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第十三章:魔法学園の日々

13-25切り札

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「それじゃぁ始めるわよ!」


 ヤリスはそう言って体をぼうっと薄く光らせ瞳を金色に、こめかみの上に左右三つずつトゲのような癖っ毛をぴょこんと生やす。
 これが本来のヤリスの姿。
 女神様の血を受け継ぐ覚醒者。
 
 その力は常人をはるかに凌駕し、保有する魔力も半端ない。


『何時でもいいですよ、ヤリス王女!』

 アイザックさんはそう言って「鋼鉄の鎧騎士」改修型を身構える。
 と、ヤリスはすぐにアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」に拳を叩きつけようとする。


 ばっ!


 しかし驚いた事にヤリスの拳がアイザックさんに届く寸前にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型が目の前で消える。


「なっ!?」


 これには流石のヤリスも驚く。
 いつもだったら紙一重でかわしていたのが完全にその巨体を消し去り、ヤリスの拳が空を切る。


『こっちですよ、ヤリス王女!』


 その声はヤリスのすぐ後ろから聞こえた。
 慌てて地面に着地して振り向くとアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型がヤリスの後ろに回り込んでいた。

「いつの間に、しかし! 三十六式が一つ、レイピア!!」

 ヤリスは半身後ろを向いていたが上半身を前に倒しながら後ろ足を高く跳ね上げ鋭い蹴り上げをする。
 しかしアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型はそれを片手の指ではしっと掴み、そのままヤリスを後ろに放り投げる。


 はしっ!
 ぶんっ!!


「う、うわぁああああぁぁぁぁぁっ!!」

 こんな返しをされると思っていなかったヤリスはものの見事に投げ飛ばされた。

 なんかすごい。
 今までのギリギリの動きで何とかこなしていたのとは全く違う。
 ヤリス相手に余裕さえ感じられる。


「そこまで!」


 私がそう思っていたらロディマス将軍がこの手合わせの終了を告げる。


「くぅ~、ロディマス将軍もう少しやらせてよ! 今のはちょっと油断しただけなんだから!!」

 投げ飛ばされてすぐに戻って来たヤリスはロディマス将軍に食って掛かる。
 しかし隣にいたアイシス様にぎろりと睨まれてその勢いを無くす。

「ヤリス、もう十分です。これ以上やってせっかくの改修型が壊れでもしたらどうするのですか?」

「あ、いや、それはその……」

 ヤリスはアイシス様にそう言われもごもごと歯切れの悪い事を言う。
 それを見たルラはヤリスの肩にポンんと手を置き言う。


「ヤリス、今度はあたしの番だよ。ヤリスの分もあたしが頑張るからね!」

「いや、あんたはは頑張り過ぎちゃダメでしょうに。今度壊したらアニシス様の部屋に遊びに行くだけじゃすまなくなっちゃうわよ?」

 アニシス様にこれ以上借りを作ると取り合返しのつかない事になりそうで怖い。
 お部屋に遊び行くのだって正直ビクビクものなのに。

「くぅ~、もっと本気出せばよかった」

「いや、ヤリスも手合わせで本気出したら駄目でしょうに……」

 私は悔しがるヤリスを見てそう言うのだった。


 *


「それでは、始めっ!」


 今度はルラとアイザックさんの手合わせとなる。
 普通に考えればヤリスよりさらに小さいルラが身の丈六メートルはある巨人相手にどうこうなんて出来っこない。
 
 しかしルラにはチートスキル「最強」がある。


「あたしは『最強』! いっくぞぉ!!」


 ルラは早速スキルを発動させてアイザックさんの「鋼鉄に鎧騎士」に飛び掛かる。
 しかしヤリスの時同様にすぐにその姿を消してルラの後ろに現れる。

「分かってるよ!」

 しかしルラもすぐにアイザックさんの目の前から消えてなんとアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型の後ろに現れる。

「早い!」

 隣で見ていたヤリスは思わずそう声を漏らす。
 しかし後ろに現れたルラが拳を叩き込む前にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型も状態をひねりギリギリでそれをかわす。


「う~ん、外部感知器の精度をもう少しあげましょうですかしら?」

「いや、あの状態で的確にルラの拳を避けるとか十分なんじゃ……」

 避ける動きを見ながらアニシス様はそうつぶやく。
 後ろで全く見えない状態からあのパンチを避けるだなんて相当なモノなのに。


「えへへへへ~、凄いね! じゃあこれは!?」

 ギリギリでよけられたルラはそのまま「鋼鉄の鎧騎士」の背中に手を着き思い切り体を振ってルラを起点にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型を投げ飛ばす。


 はし!

