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カネール
34(side.ディラン)
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「はぁ、はぁ、くぅ…!」
ダメだ。どう足掻いても魔法が使えない。どうしてあの時、首輪を付けたまま逃亡してしまったのだろう。
いや、相手は兄を殺した人間だ。あのまま側にいてもどの道自分は殺されていた。
そもそもが勘違いという事に露ほども気付かないディランは、そう結論付けていた。そして、今現在もピンチに陥っている。
「なんっで…。」
「何でだぁ?はっ、お前、見たんだろ?」
「……。」
「今ここで殺しちまっても良いが、お前は中々に顔が良いからな。そういう男のガキ相手に興奮する変態も、世の中には居るのよ。」
下卑た笑い声をあげるこいつに、心からの軽蔑を込めた視線を送るが、そんなもの男にとって痛くも痒くもない。
「そこで、だ。十日後に開催される奴隷オークションに、お前を出品しようと思ってな。くぅ、俺ってば頭良い!」
「ど、れい…。」
「魔封じの首輪をしてるって事は、お前魔法使えるんだろ?そういう奴は利用価値も高いしな。何より……同じ界隈の人間から、逃げ出してきたという証明にもなる。」
「…っ!?」
「はっはっはっ!人攫いの手間が省けたぜ!何せ身寄りのないガキを見繕うという労力がない!そしてお前は上玉だ。ありがとよ、俺に捕まえられに来てくれて。ガッハッハッ!!」
「~~~っ!!」
悔しかった。成り行きはともかく、この男の言う通りだからだ。ノコノコ目の前にやってきた金づるがどんなに喚こうが怒ろうが、こいつには関係がない。負け犬の遠吠えでしかないからだ。こうも容易く人間に捕えられ続けるなんて。我ながら情けない。
「ほれ、今日のエサだ。しっかり食えよ。」
檻の中に放り投げられた固いパン。食べる気にもなれないが、食べないと死んでしまう。仕方なく手を伸ばし、口の中に突っ込む。
「…兄さん…。」
なんであの日、兄さんと喧嘩してしまったんだろう。きっかけはもう思い出せないくらいに些細なことだった。それで言ってしまったんだ。「兄さんなんてどっか行っちゃえ」って。
そうしたら、本当に居なくなってしまった。死んでしまった。人間に殺されたと、姉さんは言っていた。そして、死んだ兄さんの言い分を跳ね除けて、姉さんは自分の意見を押し通した。実際に何をしているのかは知らない。僕は混じりだから。
「なんで…何でだよおっ!!」
泣いても懺悔しても、兄さんは帰ってこない。人間が憎かった。やっぱり人間は滅ぶべきなんだ。なんで兄さんはそんな奴らのことを擁護してたんだ?考えても考えても分からない。兄さんは昔からちょっと変わっている所があった。そして天才肌だった。そんな兄さんのことなんて、凡才な自分には一生理解出来ないのかもしれない。
それでも、大好きだった。唯一、自分を見てくれていた。多分だけど、愛してくれていた。なのに、最後に投げかけた言葉がどっか行けだなんて、笑えない。
「兄さん…。」
このまま、僕は人間の好きにされるのか。そのくらいなら、いっそ…。そう思うものの、勇気が出ない。一歩を踏み出せない。
もう少し…もう少し…。あと少しだけ待ってみて、希望が無くなったら、終わりにしよう。そんな決意の繰り返し。
誰か…助けて…姉さん…兄さ、ん…。
ダメだ。どう足掻いても魔法が使えない。どうしてあの時、首輪を付けたまま逃亡してしまったのだろう。
いや、相手は兄を殺した人間だ。あのまま側にいてもどの道自分は殺されていた。
そもそもが勘違いという事に露ほども気付かないディランは、そう結論付けていた。そして、今現在もピンチに陥っている。
「なんっで…。」
「何でだぁ?はっ、お前、見たんだろ?」
「……。」
「今ここで殺しちまっても良いが、お前は中々に顔が良いからな。そういう男のガキ相手に興奮する変態も、世の中には居るのよ。」
下卑た笑い声をあげるこいつに、心からの軽蔑を込めた視線を送るが、そんなもの男にとって痛くも痒くもない。
「そこで、だ。十日後に開催される奴隷オークションに、お前を出品しようと思ってな。くぅ、俺ってば頭良い!」
「ど、れい…。」
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「…っ!?」
「はっはっはっ!人攫いの手間が省けたぜ!何せ身寄りのないガキを見繕うという労力がない!そしてお前は上玉だ。ありがとよ、俺に捕まえられに来てくれて。ガッハッハッ!!」
「~~~っ!!」
悔しかった。成り行きはともかく、この男の言う通りだからだ。ノコノコ目の前にやってきた金づるがどんなに喚こうが怒ろうが、こいつには関係がない。負け犬の遠吠えでしかないからだ。こうも容易く人間に捕えられ続けるなんて。我ながら情けない。
「ほれ、今日のエサだ。しっかり食えよ。」
檻の中に放り投げられた固いパン。食べる気にもなれないが、食べないと死んでしまう。仕方なく手を伸ばし、口の中に突っ込む。
「…兄さん…。」
なんであの日、兄さんと喧嘩してしまったんだろう。きっかけはもう思い出せないくらいに些細なことだった。それで言ってしまったんだ。「兄さんなんてどっか行っちゃえ」って。
そうしたら、本当に居なくなってしまった。死んでしまった。人間に殺されたと、姉さんは言っていた。そして、死んだ兄さんの言い分を跳ね除けて、姉さんは自分の意見を押し通した。実際に何をしているのかは知らない。僕は混じりだから。
「なんで…何でだよおっ!!」
泣いても懺悔しても、兄さんは帰ってこない。人間が憎かった。やっぱり人間は滅ぶべきなんだ。なんで兄さんはそんな奴らのことを擁護してたんだ?考えても考えても分からない。兄さんは昔からちょっと変わっている所があった。そして天才肌だった。そんな兄さんのことなんて、凡才な自分には一生理解出来ないのかもしれない。
それでも、大好きだった。唯一、自分を見てくれていた。多分だけど、愛してくれていた。なのに、最後に投げかけた言葉がどっか行けだなんて、笑えない。
「兄さん…。」
このまま、僕は人間の好きにされるのか。そのくらいなら、いっそ…。そう思うものの、勇気が出ない。一歩を踏み出せない。
もう少し…もう少し…。あと少しだけ待ってみて、希望が無くなったら、終わりにしよう。そんな決意の繰り返し。
誰か…助けて…姉さん…兄さ、ん…。
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*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
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