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第6章 契約の見直し
第9話 約束は守る
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健斗が実子を撃退したその後の休日、退職届の提出が決行された。受け取った上層部は大きな騒ぎになったのだが、玲の対策によって引き留められることは無く、無事に受理されたのであった。但し、受理された退職届は計四枚である。健斗と玲の二人と共に提出した二人は、休日に健斗の家で集まっていた。
「いやー、まさか同じ課から一気に四人も辞めるなんて思わなかっただろうなー」
「総務のおじさんのあのポカンとした顔、写真に撮っておきたかったですねー」
二人と一緒に退職へと動いたのは、聡一と小里だった。健斗から玲の計画について聞いた時、独立する旨の話もしていた。
『……というわけで、俺は玲さんについていこうと思――』
『俺たちも是非!』
『引き抜いてください!』
『待て待て食い気味すぎるだろ……。わかった、玲さんに聞いてみるよ』
健斗は元々二人についてくるかを聞こうとしていたのだが、それよりも早く超が付くほどの食い気味でお願いをされたのである。玲も了承した結果、同時に四人の退職という形になったのだった。
「玲さんだけ、全力で引き止められてたな。バッサリと断ってたけど」
「それなー。音無については二股疑惑とかがあったから、引き止めづらそうにしてたのはまだわかるんだけどさー……」
「私たちはまあ別に、って感じなのめっちゃムカついたんですけど! ほんと失礼しちゃいますよね!?」
「そーだそーだ! 俺たちがいなくなったら損失は膨大だぞー!」
確か今出している飲み物に酒は無かったよな……、と健斗が訝しんでいると、二人は健斗からツッコミが無いことに焦りだした。
「いやあの音無先輩、そこで黙るの止めてくれません?」
「そんなまるで俺たちが実は戦力外だったみたいな……」
「冗談だ、三割くらいは」
「そこそこ思ってたんじゃねーか!?」
「だから半分以下は冗談とは言わないって前にも言ったじゃないですか!」
健斗は嘘が下手な性格である。二人はそれをよく知っているが故に彼の冗談交じりの言葉が残酷に突き刺さってしまうのであった。
「それにしても、お前らまで辞めて本当に良かったのか?」
「私もオジさん達のいやらしい目線がずっと嫌だったんですよねー、だから私も次どうするかちょっと探してたんですよー」
「戸村お前、そんな悩み持ってたのかよ……。ちょっとは俺らに愚痴ってくれてもよかったんだぞー?」
「いやいや、佐々木先輩も時々私の体見てきてたじゃないですかー」
「その濡れ衣だけは本当に止めて!? お前に対してそれだけは絶対に無いから!」
「そこまで言い切られるとそれはそれでムカつくんですけど!?」
今の職場を止めてこれから新しい道を歩みだすというのに、二人のやり取りは相変わらずである。変わらなくてよかったと健斗は思った。遠慮のない軽口を言い合う二人を見て、安心とともに笑みが浮かんだ。
「しかし、これからは泉課長じゃなくて泉社長になるんだよなー」
「私たちにもちょっとくらいはデレて欲しいですねー」
「今ほど冷たくする理由は無くなるから大丈夫なんじゃないか? ……お前らが仕事をサボりさえしなければだけど」
「それはちょっと」
「保証できませんね」
「おいこら」
そこは変わってくれよ、と健斗は思い直した。
「……さっきから全部聞こえているのだけれど、私もいるって事を忘れてない?」
「ひぇーっ!」
「すんませんしたーっ!」
健斗と玲が婚姻届を役所に提出した翌日から、玲は自分が一人で住んでいた場所を売って健斗の家へ住み込むことになった。正式に同棲となった二人だったが、既に同棲みたいな暮らしをしていたため滞りなく共同生活に馴染んでいた。青いエプロン姿で出てきた彼女は、オーバーに謝った聡一と小里を見て軽くため息をつく。
「もう、いい加減怖がらずに接してほしいのだけれど……。やっぱり私って怖いのかしら」
「いえ、あれは半分おふざけです。そこまで本気で怖がってるわけじゃないですよ」
