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第3話 変な趣味は冒険者の管轄外
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依頼者の中には、単に自分の欲を満たすために依頼を出す者もいる。それ自体が悪いことという訳ではなく、正当な報酬を用意していたり、犯罪等に手を染めるような事が無ければ依頼としては成立する。
しかし、あまりにも個人的な内容過ぎるものはアイシャとしては全て省いてしまいたいと考えていた。ギルドにある依頼板の大きさには限りがあるため、緊急を要するような重要な依頼が他の雑多な依頼に隠されるわけにはいかないのである。
今日も依頼書がびっしりと貼られている依頼板を見た後、受付にズカズカと近づいてくる黒髪メガネの女性が現れた。何かを意気込んでいる真剣な様子の彼女に、アイシャは少しだけ真面目に身構えた。
「要件をどうぞ。重要なやつ?」
「はい、最重要な依頼の申請です」
これは久々に大物案件か、とアイシャは想像して無記入の依頼書を手に取る。依頼主の女性、アンリは大きく口を開いた。
「……私の部屋を、メイド服で埋め尽くしたいの!」
「帰れ。アタシの緊張返せ変態。何が最重要だおとといきやがれバーカ」
「そんなっ! 私にとっては最重要なのに!」
盛大に肩透かしされたアイシャの口から矢継ぎ早に悪口が飛び出した。即突っぱねられてしまったアンリは愕然とする。後ろで聞いていたサナもあーあ、という顔でアンリを見つめていた。
ギルドへの依頼の中には『アレをいくつ集めてほしい』という収集依頼自体は少なくない。ただ、その集めるモノがあまりにも趣味でしか無いものは断ることにしているのだ。アンリの依頼対象である使用済みメイド服は、当然『あまりにも趣味でしかない』の範囲内である。
「服が欲しいってんなら、仕立て屋とかで良いだろ。何でわざわざギルドに依頼すんのよ」
「何を言っているんですか! 新品じゃ味が無いでしょう! 私は使用済みのメイド服が欲しいんです! 雇用主のために真摯に働き続けたメイドたちの残滓にこそ価値が……」
「もしもし騎士団? なんか性癖を拗らせてるやつが……」
「待って! 頼むから話を聞いて!」
最初の緊張感は本当に何だったのだろうか。アンリがなぜここまで必死に食い下がるかはアイシャとサナには理解ができない。アイシャは断るためにメイド服がそもそも集まらないであろう理由を話しだす。
「つってもなー、依頼を出した所で多分集まらないぞ。冒険者でメイド服なんか着てる酔狂な奴見たことないし、貴族との繋がりがある奴も知らないからなー」
「うぅ……やはりそうですか……」
この時世にメイド服を使用しているのは、貴族に雇われている使用人位しか存在していない。平民であるアンリが貴族に対して『使用済みのメイド服ください!』なんて言ったらほぼ牢獄行きになるだろう。
アンリはがっくりとうなだれる。そんなにショックなのかよとため息をつくアイシャとは対照的に、サナはアンリの熱量に興味を持ったため彼女に質問をした。
「ちなみに、何着欲しいのですか?」
「えっと……ニ十着程です」
「加減しろ馬鹿」
ただでさえ入手できないという話をしているのに、あまりにも欲する数が多い。アイシャはつくづく呆れていたが、サナの受け取り方は違っていた。
「……使用人達のお古を集めたら、その位になるかしら」
「サナ?」
「はっ! な、なんでもありませんよアイシャさん!?」
「いやなんも言ってないけど……」
サナは自分が呟いたことを手をブンブンと振って誤魔化した。サナの発言をしっかりと聞き取れてしまったアイシャにははてなが浮かぶ。そんなアイシャを置いてサナはアンリに提案をする。
「アンリさん。この地域の領主であるオーランド家に伺ってみてはいかがでしょう?」
「えっ!? そんな、平民の私が公爵家に、しかもこんな低俗な頼み事をするなんて恐れ多いですよ……」
「ギルドなら低俗な頼み事しても良いと思ってんのかお前、出るとこ出んぞコラ」
自分の頼みが碌でもないと自覚していた事にアイシャは更にガックリする。アイシャのツッコミが入ってもサナとアンリの話は進んでいく。
「きっと大丈夫です、ギルドを通して連絡を取ってみますね。もしかしたら、古着の処理に困っているかもしれませんので……」
「いいの!? ぜひお願い!」
アンリは嬉々としてサナに頭を下げた。依頼はこの場で成立しそうな流れだが、アイシャにとっては疑問だらけである。
「そんなかもしれないある?」
「……かも、しれないですよ?」
「……まあ、そういう事にしとくよ」
アイシャとサナは会ってから直ぐに意気投合して、数月の間に親しい仲となった。けれど、お互いの経緯や事情はあまり踏み込んでいないのである。お互いこれまで何をしていたのか、なぜこの役割を買って出たのかは話していない。
(サナって、実は貴族だったりすんのかな。ヤバ、アタシいつか不敬で捕まるかも)
サナの出で立ちについて、アイシャは聞いたことが無かった。サナ自身が隠していたからである。アイシャも無理に聞き出すつもりも無かったのでわざわざ聞くような事もしなかった。
しかし、今回の一件でサナの事が少しだけわかったような気がした事に、少しだけ満足感を覚えたアイシャだった。
