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第3章 玲は冷に非ず
第6話 停電
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「て……停電?」
周囲が突然暗くなり、玲はシャワーを止めて周囲を見渡す。浴室にまで響く台風の音から、原因はそれだろうと予想して大人しく復旧を待つ。
しかしこの停電、先程まで傷心に浸っていた玲にとってはあまり良くないタイミングだった。
(……そう、独りだった。こんな風に……)
堪らずその場にしゃがみこんでしまった。このままずっと暗闇に閉じ込められてしまうのではないか、と不安に襲われる。自分の心はずっと閉ざしてないといけないのだろうかと思い込んでしまう。
「泉さん! 大丈夫ですか!?」
浴室ドアの向こうから、駆け付けてきた健斗の声が聞こえてきた。自分の事を心配してくれている後輩の一言によって、玲の心は引き戻された。
「音無君!? ええ、大丈夫……ですよ」
「よ、良かった……。多分、台風のせいだと思います」
「そ、それならすぐに戻るかしらね……」
「……? ほ、本当に大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
彼と話すたびに玲は少しずつ冷静さを取り戻していく。一度口調が崩れたものの、立ち上がって健斗がいるであろう方に向き直る。
(彼だけは、最初から私の事を怖がらなかった。その上私を信じて部屋を使わせてくれてる……。彼になら、話してみてもいいのかもしれない)
玲がそう考えている最中、健斗はふと我に返った。今はドア一枚越しにシャワーを浴びていた玲がいる。勿論シャワー中なので何も着ていない。暗くて見えたりはしないが、これ以上この場所にいるのはまずいだろうと感じた。
「ってシャワー中にすみません! すぐに出ますから!」
「待って!」
張り上げた玲の声に、健斗は足を止める。戸惑う健斗に対して玲は言葉を続ける。
「その……、もう少しだけそこにいてくれない?」
「え……?」
「……音無君。停電が復旧するまで、少し私の話を聞いてもらってもいいかしら?」
「は……はい、お願いします!」
玲は会社で彼女自身が経験してきた事を健斗に打ち明けた。健斗は彼女の辛い経験に歯痒さを顔に浮かべながら何も言わずに聞いていた。
「……それで、今の会社では皆の言う通り『冷女』でい続けようって決心していたの」
「……ずっと、敢えて冷たく振舞っていたんですね」
「ええ。心を開ける相手なんて、誰もいないと思ってたのだけれどね……」
「けど、ですか?」
「……貴方は、私の事を怖がらずにいてくれているでしょう?」
「!」
健斗は初めて玲と会った時から信頼の目を向けていた。オフィスで玲は人に冷たく接している所を何度も見ているはずなのに、彼からの目は変わらなかったのである。
「皆が私の事を怖がって、目を合わせないようにする。でも、君とだけはちゃんと目が合うの」
「!」
「それが嬉しくて、つい君を頼ってしまった。部屋の事も、他にもいろいろとね」
「……俺だって、泉さんに助けられている事ばかりですよ」
「それでいいの。私には、まだまだ君に返しきれない程の恩を感じてるから」
「そんな、恩だなんて……」
ドア越しに玲はゆっくりと首を横に振る。玲はドアに右手をつきながら彼に向けてやや絞ったような声で悲しい本音を告げた。
「君がいなかったら、私はあのまま冷え切った人間になってしまってたかもしれなかったから」
「泉さん……」
彼女はあくまで周囲を動かすために敢えて冷女になっていた。けれどいつか自分が心根から冷女になってしまうのでは無いかと恐れていた。そんな不安から救ってくれたのが、健斗だった。本人にそのつもりは無かったけれど、彼女にとって彼が普通に接してくれることが救いとなっていたのである。
パッ……。
停電が終わった。停電の間を繋ぐために始まったこの話は、お互いにまだ続けることを望んでいた。
周囲が突然暗くなり、玲はシャワーを止めて周囲を見渡す。浴室にまで響く台風の音から、原因はそれだろうと予想して大人しく復旧を待つ。
しかしこの停電、先程まで傷心に浸っていた玲にとってはあまり良くないタイミングだった。
(……そう、独りだった。こんな風に……)
堪らずその場にしゃがみこんでしまった。このままずっと暗闇に閉じ込められてしまうのではないか、と不安に襲われる。自分の心はずっと閉ざしてないといけないのだろうかと思い込んでしまう。
「泉さん! 大丈夫ですか!?」
浴室ドアの向こうから、駆け付けてきた健斗の声が聞こえてきた。自分の事を心配してくれている後輩の一言によって、玲の心は引き戻された。
「音無君!? ええ、大丈夫……ですよ」
「よ、良かった……。多分、台風のせいだと思います」
「そ、それならすぐに戻るかしらね……」
「……? ほ、本当に大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
彼と話すたびに玲は少しずつ冷静さを取り戻していく。一度口調が崩れたものの、立ち上がって健斗がいるであろう方に向き直る。
(彼だけは、最初から私の事を怖がらなかった。その上私を信じて部屋を使わせてくれてる……。彼になら、話してみてもいいのかもしれない)
玲がそう考えている最中、健斗はふと我に返った。今はドア一枚越しにシャワーを浴びていた玲がいる。勿論シャワー中なので何も着ていない。暗くて見えたりはしないが、これ以上この場所にいるのはまずいだろうと感じた。
「ってシャワー中にすみません! すぐに出ますから!」
「待って!」
張り上げた玲の声に、健斗は足を止める。戸惑う健斗に対して玲は言葉を続ける。
「その……、もう少しだけそこにいてくれない?」
「え……?」
「……音無君。停電が復旧するまで、少し私の話を聞いてもらってもいいかしら?」
「は……はい、お願いします!」
玲は会社で彼女自身が経験してきた事を健斗に打ち明けた。健斗は彼女の辛い経験に歯痒さを顔に浮かべながら何も言わずに聞いていた。
「……それで、今の会社では皆の言う通り『冷女』でい続けようって決心していたの」
「……ずっと、敢えて冷たく振舞っていたんですね」
「ええ。心を開ける相手なんて、誰もいないと思ってたのだけれどね……」
「けど、ですか?」
「……貴方は、私の事を怖がらずにいてくれているでしょう?」
「!」
健斗は初めて玲と会った時から信頼の目を向けていた。オフィスで玲は人に冷たく接している所を何度も見ているはずなのに、彼からの目は変わらなかったのである。
「皆が私の事を怖がって、目を合わせないようにする。でも、君とだけはちゃんと目が合うの」
「!」
「それが嬉しくて、つい君を頼ってしまった。部屋の事も、他にもいろいろとね」
「……俺だって、泉さんに助けられている事ばかりですよ」
「それでいいの。私には、まだまだ君に返しきれない程の恩を感じてるから」
「そんな、恩だなんて……」
ドア越しに玲はゆっくりと首を横に振る。玲はドアに右手をつきながら彼に向けてやや絞ったような声で悲しい本音を告げた。
「君がいなかったら、私はあのまま冷え切った人間になってしまってたかもしれなかったから」
「泉さん……」
彼女はあくまで周囲を動かすために敢えて冷女になっていた。けれどいつか自分が心根から冷女になってしまうのでは無いかと恐れていた。そんな不安から救ってくれたのが、健斗だった。本人にそのつもりは無かったけれど、彼女にとって彼が普通に接してくれることが救いとなっていたのである。
パッ……。
停電が終わった。停電の間を繋ぐために始まったこの話は、お互いにまだ続けることを望んでいた。
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