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第十六章:破滅の妖精たち

16-15あがき

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「ダメですわ、異界への道が開いてしまいますわ! 私の力でも無理にそれを阻害すると世界の壁が壊れてしまいますわ!!」


 エルハイミさんはそう叫ぶ。
 そしてここにいるみんなは慌ててその場を退く。


「くっそぅ、まさか悪魔召喚が出来る術式を体内に隠していただなんて!」

「これではいくらお母様でも気がつきません。しかも異界の者と言ったらどの世界からの召喚だか。代価があの二人の命と血肉となれば、いえ、確か『七大使徒』と言っていました。全ての贄を使うなら魔人クラスかそれ以上です。お母様!!」

 シェルさんもコクさんもそう言って防壁を張る。


「しまったなぁ、まさか神殿内で召喚されるとは…… あたしはここから離れられないからやるっきゃないか。あんたたち逃げるなら今のうちよ?」

 そう言って赤竜のセキさんは私たちにウィンクをする。
 私は目の前でアリーリヤが命を吸われ干からびたミイラになってしまった事に衝撃を受け、動きが遅れた。
 しかしセキさんのその声で我を取り戻し、言う。


「いえ、私たちにも何かできるかもしれません。アリーリヤを、いえ、静香を止められませんでした。だからせめてできる事をさせてください!!」


 私がそう言うとセキさんは口元だけふっと笑って言う。

「じゃあ、あなたたちのその力にも期待させてもらうわ!!」


「はいっ!」


 私はそうセキさんに返事して魔法陣から現れる黒い巨体を見上げるのだった。


 *


 それは正しく「悪魔」と表現されるものだった。

 黒い肢体にヤギのような頭、背中には蝙蝠の羽が生え、矢印のような尻尾がある。
 その巨体は「鋼鉄の鎧騎士」くらいありそうで、この神殿の、この講堂の天井に迫る大きさだ。


「あらあらあら~、これって異界の魔人より上の将軍クラスではないのですの」

「お母様お下がりください!」

「ちっ、エルハイミこっちに!!」

「おおぉ、こいつは大物じゃない!」


 しかしエルハイミさんたちはいたって冷静だった。
 のほほ~んとその巨体を見上げるエルハイミさんをかばうようにコクさんとシェルさんが間に入る。
 そしてセキさんはぱきぱきと指を鳴らしそちらに向かう。


「えっと、お姉ちゃんアリーリヤもイリカもあの化け物に吸われちゃったんだよね? あたしたちはどうするの?」

「勿論、あれを止めるわよ! アリーリヤ、バカな事をしたわ…… 死んじゃったら何も変わらないのに...... ルラ、手伝って! あれを止めるわよ!!」

「分かった、あたしは『最強』!」

 ルラにエルハイミさんたちと一緒にあの化け物を止める事を告げるとルラはすぐに頷いて私を手伝ってくれる。
 今までいけない事して来た償いじゃないけど、静香の呼び出したあの化け物はこの世界にいちゃいけない気がする。

 ルラはスキルを使ってあの化け物に突撃する。


「必殺ぱーんち!」


 ぶんっ!
 ぱしっ!!


「あ、あれ?」

 しかしその化け物は手の平でルラの拳を平然と受け止める。


「あらあらあら~、流石にあのお方の力でもこちらの世界限定らしいので異界の住人には通用しませんの?」

「なっ!? それじゃぁ私たちの力は効かないって言うのですか!?」


 エルハイミさんはあっけらかんとルラの攻撃を見て状況を判断する。

 
「だから異界の連中は嫌いなのよ! 風の王よ、手を貸して!!」


 ルラがもう片方の手でハエ叩きのように叩かれる前にシェルさんが精霊魔法を使った。
 途端に爆風があの化け物を襲いルラは無事地面に着陸する。
 そして慌てて私の近くまで引っ込む。


