれっと距離を縮めていた。ちなみに義人も彼女の事をハンドルネームである『カラチサ』と呼ぶ程度に心を許している。


 二人の親しい空気に負けじと、夏蓮が義人の袖を摘まんで声をかけた。

「あの……先輩、次の放課後は……」
「うん、男性克服の練習だよね。付き合うって約束したもんな」
「……! はいっ! えへへ……」
「けど、俺とは普通に話せてるしそろそろ他の人とも……」
「い、いえっ! まだ友田先輩とやっておくべき事がいっぱいあるんですっ!」
「そ、そっか。なら仕方ないね」

 男性が苦手な彼女は、突然義人に『青野という危ないやつが君を狙っている』なんて声をかけられて大層戸惑った。普通なら逃げてしまう所だったが、彼の真剣な眼差しを見たら何故か話を聞くべきなのだと感じとった。
 それからは自分の悩みも打ち明け、真摯に自分と向き合ってくれる彼に夏蓮はすっかり魅了されてしまっていたのである。

「控えめな態度だけど夏蓮ちゃん、平日の放課後はいつも友田の事独占しまくってるのよね……」
「生徒会長として生徒の成長は応援するべきなのだけれど……」
「何かあたしらがまだ知らないところで出し抜かれてそうで怖いんよねー」
「いやあんたも人の事言えないでしょ!」

 普段は夏蓮の事を可愛がっている三人だが、義人が絡むと彼女が一番の強敵なのではないかと警戒している。ムムム、と頬を膨らませる優紀だが、そこに氷織が横槍を入れた。


「さっきから口出しをしてくる名波さん、貴女も人の事は言えないと思うのだけれど?」
「いやいや、私は別に……」
「そう? なら彼が今日持っていたあの可愛らしい弁当箱は一体何だったのかしらね?」
「嘘っ!? 何で知って……」

 氷織は偶然、義人が空の弁当箱を持ち歩いている現場を見かけた。男子が持っていると浮いてしまうようなピンク色の包みと小ぶりなサイズ感から、あれは貰ったものだとすぐに理解していた。
 そしてその予想に図星を付かれた優紀は動揺した。この場でバラして欲しくないと願ったが、同じ言葉を聞いた義人は願いと真逆の行動をしてしまう。
 
「あそうだった。名波さん、今日もお弁当もらっちゃって悪かったね」
「ちょっ! 友田ストーップ!」
 
 彼女の趣味は料理を作ることだ。一度だけ卓哉に試食してもらった事があったのだが、下心全開で過剰に褒めちぎって来る彼に引いてしまって以来食べてもらったことは無い。対して義人は率直な感想を述べてくれた。それが嬉しかったため、ここ数日は弁当を作ってあげていたのである。
 
「はーい一番ギルティーなヤツ出ましたー。幼馴染の青野には一回もやったこと無かったじゃーん」
「今日って言ったわね。……明日からは生徒会室に呼び出して彼を囲い込んでおくべきかしら」
「料理を食べてもらうなんて……いいなぁ、私もいつか……」
 
 手料理を食べさせる、なんてしたことが無い三人は黒いもやもやとしたオーラが滲み出る。何かやらかしたかなと思った義人だがあまりにも遅いだろう。


 それぞれが自分の武器でアプローチをしていると知った四人は、目線で火花を散らす。

(いっつも私の愚痴に笑って付き合ってくれるコイツを、なんだか手放したくない!)
(友田君は私に言い寄ってくる男達とは違う気がする。純粋に私の事を支えてくれている貴重な後輩を渡すわけにはいかないわ!)
(女ユーザーだからって下心で近寄ってくる奴とは違うし、うちのオタクのノリに付き合ってくれるから心地いいんよねー)
(私が上手く話せなくても、先輩はちゃんと私の言葉を待ってくれて……優しい憧れの男性!)

 今のヒロイン達の頭に、青野卓哉という男は欠片も存在していない。何か物語が始まるとすれば、それはきっと卓哉が思っている内容とは全くの別物であろう。


(そういえば、彼女たちにとってってどうなんだろう。……なーんて、良くて全員三十ちょっとぐらいだろうな、ははっ)


 女の闘いが繰り広げられている事に気づいていない義人は、呑気にそんな風に考えていた。けれど彼は、そのうち思い直す事となる。



 ヒロイン達からの熱烈なアプローチによってわからされる展開まで、あと数か月。



 ちなみに青野がストーカー容疑で停学。そこから復学した直後に、彼女たちを義人に取られてしまった事を知ったショックで転校する話も同時開催される予定。
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