上 下
117 / 182

伊達と織田

しおりを挟む
「突っ込め! 敵はまだ態勢を整えられておらぬ!」
 
 包囲しようとする豊臣方の僅かな隙をつき、伊達勢が抜け出す。
 豊臣方もそれを追おうとするが、伊達勢はそれを許さない。
 
「この伊達成実が相手だ! 殿の下へは行かせはせぬぞ!」
「我こそは津軽為信! 我が武勇、とくと味わえ!」
 
 津軽為信と伊達成実が殿軍として残り、豊臣方の追撃を防ぐ。
 多勢に無勢であるが、お陰で政宗の軍は三郎の軍勢と相対する事が出来た。
 
「織田三郎! ここで終わりだ!」
「伊達政宗……面白い。かかれ! ここで討ち取るのだ!」
 
 伊達勢と織田勢はぶつかる。
 兵力差は対等。
 勝敗は、互いの指揮能力の差に委ねられる。
 
「右翼! 進みすぎだ! 一旦下がれ! 僅かな隙から伊達政宗は食い込んでくるぞ!」
「左翼! 敵軍が引いたぞ! そのまま軍を進めろ!」
 
 互いに指揮を取り、戦う。
 戦況は五分であった。
 
「政宗様! 敵中央と右翼が離れ、間隙が出来ました! 攻めまするか!?」
「いや、それは罠だ。陣形を維持し、我軍の右翼を押し上げよ。そして中央を下げよ」
「は!」
 
 政宗と三郎は互角の指揮能力を見せる。
 が、少しずつ織田軍が包囲されつつあった。
 
「三郎! 包囲されつつあるぞ!」
「分かっている。中央を下げよ! 後詰を中央に当てるのだ!」
 
 秀則は少しずつあせり始める。
 が、三郎は落ち着いて対処する。
 
「……このまま出来る限り時間を稼ぐ」
「時間を?」
 
 三郎の言葉に秀則は反応する。
 
「伊達軍は長距離の遠征に加えて戦続き。疲弊は激しいだろう。それに、後方に殿軍として残っている部隊も少数。時をかけられぬとわかっている政宗は、必ずや急ぐ」
 
 すると、伊達勢の攻勢が強まる。
 
「伝令! 中央、押され始めました!」
「来たか……中央は抗戦しつつ後退! 左翼を押し上げ、中央との間に間隙を生じさせよ!」
「良いのか? 既に後詰めは無く、そこを突かれれば……」
 
 三郎は頷く。
 
「たとえ罠であると分かっていても、もう兵は限界。そこに敢えて飛び込み、俺の首を狙うしか勝機は無い」
 
 そして、政宗は案の定、その通りに動く。
 
「今だ! 後詰をあの間隙から突っ込ませよ! 敵は既に後詰めを使っておる! 本隊にさえたどり着けば我らの勝ちぞ!」
「そして……詰みだ。いくぞ!」
 
 三郎が動く。
 後詰めが出たその瞬間、後詰めの眼の前に三郎の本隊が現れる。
 
「何!?」
「俺の本隊が最後の後詰だ。先に投入した中央の後詰めは既に本隊に合流している。これで、我軍の陣形は鶴翼の形。伊達政宗よ。お前の軍は包囲したぞ」
「……こうなっては後詰のみでは討ち取れぬか……」
 
 政宗は、不利を悟る。
 
「引け! 引き返すのだ! 一度態勢を……」
「もう遅い!」
 
 すると、政宗の軍の背後には豊臣方が待ち構えていた。
 島津豊久が、先頭に立ち、刀を政宗に向ける。
 殿軍が、壊滅したことを意味していた。
 
「伊達政宗よ! 覚悟せよ! ここがお主の死に場所ぞ!」
「……負けたか……」
 
 政宗の周りに兵達が集まり、構える。
 政宗の兵は、最後まで政宗と共に戦う決意を固めていた。
 が、政宗はそれを制止する。
 
「よい。降伏する」
「殿!」
「……この戦は負けだ。お主等の命を無駄にはしたくない。……三郎殿と話をさせてはくれぬか!」
 
 かくして、伊達政宗は捕らえられた。
 生き残った多くの将兵の命は、政宗の交渉にかかっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

