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第4章 玲は気にかける
第3話 気になること
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朝、健斗宅のキッチンにて。玲は神妙な顔持ちで健斗に向き合って立っていた。
「私、ずっと気になっていた事があるの」
「そ、それは一体……。遠慮無く言ってください!」
「音無君……。ええ、わかったわ。じゃあ、言わせてもらうわね?」
「は、はい……」
言うのが申し訳ない、という思いを抱えていた玲に、健斗は自分に対して躊躇わずにぶつけてほしいと伝える。決意の表情を浮かべる彼に、玲は本音を告げるのであった。
「君の……弁当のおかず、とても偏ってることが気になって仕方ないの!」
「……え?」
玲の抱える悩みは、弁当箱サイズのものだった。
玲が在宅勤務の朝、彼女はいつもより早く健斗の家に来ていた。『大事な話があるの』と言われて緊張しまくっていた健斗だったが、今は通常通りの弁当作りをしているところだ。
「……確かに俺の弁当は、自分の好きなおかずしか入れていないです。どうせ自分だけの物ですし」
「バランスが偏っていると色合いも地味なものになりやすいわ。……特に茶色になりやすいわよね」
「バ、バレてた……」
「だって遠目から見てもわかっちゃうくらい常に一色なんだもの」
「しかもいつも見られてた……」
自分用だしバレなければ良い、という考えは甘かったのだと健斗は悔やんだ。玲がそんな事を知っているのは、彼女がいつも健斗の弁当を気にして見ていたためである、という事になるのだが健斗はその考えには至らなかった。
見本にと玲は自分の弁当箱を開けて見せた。彼女の弁当は緑、赤、黄色等の野菜を使った料理が詰まっていて見た目もバランスも豪華なものだった。健斗は感心してじっくりと眺めてしまう。
「おおー、確かに彩りが……」
「栄養を全て補うのは難しいけど、作り置きをしていればあまり時間はかかわらないわよ」
「なるほど、作り置き……」
次の土日にでもやってみるか、とどんどん玲の影響を受けていく健斗だった。しかし玲の弁当を見ていた健斗は一つ感じたことがあった。
「って泉さんの弁当、野菜に偏ってないですか? 流石に肉系が全く無いのは……」
「……言われてみれば、そうね」
「豆とかはありますけど、これだとタンパク質が足りなさそうですよ」
「確かに懸念していた事ではあるわ、けど私の料理って野菜ばかりなのよね……」
「あー……、俺もほとんど肉類のレシピしか手札が無いんですよね……」
玲自身、自分の料理の種類に偏りがあるという事は自覚していなかった。たまに作る料理であればバランスを取るためにあまり手を出していないレシピにも挑戦することはできる。しかしこれを習慣にするとなるとかなりの労力を弄することになる。これが二人にとって悩みの種となっていた。
「いっそお互いのをちょっとずつ交換したらちょうど良いんじゃ……なんて」
「……!」
健斗の何の気なしな呟きに、玲はハッとした。少し考えた後、玲は健斗の肩に片手を置いて笑顔を見せた。
「……それ、いいわね」
「へ?」
「お互いのおかずを一品ずつ入れることにしましょうか」
「ええっ!?」
「これでお互いの偏りを補いつつ満足のいく形になるわ」
「い、良いんですか!?」
「? 君の発案じゃなかったかしら?」
「ま、まあそうなんですけど……」
健斗はまさか自分がポツリと言った事が採用されるなんて思っていなかったために驚きを隠せない。自分の料理を食べてもらえる事と玲の料理を食べられる事が同時に叶ってしまい、盛大に戸惑いつつ洗い物をしながら話は次に進んでいく。
「それならお互いにNGな料理を挙げておきましょうか。アレルギー等はあるかしら?」
「いえ、特にありません。泉さんは?」
