153 / 182
暗躍する者
しおりを挟む
第二次本能寺の変の直前。
越後にて。
「ぐっ!」
突如として牢の門番が倒される。
「な……何事だ……」
牢の中にはかつて織田秀信と争い、敗れた上杉家の当主、上杉景勝が囚われていた。
その隣の牢にはその重臣である直江兼続の姿もあった。
両名は戦に敗れると大人しく捕まり、処遇の沙汰を待っていたのである。
「上杉景勝殿にございますな?」
「お主は……」
景勝の目の前に黒装束に身を包んだ男達が現れる。
その男たちが門番を倒したのだ。
「……島左近様の手の者にございまする」
「島左近……彼の者は死んだと聞いたが……」
男達は続ける。
「は。我が主の最後の命にございまする。もし我等が負けたら上杉様をお救いせよと。必ずや再度好機は訪れる故、その時まで力を蓄え、その時が来れば力をお貸し下されと、申しておりました」
「殿……如何なさいますか?」
兼続の問いに、景勝は考える。
「……」
「それと、ご家中の者が数名、ここから逃げるのを手伝ってくださる手筈にございまする」
「家中の者……それは?」
黒装束は答える。
「前田慶次郎利益様が率いる手の者にございまする」
「そうか……あやつが……」
景勝は頷くと立ち上がった。
「分かった。お主等についていこうではないか」
「殿、某もお供致しますぞ」
兼続がそう言うと、黒装束の男達は牢を開放していく。
「まずは西へ。順調にいけばもうすぐ事が起こるはずにございまする。後の事は外にいる前田様にお聞きくだされ」
「お主らは?」
「我等は我等でまだまだやる事がございまする。申し訳ありませぬが、ここから先は前田様らに託しまする」
黒装束がそう言うと、景勝は頷く。
「うむ、ここから出してくれた事、礼をいう」
黒装束は頷き、その場を後にする。
そして、景勝達が見えなくなったのを確認して口を開く。
「よし、上手く行った。後は如水様にご報告するだけだ」
「あぁ、俺は信包様と真田殿にご報告してくる。しかし、三郎様は何を考えて上杉を逃がすのか……」
すると、もう一人が口を押さえる。
「あまり大きな声で言うな! 何処で誰が聞いてるか分からん。あくまで我々は島左近の手の者として動いているのだ。あの者達に決して感づかれてはならんのだ」
「あ、あぁ……そうだな。すまん」
三郎の策は秀信に伝えられていないだけでまだまだ張り巡らされていた。
京。
本能寺跡。
秀信達が征夷大将軍に就任し、出陣した後、そこを訪れる男達がいた。
「……また燃えたか。いや、またと言っても今となっては知らんのだが」
「……」
二人の男は本能寺を見つつ立ち尽くしていた。
「ほう。きいていた策とは違うが……それもまた面白い」
すると、そこを訪れる者がもう一人。
織田信包である。
「……そちらも、策とは違う事をしたようで」
「……少しな。だが、必要な事だっただろう?」
男は溜息をつく。
「まぁ良いか……それよりも大阪へ向かわなくてもよろしいのですか? 戦が始まりますぞ」
「ん? まぁな。我等が行ってもややこしくなる。立場は相当微妙なので、全てが終わってから顔を出すつもりだ」
そこで信包は思い出したかのように口を開く。
「ところで、お前は顔を出さんのか?」
「……あぁ。もう出すつもりはありませぬ」
「このお方は既に死んだお方。もう表舞台に立つことはありませぬ」
「そうか……」
すると、信包は振り返り、歩き出す。
「……たまには顔を出してやれよ。あやつも喜ぶ」
そのまま、信包は去って行った。
「……気が向いたらな」
「さて、どうしますか?」
男はしばらく考えた後、口を開く。
「大阪へ行こう。事の顛末を見届ける義務が俺にはあるからな。それに、やることもある。まだ策は残ってるからな」
「は!」
策は張り巡らされている。
それを秀信が知ることはまだまだ先の事である。
越後にて。
