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第十六章:破滅の妖精たち
16-23ジルの村の授業その3
しおりを挟むルラとアインさんが手合わせをする事となった。
「アインさん、本当に良いの、『鋼鉄の鎧騎士』に乗らなくて? あたし強いよ?」
「ああ、大丈夫だ」
ルラとアインさんは素手で組手をする事となった。
まあ、ルラは今までも素手でしか戦った事が無かったし、そうでないと手加減が分からないだろうから。
「いつでもいいぞ」
「それじゃぁ、いくよ、あたしは『最強』!」
ルラはそう言ってアインさん相手にチートスキル「最強」を使う。
この場合アインさんよりちょっと強いからエルハイミさんを対象するのに比べてかなり力が押さえられるられるだろう。
ルラはアインさんに向かって飛び込みながら拳を突き出す。
が、そのスピードがかなり速い!?
「いい拳だ。だが素直すぎる」
アインさんはそう言って下からルラの腕を軽くトンっと触れるとルラは勢いそのままにアインさんのはるか後方へ吹っ飛ぶ。
「あれっ?」
「スピード、パワー共に十分にあるがそれだけでは俺には届かんぞ?」
ずざざざざぁ
「うーん、なんかセキさん相手にしてるみたいな…… よっし、ならこれでどうだ!!」
ルラは体勢を戻して地面を擦って向きを変えて飛び上がりながら拳を繰り出す。
「はぁっ! ドラゴン百裂掌!!」
「ちょ、ルラそれは!」
あの技は黒龍のコクさんに使えるメイドのドラゴンニュート、クロエさんの技。
繰り出す拳が一瞬で百近くに分かれてその爪により相手はボコボコに八つ裂きにされる。
こんなの生身の人間に使ったらとんでもない事になる。
「ほう、これはクロエ殿の技か。だが!」
アインさんは怒涛の拳を何とステップを駆使して全て避けた!?
「えっ?」
「脇が甘いぞ!」
ぺしっ!
そして交差する時にルラの後ろ頭を軽くチョップする。
それにつんのめりルラはその場で倒れる。
「な、なんで?」
「クロエ殿の技を真似てるようだが、クロエ殿は全て相手の動きの先を予測してその場所へ掌を打ち込む。ルラはあまりにも素直に相手のいる場所へ打ち込むからその軌道は予測しやすいんだ」
そう言ってアインさんは半身で構える。
片手をあげてひょいひょいとルラを誘う。
「くぅ~、だったら!」
立ち上がりルラはアインさんに構えると、アインさんが動き出す。
しかしその動きはルラには及ばず、ブロックした両腕にその拳は受け止められるが……
ぱしっ!
「うわぁっ!」
拳を受け止められると同時にしゃがんで廻し蹴りで足元をすくう。
そしてそのままルラは尻もちを付く。
「スピードも力も自分が上だと油断すると足元をすくわれるものだ。常に相手の動きを予測する事だな」
驚いた。
ルラのスピードもパワーもアインさんを完全に凌駕しているはずなのに、まるでルラは歯が立たない。
その後もルラはかなり危ない技まで繰り出しているのにすべてアインさんにいなされ、そしてアインさんの攻撃で何度も転ばされる。
「くぅ~っ、なんでぇっ!?」
「ルラは確かに俺より強い。しかし戦いはそれだけでは勝てない。相手の動きやその行動の予測、スピードや力が及ばないなら技を使い対処する。それが出来て初めて歴戦の戦士になれるんだ」
アインさんはそう言ってルラに手を伸ばす。
ルラはその手を取って起き上がる。
「セキさんもアインさんも同じだぁ~。あたし最強なはずなのにぃ~」
「確かにルラは強い。だがそれはまるで借り物のようにその力を使い切れていない。どうだ、ここでしばらく学んでみないか? ルラはきっともっともっと強くなるぞ?」
「そしたら正義の味方になれるかな?」
ルラは目を輝かせながらアインさんにそう聞く。
確かに私たちのこの力は借り物、と言うか与えられたスキルに今まで依存し過ぎた。
エルハイミさんに私は全くかなわなかった。
あの駄女神の支援はあったけど、エルハイミさんは女神の力を失っても慌てる事無く対処して結果私のスキルさえ凌駕する事に成功してしまった。
正直驚かされた。
私のスキルが通じなくなる相手が出るなんて。
「やっぱりエルハイミさんには敵わないなぁ……」
「ん? リルは女神様と戦ったのか?」
私がそうぽつりと言うとアインさんはそれに気付いたようだ。
私は思わず頭の後ろを掻きながらアインさんに答える。
「いやぁ、私のスキルを使ってエルハイミさんの女神の力を『消し去る』したんですけど、すぐにあの駄女がぁ…… いや、『あのお方』が出てきて私の力が通じなくなっちゃったんですよね。いやはや参った参った」
そう言うとアインさんが固まった。
いや、私の話を聞いていたルラ以外のみんなが固まった。
「あ、あれ?」
「リ、リル。その話本当か?」
「え、あ、まぁ、その、本当です……」
私がそう言うと私の周りに一気に人だかりができる。
「それ本当なの!?」
「凄いぞ! あの女神様の力を消し去るなんて!!」
「うらやましい!! あの女神様に一矢報いれるとは!!」
「え、えーとぉ……」
周りに人だかりが出来てみんなわいのわいのと聞いてくる。
「あの女神様に一矢報いるとはな…… リル、是非その話を聞かせてくれないか?」
「え、えーとぉ……」
私はみんなに促されてあの時の話をする羽目になるのだった。
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