リーインカーネーション

きりか
BL
繰り返し見る夢で、僕は、古い町並みに囲まれ住んでいた。ある日、独裁者の命令で、軍によるオメガ狩りにあい…

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

終焉の世界でゾンビを見ないままハーレムを作らされることになったわけで

@midorimame
SF
ゾンビだらけになった終末の世界のはずなのに、まったくゾンビにあったことがない男がいた。名前は遠藤近頼22歳。彼女いない歴も22年。まもなく世界が滅びようとしているのにもかかわらず童貞だった。遠藤近頼は大量に食料を買いだめしてマンションに立てこもっていた。ある日隣の住人の女子大生、長尾栞と生き残りのため業務用食品スーパーにいくことになる。必死の思いで大量の食品を入手するが床には血が!終焉の世界だというのにまったくゾンビに会わない男の意外な結末とは?彼と彼をとりまく女たちのホラーファンタジーラブコメ。アルファポリス版

【完結】幼馴染が妹と番えますように

SKYTRICK
BL
校内で人気の美形幼馴染年上アルファ×自分に自信のない無表情オメガ ※一言でも感想嬉しいです!! オメガ性の夕生は子供の頃から幼馴染の丈に恋をしている。丈はのんびりした性格だが心には芯があり、いつだって優しかった。 だが丈は誰もが認める美貌の持ち主で、アルファだ。いつだって皆の中心にいる。俯いてばかりの夕生とはまるで違う。丈に似ているのは妹の愛海だ。彼女は夕生と同じオメガ性だが明るい性格で、容姿も一際綺麗な女の子だ。 それでも夕生は長年丈に片想いをしていた。 しかしある日、夕生は知ってしまう。丈には『好きな子』がいて、それが妹の愛海であることを。 ☆竹田のSSをXのベッターに上げてます ☆こちらは同人誌にします。詳細はXにて。

フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓
ファンタジー
主人公、間宮陸人(42歳)は、世界に絶望していた。 そこそこ順風満帆な人生を送っていたが、あるミスが原因で仕事に追い込まれ、そのミスが連鎖反応を引き起こし、最終的にはビルの屋上に立つことになった。 そして一歩を踏み出して身を投げる。 しかし、陸人に訪れたのは死ではなかった。 眩しい光が目の前に現れ、周囲には白い神殿のような建物があり、他にも多くの人々が突如としてその場に現れる。 しばらくすると、神を名乗る人物が現れ、彼に言い渡したのは、異世界への転移。 陸人はこれから始まる異世界ライフに不安を抱えつつも、ある意味での人生の再スタートと捉え、新たな一歩を踏み出す決意を固めた……はずだった…… この物語は、間宮陸人が幸か不幸か、異世界での新たな人生を満喫する物語である……はずです。

指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。  朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。  しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。  向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。  終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。

[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます

はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。 果たして恋人とはどうなるのか? 主人公 佐藤雪…高校2年生  攻め1 西山慎二…高校2年生 攻め2 七瀬亮…高校2年生 攻め3 西山健斗…中学2年生 初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!

さみだれの初恋が晴れるまで

める太
BL
出会う前に戻りたい。出会わなければ、こんな苦しさも切なさも味わうことはなかった。恋なんて、知らずにいられたのに。 幼馴染を庇護する美貌のアルファ×ベータ体質の健気なオメガ 浅葱伊織はオメガだが、生まれつきフェロモンが弱い体質である。そのお陰で、伊織は限りなくベータに近い生活を送ることができている。しかし、高校二年生の春、早月環という美貌の同級生と出会う。環は伊織がオメガであると初めて"嗅ぎ分けた"アルファであった。 伊織はいつしか環に恋心を寄せるようになるが、環には可憐なオメガの幼馴染がいた。幾度も傷付きながらも、伊織は想いを諦めきることができないまま、長雨のような恋をしている。 互いに惹かれ合いつつもすれ違う二人が、結ばれるまでのお話。 4/20 後日談として「さみだれの初恋が晴れるまで-AFTER-」を投稿しました ※一言でも感想等頂ければ嬉しいです、励みになります ※タイトル表記にて、R-15表現は「*」R-18表現は「※」 ※オメガバースには独自解釈による設定あり ※高校生編、大学生編、社会人編の三部構成になります ※表紙はオンライン画像出力サービス「同人誌表紙メーカー」https://dojin-support.net/ で作成しております ※別サイトでも連載中の作品になります

処理中です...