悪魔の誓い

遠月 詩葉

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二人旅

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「いた…。」
「君は…。」

セインが声の正体を知り、目を細めた。警戒しているようだ。

「おいお前…なんであの時、お前から兄さんの気配がしたんだ!?」
「え…?に、兄さん…?」
「とぼけるな!!」

そう言って黒髪の少年…ディランは私に掴みかかろうと突進してくる。間一髪横から伸びたセインの手によって阻まれたが。

「くっ…離せ、離せったら!」
「いきなり部屋に飛び込んできて、女性を乱暴に扱おうとしておきながら何言ってるんですか?」

ぎゃーぎゃーと喚くディランと、その相手をしているセインを横目に見ながら、私は心の中で問いかける。

(…彼、あなたの弟なの?)

『そうだよ。でも僕とディランは母親が違うんだ。そして彼の母親は…。』

そこまでディルが言いかけたところで、ひときわ大きいディランの声が部屋の空気を凍り付かせた。

「お前がっ!兄さんを殺したのか!?」
「……え?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。だってディルは生きている。残念ながら今は精神体だけれど。

「姉さんが言ってた。兄さんは死んだって…人間に殺されたって!お前から微かに兄さんの気を感じる…。答えろ人間!お前が殺したんだろ!?」
「なに、言って…。」

『…そういうことか。』

頭に響いたディルの声は、ゾッとするほど底冷えした鋭さを放っていた。まるで、親の仇を前にしたような…。

「さっきから何をわけのわからないことを…。というか、人間に殺されたとか言ってますけど、君だって人間じゃないですか。」
「違う!俺は悪魔だ!…悪魔であるべきなんだ!お前ら人間とは違う…!」

何処か悲痛さを感じる声音で、そう言い放つ。セインの瞳が驚愕で見開かれる。同時に私の頭から血の気が引いた。今までの話を繋ぎ合わせると、答えは一つしかない。セインは、ディルが悪魔だと気づいたのだろう。バッと私の方を振り向き、真偽の程を確かめようとして…目を伏せた。私の表情から、全てを察したようだった。

「許さない…絶対にお前を許さない!」

そこから何を勘違いしたのか、私がディルを殺したことが彼の中で確定してしまったらしい。ディランは窓から外に転がり出て、走り去ってしまった。

(あ、魔封じの首輪…。いいのかな…。)

そんな事を考えてしまったのは、一種の現実逃避だろうか。まさかここにきて謂れのない恨みを買うなんて思いもよらなかった。もうひとから憎まれるのは散々だというのに。

「ディル、と言いましたか。俺の声は聞こえてるんですか?」
「あ、うん…。こっちの声は全部聞こえてるよ。」
「…人間に殺された、と彼は言っていましたが、そんなあなたが何故メノウと?」

『……。』

ディルは答えない。まあ、そもそもとして生きているのだからその認識は間違っているわけで。それならちゃんと説明しろと怒りたくなったが、そういえば彼の声はセインには聞こえないんだったと思い直す。

「えーっとね…まず一つ訂正しておくと、ディルは死んでないよ。」
「…?」

首を傾げて、どういうことだとその目で訴えかけてくる。私は、深呼吸してディルとの出会いを語りだした。
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