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 隊長、お疲れ様です。
 あの後、世界は少し平和になりました。
 
『どうぞ。』
 
 隊長の作戦は見事成功。
 人工衛星は推定通りに落下し予めの想定通りの被害で済みました。
 落下地点周辺は避難していたことにより住民の被害はありませんでした。
 
『本日はどういったご要件で?』
 
 最後の隊長の命令、しっかりと果たしています。
 全ての民間軍事会社の連合体の運営。
 最初は大変な事だらけでしたが今では何とかなっています。
 あの作戦、残存していた中国軍や、足止めしてくれていた民間軍事会社の者達も協力してくれたお陰で見事人工衛星は無事に落下。
 被害は最小で済みました。
 奇跡的に核シェルターに避難していた陸軍参謀総長も救出されました。
 陸軍参謀総長の発表で核シェルター内部でのやり取りが公表され、隊長が多くの人を救うために頑張っていた事が分かりました。
 隊長は行方不明と発表されましたけど……。
 深くは考えないでおきます。
 
『……お、俺……もう限界で……。』
『……周りの人から冷たい目で見られたりするんですよね?』
 
 隊長の命令でこの仕事を始めてから多くの元傭兵が訪れました。
 一連の事件で民間軍事会社を退職する者が続出。
 しかし、彼等の生活は厳しい物となったようです。
 更に、国連の常任理事国は先の戦いで激しく損耗し、国連軍がほぼ機能しない事態になりました。
 それに伴い、外部に治安維持を目的とした軍事力を用意する事に。
 つまり、治安維持を俺達民間軍事会社に委託しました。
 ただ、民間軍事会社も損害は大きく一社では賄うことが難しく、更に大規模なテロを起こしたこともあり国際世論はあまり良くありませんでした。
 それでも紛争、戦争の激化を恐れた国際世論は厳しい条件を突き付けて我々を雇いました。
 保有する軍事力は最低限。
 人員も一人一人厳重に管理されています。
 そして、管理運営を簡略化する為に全ての民間軍事会社を統合。
 これには民間軍事会社のテロ防止も含めてのことだと思われます。
 隊長はこうなることがわかっていたんでしょう。
 全て、隊長の最後の指示通りになりました。
 民間軍事会社を退職した者には自殺をする人や犯罪を起こそうとする者、自暴自棄になる者がいました。
 それらの人々を助けるための組織でもあります。
 因みにですが、甚大な被害を受けたアメリカにあの戦争で敵対していた国家も復興支援を行いました。
 ロシアはほぼ全ての国から経済制裁を受け国内でもデモ等が頻発。
 ロシアは実質崩壊しました。
 国家としての体裁は保ってはいるものの国家としてはほぼ機能していません。
 そして、世界は国連が秩序を維持するのは不可能と判断し、我々を使いました。
 これなら平和な世でも民間軍事会社によるテロは起こりません。
 流石です。
 
『大丈夫です。そういう人達が集まる地区があります。あなたの人種や宗教、元所属していた部隊等を考慮して候補を提出します。仕事も用意致しますのでご安心を。こちらに情報をご記入願えますか?』
『あ、ありがとうございます。』
 
 あの作戦に参加しなかった傭兵や奇跡的に生き残った傭兵は迫害、差別の対象となりました。
 元傭兵の者にまた傭兵をさせるというのは酷な判断だと思い、勝手に元傭兵が集住する地区も用意致しました。
 今では我々に土地も与えられ、まるで一つの国家のようにもなっております。
 
『……あ、あの。』
『どうされました?』
 
 元傭兵の皆は普段、紛争がない場合はアメリカの被害を受けた都市の復興に尽力しています。
 地元住民からは歓迎はされていませんが、生き場を失った彼等にはそんな事は些細な事のようです。
 勿論紛争が起こればそこに派遣し、治安維持にも務めます。
 国連軍が行っていた事を我々が丸々代理しているのです。
 それに、国家に拠らず、余計な思想も入らない分自由に動けます。
 
『あなたはあの砂漠のサソリのメンバーだったと聞いたことがあるんですが……。本当ですか?』
 
 そう言えば、アイの行方は不明と発表されました。
 恐らく隊長が処分したんでしょう。
 不明ということは取り敢えず使われる心配は無いということだと認識します。
 そちらは気にしないでおきます。
 
『はい。そうですよ。私以外は皆、死にましたが。』
『……そうでしたか……。実は俺、一度面接に行った事があるんです!』
 
 隊長の生死も不明。
 一体どうなったのか分かりませんが、毎年あの事件が解決した日にはこの手紙を書くことにしています。
 それと、少し面白い人とも出会えたのでその時のテープも同封しておきます。
 
『そうでしたか……。じゃあ隊長と会ったんですか?』
『はい。その時だけでしたが、立派な人だと感じました。面接の結果を待っている間に解散してしまい、俺は別の所へ行きましたが。』
 
 この手紙がいつかカイル隊長に届く事を願って。
 マイク。
 
『……多分隊長はあなたの事は採用するつもりだったと思いますよ。何となくそんな気がします。』
『……ありがとうございます。』
 
 
 
「あいつも頑張ってるな。」
 
 タバコに火を付ける。
 眼の前は更地だ。
 ただ、墓がある。
 棒が立っているだけの簡素な墓が幾つも立っている。
 俺は再生していた音声を止めた。
 
「……さて。」
 
 俺はその中でも目立つ二つの墓の間を掘り起こした。
 そこには箱が一つ。
 
「……ふう。」
 
 箱の中にはUSBが一つ入っている。
 俺は中身を確認した後それを箱に戻し、また埋め戻した。
 
「すまんな、スミス。柏木。こんな簡素な墓で。死体も何も無いが俺がしてやれるのはこれくらいだ。」
 
 タバコを捨て、足で踏み火を消す。
 その場で屈み、手を合わせる。
 
「俺が調べた限りお前らの死体は纏めて処分されたらしい。せめて、これ位はしてやりたくてな。」
 
 俺は立ち上がった。
 
「さて、また来年来る。俺は一人気ままに旅をしているさ。大丈夫。死ぬときはお前らが死んだここに帰ってくる。お前らをここに置いてきはしないさ。」
 
 荷物を持ち、その場を後にする。
 
「俺はお前らの隊長、カイルだからな。」
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