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第十七章:世界の為に
17-8ボヘーミャ帰還
しおりを挟む私たちはゲートを使ってガレント王国は首都、ガルザイルの王城へ来ていた。
「いらっしゃいましたか、お久しぶりです」
ゲートの光のカーテンが消え去ると、そう声がかけられた。
声の主を見るとヴォルガ大臣だった。
「あ、お久しぶりですヴォルガ大臣…… あの、その……ごめんなさいっ!」
私はその場で頭を下げながらヴォルガ大臣に謝る。
何と言ってもこの街の中央に在る、落ちてきた都市を囲む重要な壁を消し去ってしまったからだ。
「その事はもう良いのですよ。女神様が来て修復をしてくれましたし、魔物や魔道生物たちも一掃してくれましたから」
ヴォルガ大臣はそう言ってにっこりと笑う。
エルハイミさんが?
何時の間に?
「あの、女神様って……」
「ええ、やたらとご機嫌なシェル様と一緒に現れて色々と修復をして行かれました。女神様が直接来られるなど、このガレント王国としてはこの上ない祝福ですよ」
そう言って頬を少し赤く染め目をキラキラさせて天を崇める。
ま、まぁ、エルハイミさんを女神として崇拝している人からすればそうなのだろうけど……
でも、シェルさんが一緒ってことは本体ではなく分体のエルハイミさんってことかな?
だとすると、本体のエルハイミさんはまだ「世界の壁」とやらの修復を続けているのか。
もう二週間以上経っているっていうのに、なんか申し訳なくなってくる。
「あの、それで私たち一刻も早くボヘーミャに戻りたいんですが……」
「ええ、アイン殿からその旨聞いております。ボヘーミャへは馬車を用意させました。ひと月くらいで行けるでしょう」
ヴォルガ大臣はそう言ってついて来るように言う。
私たちは送ってくれたジルの村の人にお礼を言ってからヴォルガ大臣について行くのだった。
* * *
「それでは、道中御無事で。と言っても、あなた方なら何が出ても問題無いでしょうが」
ヴォルガ大臣はそう言って、私たちに馬車を出してくれた。
本当は王様たちにも謝りに行きたかったのだけど、ヴォルガ大臣がそれを止めた。
事情が事情でもガレント王国に手を出した者が王に会えばそれなりに裁きを下さなければならない。
そこをヴォルガ大臣は食い止めてくれたのだ。
もっとも、王様たちはその話を知っているので怒ってはいないらしい。
むしろ親心として早くヤリスに会って欲しいとか。
それを聞いて私は胸を締め付けられるような気分になる。
「あの、本当にごめんなさい…… その、謝って済む事ではないですがどうぞ皆さんにもお伝えください……」
「大丈夫ですよ、全ては女神様から聞いております。ただ、他の者の目があります故、リル殿とルラ殿にはこうして逃げ出すように送り出す事しか出来ない事の方が申し訳なく思います」
そう言ってヴォルガ大臣は頭を下げる。
私は慌ててそれをやめさせ、逆にこちらが頭を下げる。
「本当に、いろいろしていただきありがとうございます。このご恩は絶対に忘れませんから」
「はははは、それではヤリス殿下に良くしてやってください。あの後ヤリス殿下はあなたたちの事を痛く心配なされてましたよ」
「私たちの事を心配?」
あれだけ酷い事をしたのに、ヤリスが私たちを心配してくれている?
いや、いくら何でも……
「まずは会ってやってください、ヤリス殿下に」
「……はい、分かりました」
そう、ヴォルガ大臣に言われて私たちは馬車に乗る。
そして窓からもう一度頭を下げてからこのガレント城を出発するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガレント王国を出発した私たちは南方へと向かっていた。
手配してくれた馬車は貴族などが乗る高級な馬車で、お尻が痛く成る事が無いものだった。
「お姉ちゃん、暇だねぇ~」
「こらルラ! そう言う事言わない、この馬車だってご厚意で乗せてもらっているんだから。歩いたら最低三カ月以上かかるらしいんだからね」
永遠と続く穀倉地帯を眺めながらルラはそんな事を言う。
確かにもう十日以上同じ穀物畑を見ている。
ガレント王国は広大な穀倉地帯があり、世界の穀物庫とまで言われている。
ここで作られた穀物は世界各国に販売されており、ガレント王国の穀物が無ければ餓死してしまう国さえあると言われている。
「……ヴォルガ大臣、あんな事言ってたけどどんな顔してヤリスに会ったら良いのだろう」
「お姉ちゃん、またそれ?」
馬車の中で何度その事を考えただろう。
アニシス様の「鋼鉄の鎧騎士」を壊したり、学園を破壊したりと言うのは直せば何とかなる。
でも、ヤリスの女神様の力はそうはいかない。
私のチートスキル「消し去る」で消してしまったからだ。
「ヴォルガさんも言ってたじゃん、ヤリスもあたしたちの事心配してくれてったって」
「うん、でもなんて謝ったらいいのかな……」
なんど考えても謝って済む問題じゃない。
あれだけの力はヤリスだけでなく、ガレント王国としても痛手になるはず。
覚醒者と言うとてつもない存在はそれだけで国としても重要な存在になる。
それなのに私は……
「はぁ~、考えていても始まらないよ。とにかく会ってごめんなさいしようよ」
「うん、それはそうなんだけど……」
ルラの言う通りだとは思う。
まずは会って謝らなければ始まらない。
だからまずはボヘーミャへ行かなければならない。
そうこの黄金色の小麦畑を見ながら私は思うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「見えて来た! ボヘーミャだ!!」
ルラは窓の外に半身乗り出しながらそう言う。
「こ、こら、危ないでしょルラ! それにお行儀悪い!!」
ルラの腰を掴んで引っ張りながら椅子に座らせる。
そして窓の外をちらりと見ると学園を中心に広がる街並みが見えて来た。
向こうの方には港もある。
戻って来たんだ、学園都市ボヘーミャに。
私はそう思うと同時に気分が沈み込んでくる。
「お姉ちゃん?」
「うん、大丈夫。これは私たちがした事だもんね。ちゃんとみんなに謝らなきゃだもんね」
そう言って、私はもう一度窓の外のボヘーミャの街並みを見るのだった。
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