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第十六章:破滅の妖精たち

16-25ティアナ姫

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 私がティアナ姫の転生者の話をするとその場の空気が固まった。



「え? え?? 私なんか変な事言った?」

「い、いや、そうではないのだが……」


 おろおろする私にアインさんは重苦しそうにそう言う。
 そして周りのみんなも何故か同じような反応をする。

 ティアナ姫の転生者。
 エルハイミさんがこの世界を維持する為の原動力とか聞いてはいたけど……


「あの、ティアナ姫ってどんな人なんですか?」

「ナディアはな……」

 アインさんはそう言って大きくため息を吐いてから話始めた。



 ―― ティアナ=ルド・シーナ・ガレント ――


 約千年前にヤリスの故郷、ガレント王国の第一王女として生を受けた人物。
 初代連合軍の将軍職に就く女傑で、天秤の女神アガシタ様に愛された乙女と言われていた。
 しかし当時起こった「狂気の巨人」との戦いで命を落としたと言われている。

 この人物はたびたびその転生者が歴史の中でエルハイミさんと一緒に陰ながら色々と問題を解決するのに力を貸していて、エルハイミさんの旦那さんだという。



「いやちょっと待ってください、女同士で旦那さんって何ですか?」


「当時の記録ではエルハミ、つまり今の女神様を娶ったと記されている。ガレント王国では同性婚を容認する風習があったのでな。なので戸籍上は女神様はガレント王国の王族となるが……」

「女神様になってから領地であったティナの国でティアナ姫の転生者に子供を産ませているのよね」

 アインさんの説明にお茶を出しながらラーシアさんも言ってくる。
 私はそのお茶を受け取りながらちらりと子供たちを見る。


「あの、そう言う話大丈夫なんですか?」

「問題無い、みんな知っている事だしこの子たちはもう既に過去を思い出している」

 うーん、精神年齢は私と同じく大人と言う事ね。
 だったら聞かれても大丈夫か。


「一番聞きたいんですが、どうやって女同士で子供産めるんですか? いくら女神様でもそれって無理なんじゃ……」

「ああ、それなら女神様は生えてるから」


 はいっ!?
 は、生えてるって何が??


「まあ、詳しく言わなくても分かるだろう? 要は女神様は男としての機能も持っているんだ」

「え、あ、生えてて男の人の機能があるぅ!?」

「普段は女の子なのだけどね~。それで何度かティアナ姫の転生者は子供を作っているらしいのよ」


 いやいやいや!
 あの顔で、あの姿で男の人の機能って!!

 もっとこう、女神様の神秘な力的なもので子供作るとかじゃないの!?


「で、その子孫がティナの国やガレント王国にいる訳だ」

 アインさんがそう言ってお茶をすする。
 そしてまたため息を吐く。

「正直、ティアナ姫の転生者には同情をする事もある。特に今回はな。彼女は何度かこの村に転生をしたが、過去の自分を思い出すのにだんだん時間がかかって来て今回は二十歳になってから覚醒した。しかしその時には既にバックと婚姻関係でお腹には既に子供もいた。だが過去を思い出しお腹の子供の事もありかなり悩んでいた。そこへ俺の報告でこんな事にあってしまうとはな……」

 アインさんは目をつぶりがっくりとうなだれる。
 そこへラーシアさんが背に手を当て慰める。

「先生は役目を果たしただけです。何も悪い事はしてませんよ?」

「だが結果、ナディアを苦しめてしまった。彼女はナディアとしての生活を幸せに思っていたはずだ……」

 そう言えばシャルさんに報告をして来たのはアインさんだった。
 それを聞いたエルハイミさんが慌ててジルの村に行こうとして私たちが巻き込まれ全てが始まったのだった。


「シェル様が実家に戻っていたと聞いていたからな、シャルに連絡すべきと判断を誤った……」

「先生…… 所でそのシャルさんって誰ですか? 先生の何なんですか? いえいえ、過去の事は問いませんが前世で夫婦だった私には聞く権利があります。で、その女って誰なんです!?」


