58 / 66
カネール
58
しおりを挟む
宿屋の一室で、私達はただ沈黙を貫いていた。重苦しい空気の圧。それに抑えつけられたかのように、頭が持ち上がらない。一体どれ程の時間、床と睨み合いをしているのか、感覚が鈍くなってきた所、おもむろにディランが口を開いた。
「あ、のさ…。さっきの人って…本当にメノウお姉ちゃんの弟なの…?」
「…うん。」
再び落ちる沈黙。リュセの言葉が、今も尚鼓膜を震わせているのかと錯覚してしまいそうだ。
『それを聞いて、もう何もかも嫌になった。あぁ、俺に流れる血は…人間は、こんなに醜いんだって。』
確かにあの子はそう言った。今まで何も知らず生きてきた私に、あのセリフの真意が分かるはずもない。つくづく自分が嫌になる。
『落ち込んでる暇はないよ。メノウも気付いたでしょ、リュセの不自然な点について。』
「不自然、ですか?」
ディルの発言に、セインが疑問符を浮かべる。でも、確かにそれは私も思っていた事だ。
「リュセは、私と真逆なの。あの子は本来、攻撃魔法以外は扱えない。」
「え!?で、でも…さっきは上級の補助魔法を…!」
その光景を思い出したのか、悔しそうに唇を噛みしめるディラン。リュセに押されていたのがプライドを傷つけたのだろうか?心理はわからないが、「傷がついちゃうよ」とやんわりたしなめる。
「確かにさっき、補助魔法を使っていた。それに、転移魔法まで…。何故それが扱えるようになったのか。まぁ、十中八九、悪魔が関わっているとは思うんだけど…。」
『…間違いないだろうね。』
「兄さん…もしかして彼の後ろにいるのって…。」
何かに気づいたのか、ディランがディルに対して問いかける。しかし私の中にいる彼は口を開こうとしない。しかし、何となく彼から憎々しいような、悲しいような複雑な感情が流れ込んできている気がする。
「ディラン君…何か気づいたの…?」
「まだ確信はないんだけど…それにあの能力は、他にも使える奴がいるだろうし…。」
「能力…?一体どんな…。」
『とにかく、今日のところはもう休もう。色々あったし、少し休んでからまた考えればいい。』
「う、うん…。」
何だろう、おかしいという程ではないが、ディルの様子がいつもと少し違う気がする…。しかし、あまりにも些細な、言ってしまえばその日の気分というレベルの差。結果的に問いただすことはせず、私は素直に頷いた。
「あ、のさ…。さっきの人って…本当にメノウお姉ちゃんの弟なの…?」
「…うん。」
再び落ちる沈黙。リュセの言葉が、今も尚鼓膜を震わせているのかと錯覚してしまいそうだ。
『それを聞いて、もう何もかも嫌になった。あぁ、俺に流れる血は…人間は、こんなに醜いんだって。』
確かにあの子はそう言った。今まで何も知らず生きてきた私に、あのセリフの真意が分かるはずもない。つくづく自分が嫌になる。
『落ち込んでる暇はないよ。メノウも気付いたでしょ、リュセの不自然な点について。』
「不自然、ですか?」
ディルの発言に、セインが疑問符を浮かべる。でも、確かにそれは私も思っていた事だ。
「リュセは、私と真逆なの。あの子は本来、攻撃魔法以外は扱えない。」
「え!?で、でも…さっきは上級の補助魔法を…!」
その光景を思い出したのか、悔しそうに唇を噛みしめるディラン。リュセに押されていたのがプライドを傷つけたのだろうか?心理はわからないが、「傷がついちゃうよ」とやんわりたしなめる。
「確かにさっき、補助魔法を使っていた。それに、転移魔法まで…。何故それが扱えるようになったのか。まぁ、十中八九、悪魔が関わっているとは思うんだけど…。」
『…間違いないだろうね。』
「兄さん…もしかして彼の後ろにいるのって…。」
何かに気づいたのか、ディランがディルに対して問いかける。しかし私の中にいる彼は口を開こうとしない。しかし、何となく彼から憎々しいような、悲しいような複雑な感情が流れ込んできている気がする。
「ディラン君…何か気づいたの…?」
「まだ確信はないんだけど…それにあの能力は、他にも使える奴がいるだろうし…。」
「能力…?一体どんな…。」
『とにかく、今日のところはもう休もう。色々あったし、少し休んでからまた考えればいい。』
「う、うん…。」
何だろう、おかしいという程ではないが、ディルの様子がいつもと少し違う気がする…。しかし、あまりにも些細な、言ってしまえばその日の気分というレベルの差。結果的に問いただすことはせず、私は素直に頷いた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。
太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。
鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ
春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。
一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。
華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。
※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。
春人の天賦の才
料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活
春人の初期スキル
【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】
ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど
【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得 】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】
≪ 生成・製造スキル ≫
【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】
≪ 召喚スキル ≫
【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる