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第6話 破落戸は主人公の引き立て役になってください
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舞台はとある冒険者ギルド。血気盛んにクエストに挑む者もいれば、手堅く稼いで過ごす者もいる。今日も張り出されている依頼を吟味する冒険者で賑わっている。
時世に全く合っていない執事服のディレクタは完全に浮いてしまっていた。とっとと用件を済ませるためにある二人の姿を探す。ディレクタが会う二人は、身長が二メートルを超えていそうな大男デカオと、やや小柄ですばしっこそうな男コガラの二人組である。やや目立ちそうな風貌の二人はすぐに見つかった。
「おう、あんたがディレクタってやつか」
「はい。本日はよろしくお願いいたします」
「へぇー、確かにこの辺じゃ見かけねえ服装だな。あの報酬の額も嘘じゃ無さそうだぜ」
小柄な男の言葉に、ディレクタは軽く苦笑いをする。話を始めるために近くのテーブルに腰かけて、デカオとコガラの二人に台本を手渡した。
この二人の共通点は、ガラの悪い人相とやや口が悪いためにそういう印象を与えやすいという事だ。しかし本人たちは寧ろそれを活かしてボディガードや新人教育などを行っている。実は正義感を持ち合わせているいい人だ。
今回の役を演じてもらう約束として、ちょっとした報酬を与えるという話が事前にしてあり、彼らはディレクタの話に素直に応じている。台本の内容をある程度読んだ二人は、ディレクタに確認する。
「つまり、カナリアっていうベッピンさんを俺達が強引に誘って……」
「その転生者っての? ユウキって名前のやつになめてかかって、ぶちのめされろってかぁ!?」
そう、彼らの役はヒロインであるカナリアにちょっかいをかけて、転生主人公であるユウキに追い払われるというものである。転生して冒険者になる主人公は、チンピラからヒロインを助け出すという展開は良く見られる上、転生先での人間関係の基盤を作りやすい。
その上で、主人公の力がどの位のものなのかを示しやすいのが輩との戦闘だ。威勢良く喧嘩を仕掛けてきた相手を難なく倒すことで、主人公は自信をつけて冒険に出発できるという訳だ。
「そうです。ユウキさんにこの世界の常識をそれとなく教えつつ、腕試しにやられてあげてください」
「なんかそれ、割とムズくねえ……?」
「デカオが負けたのを見て俺ナイフ取り出すのかよ? 流石に不味いんじゃねえか……?」
ギルド内での争いは基本的に禁止であり、騒ぎを起こした物は謹慎などの罰を受けてしまう。増してやナイフを取り出したら罰則はより重いものになってしまう。しかしディレクタは大丈夫ですよ、とあっさり言う。
「ユウキさんは対象の時間を操作できる能力があるので。デカオさんは何もできずに殴り飛ばされますし、コガラさんはナイフを取り出す前の状態に戻されてから同じく殴り飛ばされるので。結果的に問題は無くなります」
「いやつっよ……」
「そんなヤバいやつだって聞いちまったら、演技でもなめてかかれねえよ……。知らないままのが良かったぜ……」
時間を操作できるタイプの能力は、基本的にチートに分類されるほど強力なものである。どれだけ腕っぷしや素早さがあったところで時間を戻されたら終わりだからである。使い方次第では世界をも掌握できるだろう。だがユウキの性格はそういう感じではないらしい。
「そんなふざけた能力があるのに、ユウキってやつは凄い能力であるという自覚が無いってどういう事だよ……」
「『これぐらい皆出来て当然じゃないのか?』だってよ。前の世界じゃ全員時間操作が使えたってのか?」
「いえ、そういう訳では無いみたいですが……この世界では常識なのだと思い込んでいるようです」
「んなわけねぇだろ……」
デカオとコガラの声が重なった。
「でも、貴方たちは運がいいほうですよ」
「どういうこった?」
「物語によっては、そこで絶命はおろか影も形も消滅させられる、という場合もあるんですから」
「ひえっ」
「五体満足で帰れるお二人は全然マシだと思いますよ。ちなみに、お二人に渡す予定の報酬は危険手当ですから、特別です」
「……」
ではよろしくお願いしますね、とディレクタは去っていった。次はギルドマスターと話をするらしく、施設の奥の部屋へ入っていくのを見届けた二人は茫然としていた。
「なぁデカオ、この仕事降りたくなってきたんだが」
「……俺もだ。だが、痛いのは一瞬だろう。きっと」
「……報酬のためなら、しゃーないか。ユウキって奴が優しい奴であることを祈ろうぜ、デカオ」
「ああ、生きて帰ろうな、コガラ」
「不吉な言い方すんなよ!?」