 あ~、ラーシアさんやっぱりそう言う関係だったんだ。
 アインさんってストイックな人と思ったらラーシアさんに手を出していたんだ。


「お、落ちつけラーシア、今はお前は俺の妹なんだぞ?」

「ええ、だから先生を襲う事無く我慢してるんです! でもその女がどんな人でどんな関係が続いているかくらい聞いてもいいでしょ?」

「あ~、先生私、もそれ聞きたい! 前世で先生に勝ったらお嫁さんにしてくれるって約束今も有効ですからね!!」


 途端にここも修羅場と化す。
 転生しまくって前世の記憶があるってのも意外と大変みたいだなぁ……


「ん~、それでどうなったのかなそのナディアって人?」

 ルラはお茶を飲み終わってポツリとそんな事を言う。
 すると猫獣人のあの男の子、確かパルム君が話始める。

「大変だったんだよ、ナディアが子供できたって聞いた時の女神様半狂乱でさ。シェル様が女神様の後頭部に大地の魔法で大岩ぶつけて気絶させなかったらどうなっていた事やら」

「大岩って……」

 い、いや、ここはジルの村だ。
 多分こんな事は日常茶飯事なのだろう。

「流石にあんな大きな岩ぶつけられたら俺らも死んじゃうけどね」

 パルム君はそう言ってからからと笑う。
 死んじゃうって、シェルさん容赦なさすぎ!!


「でね、冷静さを取り戻した女神様がここに居座るとか言い出してね、それからがまた大変だったんだよ。毎日毎日ナディアの説得をしようとするけど、流石にお腹の中の子供に影響があるから生まれるまで大人しくして欲しいって長老に言われて、シェル様からも『これで流産したら一生恨まれるわよ』って言われて渋々大人しくはしてたんだけどねぇ…… 鬱憤の腹いせが僕らに向けられるんでたまったもんじゃなかったよ」

 パルム君はそう言って大きくため息を吐く。
 それは……
 ご愁傷さまでした……

「んで、生まれて説得再開が始まった頃にまたナディアが妊娠しててさ、取り乱し始めていっそバックを亡き者にとか物騒な事言い出したら、もう三人目の女神様も来ちゃってさ、しばらくしたら黒龍のコク様も飛んで来て更に大騒ぎ。あれで死人が出なかったのは奇跡かもね」

 いや、死人って……

「そんで今度はシェル様とコク様交えて女神様を取り押さえてやっぱり子供が生まれるまでは大人しくしてくれってまた長老に言われて今に至るんだよね。ただ、そろそろナディアも二人目を産んだ頃だから……」

 そこまで言ってパルム君は神殿のある方向を見る。
 今エルハイミさんたちはそこにいるはずだ。
 そしてナディアさんが二人目を産み終わったら……



「なあリル、手を貸してくれないか? 女神様に一矢報いたお前ならこの後の事を穏便に出来るかもしれない」


「先生! 逃げないでください!!」

「そうです、私と戦って早くお嫁さんにしてください! あと数年もすれば子供産める身体になります! あ、ラーシアさんは妹さんなんだから先生に手を出しちゃだめですよ!!」

「くっ、今世で妹に生まれたばかりにぃ!!」

 修羅場を何とか抜け出そうとアインさんがこっちへ来る。
 その後ろでラーシアさんとエルムちゃんが揉み合ってる。
 いや、中身は大人たちなんだけど、外見は今はそうじゃないから姉妹喧嘩しているようにしか見えない。


 しかし、私に何が出来ると言うのだろう?
 エルハイミさんには私の「消し去る」は通用しないし。


「とにかく、これ以上村で暴れられるのは勘弁だ。手を貸してくれ、リル、ルラ」




 アインさんのその言葉に私とルラは協力する事になるのだった。
  
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