「ぐっ!」
突如として牢の門番が倒される。
「な……何事だ……」
牢の中にはかつて織田秀信と争い、敗れた上杉家の当主、上杉景勝が囚われていた。
その隣の牢にはその重臣である直江兼続の姿もあった。
両名は戦に敗れると大人しく捕まり、処遇の沙汰を待っていたのである。
「上杉景勝殿にございますな?」
「お主は……」
景勝の目の前に黒装束に身を包んだ男達が現れる。
その男たちが門番を倒したのだ。
「……島左近様の手の者にございまする」
「島左近……彼の者は死んだと聞いたが……」
男達は続ける。
「は。我が主の最後の命にございまする。もし我等が負けたら上杉様をお救いせよと。必ずや再度好機は訪れる故、その時まで力を蓄え、その時が来れば力をお貸し下されと、申しておりました」
「殿……如何なさいますか?」
兼続の問いに、景勝は考える。
「……」
「それと、ご家中の者が数名、ここから逃げるのを手伝ってくださる手筈にございまする」
「家中の者……それは?」
黒装束は答える。
「前田慶次郎利益様が率いる手の者にございまする」
「そうか……あやつが……」
景勝は頷くと立ち上がった。
「分かった。お主等についていこうではないか」
「殿、某もお供致しますぞ」
兼続がそう言うと、黒装束の男達は牢を開放していく。
「まずは西へ。順調にいけばもうすぐ事が起こるはずにございまする。後の事は外にいる前田様にお聞きくだされ」
「お主らは?」
「我等は我等でまだまだやる事がございまする。申し訳ありませぬが、ここから先は前田様らに託しまする」
黒装束がそう言うと、景勝は頷く。
「うむ、ここから出してくれた事、礼をいう」
黒装束は頷き、その場を後にする。
そして、景勝達が見えなくなったのを確認して口を開く。
「よし、上手く行った。後は如水様にご報告するだけだ」
「あぁ、俺は信包様と真田殿にご報告してくる。しかし、三郎様は何を考えて上杉を逃がすのか……」
すると、もう一人が口を押さえる。
「あまり大きな声で言うな! 何処で誰が聞いてるか分からん。あくまで我々は島左近の手の者として動いているのだ。あの者達に決して感づかれてはならんのだ」
「あ、あぁ……そうだな。すまん」
三郎の策は秀信に伝えられていないだけでまだまだ張り巡らされていた。
京。
本能寺跡。
秀信達が征夷大将軍に就任し、出陣した後、そこを訪れる男達がいた。
「……また燃えたか。いや、またと言っても今となっては知らんのだが」
「……」
二人の男は本能寺を見つつ立ち尽くしていた。
「ほう。きいていた策とは違うが……それもまた面白い」
すると、そこを訪れる者がもう一人。
織田信包である。
「……そちらも、策とは違う事をしたようで」
「……少しな。だが、必要な事だっただろう?」
男は溜息をつく。
「まぁ良いか……それよりも大阪へ向かわなくてもよろしいのですか? 戦が始まりますぞ」
「ん? まぁな。我等が行ってもややこしくなる。立場は相当微妙なので、全てが終わってから顔を出すつもりだ」
そこで信包は思い出したかのように口を開く。
「ところで、お前は顔を出さんのか?」
「……あぁ。もう出すつもりはありませぬ」
「このお方は既に死んだお方。もう表舞台に立つことはありませぬ」
「そうか……」
すると、信包は振り返り、歩き出す。
「……たまには顔を出してやれよ。あやつも喜ぶ」
そのまま、信包は去って行った。
「……気が向いたらな」
「さて、どうしますか?」
男はしばらく考えた後、口を開く。
「大阪へ行こう。事の顛末を見届ける義務が俺にはあるからな。それに、やることもある。まだ策は残ってるからな」
「は!」
策は張り巡らされている。
それを秀信が知ることはまだまだ先の事である。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる