悪魔の誓い

遠月 詩葉

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カネール

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宿屋の一室で、私達はただ沈黙を貫いていた。重苦しい空気の圧。それに抑えつけられたかのように、頭が持ち上がらない。一体どれ程の時間、床と睨み合いをしているのか、感覚が鈍くなってきた所、おもむろにディランが口を開いた。

「あ、のさ…。さっきの人って…本当にメノウお姉ちゃんの弟なの…?」
「…うん。」

再び落ちる沈黙。リュセの言葉が、今も尚鼓膜を震わせているのかと錯覚してしまいそうだ。
『それを聞いて、もう何もかも嫌になった。あぁ、俺に流れる血は…人間は、こんなに醜いんだって。』
確かにあの子はそう言った。今まで何も知らず生きてきた私に、あのセリフの真意が分かるはずもない。つくづく自分が嫌になる。

『落ち込んでる暇はないよ。メノウも気付いたでしょ、リュセの不自然な点について。』
「不自然、ですか?」

ディルの発言に、セインが疑問符を浮かべる。でも、確かにそれは私も思っていた事だ。

「リュセは、私と真逆なの。あの子は本来、攻撃魔法以外は扱えない。」
「え!?で、でも…さっきは上級の補助魔法を…!」

その光景を思い出したのか、悔しそうに唇を噛みしめるディラン。リュセに押されていたのがプライドを傷つけたのだろうか?心理はわからないが、「傷がついちゃうよ」とやんわりたしなめる。

「確かにさっき、補助魔法を使っていた。それに、転移魔法まで…。何故それが扱えるようになったのか。まぁ、十中八九、悪魔が関わっているとは思うんだけど…。」
『…間違いないだろうね。』
「兄さん…もしかして彼の後ろにいるのって…。」

何かに気づいたのか、ディランがディルに対して問いかける。しかし私の中にいる彼は口を開こうとしない。しかし、何となく彼から憎々しいような、悲しいような複雑な感情が流れ込んできている気がする。

「ディラン君…何か気づいたの…?」
「まだ確信はないんだけど…それにあの能力は、他にも使える奴がいるだろうし…。」
「能力…?一体どんな…。」
『とにかく、今日のところはもう休もう。色々あったし、少し休んでからまた考えればいい。』
「う、うん…。」

何だろう、おかしいという程ではないが、ディルの様子がいつもと少し違う気がする…。しかし、あまりにも些細な、言ってしまえばその日の気分というレベルの差。結果的に問いただすことはせず、私は素直に頷いた。

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