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第十六章:破滅の妖精たち

16-16女神出陣

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今ここユーベルトの女神神殿の上空でこの世界の女神であるエルハイミさんと異界から召喚された悪魔が対峙していた。


「エルハイミさん!」

 私は思わず叫んでいた。
 アリーリヤ事静香が呼び出した異界の住人。
 こちらの世界では「悪魔」と認定されるそれは敵対心が強い。
 そして秘密結社ジュメルがこの悪魔とどんな盟約を結んでいるかは知らないけど、アリーリヤたちの魂と血肉を代価に呼び寄せられたこれは確実にこの世界に害を成す。


「大丈夫よ。私のエルハミは強いわ。それにコクも一緒、あんな悪魔なんかすぐに倒してくれるわ」

「でも、私のスキルもルラのスキルも完全には効かないんですよ?」

 そう、異界の住人に対しては私たちのチートスキルがほとんど効かない。
 この世界ではエルハイミさんの女神の力でさえ消せた私のスキルであっても。

 ルラだってエルハイミさんより強くなっていたにもかかわらず、初手であの化け物を倒しきれなかった。
 だから私は一抹の不安を抱える。


「お姉ちゃん! あれっ!!」


 ルラに言われ見れば黒竜が炎を吐き出してあの悪魔をけん制している。
 太古の竜の吐く炎は女神すら焼き殺すと言われている。

「甘いなぁ、コクは。智竜じゃ動きに無駄がある」

 その戦いのを見てセキさんはそう言う。
 思わずセキさんを見るとふっと笑って言い始める。

「私たち太古の竜はそれぞれ得手不得手があるの。コクは智竜と呼ばれ女神殺しではあるけど一番はその知恵を使った戦略が上手いのよ。私は闘竜、戦うのを得意としているの。だからさっきそっちのエルフが私より強くてもいなせたのよ」

 それを聞いたルラはちょっと不機嫌になる。

「あたしの方が強かったのにぃ~」

「はははは、確かに力やスピードはあなたの方が上よ。でも戦いは力とスピードだけじゃない。技術にあんたは負けたのよ。もう少し修業を積んで技術を磨けば私なんかすぐに超えられそうなんだけどね」

 セキさんはそう言って上を見上げる。
 すると、炎に牽制されて動きが鈍くなった化け物にエルハイミさんが放つ黄金の衝撃波が炸裂する。


 ぶんっ!
 ザクッ!!


 その黄金の衝撃波は見事にあの化け物の片足を切り落とした。
 その後も何度か衝撃波を繰り出すけど、いくつかは化け物が出したうっすらと光る透明な壁に防がれる。
 そして時折エルハイミさんたちに向かって火球を放つ悪魔だったけど、全て同じようにうっすうらと輝く透明な壁で防がれる。


「やっぱエルハイミ母さんは強いや。『あのお方』を呼び出さず魔将軍クラスを圧倒している」

「だから言ったでしょ、私のエルハイミは強いのよ!」


 セキさんのその言葉に何故かドヤ顔するシェルさん。
 確かに上空ではまさしく神話のような戦いが繰り広げられている。

 勿論それを見ている人々も大騒ぎしているけど、セキさんの一喝で皆エルハイミさんに祈りを捧げる。


「今、我の主たる女神様がこの神殿を襲った悪魔と対峙されている。だが騒ぐな! 我ら女神様は必ずあの悪を討つ!!」


 それを聞いた神官たちはその言葉を内外に拡散する。
 どよめきも恐れもおののきもすぐに収まり、女神をたたえる祈りの声だけがするようになる。


「さて、そろそろ終わりね。いくら魔将軍クラスを召喚してもうちの女神様には敵わないわ」

 シェルさんはそう言って親指を立てて叫ぶ。


「エルハイミ! やっちゃえっ!!」


 その声が届いたかどうかは分からないけど、最後には何個もの金色の衝撃波と同時に黒竜の炎が伸び、更に悪魔の上下に大きな魔法陣が現れその間にまるで豪雨のような雷が光る。

 それは異界から召喚されたあの悪魔の最後だった。
 雷撃の雨に動きを封じられ、炎で体を焼かれ体中を金色の衝撃波で切り刻まれた悪魔の化け物は断末魔を上げる。


『ぐろぉああぁぉおおおおおぉぉぉぉっ!!』


「必殺、ファイナルカリバーンですわっ!!」

 黒竜の背中に乗った女神エルハイミさんはそう叫び、金色の剣を大きく振りかぶり悪魔に向けるとその剣先から輝く光が放たれ悪魔を飲み込む。

 その光の柱はまるで波動する砲のようにその悪魔を飲み込み、体をぼろぼろに崩してとうとう全てを消し去る。
 

 カッ!

 どがぶがどがぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁんッ!!!!


「凄い! まるでヒーロの必殺技みたい!! かっこいいぃっ!!」

「いやルラ、あんたあれをヒーローの必殺技みたいだなんて…… って、何故この戦いの間BGMが聞こえるの!?」

 なんかエルハイミさんが最後に技を放つ間何処からともなくテンポのいいBGMが聞こえてきたりしていた。


 どっがぁあああああぁあぁああぁぁぁぁぁんッ!!!!


 そして最後に悪魔が何故か爆発すると、周りから一気に歓声が上がる。
 
 
 うおぉおおおぉぉぉぉぉぉっ!


「成敗、ですわ!」

 上空でエルハイミさんは剣を振り、何故か決めポーズをとっている。
 いや、確かにすごいんだけど何このノリ!?

 ちらりとシェルさんやセキさんを見ると拍手していたり、こぶしを突き上げ声援を送っていたりする。
 私は人知れずため息を漏らすのだった。


 * * *


「ふう、やっと終わりましたわ」

「お疲れ様、エルハイミ」

「流石お母様です。下々の者もこれで更にお母様を崇めるでしょう」

「ま、エルハイミ母さんだからねぇ~」


 色々が終わって、女神であるエルハイミさんは手を振り神殿を修復したり集まって来た人々に声を掛け、光り輝き消えて行った。

 消えて行ったのだけど、十六、七歳くらいの姿に戻り、コクさんも人の姿に戻り私たちの前に現れた。
 そして私に向かって言う。


「リル、ルラその節はごめんなさいですわ。まさかあなたたちがここまでいろいろな事に巻き込まれているとは思いもしませんでしたわ。きっと『あのお方』の悪い癖なのでしょうですわ」

「『あのお方』って、あの駄女神ですか!?」

「多分そうですわね、『あのお方』はこの世界を覗くことがお好きなようで、時たまわざと厄介事を与えて来るのですわ、あのジュメルの少女のようにですわ……」


 エルハイミさんに言われ私はアリーリヤ事静香の事を思い出す。


「エルハイミさん、アリーリヤは、いえ、静香は!? 彼女の魂はあの悪魔に吸いつくされちゃったんですか!?」


 慌ててエルハイミさんにそう聞くと彼女は空間に手を突っ込んで光る球を二つ取り出す。
 そして私に向かって言う。


「異界の悪魔に吸収された二つの魂は何とか回収できましたわ。これがあなたのお友達、こっちがもう一人の方ですわね」


「何エルハイミ、そんなの確保してたの?」

「お母様に仇なす者の魂など握りつぶしてこの世界の魔素としてしまえばいいのです」

「でもエルハイミ母さんがそれを確保したって事は」

 二つの魂はエルハイミさんの胸の前でふよふよ回っている。
 エルハイミさんは私を見て言う。


「この二人は私に関わってしまいましたわ。敵対していた者とは言え、それは彼女らの死によって償われましたわ。今はこの二つの魂に転生の機会が与えられますわ。但し、その魂を良い方向へ向ける為にはジルの村に転生をさせなければなりませんわ。そして、それを決めるのはあなたですわ、リル」

「私が? 何故??」

「だってこの魂はあなたのお友達なのでしょう? もう魂の呪いは解除しましたわ。今度生まれ変わりどこかに転生するにもそれをあなたが見つけ出すのは至難の業ですわよ?」

 そう言いながらエルハイミさんはにっこりと笑う。
 私は思わずつばを飲み込む。

「アリーリヤは…… いえ、静香は転生して今度こそ幸せになれますか?」

「それは彼女次第ですわ。でも私はそうなる事を望み、そして導くためにジルの村に転生させることをお勧めしますわ。そしてそれを決めるのはあなたですわ、リル」

 エルハイミさんはもう一度私に向かってにっこりとほほ笑む。
 静香が今度こそ幸せな人生を歩める。
 色々あったけど、それでも今度こそ静香は幸せに……


 でも


「エルハイミさん、私をその村に連れて行ってください。静香が本当に幸せになれるかどうか確かめさせてください!」

 今ジルの村とかではエルハイミさんとティアナ姫の転生者の間で問題が起こっているらしい。
 正直巻き込まれるのは嫌だけど、静香の転生先が本当に良い場所なのかどうか知りたい。

 私の申し出にエルハイミさんは真面目な顔になって聞く。

「連れて行くのは構いませんわ。でも、村には村の決まりがありますわ。それは長い間力ある魂を持つ者たちが穏やかで優しい世界にする為に学ぶためのものですわ」

「分かってます。その理念が良いかどうかを見せてください!」


 私のそのお願いにエルハイミさんは頷くのだった。   

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