「ああ、そういう……。けど、これからはより近い仕事仲間になるのだから、怖いイメージはもう無くして欲しいのだけれど……」
二人は彼女の事を冷女と呼ぶことは無かったが、何度か玲に怒られた事があった。それがトラウマとなり反射でビビッてしまうようだ。怒られた原因がサボりの事なので自業自得だが、これから社員四名で回すのだから壁ができてしまう事は避けたい。そこで健斗は思いついた案を口にしだす。
「……そうだ。お前ら、玲さんは可愛い所がいっぱいあってだなモガッ」
「待ってその方向は無しでお願い、恥ずかしいからやめて」
(あ、今の泉さん確かに可愛い)
(それな)
健斗の口は彼の隣に座っていた玲の両手によってすぐさま塞がれた。恥ずかしがる玲の姿を見た二人は、ちょっとだけ彼女への印象が柔らかくなった。
ようやく玲の口封じから解放された健斗は、別の話題を二人に振った。
「それで、俺と玲さんは俺の部屋を使うけど二人はどうするんだ?」
「ふっふーん、それがですねー……。なんと近場にいい作業スペースを見つけちゃったんですよー!」
「環境バッチリの少人数用の個室を二人で借りる事にしたのさ! いやー、戸村はやっぱり仕事出来る奴で助かるぜー!」
「やだなー先輩! そんなに褒めても飲み屋の領収書しか出ませんよー!」
人としてロクでもないことを言っているが、実際の所丁度いい作業場を見つけるまでの手際は確かに良いと言えるだろう。あっはっはー、と笑い合う二人を見た玲はこっそりと健斗に耳打ちする。
「良かったわね、仲間がいて」
「ええ、二人には何度も助けられました。……恥ずかしいから言いませんけど」
「ならさっきのお返しに、代わりに言ってあげましょうか。二人ともんむっ」
「待ってください恥ずかしいんで止めてください!」
今度は逆に健斗が玲の口を塞いだ。先程の玲と負けず劣らずの赤面を見せる健斗と、そんな彼の様子を面白がっている玲は本当に仲睦まじい。二人のじゃれ合いを眺めながら、聡一と小里は苦めに淹れたコーヒーを啜る。
「わー、もう際限なくイチャついてますよあのお二人」
「次の作業場にここへ転がりこむのは止めて正解だったな、戸村よ」
「ええ、二人にはここで末永く爆発しておいてもらいましょう」
「言い方」
かくして、玲の立ち上げたビジネスと三人の社員での独立によって、健斗と玲は以前のような悩みを抱える事無く過ごしていく未来を見据える事が出来たのであった。
「いやー、まさか同じ課から一気に四人も辞めるなんて思わなかっただろうなー」
「総務のおじさんのあのポカンとした顔、写真に撮っておきたかったですねー」
二人と一緒に退職へと動いたのは、聡一と小里だった。健斗から玲の計画について聞いた時、独立する旨の話もしていた。
『……というわけで、俺は玲さんについていこうと思――』
『俺たちも是非!』
『引き抜いてください!』
『待て待て食い気味すぎるだろ……。わかった、玲さんに聞いてみるよ』
健斗は元々二人についてくるかを聞こうとしていたのだが、それよりも早く超が付くほどの食い気味でお願いをされたのである。玲も了承した結果、同時に四人の退職という形になったのだった。
「玲さんだけ、全力で引き止められてたな。バッサリと断ってたけど」
「それなー。音無については二股疑惑とかがあったから、引き止めづらそうにしてたのはまだわかるんだけどさー……」
「私たちはまあ別に、って感じなのめっちゃムカついたんですけど! ほんと失礼しちゃいますよね!?」
「そーだそーだ! 俺たちがいなくなったら損失は膨大だぞー!」
確か今出している飲み物に酒は無かったよな……、と健斗が訝しんでいると、二人は健斗からツッコミが無いことに焦りだした。
「いやあの音無先輩、そこで黙るの止めてくれません?」
「そんなまるで俺たちが実は戦力外だったみたいな……」
「冗談だ、三割くらいは」
「そこそこ思ってたんじゃねーか!?」
「だから半分以下は冗談とは言わないって前にも言ったじゃないですか!」
健斗は嘘が下手な性格である。二人はそれをよく知っているが故に彼の冗談交じりの言葉が残酷に突き刺さってしまうのであった。
「それにしても、お前らまで辞めて本当に良かったのか?」
「私もオジさん達のいやらしい目線がずっと嫌だったんですよねー、だから私も次どうするかちょっと探してたんですよー」
