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第十二章:留学

12-39大魔導士杯第三戦目その2

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 大魔導士杯第三戦目は「美しき料理」と言うお題だった。


 もともとこの大魔導士杯は例年「知識」、「体力」、「芸術」を取り込んでいる為何がお題になるかは分からないものの、この三つは必ず焦点となっていたらしい。
 そして例年出場は十六チームで始まるようで、もしそれ以上だと予備戦をするらしい。
 トーナメントの勝ち抜きで勝敗を決めていくため十六チームが決まるとこの「知識」、「体力」、「芸術」で勝敗を決めて行き、最後には決勝戦となる。


「リルがいるから大丈夫ってどう言う事よ、ルラ?」

「もしかして、リルさんってお料理が得意ですの?」

 当然と言えば当然だけど、ヤリスもアニシス様もルラに聞く。
 するとルラは満面の笑みで答える。

「そうだよ、お姉ちゃんの作るお料理はどれもみんな美味しいんだから!」

 ルラがそう言うとヤリスもアニシス様も私を見る。

「と言う事は……」

「この勝負、勝ったも同然ですの?」

「いえいえ、いくらお料理できるからって『美しき料理』って何ですか?」

 料理ってのは美味しくいただけるのと見た目が素晴らしいのはちょっと違う。
 例えばカレーライスを思い出してほしい。
 あれって茶色い液体がご飯に載っていて決して見た目が凄く良いとは言えない。
 一昔前はカレーのルーなんかを魔法のランプみたいな別の銀色の容器に入れて提供したりとかしていたらしいので、そう考えると昔からいろいろと皆さん苦労はしている様だ。

 そう言えば生前近所のインド料理ではカレーってご飯よりナンで食べる感じが多かったみたいで、見た目は日本のカレーライスよりよかったなぁ。

「でもさ、お姉ちゃんなら大丈夫て今朝ユカ父さんが言ってたよ?」

「え? 何時?? 聞いてないよ??」

 ルラにそう言われますます親バカの確信犯である学園長とマーヤさんにジト目をする。
 
 あ、学園長の口元が笑っている。
 マーヤさんもにっこりとしてこちらを見ている。

 まったく……

「見た目をよくする『美しき料理』って……」

 そう言いながら以前学園長に言われた事を思い出す。


 * * *


「料理とは五感で楽しむものです。まずはその見た目。四季折々の良さを取り入れ鮮やかさを感じられる心づかいが重要です。次に香り。かぐわしき香りを楽しむ為には打ち消し合う素材を使ってはいけません。そして歯ざわり。口にして先ず感じるのはその食感。かみしめるその素材を十分に楽しめるように心掛けなければなりません。次いで音。噛み切る時に、咀嚼する時に漏れ出す心地よい音は素材に感謝の気持ちを込めながら楽しむものです。最後に味。これはその素材の味を際立たせるも良し、複雑な味わいで驚きをもたらすも良し、まさに料理の集大成になるのです」

「こらこらユカ、この子たちにいきなりそんな上級な事を言ってもだめでしょ? 良い事リルにルラ、お料理で一番大切なのはその人の為に作ってあげる気持ちよ? ユカの言っている高等な事もゆくゆくは必要かもしれないけど、一番大切なのは真心なの。誰かの為に作るお料理はきっとその人に笑顔をもたらすわ」

 あれは確かマーヤさんのお料理を手伝ってお砂糖と塩を間違えた時だった。
 食卓に上った私が手伝って失敗した小鉢を食べた時に学園長が言い出した事だったけど、マーヤさんはそう言ってそのしょっぱい小鉢をご飯と一緒に無理矢理平らげてしまった。
 そしてにっこり顔で「ご飯と一緒なら佃煮と同じで大丈夫よ、リルは頑張って私を手伝ってくれたんだもんね~」とか言っていた。

 学園長はその後無言でマーヤさんと同じくご飯と一緒に私の失敗作を平らげていた。

 なんかあの時は申し訳なかったけど、二人とも無理してでも私が作った小鉢を平らげていた。
 ほんと、親バカなんだから……

 




