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第十二章:留学

12-37お姉さま

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 勝利を喜ぶ私たちに女性の声がかけられた。


「かろうじてのその勝利、ヤリス少しお話があります!」
 
 驚きその声のする方を見ると、青い髪のもの凄い美人さんがいた。
 着ている服からかなり高貴な人っぽい。

「げっ! ア、アイシス姉さま!?」

「あら、アイシス様ごきげんようですわ」

「ごきげんよう、アニシス様。此度は我が愚妹にご協力いただき感謝いたします。お陰様で何とかベストフォーには入れました。これでガレント王国としても、我が王家としても面目が保たれました。それよりヤリス、始祖母エルハイミ様のお力を使ってあの程度の勝利とは何ですか!! この様な振る舞いでは我が神である始祖母エルハイミ様に顔向けできません! ちょっとこちらに来なさい!!」

「い、いやお姉さまそれでもちゃんと勝ちましたよ? ちょ、ちょっとまって、あの、お姉さまっ!!」

 ヤリスはそう言いながらもアイシス様とか言うお姉さんに首根っこを掴まれて引っ張られていく。
 いつの間にかこめかみの上のとげとげし癖っ毛も消えていて体の薄っすらとした輝きも無くなっている。

 いつも見ている力を押さえている状態のヤリスに戻っていた。

「助けてアニシス様! リル、ルラ助けてぇ~っ!!」

「あ、えーとぉ……」

 どうしたものか困ってアニシス様を見るとニコニコ顔で手を振っている。
 どうやら放置した方がいいようだ。
 と言うか、アイシス様って覚醒者のヤリスよりも強いの?

「あ~あ、ヤリス行っちゃった~」

「いいんですか、アニシス様?」

「大丈夫ですわ。アイシス様の攻めは彼のクロエ様直伝。『至高の拷問』なる物ですのできっとヤリスも満足されて帰ってきますわ♡」

 いや、それってあの黒龍のコクさん所のやっばい拷問だったんじゃないの?
 思わず私はヤリスが引き連れられて行った方を見る。
 が、既にヤリスの姿は見えなくなっていたのだった。