 ぶんっ!! 


『うおっ! しかし!!』


 流石にこれにはアイザックさんも驚いたようだけど、投げられたあの巨体をひねってまるで猫のように体勢を整えて地面に着地する。
 それも砂埃をほとんどたてないで。


「次行っくよぉ~! 必殺きーっく!!」

「ちょ、ルラ!!」


 ルラの必殺技の一つ、必殺きーっくは地竜でさえ一発で倒せる。
 それがもしアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に決まればまた壊れちゃうかもしれない!!


『何の、止めて見せる!!』


 しかしアイザックさんもアイザックさんでルラの必殺きーっくを真正面から受け止めようとする。

「だめっ! また壊れたら私がアニシス様に色々されちゃうぅっ!!!!」

 ほとんど悲鳴に近い私の叫びにルラの必殺きーっくがアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に入る。


 どがっ!!


『くおぉおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!』


 しかし何とルラの必殺きーっくをアイザックさんの鋼鉄の鎧騎士は両の手をクロスさせ耐える。
 それはあの巨体自体もズリズリと地面を擦らせて後ろへと押しやるも何とかルラの必殺きーっくを耐えている!?


「おおおぉっ!?」

 蹴りを入れたルラも踏ん張っているアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に驚き、ひょいっと空中でバク転をして距離をとって地面に降り立つ。


 とんっ


「へへへへへっ、凄いね! あたしの必殺きーっくが初めて止められちゃったよ!!」

『くぅ~、なんて蹴りだ。前のままなら完全に粉々にされていた』


 アイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型は何とかルラの蹴りを耐えてクロスさせていた手をおろす。


「そこまでだ! これ以上されたらせっかくの機体が壊されてしまうからな」

「流石ルラさんですわ。外装にひびを入れるだなんてですわ!!」


 ロディマス将軍やアニシス様がそう言ってルラとアイザックさんの手合わせは終了をする。


「う~ん、もう少しやりたかったけど仕方ないよね。えへへへ、アイザックさんの新しい『鋼鉄の鎧騎士』凄いね~」

 ルラはぺこりと頭を下げてからこっちへ戻って来る。


「あれ、私じゃ防げないわよ? ルラのあの蹴りは覚醒した私でも防げないのにアイザックの『鋼鉄の鎧騎士』は防いだ。アニシス様ちょっと凄過ぎじゃないですか?」

「あらあらあら~。だって予算は使いたい放題だし、切り札にしてくれって言われましたのよ? ですから私も出来る事すべてやっちゃいましたわ。でも流石にルラさんには敵わないのですわね~。あのままやっていたら改修型でも壊されてしまいますわ」

 そう言ってアニシス様はアイシス様とロディマス将軍を見る。
 するとロディマス将軍は苦笑して言う。

「流石に報告に在ったエルフの姉妹と言う事ですかな? ジュメルがこの二人をつけ狙うと言うのも頷ける。しかしこの二人をどうにかなど出来るものですかな?」

「難しいでしょうね。しかし相手はジュメルです。とにかくこれで連合軍もスィーフへと行けますね」

 ロディマス将軍のそれにアイシス様がそう言うとロディマス将軍はため息をつく。
 そしてアイザックさんとアニシス様に行って改修型の点検を始める。


「しかし、スィーフに出たって魔物? そいつって一体何者なのよ?」

 ヤリスはアニシス様たちの様子を見ながらミリンディアさんたちに聞く。
 しかしミリンディアさんたちはそろって首を横に振ってから言う。

「スィーフでそんな化け物が出たなんて聞いた事はないよ。ちょっと前に田ウナギの群れが近隣の水田にあふれたってのは聞いたけど、いつの間にかいなくなったらしいしね。その昔ジュメルが巨人を操っていたってのとも話が違うみたいだしね」

 うっ! 
 田ウナギは私たちも関わっていたけど、確かにあの頃にそんな化け物が出たなんて聞いていない。
 
 中古でもガレント王国の「鋼鉄の鎧騎士」を破壊する化け物。



 私は何となくスィーフの方を見るのだった。

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