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第2章 契約開始
第5話 取り調べから逃れよう
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それは、健斗が玲との打ち合わせを終えて自席に戻ったところで始まった。
「これより、音無健斗への取り調べを行う」
「めんどくさいな……」
「言い訳無用ですよ先輩!」
「まだ何も言ってないだろ……、机のライトを直接当てるな眩しいから」
健斗としてはまだ玲の笑顔を初めて見られたという余韻に浸りながら帰りたかったのだが、同僚二人がそうはさせてくれなかった。
「仕事終わりで腹減ったろ、米と豚ロース、あとパン粉卵その他もろもろを混ぜたやつでも食うか?」
「いや、かつ丼にしてからくれよ。調理前のを食わそうとするな」
「近くのお好み焼き屋でもいいですよ? 音無先輩の金で」
「それはお前が食いたいだけだろ。奢らんからな」
「えー、ケチー」
「そうだぞ戸村! お前先週俺の金で食ったばっかだろ!」
「おい、俺より戸村を取り調べした方がいいだろこれ」
「てへっ」
先輩二人にジト目を向けられるが、小里は何のことやらという姿勢を崩さなかった。これでこの茶番が終わるかと思ったが、聡一が咳払いをした後に話を戻した。
「で? 君はなぜ泉さんと二人で会議室に居たのかね?」
「何だよそのねっとりしたキャラは……、普通に仕事の話だ」
「絶対違いますよこれ! 女の勘が違うと言っています!」
嘘は言っていない。しかし健斗がいくら言ったところで納得する気が無い二人には暖簾に腕押し状態だ。そこで健斗に出来る対応は、話を逸らす事だった。
「お前……女だったのか」
「そこに驚くのおかしくないですか!? どう見ても女じゃないですか!」
「まあなー、普段の態度が全然なのに急に女の部分出されても困るよなー……」
「二人とも酷い! 訴えますよ!」
健斗は少々油断していた。こうしたふざけた会話の流れにしてしまえば今回もやりおおせると思っていた。しかし、聡一の次の言葉によって健斗は巨人の一撃のような衝撃を受けるのである。
「話を戻すが音無、……最近早く帰ってる事と泉さんとの打ち合わせ、何か関係があるんじゃないか?」
「なっ!? お前っ……!」
もしかすると、聡一は既に答えに辿り着いているのかもしれない。そうなってしまっては玲との契約が破綻してしまう。思わず冷や汗が噴き出してきた健斗に対して、二人はまだ追及を続ける。
「ほらほら~、さっさとゲロっちゃったほうが楽になりますよ~?」
「……ついさっき『どう見ても女だ』と言い張ってたやつの言葉選びじゃないぞ」
「音無、それは俺も同感だわ」
「だから一々引っかかんないで下さいよ! 何の話かわかんなくなっちゃうじゃないですか!」
会話はふざけているが、健斗の冷や汗は止まらない。このままだと二人に本当にゲロってしまいそうだと追い詰められていたその時だった。健斗の後ろにはいつの間にか当事者である女性が立っていたのである。
「……彼には個人的に依頼していた案件があったので、その打ち合わせをしていただけですよ」
「あ……」
三人の会話を聞いていた玲が、会話に入ってきた。健斗がこのままだとバラされてしまうと思ったのだろう。玲の登場により聡一と小里は先程までの勢いを完全に失っていた。
「ちなみに音無君が早く帰宅しているのは、単純に仕事を定時内に終わらせられているだけです。……同じ作業量なのに残業が多い貴方達は、彼を見習うべきでは無いのですか?」
「うぅっ!」
「ひぇっ!」
二人は玲からの冷たい眼差しと強めな口調によって完全に震えあがっていた。
「……突然口を挟んでごめんなさいね。失礼します」
そう言って玲は足早に戻っていく。聡一と小里はすっかり腰が抜けてしまい、自分の席に突っ伏してしまった。健斗は心配になり恐る恐る声をかける。
「……おーい二人とも、大丈夫か?」
「せ、先輩の言った通りただの打ち合わせだったんですね……」
「泉さんがそういうなら、本当なんだな……」
「お前ら信用の差が激しすぎないか?」
健斗は二人に怪訝な目を向けるが机に顔を伏せてしまっているため届かない。玲は知られたくない部分をぼかしつつ、威圧感を与えることで健斗への追及を止めつつ隠し通す事に成功したのである。少し時間が経ったからか、突っ伏していた二人が復活した。
「にしてもやっぱり怒った泉さんは怖かったなー……、寿命が五年縮んだぞ……」
「私は六年縮みました……。音無先輩、二人きりで打ち合わせって……怖く無かったんですか?」
「は? いや全然……」
玲の性格を知っている健斗にとって、彼女の行動は全く怖いものじゃなかった。全く理解できないという絶望感を知った二人は、ガックリと項垂れる。
「……戸村、こりゃ俺達にはわからん方がいいやつなのかもな」
「ですねー……。打ち合わせの件については、もう詮索はしないでおきます」
「お、おう……」
これで取り調べは終了となった。というよりも玲に打ち切られたという感じだった。危機を逃れた健斗だったが、彼は別の事に思いを馳せる。
