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第1話 依頼者は盗まれたい
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冒険者ギルドには、様々な依頼者が悩みを解決してほしいために訪れてくる。依頼の内容は採集や討伐のようなものが一般的だが、中には人付き合いの仲介役や特定の悩み相談相手等の特殊なケースも含まれる。
とあるギルドの女職員であるアイシャは、ギルドに持ち込まれた依頼を精査する役割を担っている。隣にいるサナも同様だ。アイシャは話を聞く担当で、サナは書記担当だ。
今日も依頼を受けてほしいと足を運んでくる。受付にやってきた一人のふくよかな男は、真剣な眼を向けながら二人に依頼内容を伝えてきた。
「シーフの方に、私の家の物を盗んでいただきたいのです!」
「アンタ気は確かか?」
「アイシャさん直球すぎますよ!?」
金髪ツインテ、釣り目気味の目を男に向けて毒舌を吐いた女性がアイシャ。アイシャの態度に慌ててツッコミを入れたふわっとした茶髪でおっとり目の女性がサナである。
アイシャが申し訳ありません、とサナは気を取り直して男から話を聞き出すため話を再開する。
「依頼の理由を説明して貰えますか? 依頼書の作成に必要ですので」
「ああ、構わないよ。少々長くなるかもしれないが……」
「終わったら起こしてー」
「ダメですよアイシャちゃん……、そのスライム柄のアイマスクはどこから出したのですか……?」
依頼を作成するためには、まず依頼内容と簡素な理由説明、そして達成された場合の報酬を設定する必要がある。その上でギルドが正当な依頼であると判断されて、ようやくギルドに依頼が貼り出される。
しかしギルドのマスターは忙しく、全ての依頼に目を通す余裕が無い。そのためギルドに持ち帰るまでもないような内容だった場合は、アイシャとサナの二人がある程度取り除いておく、いわばフィルター役を務めているのだ。
二人は既に男の依頼を採用する気は無いのだが、一応依頼の理由を聞いてみることにした。
「私は以前、スリに会ったことがありまして。私は財布が盗まれた事に全く気付けなかったのです。そんな盗みの技を体感した私は……感動したのです! 彼らの鮮やかな盗みの技術を、次はしっかりと確認したいと思ったのです! その上で私の財産が無くなるならそれでも構わないと思える程に!」
「新手のマゾじゃん怖」
「……」
男は自分の財産を盗まれる事に快感を覚えてしまっていた。恍惚とした表情を浮かべる彼にサナはドン引き、アイシャは嫌悪の目を向けていた。
「ちなみに報酬は私から盗んだものをそのまま与える、という形でどうかと考えているよ」
「無一文になるまで搾り取られるぞアンタ」
それも覚悟の上だ、と意気込む男。しかし、これに異を唱えたのは少々厳しめの目線を彼に向けていたサナだった。
「……この依頼は受領する事ができません」
「どうしてだ、やはり報酬が現物支給では駄目なのか?」
「いえ、そういう事ではありません。この依頼内容ではシーフの方には頼めないのです」
男の依頼には、ギルドとして受けられない理由がある。アイシャもサナの言いたいことは理解しているため軽く頷いた。理解できずに首を傾げる男に、サナは説明を始めた。
「そもそも、貴方の遭遇したスリと職業であるシーフは根本的に違います。ただ私欲だったり自分が生き永らえる為に動くスリと、冒険者として仲間や他者の為に行動するシーフ。両者の行いは、同じ盗みでも全く意味が異なります」
「その通り。スリとシーフを同列にしているあんたの発言は、シーフに対する侮辱発言だ。例え他意が無くともな」
「そ、そんなつもりでは無かったのだが……、確かにその通りだ」
「貴方の本来望んでいるスリ達は、ギルドで正当に依頼を受ける事が出来ません。よって貴方の依頼は成り立たないんです」
「そうか……。すまない、浅慮だった」
サナの説明に納得した男は、申し訳なさから頭を下げた。サナは理解してもらえてよかったと笑顔になった。しかし、その横でアイシャは怪訝な顔を浮かべていた。
(サナは偉い奴だ。こんなよくわからん依頼に誠心誠意答えてる。アタシには出来そうに無いよ)
アイシャとサナには、それぞれこの役職を買って出た経緯がある。お互いにそれを話したことは無いが、しっかりと役目を果たしたいという気持ちは同じだと思っている。
