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出会い
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「はあ、はあ…っ。」
簡素なベッドの上で、私は息を切らしながら飛び起きた。今でも鮮明に蘇るあの日の光景は、未だに悪夢として私を苛んでいる。
寝ぐせがついた赤茶色のロングヘアーを手櫛で整え、一つ深呼吸をしてから床へと足を伸ばす。窓の外を見ると、既に日が昇っていた。もうそろそろチェックアウトする為に荷物をまとめないと、追加料金を取られかねない。
「はあ、急がないと…。」
手早くリュックに服や貴重品を入れていく。その時、一枚の写真がケースの中からひらりと落ちた。
「………。」
同じ赤茶色の髪をした男女と、その前に座っている双子の姉弟。そこに写っている四人は、とても幸せそうに微笑んでいた。
(私は、あの日呼び止められなかった弟を…何としても探さなきゃいけない。)
その為だけに、こうして旅をしているのだから。
物思いに耽りそうな自分を叱咤しながら荷物をまとめ終えた私は、リュックと弓を背負って部屋を出る。一人旅には武器が欠かせない。この世には魔物という恐ろしいバケモノがいるのだから。
彼らには自我がない。ただ目の前の生命を破壊しつくすという殺戮衝動のみに突き動かされている。
(まあ、私は戦闘には向かないんだけどね…。)
何と言っても、私は武器の扱いより魔術が得意なのだ。しかし、何故か直接的な攻撃系の魔術はいくら努力しても覚えられない。完全なる支援特化型だった。それでも一人で旅をしているのは、決して崇高な理由があるわけでもなく、ただ単に共に来てくれる知人が居なかった為だ。
「自分でぼっち認定するのも悲しいけど…事実だもんなあ…。」
でもそれも仕方がないことかもしれない。何せ、あんなことがあったのだから。寧ろ自衛隊に突き出されないだけましというものだろうか。
(…考えるな。)
ぶんぶんと首を横に振り、何とか思考を現実へと引き戻す。後ろ向きになるのは、弟を…リュセを見つけ出してからだ。それまでは前を向かなければいけない。
宿屋を出た私は、この町の依頼所に向かって歩き出す。依頼所とは、民間の人たちが他者に依頼を出し、またそれを引き受ける場所のこと。旅の路銀を稼ぐにはうってつけなのだ。
「こんにちは。一人でも受けられるような簡単な依頼ってありますか?」
「お嬢ちゃん一人でかい?ん~そうさねえ…。それならこの薬草採取はどうだい?外れの森によく咲いてる紫色の花なんだが、最近魔物の活性化が目立ってきてるだろ?戦えない民間人は外に出たがらないし、戦闘に経験がある人間はもっとうまみのある依頼ばっかり受けるしで残っちまってるんだ。」
「なるほど…。それではそちらを受けさせてください。」
「はいよ。気を付けてな。」
とりあえず薬草になる花を入れる袋を購入してから森に行こう。そう決意し、私は依頼所から出ようとした時、扉から一人の女性が入ってきた。思わずぶつかりそうになり、「すみません」と謝ったが、女性は見向きもせずにカウンターに行ってしまった。
何となくㇺっとしつつも、扉の向こうに体を滑り込ませる。
「ねえ、今すぐ執事が必要なのだけど、人材発掘の為に求人募集をこちらに貼らせて頂けないかしら?」
そんな女性の声が聞こえたが、既にそれは私の意識の外だった。
簡素なベッドの上で、私は息を切らしながら飛び起きた。今でも鮮明に蘇るあの日の光景は、未だに悪夢として私を苛んでいる。
寝ぐせがついた赤茶色のロングヘアーを手櫛で整え、一つ深呼吸をしてから床へと足を伸ばす。窓の外を見ると、既に日が昇っていた。もうそろそろチェックアウトする為に荷物をまとめないと、追加料金を取られかねない。
「はあ、急がないと…。」
手早くリュックに服や貴重品を入れていく。その時、一枚の写真がケースの中からひらりと落ちた。
「………。」
同じ赤茶色の髪をした男女と、その前に座っている双子の姉弟。そこに写っている四人は、とても幸せそうに微笑んでいた。
(私は、あの日呼び止められなかった弟を…何としても探さなきゃいけない。)
その為だけに、こうして旅をしているのだから。
物思いに耽りそうな自分を叱咤しながら荷物をまとめ終えた私は、リュックと弓を背負って部屋を出る。一人旅には武器が欠かせない。この世には魔物という恐ろしいバケモノがいるのだから。
彼らには自我がない。ただ目の前の生命を破壊しつくすという殺戮衝動のみに突き動かされている。
(まあ、私は戦闘には向かないんだけどね…。)
何と言っても、私は武器の扱いより魔術が得意なのだ。しかし、何故か直接的な攻撃系の魔術はいくら努力しても覚えられない。完全なる支援特化型だった。それでも一人で旅をしているのは、決して崇高な理由があるわけでもなく、ただ単に共に来てくれる知人が居なかった為だ。
「自分でぼっち認定するのも悲しいけど…事実だもんなあ…。」
でもそれも仕方がないことかもしれない。何せ、あんなことがあったのだから。寧ろ自衛隊に突き出されないだけましというものだろうか。
(…考えるな。)
ぶんぶんと首を横に振り、何とか思考を現実へと引き戻す。後ろ向きになるのは、弟を…リュセを見つけ出してからだ。それまでは前を向かなければいけない。
宿屋を出た私は、この町の依頼所に向かって歩き出す。依頼所とは、民間の人たちが他者に依頼を出し、またそれを引き受ける場所のこと。旅の路銀を稼ぐにはうってつけなのだ。
「こんにちは。一人でも受けられるような簡単な依頼ってありますか?」
「お嬢ちゃん一人でかい?ん~そうさねえ…。それならこの薬草採取はどうだい?外れの森によく咲いてる紫色の花なんだが、最近魔物の活性化が目立ってきてるだろ?戦えない民間人は外に出たがらないし、戦闘に経験がある人間はもっとうまみのある依頼ばっかり受けるしで残っちまってるんだ。」
「なるほど…。それではそちらを受けさせてください。」
「はいよ。気を付けてな。」
とりあえず薬草になる花を入れる袋を購入してから森に行こう。そう決意し、私は依頼所から出ようとした時、扉から一人の女性が入ってきた。思わずぶつかりそうになり、「すみません」と謝ったが、女性は見向きもせずにカウンターに行ってしまった。
何となくㇺっとしつつも、扉の向こうに体を滑り込ませる。
「ねえ、今すぐ執事が必要なのだけど、人材発掘の為に求人募集をこちらに貼らせて頂けないかしら?」
そんな女性の声が聞こえたが、既にそれは私の意識の外だった。
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