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3章: 幽子先輩と、僕の話

3-7 ようやく・・・

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「先輩・・・もう・・・夜です・・・」



「・・・・・・うん」



外の景色はすっかり暗くなっていた。時刻を表示するしか使い道のないスマートフォンの画面を確認する。現在、時刻は午後10時ごろらしい。昼頃にここに入ってきたから、閉じ込められてからかれこれ10時間はここを歩き続けているということだ。

持ってきた金属バットを杖代わりにしながら歩く僕に彼女は言う。



「・・・いいなそれ・・・私に・・・貸してくれ・・・」



「・・・・・・いやです・・・」



「・・・・・・ケチ」



もう2人とも、ろくに会話する体力も残っていない。相変わらず何の変化もない下の砂利道を眺めながら、息も絶え絶え僕達は歩いていた。

もう、流石に限界だ。これ以上体力を削るのは色々と怖い。一日中歩くわけにもいかない。気は進まないが、もう歩くのは一旦やめにして、明日の自分達に希望を託すしかない。それに、さらに深夜になれば、もしかしたらこのトンネルを訪れる輩が来るかもしれない。そうすれば、外界との繋がりが復活する可能性もある。



ーーーーーそう、彼女に提案しようとした時だった。



「出口が・・・」



その言葉につられ、僕は咄嗟に顔を上げた。



「ーーー出口が・・・近づいてる。」



唐突だった。何の前兆もなく、希望は突然僕達の前に降りてきた。あれほど歩いてもずっと同じサイズを保ち続けていた出口が、僅かに大きくなっている。つまり、近づいている。

お互い合図するでもなく、僕達は出口、もとい入り口に向かって夢中で走り出した。

長時間歩き続けた足は、思うようについてこない。それでも、あれだけ届かなかった外の景色が途轍もないスピードで僕に近づいてきているような気がした。

足を一歩進める度に、呼吸が荒くなる度に、心臓が鼓動する度に、外は確かな足取りで近づいて来る。


もう少し、あと少しで外に出られる。
高揚感と胸の高まりに呼吸は荒くなる。



ーーーそして、



僕達は外に出た。のしかかっていた灰色の天井から一転、頭上には感動を覚える程に美しく広い夜空が広がっていた。ろくに星も見えない空だが、ただそこに朧げな月が浮かぶだけでとんでもなく美しいと思えた。



心地よい外の風が頬を撫でる。息を吸い込む度に夜と草の香りが肺を満たし、眩暈すら覚える。



漸く、外に辿り着いた。時間にして10時間程度。しかし永遠とも思えるほどの苦痛と不安がそこにはあった。あのまま薄暗い、気味の悪いトンネルの中で骨になっていくことへの恐怖から、漸く解放されたのだ。

生きている。ただそれだけの事がこうも嬉しく感じる日が来るとは。死者の記憶を見終わった時以上の、生に対する実感と喜びがある。呼吸を繰り返すたびに、幸福感が体に染み込んでくる。とはいえ、もうこれを繰り返すのは2度と御免だが。



やっと出れましたね!



今回も中々に危機的な状況だったが、何とか生き延びる事ができた。無理やり僕を連れて来た彼女に対する憤りよりも、今は生き残ったことに対する感動の方が大きい。そんな感動を隣に立つ幽子先輩と共有しようとして、僕は彼女の方向へ笑顔で振り返った。



ーーーそこに居たのは幽子先輩、とそれを羽交締めにする見知らぬ男。幽子先輩は苦痛に顔を歪めている。暗闇でよく見えないが、右太腿の辺りから、大量の血が流れ出している。



「おめでとう。でも、残念。」



見知らぬ男は、そう言って笑った。
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