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第十七章:世界の為に

17-1防戦

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 上手く行くと思っていたナディアさんのティアナ姫への覚醒する事を「消し去る」したら、その時以降の不要な未来である今の世界が瓦解を始めて「世界の壁」が壊れ始めた。


 私たちはその震源地であるこのジルの村、その上空に現れた「世界の壁」の崩壊場所から漏れ出て来る異界の者を迎撃する為に慌ててナディアさんの家を飛び出る。


「くそ、よりによって魔人クラスとは! みんな武器を持て! 俺は『鋼鉄の鎧騎士』を取って来る!! リルとルラみんなの援護を頼む!!」

 アインさんはそう言って学校へと駆け出す。
 あの外装の無い「鋼鉄の鎧騎士」を取って来るつもりだ。


「女、子供、年寄は避難をして! 戦える者は広場へ!」


 ラーシアさんはそう声を張り上げてみんなに叫ぶ。
 それを聞いた村の人たちは慌てて行動を起こす。


「ラーシアさん、私たちは坑道へ逃げ込みます。ご武運を!」

「お願い、エルム!」

 エルムちゃんはラーシアさんにそう言って駆け出し、女、子供、そして年寄りたちを誘導して鉱山の坑道へと退避を始める。



「さて、それじゃぁ久しぶりに本気で行こうかしら? みんなも手加減無用よ!」


「「「「おうっ!」」」」


 ラーシアさんがそう言うと武器を手に持った村の人々が一斉に次元の割れ目から出て来た「鋼鉄の鎧騎士」くらいの大きさがある悪魔のような存在に殺到する。



「はぁっ! 操魔剣!!」

「行くぞ、八つ切り!!」

「はぁっ! ガレントと流剣技九の型、九頭閃光!!」

「【爆裂核魔法】!!」



「へっ?」


 村の皆さんは各々がなんかすごい技や魔法を放ってやって来た魔人クラスの異界の者に攻撃をかける。


 漸ッ!

 ずばずばずばずばずばずばずばずばっ!!

 かっ!
 どがががががががががっ!!

 びかっ!
 どごぉがぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
 

 いやいやいやっ!

 なにこれ!?
 村の人たちが放った技や魔法は一瞬で空から降って来た魔人とか言うのを切り刻み、そして消し去った。


「うわぁ~みんなすごいねぇ~」

「いや、凄いとかなんてもんじゃないわよ! なにこれっ!?」


 私が驚いていると、槍を構えたラーシアさんが隣にまで飛び降りて来て言う。


「ふう、流石に久しぶりなんで体がなまっちゃってるわね。最近は先生の身の周りのお世話しかしてないからなぁ。あ、出来れば夜のお世話もしたいけど、実兄妹だから出来ないんだよなぁ」

「ちょ、なんかやばい事言ってるみたいですけど、何なんですか皆さん!?」

 私は驚きに目を丸めながらラーシアさんに聞く。
 するとあっけらかんと言う。

「この村だとみんなこんな感じなのよね。流石に今みたいな全力は滅多に出来ないけど、今回は出し惜しみしなくていいからね。さあ、次来たわよ!!」

 ラーシアさんはそう言って次々と出て来る異界の者に飛び掛かる。
 勿論村の他の人も。


「ねぇ、お姉ちゃん。これってあたしたちが手助けする必要ってあるの?」

「い、いや、でも私のせいでこんな大ごとになっちゃったんだから、危ないっ! 火球を『消し去る』!!」

 ルラと一緒に空を見上げていたら、魔人とか言う連中は背中に蝙蝠の様な羽を広げて空中から遠方攻撃を始めた。
 流石に空を飛べない人たちは防戦に入るけど、魔人たちは口を開き火球をどんどんと撃って来る。

 私は着地して隙の出来たラーシアさんに降りかかる火球をチートスキル「消し去る」で消す。

 
「助かったわ、リルちゃん! ああっ! 髪の毛が焦げたぁっ!! 酷い、髪は女の命だって言うのにっ!! もう許さないんだから、ベルン石礫を空に放り投げて!!」

 ラーシアさんはそう言って他の人に指示すると彼は剣を地面に突き刺し一気にそれを空に向かって抜き放つ。


「ガレント流剣技三の方、雪崩っ!!」


 抜き放つ剣と同時に地面の石礫も空に向かって吹き飛ばされる。
 まるで弾丸の様なその石礫に、何とラーシアさんは飛び乗って次々と空高くまで駆け上がる。


「はぁっ! 九槍連突っ!!」


 空中でラーシアさんは槍を目にも止まらない速さで突き入れると、魔人の一体が穴だらけになってその場で崩れ粉々になって消えて行く。


 たんっ


「ふん、思い知ったか! 先生に奇麗だって言われた私の自慢の髪の毛を焦がすからよ!!」


 それでも普通は出来ないような事を平然とやる皆さん。
 しかし問題はにじみ出て来る異界の者の数だった。


「お姉ちゃん! 危ないっ!! あたしは『最強』っ!!」

 ぼうっとそれらの様子を見ていた私にルラが叫んで割り入る。


 がんっ!


 気がつけばいつの間にか後ろから魔人が私にその太い腕を振り下ろしていた。
 ルラはいち早くそれを防御して魔人のお腹に蹴りを入れる。


「必殺きーっくっ!!」


 ぼごんっ!


 どがぁ~んっ!



 ルラの蹴りは見事に魔人のお腹を捕らえ、向こうの家にまで吹き飛ばす。
 そして石造りの家を半壊させながらその魔人はバラバラになって消えて行った。


「あ、ありがとうルラ」

「お姉ちゃん大丈夫? みんなすごく強いけどだんだんあの割れ目から出て来る悪魔たちが増えている。このままじゃ数に押しつぶされちゃうよ!」

「割れ目?」

 ルラがそう言って見上げる空のひび割れはさらに広がっていた。



『操魔剣! はぁっ! 【爆炎拳】!!』


 がっ!
 どごぉおおおん!


『みんな無事か!?』

「先生! 倒せてはいますけど、数が多すぎです!!」

 
 一瞬大きな影が覆ったかと思ったら、アインさんの「鋼鉄の鎧騎士」だった。
 石造りの家を駆けあがり空中で火球を吐いている魔人に飛びつきその手の平をぶつけると魔人がはじけ燃え上がる。

 そして地面に着地すると同時に状況をラーシアさんに聞くも、確かに数で押され始めている。


『くそ、せめてあの異空間の入り口だけでも閉じられれば!!』


 見上げながらそう言うアインさんに私はふと思う。
 異界の入り口を「消し去る」事が出来ないだろうか?
 だったら。 


「私だって!」




 私はそう言いながら空の上にあるあの異界へと続くひび割れに手をかざすのだった。 
 
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