悪魔の誓い

遠月 詩葉

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カネール

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いざ立ち入った地下水路は、ジメジメとしていて足元すらろくに見えない。しかし、ここで光を出してしまえば、敵が居た場合すぐにバレてしまう。
しかも、足音が壁に反射して反響してしまっている。それぞれの対応策はあるが、その二つが見事にぶつかって逆に行動が阻害される可能性もあった。どうするべきか…。

「うーん…ねぇディラン君。サーチを使って目的地まで案内してくれる…?私は音を遮断するノーンエコーを使おうと思うんだけど、その間お互いの声も聞こえなくなっちゃうし…。だから、光がなくても正確に周りを把握出来て、先頭を歩ける人が欲しいんだけど…。」
「え?…あぁ、確かに。じゃあ、お姉ちゃんは僕の後ろを歩いてくれる?人がいたら振り返って肩を二回叩くから、そうしたらまた粉をかけて欲しいんだ。」
「そうだね、そうしようか。」

そうと決まれば即行動が吉だ。ディラン君、私、そしてセインの順で縦に並び、それぞれ魔法を唱える。後ろは銃を構えた彼が警戒してくれているし、はぐれない様にそれぞれの服の端を片手で掴んでいる。
前を歩く、自分より身長の低い背には不釣り合いな細い槍が視界の隅に映る。どうやらこれがこの子の武器らしい。何処にこんな武器を隠していたのかと先程聞いたら、亜空間に収納していたという何とも驚愕してしまう言葉が出てきた。

(そういえば、ディルも使えるって言ってたな…。)

亜空間生成という特殊能力は、魔法とはまた違う特異な存在だ。種族に関わらず稀に発現する存在が現れる。その名の通り、別次元を作る能力なのだが、昔ディルに聞いた時に使い道を教わったりもしたのだ。
まぁ、私はそんなもの使えないのだが、もしも使い手と相対した時に知識があるだけでも何かしら対策を取りやすいと、私が控えめに遠慮しても容赦なく知識を叩き込まれた覚えしかない。

(何だかんだ言って面倒見が良かったのは、もしかしたらディラン君が居たからなのかも。)

今なら分かるが、昔の私はとっても危なっかしかった。能天気というか、楽観的というか…。ディルを助けた事は後悔してないが、普通に考えて、いくら子供だとしても自分から悪魔に憑依されに行く人間はほぼ居ないだろう。その後も自称占い師に怪しいお札を売りつけられそうになったり、急斜面を転がり落ちそうになったり。

(思い返せば思い返すほど…私が今も無事に生きているのって、絶対ディルのお陰じゃない…?)

お札は呪いの魔法がかかってたのに気付いたディルがすぐに表に出てきて、きっぱり受け取り拒否したし、落ちそうになった時も咄嗟にディルが見事な運動神経で何とか持ち直したのだ。その後に彼にこっぴどく叱られたのは苦い思い出。
うーん、なんか、こう…。

『…何か変なこと考えてない?』
(考えてないよ!ただディルってお母さんみたいだなぁって…。)
『は?』

何か凄く自分の内から禍々しい圧を感じる。やばい。よく分からないけど怒らせたらしい。

(ご、ごめん…?)
『はぁ…全く君は…。あのね、僕は男だよ。百万歩譲ってお父さんならまだ分かるけど、お母さんは納得いかない。』

あ、お父さんでも百万歩譲るんだ。でもなるほど…確かに女の子も男らしいとか言われたら嫌だもんね。そこまで考えて私はようやく合点がいった。

(悪かったよ、ごめんね。)
『ホント、そういう所は君の長所なのか短所なのか分からないね。』

貶されてる様な、そうでもない様な、とっても微妙な返しをされたが、まぁ今のは私が悪かったので大人しく飲み込もう。
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