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第十四章:脈動

14-12贅沢なフルーツタルト

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「何作るのよ、リル?」

「えへへへへ、一度やってみたかったんですよね~。でも沢山の果物使うし、手間もかかりますからねぇ~」

 
 ヤリスも覗き込んできて私の手元を見る。
 私は粉々にして牛乳でしっとりとなったビスケットの様子を見る。
 
 うん好い感じ。

 それを耐熱皿に薄く貼りつけてながら伸ばしてゆく。
 これを数個。
 後ちっちゃいのもいっぱい作っておく。


「さてと、次はっと」

 言いながらバターと砂糖を取り出し、それをよく練っていく。
 大体練れたら、そこへほぐした卵とアーモンドパウダーを加えて混ぜ、さらにバニラエッセンスを入れる。
 出来あがった餡を真ん中あたりに盛り付けていく。


「なになに、なんかすごくおいしそうな匂いなんだけど!?」

「まだですよ、あ、つまみ食いしちゃダメですからね? まだ生ですから」


 言いながら蝋燭に火をつけて、火の精霊サラマンダーを呼び出す。


「炎の精霊よ、私を手伝って!」


 すぐにろうそくの炎からサラマンダーが出て来てチロチロと舌を出している。
 私はレンガを取り出し机の上に簡易オーブンを組み立てる。
 そしてサラマンダーにレンガオーブンの中を温めるようお願いをする。

 サラマンダーはすぐにオーブンの中に入ってくるくると体を回すと、簡易レンガオーブンは熱を帯びる。


「うん、いい感じかな?」

 私は言いながら先ほどのクッキーを砕いた生地にアーモンドパウダー入りのあんこをオーブンに入れる。
 中にサラマンダーがいるけど、いい感じに温度調節をお願いするとだんだん良い香りがしてくる。

 そして焼く事しばし。

「そろそろ良いかな?」

 取り出してみるとしっとりとした感じで旨く焼けていた。
 次いで小さいのとかもどんどんと焼いて行って、焼き上がった物はレンガと網で作った粗熱取りの上にどんどん並べて行く。


「これはケーキですの?」

「ちょっと違うんですよ。まだもう少しかかるので待っていてくださいね~」

 アニシス様はすんすんと鼻を動かし焼き上がった下地の香りを楽しむ。
 
「いい香りだね~、アーモンドって焼くと良い匂いするんだ~」

「まだまだよ、ここからカスタードクリーム作ってっと」

 私は今度はカスタードクリームを作るためにボウルに卵黄、砂糖、薄力粉、でんぷん粉を順に入れて、その都度泡立て器で混ぜる。
 そして温めた牛乳を加えて混ぜたら、こしながら鍋に戻す。

「ここからが要注意なのよね」

 言いながら火にかけ、鍋底が焦げ付かないようベラで混ぜながら炊いて、火を止めてバターとバニラエッセンスを加えて混ぜ合わせたら、バットにあけて魔法で作った氷水に当てて冷ます。
 トロトロだったカスタードクリームは冷やされてもったりとした感じになって来る。

「よしっと、そしたらこれに入れて~」

 焼き上がって荒熱のとれた下地をお皿から取り出し、台の上に乗せる。
 そしてそこへカスタードクリームを盛っていく。
 真ん中を少し盛り上げると仕上げりが良くなるので、盛り上げておく。

「さあ、ここからね!」

 私はアニシス様が持って来た沢山の果物を切りながらその上に並べて行く。
 見栄えが良くなるように、配色に気を使ったり、並べ方を変えたりと。

「さてと、最後に~」

 ポーチからリンゴのジャムを取り出す。
 それを少し水で薄めて刷毛に浸けて乗せた果物の上から塗る。
 こうすると果物の乾燥を防ぐと同時に切り口の酸化防止になるし、見た目も艶やかになる。

「後は以前作っておいたこのクリームをデコレートしてっと!」

 以前作っておいてクリームの絞り器に入れておいたものを魔法のポーチから取り出し、デコレート。
 あ、ちっちゃい一口サイズなんかはクリームの上に果物載せたりして見栄えをよくする。
 なんだかんだ言って大きいのとか小さいのとかかなりの数を作ってからお皿に乗せて皆さんの前に出す。


「はい、出来上がりました! フルーツタルトです!!」


 おおおぉ~っ!!!!

