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第十五章:動く世界

15-12襲撃

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「いいですか、これよりサフェリナ解放作戦を開始します!」

 
 朝日がまぶしい中、ユカ父さんのその言葉に待機していた人たちは無言で頷く。
 ユカ父さん率いる「鋼鉄の鎧騎士」組と、私たち遊撃部隊は打合せ通り配置に着く。

 広場のあの魔物は動いていないそうだ。
 その広場から離れて要所要所にオーガたちが陣取っているらしい。
 そして各場所にはサイクロプスたちが一体ずつオーガに付き添う形で配置されている。

 私たち遊撃部隊は総勢二百五十人ちょっと。東西南北と主要箇所にオーガたちはいるので、一か所五十人弱で一斉に攻め入る事とした。
 そしてそれが始まると同時に広場にユカ父さんたち「鋼鉄の鎧騎士」も一気に攻め込む段取りだ。

 情報ではジュメルのその女魔導士は広場にいるらしい。
 周りのオーガたちを押さえておいてその隙にユカ父さんがその女魔術師を押さえれば私たちの勝ちである。


「ユカ父さん大丈夫かなぁ?」

「大丈夫よ、今までユカ父さんには全く歯が立たなかったじゃない? それにユカ父さんのあのスキル、無限に分かれたり引っ込めたりできるあれはどちらかが残ってさえいればまったくダメージにならないんだから」

 ユカ父さんはこちらの世界に来る時にギフトをもらっていて、自身を二人に一瞬で分けられるスキルがある。
 しかもそれは両方とも本物のユカ父さんで、万が一どちらかがどうにかなっても片方が残ってさえいれば死ぬことはない。
 それどころか片方がダメージを喰らっても元気な方に一旦吸収してまた分かれると元の元気な方へと戻ってまた二人に分けられる。
 
 とにかくその気になれば永遠にそれが繰り返され二人同時にダメージでも喰らわない限りほぼノーダメージでいられる。

 それにユカ父さんには「同調」があり、長年の経験もある。
 話を聞く限り「魔人戦争」の英雄であり、今までにも数々の大戦を駆け抜けてきたらしい。

 だから私はユカ父さんを信じる。


 「時間ね、私たちも指示された場所へ行きましょう」

 私がそんな事を思っていると、ヤリスは動きやすい格好にライトアーマーを身につけ、髪の毛をルラのように三つ編みに一つにまとめてそう言って来た。
 私たちは無言で頷き、担当である東の門へと向かうのであった。


 * * *


「行くぞ! 突撃!!」

 
 遊撃隊のリーダーはそう言って鬨の声を上げる。
 

 わぁあああああぁぁぁぁぁっ!!!!


 私たちの担当の東の門あたりにたむろしていたオーガとサイクロプスに一斉に襲いかかる。
 オーガやサイクロプスは奇襲に驚きはしたものの、すぐに対応をしてくる。

 まず私たちに対してサイクロプスが大きな棍棒を振り上げ襲ってくる。


「『同調』! はあっ!!」


 ぴょこんっ!


 ヤリスは「同調」と同時に覚醒状態にもなる。
 こめかみの上に三つづつトゲのような癖っ毛が生え、髪の毛が金色に変わる。
 瞳の色も金色に変わってからだが淡く輝く。

 ばっと飛び上がり、サイクロプスが振り下ろすその棍棒を蹴飛ばすとあっさりとバラバラに破壊してしまう。
 それに驚くサイクロプスはすぐにその棍棒を手放しヤリスに向かって平手でハエ叩きのようにばちーんと潰しに来る。


「あたしは防御も『最強』!!」

 
 ばんッ!!

 ……ぐ、ぐぐぐぐぐ!


「ヤリス、ルラ!」

 しかしヤリスが潰される寸前にルラがチートスキル「最強」を使ってその攻撃を防ぐ。
 あわや潰されると思った瞬間にルラが入ってその攻撃を受け止めた。

「ありがと、ルラっ! はぁっ!! 三十六式が一つ、チャリオットぉっ!!」

 ルラが受け止めたその手の平の下からヤリスは抜け出し、そして大きく膝を溜めて一気に飛び上がり、強烈な体当たりをする。

 
 どごぉ~んっ!


『ぐがぁっ!』

 「鋼鉄の鎧騎士」くらいある巨体のサイクロプスをヤリスはその体当たりで宙に浮かばせる。
 かなりの衝撃だったのだろう、サイクロプスは今の一撃でその一つ目を白目にして気絶してしまったようだ。
 サイクロプスはそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 どったぁ~ん!
 ぴくぴく……


『はぁ、まんず凄い嬢ちゃんもいたもんだがや! まるでルラの嬢ちゃんみたいだがや!!』

『村長、んな事言ってる場合じゃないだに! 結構な数の連中が来てるだに!!』

 ん?
 この声、どこかで……

 声のした方を見ると、嬉々として冒険者の皆さんと戦っているオーガがいた。
 しかしこのオーガ、どこかで……


「あ~っ! コルネル長老だぁッ!!」


 私が必死に思い出そうとしているとルラがいきなり声を上げた。

『あんれ、ルラの嬢ちゃんでねが? なしてルラの嬢ちゃんがこげんとこおるん??』

「え、ええっ? コルネル長老!?」

 驚いた。
 イージム大陸の森の奥。デルバの村の長老だった!