「それにしても、二十着も入手して何をなさるのですか?」
「部屋中に敷き詰めて、その上をごろごろしてみたいの……」
「どんな生き方してたらそんなプレイに目覚めんだよ……」
古着の処分よりも変態の処分のほうが面倒そうだな、とアイシャは思うのだった。
しかし、あまりにも個人的な内容過ぎるものはアイシャとしては全て省いてしまいたいと考えていた。ギルドにある依頼板の大きさには限りがあるため、緊急を要するような重要な依頼が他の雑多な依頼に隠されるわけにはいかないのである。
今日も依頼書がびっしりと貼られている依頼板を見た後、受付にズカズカと近づいてくる黒髪メガネの女性が現れた。何かを意気込んでいる真剣な様子の彼女に、アイシャは少しだけ真面目に身構えた。
「要件をどうぞ。重要なやつ?」
「はい、最重要な依頼の申請です」
これは久々に大物案件か、とアイシャは想像して無記入の依頼書を手に取る。依頼主の女性、アンリは大きく口を開いた。
「……私の部屋を、メイド服で埋め尽くしたいの!」
「帰れ。アタシの緊張返せ変態。何が最重要だおとといきやがれバーカ」
「そんなっ! 私にとっては最重要なのに!」
盛大に肩透かしされたアイシャの口から矢継ぎ早に悪口が飛び出した。即突っぱねられてしまったアンリは愕然とする。後ろで聞いていたサナもあーあ、という顔でアンリを見つめていた。
ギルドへの依頼の中には『アレをいくつ集めてほしい』という収集依頼自体は少なくない。ただ、その集めるモノがあまりにも趣味でしか無いものは断ることにしているのだ。アンリの依頼対象である使用済みメイド服は、当然『あまりにも趣味でしかない』の範囲内である。
「服が欲しいってんなら、仕立て屋とかで良いだろ。何でわざわざギルドに依頼すんのよ」
「何を言っているんですか! 新品じゃ味が無いでしょう! 私は使用済みのメイド服が欲しいんです! 雇用主のために真摯に働き続けたメイドたちの残滓にこそ価値が……」
「もしもし騎士団? なんか性癖を拗らせてるやつが……」
「待って! 頼むから話を聞いて!」
最初の緊張感は本当に何だったのだろうか。アンリがなぜここまで必死に食い下がるかはアイシャとサナには理解ができない。アイシャは断るためにメイド服がそもそも集まらないであろう理由を話しだす。
「つってもなー、依頼を出した所で多分集まらないぞ。冒険者でメイド服なんか着てる酔狂な奴見たことないし、貴族との繋がりがある奴も知らないからなー」
「うぅ……やはりそうですか……」
この時世にメイド服を使用しているのは、貴族に雇われている使用人位しか存在していない。平民であるアンリが貴族に対して『使用済みのメイド服ください!』なんて言ったらほぼ牢獄行きになるだろう。
アンリはがっくりとうなだれる。そんなにショックなのかよとため息をつくアイシャとは対照的に、サナはアンリの熱量に興味を持ったため彼女に質問をした。
「ちなみに、何着欲しいのですか?」
「えっと……ニ十着程です」
「加減しろ馬鹿」
ただでさえ入手できないという話をしているのに、あまりにも欲する数が多い。アイシャはつくづく呆れていたが、サナの受け取り方は違っていた。
「……使用人達のお古を集めたら、その位になるかしら」
「サナ?」
「はっ! な、なんでもありませんよアイシャさん!?」
「いやなんも言ってないけど……」
サナは自分が呟いたことを手をブンブンと振って誤魔化した。サナの発言をしっかりと聞き取れてしまったアイシャにははてなが浮かぶ。そんなアイシャを置いてサナはアンリに提案をする。
「アンリさん。この地域の領主であるオーランド家に伺ってみてはいかがでしょう?」
「えっ!? そんな、平民の私が公爵家に、しかもこんな低俗な頼み事をするなんて恐れ多いですよ……」
「ギルドなら低俗な頼み事しても良いと思ってんのかお前、出るとこ出んぞコラ」
自分の頼みが碌でもないと自覚していた事にアイシャは更にガックリする。アイシャのツッコミが入ってもサナとアンリの話は進んでいく。
「きっと大丈夫です、ギルドを通して連絡を取ってみますね。もしかしたら、古着の処理に困っているかもしれませんので……」
「いいの!? ぜひお願い!」
アンリは嬉々としてサナに頭を下げた。依頼はこの場で成立しそうな流れだが、アイシャにとっては疑問だらけである。
「そんなかもしれないある?」
「……かも、しれないですよ?」
「……まあ、そういう事にしとくよ」
アイシャとサナは会ってから直ぐに意気投合して、数月の間に親しい仲となった。けれど、お互いの経緯や事情はあまり踏み込んでいないのである。お互いこれまで何をしていたのか、なぜこの役割を買って出たのかは話していない。
(サナって、実は貴族だったりすんのかな。ヤバ、アタシいつか不敬で捕まるかも)
サナの出で立ちについて、アイシャは聞いたことが無かった。サナ自身が隠していたからである。アイシャも無理に聞き出すつもりも無かったのでわざわざ聞くような事もしなかった。
しかし、今回の一件でサナの事が少しだけわかったような気がした事に、少しだけ満足感を覚えたアイシャだった。
「それにしても、二十着も入手して何をなさるのですか?」
「部屋中に敷き詰めて、その上をごろごろしてみたいの……」
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