「戸村お前、そんな悩み持ってたのかよ……。ちょっとは俺らに愚痴ってくれてもよかったんだぞー?」
「いやいや、佐々木先輩も時々私の体見てきてたじゃないですかー」
「その濡れ衣だけは本当に止めて!? お前に対してそれだけは絶対に無いから!」
「そこまで言い切られるとそれはそれでムカつくんですけど!?」
今の職場を止めてこれから新しい道を歩みだすというのに、二人のやり取りは相変わらずである。変わらなくてよかったと健斗は思った。遠慮のない軽口を言い合う二人を見て、安心とともに笑みが浮かんだ。
「しかし、これからは泉課長じゃなくて泉社長になるんだよなー」
「私たちにもちょっとくらいはデレて欲しいですねー」
「今ほど冷たくする理由は無くなるから大丈夫なんじゃないか? ……お前らが仕事をサボりさえしなければだけど」
「それはちょっと」
「保証できませんね」
「おいこら」
そこは変わってくれよ、と健斗は思い直した。
「……さっきから全部聞こえているのだけれど、私もいるって事を忘れてない?」
「ひぇーっ!」
「すんませんしたーっ!」
健斗と玲が婚姻届を役所に提出した翌日から、玲は自分が一人で住んでいた場所を売って健斗の家へ住み込むことになった。正式に同棲となった二人だったが、既に同棲みたいな暮らしをしていたため滞りなく共同生活に馴染んでいた。青いエプロン姿で出てきた彼女は、オーバーに謝った聡一と小里を見て軽くため息をつく。
「もう、いい加減怖がらずに接してほしいのだけれど……。やっぱり私って怖いのかしら」
「いえ、あれは半分おふざけです。そこまで本気で怖がってるわけじゃないですよ」
「ああ、そういう……。けど、これからはより近い仕事仲間になるのだから、怖いイメージはもう無くして欲しいのだけれど……」
二人は彼女の事を冷女と呼ぶことは無かったが、何度か玲に怒られた事があった。それがトラウマとなり反射でビビッてしまうようだ。怒られた原因がサボりの事なので自業自得だが、これから社員四名で回すのだから壁ができてしまう事は避けたい。そこで健斗は思いついた案を口にしだす。
「……そうだ。お前ら、玲さんは可愛い所がいっぱいあってだなモガッ」
「待ってその方向は無しでお願い、恥ずかしいからやめて」
(あ、今の泉さん確かに可愛い)
(それな)
健斗の口は彼の隣に座っていた玲の両手によってすぐさま塞がれた。恥ずかしがる玲の姿を見た二人は、ちょっとだけ彼女への印象が柔らかくなった。
ようやく玲の口封じから解放された健斗は、別の話題を二人に振った。
「それで、俺と玲さんは俺の部屋を使うけど二人はどうするんだ?」
「ふっふーん、それがですねー……。なんと近場にいい作業スペースを見つけちゃったんですよー!」
「環境バッチリの少人数用の個室を二人で借りる事にしたのさ! いやー、戸村はやっぱり仕事出来る奴で助かるぜー!」
「やだなー先輩! そんなに褒めても飲み屋の領収書しか出ませんよー!」
人としてロクでもないことを言っているが、実際の所丁度いい作業場を見つけるまでの手際は確かに良いと言えるだろう。あっはっはー、と笑い合う二人を見た玲はこっそりと健斗に耳打ちする。
「良かったわね、仲間がいて」
「ええ、二人には何度も助けられました。……恥ずかしいから言いませんけど」
「ならさっきのお返しに、代わりに言ってあげましょうか。二人ともんむっ」
「待ってください恥ずかしいんで止めてください!」
今度は逆に健斗が玲の口を塞いだ。先程の玲と負けず劣らずの赤面を見せる健斗と、そんな彼の様子を面白がっている玲は本当に仲睦まじい。二人のじゃれ合いを眺めながら、聡一と小里は苦めに淹れたコーヒーを啜る。
「わー、もう際限なくイチャついてますよあのお二人」
「次の作業場にここへ転がりこむのは止めて正解だったな、戸村よ」
「ええ、二人にはここで末永く爆発しておいてもらいましょう」
「言い方」
かくして、玲の立ち上げたビジネスと三人の社員での独立によって、健斗と玲は以前のような悩みを抱える事無く過ごしていく未来を見据える事が出来たのであった。
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