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第十五章:動く世界

15-6ヤリスの嫉妬

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 私たちはユカ父さんの指導の下、「同調」という新たな技を身に着けていた。


「そうです、何時でもすぐに『同調』出来るようにその感覚を研ぎ澄ましなさい!」

 只今朝の稽古中。
 昨日初めて「同調」が出来たけど、これがなかなか難しい。
 時間を掛ければ出来るのだけど、任意ですぐに「同調」出来るまで特訓となっていた。

「ううぅ、感覚はつかめたけどすぐすぐできない」

「これ、難しいねお姉ちゃん」

 二人してそんな事言いながら朝稽古が終わる。


「これより三日後に我々も貿易都市サフェリナに向かい出発します。それまでに何時でも『同調』が出来るようになっておきなさい」

「後二日ですか……」

「う~ん、うまくいかないよね~」

 時間はもうない。
 後は私たち次第なのだけど。

 ユカ父さんに出発の予定を聞かされ、私は内心焦りを感じるのだった。


 * * * * *


「リル、さっきから何やってるのよ? 受講中なのに??」

 受講中にもこっそり「同調」の練習をする。
 普通の状態になったり「同調」の状態になったりとやってるうちにだんだん感覚がつかめ始める。
 そんな事やっていたらヤリスに気付かれた。

「実は『同調』の練習をやってたんです。三日後にサフェリナに行かなきゃならないので……」


「『同調』ですって!?」

 
 こっそりヤリスにそう言うといきなり大きな声で驚かれた。


「はいはい、そこ! 受講中の私語は慎みなさい」

「あっ…… すみません……」


 ソルミナ教授にそう指摘されヤリスは小声で私に聞いてくる。

「一体何時『同調』が出来るようになったのよ!?」

「実は昨日ユカ父さんが帰って来てコツと手ほどきを受けたんですよ」

 ヤリスは変な顔しながら聞いてくるので答える。
 そして更に変な顔して私に聞いてくる。

「それにサフェリナって、貿易都市サフェリナよね? なんでリルがそんな所へ行くのよ??」

 ヤリスはコソコソ教科書を立てて壁を作り私に聞いてくる。
 私も教科書を立てて壁にしてコソコソと話をする。

「実は昨日帰って来たユカ父さんに手を貸してくれって言われたんですよ」

「……ずるい。リルだけ『同調』出来るようになるだなんて」

「あ~、ルラも出来るようになりましたよ?」


「なっ!? ルラも!!!?」


 ルラも「同調」できるって言ったらヤリスは大いに驚きの声を上げる。


「こらそこっ! 真面目に受講を受けなさい!! っと、時間ね。じゃあ今日はここまで」

 
 き~んこ~ん、か~ん~こぉ~ん♪


 ソルミナ教授に怒られたけど、丁度受講が終了する時間だった。
 ソルミナ教授は教材をまとめて教室から出て行く。
 それを見送って生徒たちもまばらに席を立ち始める。


「ずるい…… リルとルラだけ『同調』が出来るだなんて……」

 私もルラも荷物をまとめているとヤリスはそうぶつぶつつぶやく。
 そしてばっと顔を上げて私の肩に手を置く。

「リルとルラだけずるい! 私にも『同調』のやり方教えてよ!!」


 ガクガクガク!


「あががががぁ、ちょ、ちょっとヤリス落ち着いて、落ちついて!」


 ぴこん!


 私の肩を両手で押さえて揺さぶるヤリスが覚醒状態になる。
 途端に肩に置かれた手の力が増して揺さぶりがさらに激しくなる!!


 がっくんがっくんがっくん!!!!


「ず~るぅ~いぃ~っ!!」

「ちょ、ヤリス、ストップ、すとーっぷぅっ!!」

 ものすごい力でガクガクと揺さぶられてこのままじゃ脳みそがシェイクになっちゃう!!
 と、その瞬間私の目に移るヤリスが揺らぐ。
 肩に載せてある手もその動きが見える。

 私は慌ててその動きの先読みをしてスルリとヤリスの手から逃れる。

「あっ!? あれっ!? り、リル??」

「はぁはぁはぁ、落ちついてくださいヤリス。覚醒したヤリスの状態でそんなに揺らされたら脳みそがシェイクになっちゃいますよ!」

「お姉ちゃん、瞳の色が……」

 ん?
 ヤリスもルラも私の顔を見て、いや、目を見ている様だ。
 
 と、私もここで気付く。
 ヤリスやルラが揺らいで半透明なヤリスやルラが動いた後に実体のヤリスやルラが動いている。

 これって、「同調」した状態?

「お姉ちゃん、瞳が金色になってるよ。『同調』してるんだ」

「リルに瞳が金色に…… ずるい! 私にもそれ教えてよ!!」

 無意識に「同調」をしていたようだ。
 でもおかげでヤリスの揺さぶりから逃れられた。

 ユカ父さんはこの「同調」を使って信じられないような動きや魔法のような現象を起こしている。
 そうか、この感覚なんだ。
 すぐにでも「同調」をするっていうのは。


「どうやらリルさんとルラさんは『同調』が出来るようになったのですわね?」

 聞こえてきたこの声は!