「無いわ。ついでに嫌いなものも無いから安心して」
「それは凄いですね……あ、俺が苦手なのは」
「何であろうと克服してもらうわ」
「えぇ!?」
玲からの思わぬ容赦無し宣言に驚き、健斗は洗っていたプラスチック製のまな板をシンクに落としてしまった。呆然と玲の顔を見ていると、彼女は無邪気に笑い始めた。
「ふふっ、ごめんなさい。君の反応が面白くてつい……」
そういう玲はとても無邪気な笑みを見せる。これまで冗談とは無縁のように思えた玲のからかうような笑いは、健斗にとって効果絶大だった。
こうして朝にお互いのおかず一品を交換して、健斗はオフィスで実食の時間となった。いつもなら自分の作ったおかずたちを満足しながら頬張るところなのだが、玲に貰ったおかずが輝いて見えているために他の自分の料理が霞んで見えてしまう。
一口食べてみると、自分の味付けでは到底できないような繊細な味に感動した。
「う、美味い……」
「……音無、弁当っていつも自分で作ってるんだよな?」
「え、今物凄い自画自賛してたんですか?」
「あ、いや……」
喜びが思わず出てしまっていた健斗に対して、聡一と小里は呆れ笑いを浮かべながら二人でコソコソと話を始める。
(音無先輩、全然隠せてないですよねー)
(それなー)
(え? って事は先輩、泉さんと弁当のおかずを共有する仲になってるって事ですか?)
(何があったらそうなるんだよって感じだよなー。いい加減教えてほしいよなー)
(あ、拗ねてるー)
(拗ねてねーやい)
拗ねてないと言いながらも聡一は不満そうに口を尖らせる。可愛くないですよーとヤジりながらも小里も気持ちはわかるようで向ける目は優しい。そんなやり取りをしている事を知らない健斗は鬱陶しそうに二人の空間に割り入った。
「前にも言った気がするが、お前らコソコソ話はもっとバレないようにやれよ」
「内容はバレてないのでセーフですー!」
「寧ろ音無がもっとコソコソしろー!」
「言ってることが意味不明だぞ……」
聡一がちょっとだけ本音を込めた言葉を投げたのだが、健斗には伝わらなかった。
「私、ずっと気になっていた事があるの」
「そ、それは一体……。遠慮無く言ってください!」
「音無君……。ええ、わかったわ。じゃあ、言わせてもらうわね?」
「は、はい……」
言うのが申し訳ない、という思いを抱えていた玲に、健斗は自分に対して躊躇わずにぶつけてほしいと伝える。決意の表情を浮かべる彼に、玲は本音を告げるのであった。
「君の……弁当のおかず、とても偏ってることが気になって仕方ないの!」
「……え?」
玲の抱える悩みは、弁当箱サイズのものだった。
玲が在宅勤務の朝、彼女はいつもより早く健斗の家に来ていた。『大事な話があるの』と言われて緊張しまくっていた健斗だったが、今は通常通りの弁当作りをしているところだ。
「……確かに俺の弁当は、自分の好きなおかずしか入れていないです。どうせ自分だけの物ですし」
「バランスが偏っていると色合いも地味なものになりやすいわ。……特に茶色になりやすいわよね」
「バ、バレてた……」
「だって遠目から見てもわかっちゃうくらい常に一色なんだもの」
「しかもいつも見られてた……」
自分用だしバレなければ良い、という考えは甘かったのだと健斗は悔やんだ。玲がそんな事を知っているのは、彼女がいつも健斗の弁当を気にして見ていたためである、という事になるのだが健斗はその考えには至らなかった。
見本にと玲は自分の弁当箱を開けて見せた。彼女の弁当は緑、赤、黄色等の野菜を使った料理が詰まっていて見た目もバランスも豪華なものだった。健斗は感心してじっくりと眺めてしまう。
「おおー、確かに彩りが……」
「栄養を全て補うのは難しいけど、作り置きをしていればあまり時間はかかわらないわよ」
「なるほど、作り置き……」
次の土日にでもやってみるか、とどんどん玲の影響を受けていく健斗だった。しかし玲の弁当を見ていた健斗は一つ感じたことがあった。