「お姉ちゃん、あたしの『最強』が効かない!!」

「どうやら私たちのスキルが他の世界のモノに効かないらしいわ…… あの化け物を『消し去る』!!」

 私はそう言いながらチートスキル「消し去る」を使うも、一瞬化け物が動きを止めて体を震わせるがまた動き出す。


「うわぁ、あの二人の力が効かないんだ。こりゃ厄介だ!」

 セキさんはそう言いながら飛び上がり叫ぶ。


「はぁ! 赤光土石流拳!!」


 飛び上がったセキさんが拳を放つと赤く光る怒涛の拳が土石流のような勢いで化け物を襲う。
 流石にあれだけの拳に化け物は打たれてたたらを踏むが、倒れる事無くセキさんを睨む。


「うっわ、あたしの技に耐えるか?」

「セキ、うかつです! こ奴はジェネラルクラス、こちらでは我々太古の竜に匹敵します!!」

 コクさんの叱責に床に着地したセキさんが飛び退くとそこへ尻尾の攻撃が振り下ろされる。
 破壊される講堂。
 机や椅子が飛び散る中、私は慌ててこちらに飛んでくる椅子などを「消し去る」。


「うわっ、『消し去る』!」


 こちらの世界のモノであれば認識して発動がちゃんとできる。
 しかし異界の者に対してはほとんど役に立たない。


「お姉ちゃん、どうしよう? あたしのスキルが効かないよ!!」

「どうしようたって…… そうだ、ルラ! あなた対象相手をエルハイミさんにして!! エルハイミさんより強ければあいつを倒せるわよ!!」

「なるほど! 流石お姉ちゃん!! よぉしぃ、あたしはエルハイミさんより『最強』!!」


 どんっ!!


 ルラがそのチートスキルを使った途端、爆風のような存在感があふれ出す。
 それはあの化け物も気付いたようでこちらに振り向く。


「いっくぞぉ~、必殺ぱーんち!!」


 どんっ!!


「きゃっ!!」

 ルラがあの化け物に飛びかかり必殺の拳を叩き込む。
 飛び上がる時もの凄い爆風が私を襲うので思わず悲鳴を上げてしまった。
 そして飛び上がったルラを見ると、化け物は先ほどと同じくそれを手のひらで受け止めようとしてその手を吹き飛ばされる。


 ぶしゃぁっ!

 
 ルラは勢いを弱める事無くそのままその化け物を殴りつける。


 ばきっ!!


『ぐぼぉっ!?』


 変な声を出してあの化け物はルラに殴り飛ばされ講堂の天井を吹き飛ばし上空へと飛ばされる。
 そしてルラはくるくると回転しながら床に降り立つ。


「こらぁ! ルラ、神殿まで壊すなっ! うわ、瓦礫が!!」

「瓦礫を『消し去る』!」


 講堂を壊して空が見える中、瓦礫が落ちて来る。
 シェルさんが文句を言うも、その落ちて来る瓦礫を私は慌てて「消し去る」。


「おねちゃん、あいつ!!」

「空を飛んでいる? しまった、これじゃルラが手出しできない!!」


 いくら強くても空を飛ばれてはルラの攻撃が届かない。


「そろそろ私の出番ですわね? コク、お願いしますわ!」

「はい、お母様!!」


 言いながらエルハイミさんは大人の姿に身体を大きくする。
 それは正しく女神。
 美しく金髪を長く伸ばし、スタイルだって大きな胸がプルンって揺れる程。
 コクさんよりも大きい!?

 ちょっとうらやましく感じるも、コクさんはその場で姿を黒い竜に変えて行き、その背中にエルハイミさんが飛び乗る。


「魔将軍はこの世界では不要ですわ! 行きますわよコク!」

『はい、お母様!!』


 そう言ってエルハイミさんと竜の姿になったコクさんは飛び立つ。


「うわぁ~、あたしも竜の背中に乗ってみたい~」

「エルハイミさん大丈夫なの?」


 見上げるルラと私にシェルさんは笑いながら言う。

「まあ見てなさい、この世界の女神の力を!」




 私たちは天高く飛んで行くそれをただ見上げるのだった。
 
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