323 / 437
第十三章:魔法学園の日々
13-25切り札
しおりを挟む「それじゃぁ始めるわよ!」
ヤリスはそう言って体をぼうっと薄く光らせ瞳を金色に、こめかみの上に左右三つずつトゲのような癖っ毛をぴょこんと生やす。
これが本来のヤリスの姿。
女神様の血を受け継ぐ覚醒者。
その力は常人をはるかに凌駕し、保有する魔力も半端ない。
『何時でもいいですよ、ヤリス王女!』
アイザックさんはそう言って「鋼鉄の鎧騎士」改修型を身構える。
と、ヤリスはすぐにアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」に拳を叩きつけようとする。
ばっ!
しかし驚いた事にヤリスの拳がアイザックさんに届く寸前にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型が目の前で消える。
「なっ!?」
これには流石のヤリスも驚く。
いつもだったら紙一重でかわしていたのが完全にその巨体を消し去り、ヤリスの拳が空を切る。
『こっちですよ、ヤリス王女!』
その声はヤリスのすぐ後ろから聞こえた。
慌てて地面に着地して振り向くとアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型がヤリスの後ろに回り込んでいた。
「いつの間に、しかし! 三十六式が一つ、レイピア!!」
ヤリスは半身後ろを向いていたが上半身を前に倒しながら後ろ足を高く跳ね上げ鋭い蹴り上げをする。
しかしアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型はそれを片手の指ではしっと掴み、そのままヤリスを後ろに放り投げる。
はしっ!
ぶんっ!!
「う、うわぁああああぁぁぁぁぁっ!!」
こんな返しをされると思っていなかったヤリスはものの見事に投げ飛ばされた。
なんかすごい。
今までのギリギリの動きで何とかこなしていたのとは全く違う。
ヤリス相手に余裕さえ感じられる。
「そこまで!」
私がそう思っていたらロディマス将軍がこの手合わせの終了を告げる。
「くぅ~、ロディマス将軍もう少しやらせてよ! 今のはちょっと油断しただけなんだから!!」
投げ飛ばされてすぐに戻って来たヤリスはロディマス将軍に食って掛かる。
しかし隣にいたアイシス様にぎろりと睨まれてその勢いを無くす。
「ヤリス、もう十分です。これ以上やってせっかくの改修型が壊れでもしたらどうするのですか?」
「あ、いや、それはその……」
ヤリスはアイシス様にそう言われもごもごと歯切れの悪い事を言う。
それを見たルラはヤリスの肩にポンんと手を置き言う。
「ヤリス、今度はあたしの番だよ。ヤリスの分もあたしが頑張るからね!」
「いや、あんたはは頑張り過ぎちゃダメでしょうに。今度壊したらアニシス様の部屋に遊びに行くだけじゃすまなくなっちゃうわよ?」
アニシス様にこれ以上借りを作ると取り合返しのつかない事になりそうで怖い。
お部屋に遊び行くのだって正直ビクビクものなのに。
「くぅ~、もっと本気出せばよかった」
「いや、ヤリスも手合わせで本気出したら駄目でしょうに……」
私は悔しがるヤリスを見てそう言うのだった。
*
「それでは、始めっ!」
今度はルラとアイザックさんの手合わせとなる。
普通に考えればヤリスよりさらに小さいルラが身の丈六メートルはある巨人相手にどうこうなんて出来っこない。
しかしルラにはチートスキル「最強」がある。
「あたしは『最強』! いっくぞぉ!!」
ルラは早速スキルを発動させてアイザックさんの「鋼鉄に鎧騎士」に飛び掛かる。
しかしヤリスの時同様にすぐにその姿を消してルラの後ろに現れる。
「分かってるよ!」
しかしルラもすぐにアイザックさんの目の前から消えてなんとアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型の後ろに現れる。
「早い!」
隣で見ていたヤリスは思わずそう声を漏らす。
しかし後ろに現れたルラが拳を叩き込む前にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型も状態をひねりギリギリでそれをかわす。
「う~ん、外部感知器の精度をもう少しあげましょうですかしら?」
「いや、あの状態で的確にルラの拳を避けるとか十分なんじゃ……」
避ける動きを見ながらアニシス様はそうつぶやく。
後ろで全く見えない状態からあのパンチを避けるだなんて相当なモノなのに。
「えへへへへ~、凄いね! じゃあこれは!?」
ギリギリでよけられたルラはそのまま「鋼鉄の鎧騎士」の背中に手を着き思い切り体を振ってルラを起点にアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型を投げ飛ばす。
はし!
ぶんっ!!
『うおっ! しかし!!』
流石にこれにはアイザックさんも驚いたようだけど、投げられたあの巨体をひねってまるで猫のように体勢を整えて地面に着地する。
それも砂埃をほとんどたてないで。
「次行っくよぉ~! 必殺きーっく!!」
「ちょ、ルラ!!」
ルラの必殺技の一つ、必殺きーっくは地竜でさえ一発で倒せる。
それがもしアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に決まればまた壊れちゃうかもしれない!!
『何の、止めて見せる!!』
しかしアイザックさんもアイザックさんでルラの必殺きーっくを真正面から受け止めようとする。
「だめっ! また壊れたら私がアニシス様に色々されちゃうぅっ!!!!」
ほとんど悲鳴に近い私の叫びにルラの必殺きーっくがアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に入る。
どがっ!!
『くおぉおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!』
しかし何とルラの必殺きーっくをアイザックさんの鋼鉄の鎧騎士は両の手をクロスさせ耐える。
それはあの巨体自体もズリズリと地面を擦らせて後ろへと押しやるも何とかルラの必殺きーっくを耐えている!?