かなりビビりながらもカナリアを誘おうとした二人は、駆け付けたユウキにさっくりと倒された。軽く気絶する程度で済んだデカオとコガラは報酬を貰って以降は大人しく過ごした。
そして予定通り、ユウキの世界を救う冒険は順調に進んでいくのであった。
時世に全く合っていない執事服のディレクタは完全に浮いてしまっていた。とっとと用件を済ませるためにある二人の姿を探す。ディレクタが会う二人は、身長が二メートルを超えていそうな大男デカオと、やや小柄ですばしっこそうな男コガラの二人組である。やや目立ちそうな風貌の二人はすぐに見つかった。
「おう、あんたがディレクタってやつか」
「はい。本日はよろしくお願いいたします」
「へぇー、確かにこの辺じゃ見かけねえ服装だな。あの報酬の額も嘘じゃ無さそうだぜ」
小柄な男の言葉に、ディレクタは軽く苦笑いをする。話を始めるために近くのテーブルに腰かけて、デカオとコガラの二人に台本を手渡した。
この二人の共通点は、ガラの悪い人相とやや口が悪いためにそういう印象を与えやすいという事だ。しかし本人たちは寧ろそれを活かしてボディガードや新人教育などを行っている。実は正義感を持ち合わせているいい人だ。
今回の役を演じてもらう約束として、ちょっとした報酬を与えるという話が事前にしてあり、彼らはディレクタの話に素直に応じている。台本の内容をある程度読んだ二人は、ディレクタに確認する。
「つまり、カナリアっていうベッピンさんを俺達が強引に誘って……」
「その転生者っての? ユウキって名前のやつになめてかかって、ぶちのめされろってかぁ!?」
そう、彼らの役はヒロインであるカナリアにちょっかいをかけて、転生主人公であるユウキに追い払われるというものである。転生して冒険者になる主人公は、チンピラからヒロインを助け出すという展開は良く見られる上、転生先での人間関係の基盤を作りやすい。
その上で、主人公の力がどの位のものなのかを示しやすいのが輩との戦闘だ。威勢良く喧嘩を仕掛けてきた相手を難なく倒すことで、主人公は自信をつけて冒険に出発できるという訳だ。
「そうです。ユウキさんにこの世界の常識をそれとなく教えつつ、腕試しにやられてあげてください」
「なんかそれ、割とムズくねえ……?」
「デカオが負けたのを見て俺ナイフ取り出すのかよ? 流石に不味いんじゃねえか……?」
ギルド内での争いは基本的に禁止であり、騒ぎを起こした物は謹慎などの罰を受けてしまう。増してやナイフを取り出したら罰則はより重いものになってしまう。しかしディレクタは大丈夫ですよ、とあっさり言う。
「ユウキさんは対象の時間を操作できる能力があるので。デカオさんは何もできずに殴り飛ばされますし、コガラさんはナイフを取り出す前の状態に戻されてから同じく殴り飛ばされるので。結果的に問題は無くなります」
「いやつっよ……」
「そんなヤバいやつだって聞いちまったら、演技でもなめてかかれねえよ……。知らないままのが良かったぜ……」
時間を操作できるタイプの能力は、基本的にチートに分類されるほど強力なものである。どれだけ腕っぷしや素早さがあったところで時間を戻されたら終わりだからである。使い方次第では世界をも掌握できるだろう。だがユウキの性格はそういう感じではないらしい。
「そんなふざけた能力があるのに、ユウキってやつは凄い能力であるという自覚が無いってどういう事だよ……」
「『これぐらい皆出来て当然じゃないのか?』だってよ。前の世界じゃ全員時間操作が使えたってのか?」
「いえ、そういう訳では無いみたいですが……この世界では常識なのだと思い込んでいるようです」
「んなわけねぇだろ……」
デカオとコガラの声が重なった。
「でも、貴方たちは運がいいほうですよ」
「どういうこった?」
「物語によっては、そこで絶命はおろか影も形も消滅させられる、という場合もあるんですから」
「ひえっ」
「五体満足で帰れるお二人は全然マシだと思いますよ。ちなみに、お二人に渡す予定の報酬は危険手当ですから、特別です」
「……」
ではよろしくお願いしますね、とディレクタは去っていった。次はギルドマスターと話をするらしく、施設の奥の部屋へ入っていくのを見届けた二人は茫然としていた。
「なぁデカオ、この仕事降りたくなってきたんだが」
「……俺もだ。だが、痛いのは一瞬だろう。きっと」
「……報酬のためなら、しゃーないか。ユウキって奴が優しい奴であることを祈ろうぜ、デカオ」
「ああ、生きて帰ろうな、コガラ」
「不吉な言い方すんなよ!?」
かなりビビりながらもカナリアを誘おうとした二人は、駆け付けたユウキにさっくりと倒された。軽く気絶する程度で済んだデカオとコガラは報酬を貰って以降は大人しく過ごした。
そして予定通り、ユウキの世界を救う冒険は順調に進んでいくのであった。
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