 
 途端に歓声が上がる。
 そりゃそうだ。
 あれだけの色々な果物を惜しげもなくふんだんに使い、そして見た目が良くなるように並べてある。
 一口サイズのにも最低三種類は果物載せているので見た目も鮮やかだ。


「なにこれ! 凄い、奇麗!!」

「初めて見ますわね、ケーキとも少し趣が違いますし、何より色鮮やかな果物が素晴らしいですわ」

「こりゃぁ、味の方も楽しみだね」

「凄い凄い!」


 ヤリスもアニシス様も出来あがったフルーツタルトを見て驚いている。
 ミリンディアさんも見入っているし他のスィーフの人たちも喜んでいる。

 あ、ウ・コーンさんとサ・コーンさんは既によだれが垂れ始めている。
 この二人、ごつい成りにしては甘いもの好きみたい。


「へぇ、これは凄いわね。見た目も奇麗だしこの表面のてかてかしているのはナニ?」

「リンゴジャムですね、ちょっと薄めの」

 ソルミナ教授も起き上がりこっちへ来る。
 そして指さしながら表面のてかてかについて聞いてくる。
 一口サイズのやつとかすぐ食べるならつけなくてもいいけど、大きいやつとかこれを塗っておくと見栄えがぐっと良くなる。


「お姉ちゃん早く食べようよ!」

「はいはい、ちょっと待ってね。お茶を入れ直すから」


 タルトは美味しいけど果物に比べればずっと甘い。
 なのでお茶は必須。

 私はお茶を入れながら大きめのタルトを切り分けでみんなに配る。


「まずはこっちの大きいのからどうぞ」

 配り終わって私がそう言うとみんな早速フォークを手に取ってそれを口に運ぶ。


 ぱくっ!


「「「「「「「んっ!」」」」」」」


 皆さん口に入れた途端に目を輝かす。
 そしてどんどん口に運ぶ。


「あまぁ~い! これ美味しい!! なにこれ、真ん中のトロっとしたのも最高!!」

「初めてですわね、こう言う食感と言うか。それに上に載っている果物が下地の甘い生地に対してさっぱりとして美味しいですわぁ~」


 ヤリスはもうがっつきまくっている。
 流石にアニシス様はお上品に口に運んでいるけど、何時もより消費するスピードが速い。


「なんだいなんだいこれはぁ! こんなおいしい甘味初めてだよ!?」

「本当だね、こんなのスィーフで食べた事無いね!」

「スィーフも果物は多い方だけど、こう言う食べ方は初めてね」

「あーん、これ癖になるぅ~」


 ミリンディアさん、驚きすぎ。
 ハーミリアさんやクロアさん、エレノアさんもにっこり顔でそれを口に運んでいる。
 と、ここでソルミナ教授も声を上げる。


「これよこれ! こう言ったガツンと甘いものが欲しかったのよ!! リルおかわり!!」


「はいはい、まだまだ沢山有るし、ニ、三日は涼しい所に置いておけば持ちますから。たくさん食べても良いですけど夕ご飯食べられなくなっても知りませぇ……」

 タルトを更に切り分けおかわりをソルミナ教授に手渡しながら私はルラを見る。
 ルラのやつ、もう三切れ目のタルト。


「ルラ! あんまり食べ過ぎると夕ご飯食べれなくなっちゃうよ! ユカ父さんにまた怒られるよ!!」


「あ”っ」


 私がそう言うと、ここにいる全員がタルトを食べる手を止める。
 いや、美味しいとか言って食べてくれるのは嬉しいけど、さっき果物もりんご飴も食べてさらにタルトだよ?
 
 いくら女の子はスィーツは別腹でも流石にこれだけ食べちゃうと……


「大丈夫よ! 私はこれがお夕飯だから!!」

「いや、ソルミナ教授そんなのだからソルガさんに振り向いてもらえないんですよ……」

「はうっ!」


 だめだ。
 こんなダメ大人エルフになってしまっては。



 私は私の言葉が刺さっているダメ大人エルフのソルミナ教授を見ながらつくづくそう思うのだった。

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