「なんでコルネル長老がこんな所にいるんです!?」

『あんれ、リルの嬢ちゃんまでおんのかい? いんやぁ、久ぶだなっす」


 そう言って子供には決して見せてはいけない笑みを浮かべる。


「リル、ルラ、下がって! はぁっ!!」

「ちょ、ヤリスたんま! ストーップっ!!」

 冒険者の攻撃をいなししながらこちらに話しかけているコルネル長老。なんか以前よりさらに筋肉が増えているような感じ。
 そこへヤリスが戻って来て攻撃を掛けようとするのを私は慌てて止める。

「コルネル長老、皆さん攻撃を止めてください! このオーガの人たちは話が分かる人たちです!!」

 私が慌ててそう言うも、なかなか聞き入れてもらえない。
 だが、ここでコルネル長老は驚くほど大きな声を上げる。


『皆の者、戦闘を止めるだにっ!!』


 びりびりと空気を揺るがすそれはまるでドラゴンの咆哮のように周りに響き、あちこちで争っていた者たちの手を止める。
 そしてオーガたちはさっとその場を飛び退きこちらを見る。


「コルネル長老、ありがとうございます。皆さんも手を止めてください。このオーガたちは話が出来る人たちです」

「リル、でもこいつらジュメルに操られているんじゃ……」

 ヤリスはそれでも身構えたまま私の前に出る。
 それを見てコルネル長老はにたぁ~っと笑う。

『まんず、ルラの嬢ちゃん以外にあのサイクロプスをぶっ倒すとは恐れ入ったがに。嬢ちゃん名前は何ね??』

「私はヤリス、ヤリス=ルナ・シード・ガレント!」

 ヤリスはそう言ってぐっとこぶしをコルネル長老に向ける。
 コルネル長老はヤリスの名前を聞いて顎に手を当てしばし考えこむ。

『ガレントって事は、嬢ちゃんガレントの姫様かなにかかね? 何ね、ガレントもこの争いに出てきたがに??』

「これは私個人の女神様の導きによる参戦よ! ガレントとは関係ない!!」

 そう言い切るヤリスを見てコルネル長老は私を見る。

『儂等はイリカさに協力してエルフの双子ってのを探しているだに。なんでも魔王様に仇なす連中を退治する能力を持ってるとかだに。だから何もしなければ儂らはあんたらと構えるつもりはないだに』

 コルネル長老はそう言ってヤリスに向き直る。
 しかしヤリスはコルネル長老を睨んだまま言う。


「エルフの双子って、リルとルラの事でしょ? リルとルラをどうするつもりよ!?」

『はえ? まんず、そう言えばリルの嬢ちゃんとルラの嬢ちゃんは双子だったがに! おおぉ、これは盲点だったがに!!』


 いや、気付くよね普通?


『あんれまぁ、言われて見ればそうだがに!』

『そういやリルの嬢ちゃんとルラの嬢ちゃんは双子だに!!』

『したっけ、イリカさこの事知ってんのけ?』


 後ろで話を聞いていた他のオーガの皆さんもそんな事言い出した。

「と、とにかく! コルネル長老たちはジュメルであるイリカに騙されてます!! こんな事やめてください!!」

『リルの嬢ちゃんにそう言われてもだがなぁだに。儂らも魔王様に仇なす連中は見捨てておけんだに。いくらリルの嬢ちゃんの頼みとは言え、イリカとの約束もあるさね。どうしてもというなら……』

 そう言ってコルネル長老はびっと親指を自分に向けて言う。


『この儂を倒してからイリカさの所へ行くだに!』

「分かった、あたしは『最強』!」


 そうコルネル長老が格好をつけた瞬間だった。
 ルラはスキルを発動して一瞬でコルネル長老の懐に入る。


「必殺ぱーんち!」


 どばきっ!!


『ぐはあっだにっ!!』


 ひゅるるるるる~
 ぼてっ!


『あ”-っ! 長老だにっ!!』

『長老、もう若くないだに! カッコつけるんじゃないだに!!』

『ルラの嬢ちゃん相手に儂らが勝てる訳無いだがや!!』


 オーガの皆さんは慌ててぶっ飛ばされたコルネ化長老に駆け寄る。

「え、えーとぉ……」

「何よ、ルラ私にやらせてくれないの?」

「駄目だよコルネル長老、悪の秘密結社に手を貸しちゃ! 悪い子はたこ焼きに変わってお仕置きだよ!」


 びしっ!


 なんかルラがまた変なポーズ取って決め台詞を言っている。
 周りにいた他のオーガの皆さんはすぐに両手を上げて降参をする。
 相手がルラだってのがやはり無理だと判断されたらしい。


『ぐぐぐぐぅ~流石ルラの嬢ちゃんだに…… 好い右フックだがや…… がくっ!』

『『『『コルネル長老ーっだにっ!!』』』』


 仲間のオーガの皆さんに抱きかかえられコルネル長老はがっくりとなる。
 いや、いくらなんでもルラも手加減はしているでしょうに。


「で、今までの経緯を教えてもらえますかコルネル長老?」

『おお、そうだに。実はだがや……』



 私があきれてそう言うとコルネル長老はむくりと起き上がりながら話を始めるのだった。

 
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