 * * * * *


「皆さんにはうちの愚妹が無様な姿をさらしご迷惑をおかけしました」


 試合が終わり、私たちは控室に戻って着替えてたらアイシス様がやって来た。
 そしてぼろぼろになって白くなったヤリスがいた。

「ぉ、お姉さまごめんなさい、もうお尻は嫌です、そんな太いの入りません、許してくださいガクガクブルブル」

 なんかヤリスがつぶやいている。
 真っ白になって目の瞳孔が開いたままで。


「アイシス様がこちらに来られているとはですわ。ガレントの皆様はお元気ですの?」

「はい、お陰様で我が王家の者は皆元気にしております。アニシス様のティナの国は如何ですか?」

 にっこりとアニシス様と話をしているアイシスお姉さん。
 こうしてみると普通なのだけどヤリスのお姉さんだから何か有るんじゃないだろうか。

「そう言えばそちらのエルフの方がヤリスのチームメイトとなるのですね? 自己紹介が遅れました。私はアイシス=ルド・シーナ・ガレント、ヤリスの姉です」

 そう言ってにっこりと笑って手を差し出してきた。
 ここで王女である事を言わない所を見ると、ただの姉として挨拶をして来た事になる。
 
 私は一瞬アニシス様を見てから差し出された手に握手をする。

「エルフの村から来たリルです。こっちは私の双子の妹ルラです」

「ルラで~す」

 私と握手してからアイシスさんもルラに握手をする。

「よろしくね、エルフのお嬢さん方。と、言っても私より年上でしたね。改めてよろしくお願い致します」

「いえいえ、こう見えても本当に生まれて十七年しか経っていませんから年下になります。リルとルラとお呼びください。え~とアイシス殿下?」

 一応王族なので私もそれっぽく対応してみるとアイシス様は笑って言う。

「ここではただのヤリスの姉です、私の事もアイシスでかまいませんよ?」

「では、年長者なのでアニシス様同様アイシス様と呼ばせていただきますね」

 私がそう言うとちょっと驚いたような顔をする。

「エルフ族の方は気高い方が多いと思いましたが、リルさんはずいぶんとおおらかですね? シェル様と同じエルフ族とは思えませんね」

「いや、シェルさんとは一緒にしないでください…… あの人は特別ですから……」

 ヤリスの話だとガレント王国にはシェルさんが何度か行っているみたいだった。
 だったらもちろんアイシス様も会っているだろう。
 一応「女神の伴侶シェル」と呼ばれているからそれなりの態度で会っているのだろうけど、あの人と一緒にはしないでもらいたい。

「エルフ族にもいろいろ有るのですね。分かりました、ではリルと呼ばせていただきます。さて、うちの愚妹にはしっかりとお仕置したのでこの後一緒にお食事など如何ですか?」

 アイシス様はそう言ってにっこりと笑う。
 すると私の返事を待たずにアニシス様が喜んでポンと手を打っていう。

「それはいいですわね! アイシス様とも久しぶりにお話も出来ますしその後がどうなったかもいろいろと聞きたいですわ。是非ご一緒させていただきますわ!」

 だいぶ嬉しそうだ。
 と言うか、この二人結構仲良いのかな?

 確かアニシス様と同じ年で本来はアイシス様がこのボヘーミャに来るはずだって言ってたもんなぁ~。

「そうですね、同じ名づけの親を持つアニシス様には私の性癖も話してますもんね。良いでしょう、今晩はあの後の話をいろいろとさせてもらいましょう!」


 えっと、同じ名付け親?
 そう言えばアニシス様とアイシス様って名前が似ている。
 どう言う事か首を傾げヤリスを見るとぶるぶる震えながら私の後ろに隠れて言う。

「アニシス様とアイシスお姉さまの名前が気になるのね…… 二人ともシェル様が名付け親なのよ……」

「え”っ?」

思わずヤリスの顔を見る私だったのだった。 


 * * * * *


「つまり、アニシス様とアイシス姉さまは同じ日に生まれたのよ」


 アニシス様が良い店があると言う事で学園の外の街に出ていた。
 ここボヘーミャは学園を中心に街が広がっている。
 
 もともと学園都市ボヘーミャは何処の国にも属していない完全中立地区。
 魔道を学びに来る者には幅広くその門を開き、優秀な人材であればたとえ平民でもこの学園を卒業できる。
 勿論王族や貴族、各国の有能な人材もここへ留学しているのでこの学園の権威の高さがうかがえる。

 そんな学園の外には街が出来あがり、かなりの大きさになっているがその運営管理はうちの学園長が仕切っている。

 アニシス様に連れられたそのお店はアニシス様の顔を見るとすぐに奥の方へを通して完全密室に通された。

「ここはシーナ商会の息がかかっておりますわ。ここなら外へは決して話は洩れませんし、スタッフは皆信用のおける人たちですわ」

「なるほど、流石はアニシス様ですね。では私も羽目を外しても大丈夫と言う事ですね?」

「そうなりますわね、お料理と飲み物は?」

「任せます」

 二人してそんな話をしていたらヤリスが私の後ろに隠れてガクガクブルブルと震え始めた。

「どうしたのヤリス?」

「ア、アイリスお姉さまが地を出すって? マジッ!?」

 ヤリスの言葉に思わずアイシス様を見ると姉顔が無くなって眉間にしわが寄っていた。
 そしてアニシス様に注がれた飲み物を一気飲みして、だんっ! とテーブルにそのコップを置く。

「ぷっはぁ~っ! 効くぜぇ、これ結構いい酒だな。流石アニシスだぜ!」

「うふふふ、やっぱりアイシスはそうでないとアイシスっぽくないですわね」


「え?えええぇぇぇぇぇっ~!?」 


 がははははと笑うアイシス様に呆然とする私だったのだ。

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