(嗚呼……俺はまた泉さんに助けられてしまった)
そう。彼が直接助けられたと思った出来事は、これで二度目だった。
「これより、音無健斗への取り調べを行う」
「めんどくさいな……」
「言い訳無用ですよ先輩!」
「まだ何も言ってないだろ……、机のライトを直接当てるな眩しいから」
健斗としてはまだ玲の笑顔を初めて見られたという余韻に浸りながら帰りたかったのだが、同僚二人がそうはさせてくれなかった。
「仕事終わりで腹減ったろ、米と豚ロース、あとパン粉卵その他もろもろを混ぜたやつでも食うか?」
「いや、かつ丼にしてからくれよ。調理前のを食わそうとするな」
「近くのお好み焼き屋でもいいですよ? 音無先輩の金で」
「それはお前が食いたいだけだろ。奢らんからな」
「えー、ケチー」
「そうだぞ戸村! お前先週俺の金で食ったばっかだろ!」
「おい、俺より戸村を取り調べした方がいいだろこれ」
「てへっ」
先輩二人にジト目を向けられるが、小里は何のことやらという姿勢を崩さなかった。これでこの茶番が終わるかと思ったが、聡一が咳払いをした後に話を戻した。
「で? 君はなぜ泉さんと二人で会議室に居たのかね?」
「何だよそのねっとりしたキャラは……、普通に仕事の話だ」
「絶対違いますよこれ! 女の勘が違うと言っています!」
嘘は言っていない。しかし健斗がいくら言ったところで納得する気が無い二人には暖簾に腕押し状態だ。そこで健斗に出来る対応は、話を逸らす事だった。
「お前……女だったのか」
「そこに驚くのおかしくないですか!? どう見ても女じゃないですか!」
「まあなー、普段の態度が全然なのに急に女の部分出されても困るよなー……」
「二人とも酷い! 訴えますよ!」
健斗は少々油断していた。こうしたふざけた会話の流れにしてしまえば今回もやりおおせると思っていた。しかし、聡一の次の言葉によって健斗は巨人の一撃のような衝撃を受けるのである。
「話を戻すが音無、……最近早く帰ってる事と泉さんとの打ち合わせ、何か関係があるんじゃないか?」
「なっ!? お前っ……!」
もしかすると、聡一は既に答えに辿り着いているのかもしれない。そうなってしまっては玲との契約が破綻してしまう。思わず冷や汗が噴き出してきた健斗に対して、二人はまだ追及を続ける。
「ほらほら~、さっさとゲロっちゃったほうが楽になりますよ~?」
「……ついさっき『どう見ても女だ』と言い張ってたやつの言葉選びじゃないぞ」
「音無、それは俺も同感だわ」
「だから一々引っかかんないで下さいよ! 何の話かわかんなくなっちゃうじゃないですか!」
会話はふざけているが、健斗の冷や汗は止まらない。このままだと二人に本当にゲロってしまいそうだと追い詰められていたその時だった。健斗の後ろにはいつの間にか当事者である女性が立っていたのである。
「……彼には個人的に依頼していた案件があったので、その打ち合わせをしていただけですよ」
「あ……」
三人の会話を聞いていた玲が、会話に入ってきた。健斗がこのままだとバラされてしまうと思ったのだろう。玲の登場により聡一と小里は先程までの勢いを完全に失っていた。
「ちなみに音無君が早く帰宅しているのは、単純に仕事を定時内に終わらせられているだけです。……同じ作業量なのに残業が多い貴方達は、彼を見習うべきでは無いのですか?」
「うぅっ!」
「ひぇっ!」
二人は玲からの冷たい眼差しと強めな口調によって完全に震えあがっていた。
「……突然口を挟んでごめんなさいね。失礼します」
そう言って玲は足早に戻っていく。聡一と小里はすっかり腰が抜けてしまい、自分の席に突っ伏してしまった。健斗は心配になり恐る恐る声をかける。
「……おーい二人とも、大丈夫か?」
「せ、先輩の言った通りただの打ち合わせだったんですね……」
「泉さんがそういうなら、本当なんだな……」
「お前ら信用の差が激しすぎないか?」
健斗は二人に怪訝な目を向けるが机に顔を伏せてしまっているため届かない。玲は知られたくない部分をぼかしつつ、威圧感を与えることで健斗への追及を止めつつ隠し通す事に成功したのである。少し時間が経ったからか、突っ伏していた二人が復活した。
「にしてもやっぱり怒った泉さんは怖かったなー……、寿命が五年縮んだぞ……」
「私は六年縮みました……。音無先輩、二人きりで打ち合わせって……怖く無かったんですか?」
「は? いや全然……」
玲の性格を知っている健斗にとって、彼女の行動は全く怖いものじゃなかった。全く理解できないという絶望感を知った二人は、ガックリと項垂れる。
「……戸村、こりゃ俺達にはわからん方がいいやつなのかもな」
「ですねー……。打ち合わせの件については、もう詮索はしないでおきます」
「お、おう……」
これで取り調べは終了となった。というよりも玲に打ち切られたという感じだった。危機を逃れた健斗だったが、彼は別の事に思いを馳せる。
(嗚呼……俺はまた泉さんに助けられてしまった)
そう。彼が直接助けられたと思った出来事は、これで二度目だった。
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