「アニシス様!」

「あ、アニシス様だ~。お帰りぃ~」

「アニシス様! リルとルラだけずるいのよ!」

 振り返ると教室の戸口にアニシス様が立っていた。
 アニシス様はにっこりと笑ってから真顔に戻る。

「リルさん、ルラさん、それにヤリスも少しお時間宜しいですかしら?」

 そう言うアニシス様に私たちは顔を見合わせるのだった。


 * * * * *


「リルさんとルラさんには連合軍からの要望とファイナス市長の了解のもと貿易都市サフェリナに現れたジュメルの魔物討伐に協力をしてもらう事になったのですわ」


 私たちはソルミナ教授の研究室に来ていた。
 アニシス様は魔晶石核を手に持ちながら残念そうに言う。

「正直、私の方の『鋼鉄の鎧騎士』は間に合いませんわ。不足分の新型の連結型魔晶石核をもう一つ作っても『鋼鉄の鎧騎士』の素体を組み上げるのに最低でも三カ月はかかりますわ」

「なるほどね、だからサフェリナの方があれだけ騒がしかったんだ。避難してきている住民はこっちのボヘーミャにはあと二日で着くって所かしら?」

「そんな事になっていただなんて…… うちの国は動いていないの?」

 アニシス様の話に状況を理解したソルミナ教授もヤリスも驚いていた。
 そしてみんな私とルラを見る。


「ですのでリルさんとルラさんのあのスキルにみな期待をしちるのですわ。本来会議場では秘匿とされてましたが、リルさんとルラさんのスキルは女神様にも匹敵すると言う事が知られてしまいましたので……」

 うーん、私たちのチートスキルが連合軍の会議で知れ渡っているだなんて、一体誰が……

「今サフェリナで暴れている魔物を操っていると思われるジュメルはリスさんとルラさんを指名していましたので、巻き込まない様にしていたのですのにですわ……」

 あいつ等かっ!!
 やっぱジュメルって面倒な連中!!

「まあ、その辺は昨晩ユカ父さんからも頼まれましたからいいのですが……」

「それがたったの一晩で『同調』を身につけられるだなんてうらやましいわよ!!」


「……あの、ヤリス、もしかして気付いていないのですの?」


 昨晩の事を思い出しながらそう言うと、ヤリスがふくれてそう言う。
 しかしアニシス様は首をかしげて言う。


「ヤリスのその覚醒は『同調』に近い状態のはずですわ。私たち女神様の血を引く者は稀に覚醒をしますが、それは女神様由来のこの肉体と魂が上手くマッチングすると起こる現象ですわ。つまり、『同調』に近い状態のはずですわよ??」

「へっ?」


 アニシス様のその説明にヤリスは鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をする。
 
「シェル様のご説明を聞いていたのではないのですの?」

「え? あ? あ、あれ?? あの時はこの力を押さえる方法を教わって、そしてシェル様に久しぶりに会ってたんで浮かれてて……」

「ヤリス…… だからあなたの力の押さえ方が不安定の時があるってシェル様が仰っていたのですわね? 感情が高ぶるとすぐに魂と肉体が繋がりやすくなり、覚醒状態になると言う訳ですわよ?」

「あ~」

 なるほど、先ほど教室でヤリスが覚醒状態になったのはそう言う事か。
 でもそうするとヤリスは私たちよりもっと凄いんじゃないだろうか?


「でも、リルたちみたいのとは違うみたいなんだけど……」

「ふ~ん、どれどれ…… ヤリス、ちょっと覚醒して見せなさい」

 ソルミナ教授はそう言って瞳の色を金色にする。
 マーヤ母さんもそうだけど、意外と「同調」出来る人が多いんじゃないだろうか?

「んっ、これでいいですか?」


 ぴょこっ!


 ヤリスはすぐにこめかみの上に三つづつトゲのような癖っ毛を生やし、薄っすらと金色に輝く。
 覚醒状態になる。


「あ~、なるほど。魂と体が一部だけくっ付いていて完全な『同調』状態じゃないんだ。だから魔力と身体能力だけは高く成るけど本質がダメなんだ…… という事はこのくっ付いてる部分を離せば普通の状態になるのか。なるほど、これならシェルの指導でもすんなりできる訳だ」


 なんかソルミナ教授が言ってる。
 しかしその話だとヤリスは完全に「同調」が出来ていないと言う事か。


「でも、完全に『同調』が出来ていなくてあれだけ能力が上がるだなんて凄いじゃないですか!」

「それが私たち女神様の血を引く者たちなのですわ。ですから私たちから見えればヤリスはうらやましい存在なのですわよ」

 そう言って私とアニシス様はヤリスを見る。
 ヤリスはきょとんとしているけど、やはりすごい事なんだよなぁ。


「そうだったんだ…… それで、うちの国は動かないんですかアニシス様!?」

「ガレント王国は…… 七百年前の問題があるので他国への軍隊派遣はどの国も嫌がっていますわ。だからこの問題は全て連合軍が対処するべきだと。そして連合軍は先のスィーフでの痛手があるので戦力不足だったのですわ。ですのでファイナス市長をお呼びしてリルさんとルラさんのお力を借りるという方向へなったのですわ……」

 なるほど、そう言う事だったんだ。
 私はヤリスを見ると悔しそうにしている。

「確かに七百年前の王族がしでかしたことは体の良い侵略…… でもそれは女神様により断罪されたんだから、我が国にも因縁のあるジュメル討伐は必須。アニシス様、私も行きます!」

「ヤリス?」

「私のこの力はきっとこの時の為に女神様が授けてくれたんだわ! 私も行く!」

 

 ヤリスはそう言ってこぶしを握りながら立ち上がるのだった。 
 
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