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第22話 使用人たちからの評価
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「よし、この世界での勉強もだいぶ板についてきた気がする!」
気づけば僕は、この世界に来てから二ヵ月ほどが経過していた。最初は文章の読み書きすらも怪しかったが、今は自室でいくつか問題を解いてみた所、半分以上を正解出来る程度になっていた。このまま勉強を続けていけば、首席とはいかなくとも恥ずかしくない成績にまで上がれそうだ。採点したノートを見て満足感を味わったところで、手を止める。
(……これでいいのかな? もうだいぶハルトの面影が無くなっている気がするけど)
前世からプリ庭に来たと自覚した日を思い出したからか、ふと自分の行動が正しかったかどうかが気になった。僕の変化に周囲を大いに驚かせ続けた事が、果たして良かったのだろうかと今になって不安が襲ってきた。
答えが出なさそうな悩みに悶々としていると、部屋の扉がノックされた。入室を促すと、入ってきたのはセレナだった。
「ハルト様、今お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「セレナ? うん、大丈夫だよ」
「……失礼いたします」
「どうしたの? ……何か大事な話?」
「……はい」
セレナのやや沈んだ表情から、少し重い話になるのだろうと思い姿勢を正す。
「何があったの?」
「シリウス様が、一部の使用人共をお叱りになられました」
「兄さんがセレナたちを? どうして?」
「……ハルト様を見下すような発言をするな、と」
「……兄さんがそんな事を」
これまで使用人の内何人かが僕の陰口を言っている事は数えきれないほどあった。シリウスは特に関心を示さず行動は起こしてこなかった。僕が前世の記憶に目覚めてからも、一部の使用人からはまだ信用されていない故に未だに陰口はあった。僕は自分のせいだからと黙認していたのだが、シリウスはそれを許さなかったらしい。セレナも同じように思っているようで、俯いて悔しそうに唇を嚙んでいた。
「ハルト様のこれまでの行いは、私達のせいでもあると思っています」
「ううん、そんなこと無いよ。僕が未熟なだけだったんだから……」
「……ハルト様はまだ、周囲に甘えてもいいお年頃なのですよ。未熟で当たり前です」
「!」
ハルトには、甘えられる相手がいなかった。両親とはほとんど会うこともなく、唯一肉親で会う事の出来る兄とも関係が良くなかった。そんな日々を過ごしていくうちに、誰かに甘えるという事を蔑ろにしてしまっていたのだ。
「とはいえ、今の使用人たちに頼ることは難しいかと思います」
「……まあ、ちょっと難しいかな」
「ですので、シリウス様の提案によりハルト様を信用できないという使用人を纏めて解雇せよ、と仰られておりまして」
「待って待って待って極端極端極端」
以前のハルトならいざ知らず、使用人を一斉に解雇するなんて僕にはとてもできない。一度社会人を経験している身として、突然解雇される恐怖はよく知っている。たった一人のわがままで何人もの人を路頭に迷わせるなんて事があってはいけない。
「信じてもらうのって、とても大変だから。これまで僕が信用を壊してきた分は、僕が頑張らなきゃいけないことなんだ」
「ハルト様……」
「だから解雇なんて認められないよ。兄さんを止めに行かなきゃ!」
シリウスに解雇を止めさせようと立ち上がる。しかしセレナは動かずに後ろの扉に向かって声を発した。
「今の言葉をお聞きになりましたか、皆様」
「へ?」
ゆっくりと扉が開く。扉の向こうには使用人全員が集められていた。皆がまじまじと僕を見つめてくる。
「もしかして今の話、皆で聞いてたの?」
「はい。皆ハルト様の本音を知ろうと思っておりましたので、扉の前で聞き耳を立てておりました」
「えぇー、何でそんな……って皆ちょっと泣いてない!? 何で!?」
皆白いハンカチを目元や顔に当ててすすり泣いていた。状況が掴めずにいると、皆が思い思いに気持ちを吐き出し始めてしまった。
「ううっ! なんて寛大なお心をお持ちになられたのでしょう!」
「これでは私たちのほうが未熟! 己を戒めなければ!」
「み、皆落ち着いて! なんか恥ずかしいから忘れてください!」
自分がここまで注目される経験が無かったため、思わず両手で顔を覆ってしまう。それを見た使用人たちは更に僕を凝視してくる。
「ハルト様があの様な初心な反応を!?」
「やっぱり前までとは人格が変わったかのようです……とてもイイ!」
「そんな所までじっくり観察しなくていいから!」
この一件以降、ハルトと使用人達の確執は減っていった。解雇されずに雇用を継続する事を望んだ使用人全員からは、僕の事を微笑ましく見てくるようになった。……恥ずかしいけれど、今の僕で良かったのかもしれないとちょっとだけ背中を押された気持ちになった。