「って泉さんの弁当、野菜に偏ってないですか? 流石に肉系が全く無いのは……」
「……言われてみれば、そうね」
「豆とかはありますけど、これだとタンパク質が足りなさそうですよ」
「確かに懸念していた事ではあるわ、けど私の料理って野菜ばかりなのよね……」
「あー……、俺もほとんど肉類のレシピしか手札が無いんですよね……」
玲自身、自分の料理の種類に偏りがあるという事は自覚していなかった。たまに作る料理であればバランスを取るためにあまり手を出していないレシピにも挑戦することはできる。しかしこれを習慣にするとなるとかなりの労力を弄することになる。これが二人にとって悩みの種となっていた。
「いっそお互いのをちょっとずつ交換したらちょうど良いんじゃ……なんて」
「……!」
健斗の何の気なしな呟きに、玲はハッとした。少し考えた後、玲は健斗の肩に片手を置いて笑顔を見せた。
「……それ、いいわね」
「へ?」
「お互いのおかずを一品ずつ入れることにしましょうか」
「ええっ!?」
「これでお互いの偏りを補いつつ満足のいく形になるわ」
「い、良いんですか!?」
「? 君の発案じゃなかったかしら?」
「ま、まあそうなんですけど……」
健斗はまさか自分がポツリと言った事が採用されるなんて思っていなかったために驚きを隠せない。自分の料理を食べてもらえる事と玲の料理を食べられる事が同時に叶ってしまい、盛大に戸惑いつつ洗い物をしながら話は次に進んでいく。
「それならお互いにNGな料理を挙げておきましょうか。アレルギー等はあるかしら?」
「いえ、特にありません。泉さんは?」
「無いわ。ついでに嫌いなものも無いから安心して」
「それは凄いですね……あ、俺が苦手なのは」
「何であろうと克服してもらうわ」
「えぇ!?」
玲からの思わぬ容赦無し宣言に驚き、健斗は洗っていたプラスチック製のまな板をシンクに落としてしまった。呆然と玲の顔を見ていると、彼女は無邪気に笑い始めた。
「ふふっ、ごめんなさい。君の反応が面白くてつい……」
そういう玲はとても無邪気な笑みを見せる。これまで冗談とは無縁のように思えた玲のからかうような笑いは、健斗にとって効果絶大だった。
こうして朝にお互いのおかず一品を交換して、健斗はオフィスで実食の時間となった。いつもなら自分の作ったおかずたちを満足しながら頬張るところなのだが、玲に貰ったおかずが輝いて見えているために他の自分の料理が霞んで見えてしまう。
一口食べてみると、自分の味付けでは到底できないような繊細な味に感動した。
「う、美味い……」
「……音無、弁当っていつも自分で作ってるんだよな?」
「え、今物凄い自画自賛してたんですか?」
「あ、いや……」
喜びが思わず出てしまっていた健斗に対して、聡一と小里は呆れ笑いを浮かべながら二人でコソコソと話を始める。
(音無先輩、全然隠せてないですよねー)
(それなー)
(え? って事は先輩、泉さんと弁当のおかずを共有する仲になってるって事ですか?)
(何があったらそうなるんだよって感じだよなー。いい加減教えてほしいよなー)
(あ、拗ねてるー)
(拗ねてねーやい)
拗ねてないと言いながらも聡一は不満そうに口を尖らせる。可愛くないですよーとヤジりながらも小里も気持ちはわかるようで向ける目は優しい。そんなやり取りをしている事を知らない健斗は鬱陶しそうに二人の空間に割り入った。
「前にも言った気がするが、お前らコソコソ話はもっとバレないようにやれよ」
「内容はバレてないのでセーフですー!」
「寧ろ音無がもっとコソコソしろー!」
「言ってることが意味不明だぞ……」
聡一がちょっとだけ本音を込めた言葉を投げたのだが、健斗には伝わらなかった。
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