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北の前哨戦 滑川、魚津の戦い 軍議
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北陸の前哨戦が始まろうとしていた。
両軍は現在の富山県、滑川、魚津の辺りで対峙した。
上杉軍が迫る魚津は片方を海、片方を山に囲まれた隘路であり、大軍を展開出来ずに居た。
対する織田勢の布陣する滑川は隘路が終わり、平野になり始める箇所で上杉勢にとっては大変不利となる地形であった。
そんな地に布陣する織田の陣では味方内で少々揉めていた。
「何故攻めている我々が待ち構えているのです! 数も我々の方が多い! 今こそ攻めかかるべきでしょう!」
「丹羽殿の申される通り!」
丹羽長重と金森長近である。
「先鋒は我らと申された筈。何故攻めぬのですか!」
「……織田殿。多少とはいえ、敵は我が所領に足を踏み入れたのです。前田としても、見過ごせませぬ」
秀信は頷く。
「分かっておりまする」
秀信は地図上の駒を動かしていく。
「私は、長篠、設楽原の戦いを起こしたいと思っておりまする」
「長篠を?」
生駒一正が口を開く。
「はい。金森様、丹羽様には松倉城辺りから山中を抜けて敵の背後に立ち、夜の内に敵を攻めて欲しいのです」
「そして敵は背後と前に敵を抱えることになる……か」
秀信の策に利長が反応する。
「成る程……長篠の時と同じ策だな」
金森長近が口を開く。
「儂はあの時、同じように背後に回ったからな……うむ、やってみせよう」
秀信は頷く。
「長篠の時とは違い、大量の鉄砲があるわけではありませぬが、地形的にも兵の数的にもこの策ならば充分に戦えるでしょう」
「この策ならば、正面からぶつかるよりも兵が死なずに済むな。儂も良いと思う」
利長がそう言うと、皆が頷く。
「では、布陣について話し合いましょうか」
「景勝様。このまま進めば我々が負けるでしょう。如何致しまするか?」
上杉景勝の側近、直江兼続が聞く。
「兼続、お主はどう来ると思う?」
「……そうですな。普通に考えれば、兵の数では我等が圧倒的に負けておりまするが……」
直江兼続は地図を見つめる。
「相手が攻めかけて来ないところを見ると、我々が攻めかかるのを待っているのでしょう……と言うことは」
直江兼続は秀信達が夜襲を計画した地を指した。
「敵は山中を抜けてこの辺りに布陣し、我等の後背を脅かし、我等が攻めるのを誘発、もしくは撤退させようとするのでしょうな」
「……ならば、どうする?」
景勝は落ち着き、返す。
「敢えて敵の夜襲を受けまする」
「……で、どうするのだ?」
「山中を密かに移動するということは数は少ない。それを返り討ちにし、逆に山中を抜けて敵陣の横腹をつきまする」
景勝は頷く。
「そこで敵が数の有利に任せて正面から攻めてきた所を別働隊と我等の本軍で攻めると?」
その景勝の言葉に兼続も頷く。
「左様にございます。敵が兵を下げる可能性もありますが……それならそれで良いでしょう。もし攻めてくるならば、隘路と別働隊の挟撃であの織田軍とて容易に攻め崩せましょう」
「まるで啄木鳥戦法だな……」
景勝は立ち上がる。
「織田め……かつての手取川の戦いのように、織田家を恐怖に陥れて見せるか」
織田と上杉の戦が、始まろうとしていた。
両軍は現在の富山県、滑川、魚津の辺りで対峙した。
上杉軍が迫る魚津は片方を海、片方を山に囲まれた隘路であり、大軍を展開出来ずに居た。
対する織田勢の布陣する滑川は隘路が終わり、平野になり始める箇所で上杉勢にとっては大変不利となる地形であった。
そんな地に布陣する織田の陣では味方内で少々揉めていた。
「何故攻めている我々が待ち構えているのです! 数も我々の方が多い! 今こそ攻めかかるべきでしょう!」
「丹羽殿の申される通り!」
丹羽長重と金森長近である。
「先鋒は我らと申された筈。何故攻めぬのですか!」
「……織田殿。多少とはいえ、敵は我が所領に足を踏み入れたのです。前田としても、見過ごせませぬ」
秀信は頷く。
「分かっておりまする」
秀信は地図上の駒を動かしていく。
「私は、長篠、設楽原の戦いを起こしたいと思っておりまする」
「長篠を?」
生駒一正が口を開く。
「はい。金森様、丹羽様には松倉城辺りから山中を抜けて敵の背後に立ち、夜の内に敵を攻めて欲しいのです」
「そして敵は背後と前に敵を抱えることになる……か」
秀信の策に利長が反応する。
「成る程……長篠の時と同じ策だな」
金森長近が口を開く。
「儂はあの時、同じように背後に回ったからな……うむ、やってみせよう」
秀信は頷く。
「長篠の時とは違い、大量の鉄砲があるわけではありませぬが、地形的にも兵の数的にもこの策ならば充分に戦えるでしょう」
「この策ならば、正面からぶつかるよりも兵が死なずに済むな。儂も良いと思う」
利長がそう言うと、皆が頷く。
「では、布陣について話し合いましょうか」
「景勝様。このまま進めば我々が負けるでしょう。如何致しまするか?」
上杉景勝の側近、直江兼続が聞く。
「兼続、お主はどう来ると思う?」
「……そうですな。普通に考えれば、兵の数では我等が圧倒的に負けておりまするが……」
直江兼続は地図を見つめる。
「相手が攻めかけて来ないところを見ると、我々が攻めかかるのを待っているのでしょう……と言うことは」
直江兼続は秀信達が夜襲を計画した地を指した。
「敵は山中を抜けてこの辺りに布陣し、我等の後背を脅かし、我等が攻めるのを誘発、もしくは撤退させようとするのでしょうな」
「……ならば、どうする?」
景勝は落ち着き、返す。
「敢えて敵の夜襲を受けまする」
「……で、どうするのだ?」
「山中を密かに移動するということは数は少ない。それを返り討ちにし、逆に山中を抜けて敵陣の横腹をつきまする」
景勝は頷く。
「そこで敵が数の有利に任せて正面から攻めてきた所を別働隊と我等の本軍で攻めると?」
その景勝の言葉に兼続も頷く。
「左様にございます。敵が兵を下げる可能性もありますが……それならそれで良いでしょう。もし攻めてくるならば、隘路と別働隊の挟撃であの織田軍とて容易に攻め崩せましょう」
「まるで啄木鳥戦法だな……」
景勝は立ち上がる。
「織田め……かつての手取川の戦いのように、織田家を恐怖に陥れて見せるか」
織田と上杉の戦が、始まろうとしていた。
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