「このお題、何が何でも勝たなきゃいけないな…… よし、やりましょう!」

 私はそうみんなに言うのだった。




 * * * * *


 第三戦目の相手はスィーフチームだった。

「まあ、あの方たちが相手ですの? う~ん、これに勝ちましたら私の元へ嫁いでもらえないでしょうかしら?」

「アニシス様、流石にスィーフの国関係の人間をティナの国に呼ぶのはまずいんじゃないでしょうか?」

「あらヤリス、南方の国との友好関係を築くには良い案だと思いますわ。私の妻となれば両国の関係もより一層強くなると言うものですわ」

 そう言うアニシス様に私は思わずジト目で見る。
 それって、血縁関係になると言う事だろうけど、どう考えてもアニシス様の趣味ですよね?
 嫁って言うけど、いったい何人嫁を持つ気なんですか??


「とは言え、お料理のできない私たちでは全く歯が立ちませんわ。ここはリルさんの腕前に期待を致しますわ」

「そうね、頑張ってねリル、もし勝ったらキスさせてあげるから!」

「いや、頑張りますけどヤリスのキスは要りませんよ?」

「なっ!? この私の唇を自由にしていいって言ってるのに!?」


 いやいやいや、そんなモン要らないですし自由にしたくないです。
 そもそも女の子同士で何する気?

 私は大きくため息をついてから相手チームを見る。

 流石のお姉さん方、エプロンを着込んで準備ばん……



「ちょっとまてぇーいぃっ! 何ですかそれは!?」



 思わず対戦相手だと言うのに突っ込みを入れてしまう私。
 だって、スィーフチームの面々はどう考えても裸エプロン!!


「あら? どうしたのエルフのお嬢さん。私たちが何か?」

「な、何かじゃありませんよ、何ですかその破廉恥な姿は? まさか本当に下は何も着ていないのですか!?」

「あらやだ、そんなはしたない真似はしてないわよ? ほら」

 そう言ってリーダーのミリンディアさんは後ろを向く。
 すると奇麗な背中が丸見えだけど下にはしっかりと下着を穿いている。

「いやちょっと待ってください、それ下着ですよね? パンツですよね??」

「あら? あらあら、しまった、ホットパンツ穿くの忘れてたぁ~」

 違う、絶対に違う!
 わざとだ、わざと!!
 現に上はブラしてないじゃないの!!
 エプロンの下はそのけしからん乳がそのままじゃんっ!
 
 当てつけか?
 胸の無いこの私に対する当てつけか!?


「ふふふ、ありがとう、エルフのお嬢さん。危うく観衆の前で私の下着を見せる所だったわ」

「いや、もう見せてますってば! 早く穿いてください、ホットパンツ!!」

 私が赤い顔しているとミリンディアさんはにっこりと笑って私の耳元まで来て囁く。


「うふっ、初心なのね。お姉さんそういう子をめちゃくちゃにするのが好きなのよ、この勝負に勝ったらあなたをいただくわ、良いわね?」

「ひっ!?」
 

 ぞわわわわわわぁっ!


 なにこの感覚?
 ヤリスやアニシス様のそれとはまた違うまるで蛇にでも睨まれたような感覚は!?


「そ、そんなの嫌に決まってます! それに負けるつもりはありません、絶対に私たちが勝ちます!」

「そう? なら賭けね。私が勝ったら一晩私のモノになる事。お嬢さんが勝ったらあなたの犬になってあげるわよ?」


「その勝負、受けましょうですわ!!」


 私とミリンディアさんが話をしているといきなりアニシス様が入って来た。
 そしてびしっと指を突き刺し勝手に勝負を受ける。


「私たちが勝ちましたらあなた方は私の犬となるのですわね? いいですわ、その勝負受けますわ!!」

「決まりね、ふふふ、楽しみだわ。エルフをめちゃくちゃに出来るなんてこんな機会滅多に無いものね、楽しみだわ」

 
 私の目の前で勝手に話が決まり、ミリンディアさんはあちらへ行ってしまった。

「え、あ、ええぇっ!?」


 
 思わずそう声を漏らす私を他所に何もしないはずのアニシス様はピンク色のオーラを発しながらご満悦の表情をするのだった。 

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