「……待てよ、いっそ盗賊に盗んでもらうのもアリか?」
「五臓六腑盗まれちまえよもう」
「アイシャさん!!」
男よりもアイシャの方が圧倒的に侮辱発言をしているのだが、ギルドではあまりにお馴染みの光景過ぎるために今更ツッコむ者はいないのだった。
とあるギルドの女職員であるアイシャは、ギルドに持ち込まれた依頼を精査する役割を担っている。隣にいるサナも同様だ。アイシャは話を聞く担当で、サナは書記担当だ。
今日も依頼を受けてほしいと足を運んでくる。受付にやってきた一人のふくよかな男は、真剣な眼を向けながら二人に依頼内容を伝えてきた。
「シーフの方に、私の家の物を盗んでいただきたいのです!」
「アンタ気は確かか?」
「アイシャさん直球すぎますよ!?」
金髪ツインテ、釣り目気味の目を男に向けて毒舌を吐いた女性がアイシャ。アイシャの態度に慌ててツッコミを入れたふわっとした茶髪でおっとり目の女性がサナである。
アイシャが申し訳ありません、とサナは気を取り直して男から話を聞き出すため話を再開する。
「依頼の理由を説明して貰えますか? 依頼書の作成に必要ですので」
「ああ、構わないよ。少々長くなるかもしれないが……」
「終わったら起こしてー」
「ダメですよアイシャちゃん……、そのスライム柄のアイマスクはどこから出したのですか……?」
依頼を作成するためには、まず依頼内容と簡素な理由説明、そして達成された場合の報酬を設定する必要がある。その上でギルドが正当な依頼であると判断されて、ようやくギルドに依頼が貼り出される。
しかしギルドのマスターは忙しく、全ての依頼に目を通す余裕が無い。そのためギルドに持ち帰るまでもないような内容だった場合は、アイシャとサナの二人がある程度取り除いておく、いわばフィルター役を務めているのだ。
二人は既に男の依頼を採用する気は無いのだが、一応依頼の理由を聞いてみることにした。
「私は以前、スリに会ったことがありまして。私は財布が盗まれた事に全く気付けなかったのです。そんな盗みの技を体感した私は……感動したのです! 彼らの鮮やかな盗みの技術を、次はしっかりと確認したいと思ったのです! その上で私の財産が無くなるならそれでも構わないと思える程に!」
「新手のマゾじゃん怖」
「……」
男は自分の財産を盗まれる事に快感を覚えてしまっていた。恍惚とした表情を浮かべる彼にサナはドン引き、アイシャは嫌悪の目を向けていた。
「ちなみに報酬は私から盗んだものをそのまま与える、という形でどうかと考えているよ」
「無一文になるまで搾り取られるぞアンタ」
それも覚悟の上だ、と意気込む男。しかし、これに異を唱えたのは少々厳しめの目線を彼に向けていたサナだった。
「……この依頼は受領する事ができません」
「どうしてだ、やはり報酬が現物支給では駄目なのか?」
「いえ、そういう事ではありません。この依頼内容ではシーフの方には頼めないのです」
男の依頼には、ギルドとして受けられない理由がある。アイシャもサナの言いたいことは理解しているため軽く頷いた。理解できずに首を傾げる男に、サナは説明を始めた。
「そもそも、貴方の遭遇したスリと職業であるシーフは根本的に違います。ただ私欲だったり自分が生き永らえる為に動くスリと、冒険者として仲間や他者の為に行動するシーフ。両者の行いは、同じ盗みでも全く意味が異なります」
「その通り。スリとシーフを同列にしているあんたの発言は、シーフに対する侮辱発言だ。例え他意が無くともな」
「そ、そんなつもりでは無かったのだが……、確かにその通りだ」
「貴方の本来望んでいるスリ達は、ギルドで正当に依頼を受ける事が出来ません。よって貴方の依頼は成り立たないんです」
「そうか……。すまない、浅慮だった」
サナの説明に納得した男は、申し訳なさから頭を下げた。サナは理解してもらえてよかったと笑顔になった。しかし、その横でアイシャは怪訝な顔を浮かべていた。
(サナは偉い奴だ。こんなよくわからん依頼に誠心誠意答えてる。アタシには出来そうに無いよ)
アイシャとサナには、それぞれこの役職を買って出た経緯がある。お互いにそれを話したことは無いが、しっかりと役目を果たしたいという気持ちは同じだと思っている。
「……待てよ、いっそ盗賊に盗んでもらうのもアリか?」
「五臓六腑盗まれちまえよもう」
「アイシャさん!!」
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