気づけば僕は、この世界に来てから二ヵ月ほどが経過していた。最初は文章の読み書きすらも怪しかったが、今は自室でいくつか問題を解いてみた所、半分以上を正解出来る程度になっていた。このまま勉強を続けていけば、首席とはいかなくとも恥ずかしくない成績にまで上がれそうだ。採点したノートを見て満足感を味わったところで、手を止める。
(……これでいいのかな? もうだいぶハルトの面影が無くなっている気がするけど)
前世からプリ庭に来たと自覚した日を思い出したからか、ふと自分の行動が正しかったかどうかが気になった。僕の変化に周囲を大いに驚かせ続けた事が、果たして良かったのだろうかと今になって不安が襲ってきた。
答えが出なさそうな悩みに悶々としていると、部屋の扉がノックされた。入室を促すと、入ってきたのはセレナだった。
「ハルト様、今お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「セレナ? うん、大丈夫だよ」
「……失礼いたします」
「どうしたの? ……何か大事な話?」
「……はい」
セレナのやや沈んだ表情から、少し重い話になるのだろうと思い姿勢を正す。
「何があったの?」
「シリウス様が、一部の使用人共をお叱りになられました」
「兄さんがセレナたちを? どうして?」
「……ハルト様を見下すような発言をするな、と」
「……兄さんがそんな事を」
これまで使用人の内何人かが僕の陰口を言っている事は数えきれないほどあった。シリウスは特に関心を示さず行動は起こしてこなかった。僕が前世の記憶に目覚めてからも、一部の使用人からはまだ信用されていない故に未だに陰口はあった。僕は自分のせいだからと黙認していたのだが、シリウスはそれを許さなかったらしい。セレナも同じように思っているようで、俯いて悔しそうに唇を嚙んでいた。
「ハルト様のこれまでの行いは、私達のせいでもあると思っています」
「ううん、そんなこと無いよ。僕が未熟なだけだったんだから……」
「……ハルト様はまだ、周囲に甘えてもいいお年頃なのですよ。未熟で当たり前です」
「!」
ハルトには、甘えられる相手がいなかった。両親とはほとんど会うこともなく、唯一肉親で会う事の出来る兄とも関係が良くなかった。そんな日々を過ごしていくうちに、誰かに甘えるという事を蔑ろにしてしまっていたのだ。
「とはいえ、今の使用人たちに頼ることは難しいかと思います」
「……まあ、ちょっと難しいかな」
「ですので、シリウス様の提案によりハルト様を信用できないという使用人を纏めて解雇せよ、と仰られておりまして」
「待って待って待って極端極端極端」
以前のハルトならいざ知らず、使用人を一斉に解雇するなんて僕にはとてもできない。一度社会人を経験している身として、突然解雇される恐怖はよく知っている。たった一人のわがままで何人もの人を路頭に迷わせるなんて事があってはいけない。
「信じてもらうのって、とても大変だから。これまで僕が信用を壊してきた分は、僕が頑張らなきゃいけないことなんだ」
「ハルト様……」
「だから解雇なんて認められないよ。兄さんを止めに行かなきゃ!」
シリウスに解雇を止めさせようと立ち上がる。しかしセレナは動かずに後ろの扉に向かって声を発した。
「今の言葉をお聞きになりましたか、皆様」
「へ?」
ゆっくりと扉が開く。扉の向こうには使用人全員が集められていた。皆がまじまじと僕を見つめてくる。
「もしかして今の話、皆で聞いてたの?」
「はい。皆ハルト様の本音を知ろうと思っておりましたので、扉の前で聞き耳を立てておりました」
「えぇー、何でそんな……って皆ちょっと泣いてない!? 何で!?」
皆白いハンカチを目元や顔に当ててすすり泣いていた。状況が掴めずにいると、皆が思い思いに気持ちを吐き出し始めてしまった。
「ううっ! なんて寛大なお心をお持ちになられたのでしょう!」
「これでは私たちのほうが未熟! 己を戒めなければ!」
「み、皆落ち着いて! なんか恥ずかしいから忘れてください!」
自分がここまで注目される経験が無かったため、思わず両手で顔を覆ってしまう。それを見た使用人たちは更に僕を凝視してくる。
「ハルト様があの様な初心な反応を!?」
「やっぱり前までとは人格が変わったかのようです……とてもイイ!」
「そんな所までじっくり観察しなくていいから!」
この一件以降、ハルトと使用人達の確執は減っていった。解雇されずに雇用を継続する事を望んだ使用人全員からは、僕の事を微笑ましく見てくるようになった。……恥ずかしいけれど、今の僕で良かったのかもしれないとちょっとだけ背中を押された気持ちになった。
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