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秀忠、江戸へ

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 徳川秀忠。
 本来であれば江戸幕府の二代目将軍となる筈の男は、上杉景勝の予測通り海路から江戸へ逃げていた。
 しかし、命からがら江戸へ逃げついた秀忠を待っていたものは、冷たい反応であった。
 
「……何故だ……。何だこれは!?」
「……秀忠様。落ち着かれなさいませ。」
 
 江戸は伊達が上杉と和議を結んだ事を受け、上杉や伊達が江戸に攻めかかると皆が怯えていた。
 中山道からは真田や織田が。
 東海道からは鬼の島津と西国無双、立花宗茂が近づいて来ていた。
 そんな江戸の民は皆が戦に怯えていた。
 そして、関ヶ原から逃げ帰ってきた秀忠にも冷たい視線が送られる。
 
「……家康様じゃなくて秀忠様がお討ち死にすれば良かったのに……。」
「あのお方にここを任せられるもんですか。戦下手なのに……。」
「やはり、今まで江戸を守って下さった秀康様こそが……。」
  
 江戸の民が語るその言葉は秀忠に重くのしかかった。
 
「……確かに、全てにおいて兄上が勝っているだろう。私では役不足やもしれん。だが……。……正信!城へ行くぞ!」
「い、如何するおつもりで?」
 
 秀忠は江戸城を見る。
 
「江戸を守る為、兄上と話し合う!」
 
 
 
「これは秀忠殿。良くぞご無事で。」
「兄上。こちらは大丈夫でしたか?」
 
 結城秀康。
 一時は秀吉の養子に出され、その後の結城家の養子に出された家康の次男である。
 
「上杉がこちらの体制が整わぬ内にと余勢を駆って攻め寄せて来たが、返り討ちにした。佐竹や伊達は今の所こちらに攻めてくる気配は無い。」
「ですが、東海道や中山道は抑えられ、西軍が向かってきております。如何するおつもりで?」
「その事だが、心配は無さそうだ。」

 すると秀康が秀忠の後ろへと目をやる。
 すると、ある人物が入ってきた。
 
「石田三成が家臣、島左近にございます。」
「三成だと!?」
 
 秀忠は慌てて刀に手をかける。
 
「秀忠様、落ち着きなされ。」
「正信……。」 
 
 正信の言葉に秀忠は姿勢を正し、座る。
 正信が秀忠の代わりに口を開く。
 
「左近殿。何故、貴殿がこちらに?」
「は。この島左近、徳川にお味方しようと思いまして。」
 
 秀忠はあからさまに疑問を浮かべる。
 
「……何故じゃ。」
「我が主、石田三成は小早川、織田に討ち取られ申した。我が主は天下への野心など微塵もござらぬ!そこで、仇を討つため、徳川家にお伺い致した。」
「……しかし、徳川家は今、父上を失って家督を誰が継ぐかも決まっておらぬ。我が兄、秀康が今は人気者だと聞くしな。」
 
 そう言いながら、秀忠は秀康を見る。
 が、秀康は見向きもしなかった。
 
「されど、今はそのような事で争っている場合ではござらぬ!力を合わせ、真の逆賊、織田、小早川を討ち取るのです!」
「されど、どうするつもりだ?我々についた東海道、中山道の諸将は順に制圧されて来ている。多くの者がこの江戸に逃げ寄せてきているのだぞ。」
 
 中山道からは織田、真田、毛利らの軍が。
 東海道からは島津、立花の軍が敵対する勢力を制圧しながら江戸へ迫りつつあった。
 道中の東軍は抵抗せず殆どが逃げ、江戸に集まって来ていた。
 
「盟約を、結ぶのです。」
「盟約?」
「はい。今、西では黒田如水が暴れており、豊臣方も江戸に本格的に攻めかかることは出来ませぬ。その間に上杉、伊達を調略し味方につけ、再度関ヶ原を起こすのです!和議等結んではなりませぬ!生きながらえても徳川に不利になる約定ばかり交わして徐々に力を削ぐに決まっております!」
 
 島左近が熱弁する。
 その言葉にその場にいた全員が静かに耳を傾けた。
 
「上杉、伊達や奥州の諸将、それに北陸の前田殿も味方につけられれば確実に勝てまする。小早川と宇喜多は不仲に陥り、智将、大谷刑部様ももういない。近い内に必ずや瓦解致しまする。そして、弱った所を狙うのです。」
「……。」
 
 秀康と秀忠は考えた。
 
「……秀忠殿。家督については後回しだ。上杉、伊達と盟約を結ぼう。」
「……私も、兄上と同じ気持ちでございます。」
「では、某はこれにて。」
 
 島左近は立ち上がるとその場を後にしようとした。
 それを見た正信が口を開く。
 
「左近殿。どちらへ行かれるのですかな?」
「……上田にいる大谷刑部殿の娘婿である信繁殿は応じませんでした。某ももっと多くの味方を作るべく、東北へ参ります。南部あたりにでも話をつけようかと。」
 
 その言葉を聞き、秀忠は頷く。
 
「……上杉、伊達との盟約は必ずや果たしまする。ご安心なされよ。」
「……では。」
 
 島左近はその場を去る。
 
「……面白くなってきたな。秀忠殿。」
「次の戦は関ヶ原の時とは違い、上杉の抑えが要らなくなる。全軍で持って戦えますな。」
 
 徳川秀忠が無事に江戸へ戻った。
 秀康も家督争いについては何もしないと言い、一件落着したかに思えた。
 しかし、秀忠の帰参が徳川家を狂わして行く事となる。
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