「おおおぉっ!?」
蹴りを入れたルラも踏ん張っているアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型に驚き、ひょいっと空中でバク転をして距離をとって地面に降り立つ。
とんっ
「へへへへへっ、凄いね! あたしの必殺きーっくが初めて止められちゃったよ!!」
『くぅ~、なんて蹴りだ。前のままなら完全に粉々にされていた』
アイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」改修型は何とかルラの蹴りを耐えてクロスさせていた手をおろす。
「そこまでだ! これ以上されたらせっかくの機体が壊されてしまうからな」
「流石ルラさんですわ。外装にひびを入れるだなんてですわ!!」
ロディマス将軍やアニシス様がそう言ってルラとアイザックさんの手合わせは終了をする。
「う~ん、もう少しやりたかったけど仕方ないよね。えへへへ、アイザックさんの新しい『鋼鉄の鎧騎士』凄いね~」
ルラはぺこりと頭を下げてからこっちへ戻って来る。
「あれ、私じゃ防げないわよ? ルラのあの蹴りは覚醒した私でも防げないのにアイザックの『鋼鉄の鎧騎士』は防いだ。アニシス様ちょっと凄過ぎじゃないですか?」
「あらあらあら~。だって予算は使いたい放題だし、切り札にしてくれって言われましたのよ? ですから私も出来る事すべてやっちゃいましたわ。でも流石にルラさんには敵わないのですわね~。あのままやっていたら改修型でも壊されてしまいますわ」
そう言ってアニシス様はアイシス様とロディマス将軍を見る。
するとロディマス将軍は苦笑して言う。
「流石に報告に在ったエルフの姉妹と言う事ですかな? ジュメルがこの二人をつけ狙うと言うのも頷ける。しかしこの二人をどうにかなど出来るものですかな?」
「難しいでしょうね。しかし相手はジュメルです。とにかくこれで連合軍もスィーフへと行けますね」
ロディマス将軍のそれにアイシス様がそう言うとロディマス将軍はため息をつく。
そしてアイザックさんとアニシス様に行って改修型の点検を始める。
「しかし、スィーフに出たって魔物? そいつって一体何者なのよ?」
ヤリスはアニシス様たちの様子を見ながらミリンディアさんたちに聞く。
しかしミリンディアさんたちはそろって首を横に振ってから言う。
「スィーフでそんな化け物が出たなんて聞いた事はないよ。ちょっと前に田ウナギの群れが近隣の水田にあふれたってのは聞いたけど、いつの間にかいなくなったらしいしね。その昔ジュメルが巨人を操っていたってのとも話が違うみたいだしね」
うっ!
田ウナギは私たちも関わっていたけど、確かにあの頃にそんな化け物が出たなんて聞いていない。
中古でもガレント王国の「鋼鉄の鎧騎士」を破壊する化け物。
私は何となくスィーフの方を見るのだった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜
真田音夢李
恋愛
『やぁ‥君の人生はどうだった?』86歳で俺は死んだ。幸せな人生だと思っていた。
死んだ世界に三途の川はなく、俺の前に現れたのは金髪野郎だった。もちろん幸せだった!悔いはない!けれど、金髪野郎は俺に言った。『お前は何も覚えていない。よかったな?幸せだ。』
何言ってんだ?覚えてない?何のこと?だから幸せだったとでも?死ぬ前の俺の人生には一体何が起こってた!?俺は誰かも分からない人物の願いによってその人生を幸せに全うしたと?
一体誰が?『まさに幸せな男よ、拍手してやろう』そう言って薄ら笑いを浮かべてマジで拍手してくるこの金髪野郎は一体なんなんだ!?そして、奴は言う。ある人物の名前を。その名を聞いた途端に
俺の目から流れ落ちる涙。分からないのに悲しみだけが込み上げる。俺の幸せを願った人は誰!?
分からないまま、目覚めると銀髪に暁色の瞳をもった人間に転生していた!けれど、金髪野郎の記憶はある!なのに、聞いた名前を思い出せない!!俺は第二の人生はテオドールという名の赤ん坊だった。此処は帝国アレキサンドライト。母親しか見当たらなかったが、どうやら俺は皇太子の子供らしい。城下街で決して裕福ではないが綺麗な母を持ち、まさに人知れず産まれた王子と生まれ変わっていた。まさか小説のテンプレ?身分差によって生まれた隠された王子?おいおい、俺はそんなのどうでもいい!一体誰を忘れてるんだ?そして7歳になった誕生日になった夜。夢でついに記憶の欠片が・・・。
『そんな都合が言い訳ないだろう?』
またこいつかよ!!お前誰だよ!俺は前世の記憶を取り戻したいんだよ!
初恋に敗れた花魁、遊廓一の遊び人の深愛に溺れる
湊未来
恋愛
ここは、吉原遊郭。男に一夜の夢を売るところ。今宵も、一人の花魁が、仲見世通りを練り歩く。
その名を『雛菊』と言う。
遊女でありながら、客と『情』を交わすことなく高級遊女『花魁』にまでのぼりつめた稀な女に、今宵も見物人は沸く。しかし、そんな歓声とは裏腹に雛菊の心は沈んでいた。
『明日、あちきは身請けされる』
情を売らない花魁『雛菊』×吉原一の遊び人『宗介』
華やかな吉原遊郭で繰り広げられる和風シンデレラストーリー。果たして、雛菊は情を売らずに、宗介の魔の手から逃れられるのか?
絢爛豪華な廓ものがたり、始まりでありんす
R18には※をつけます。
一部、流血シーンがあります。苦手な方はご自衛ください。
時代考証や廓言葉等、曖昧な点も多々あるかと思います。耐えられない方は、そっとブラウザバックを。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる