上 下
282 / 437
第十二章:留学

12-35大魔導士杯第二戦目その6

しおりを挟む

「さてと、いよいよ私たちの出番ね!」

「うふふふふふ、これでリルさんたちのあられもない姿が見られますわね!!」


 いやなんでいきなり私たちが酷い目になる事前提なのよ!?

 ヤリスもアニシス様もやる気張るけどそれ以外の目論見も強く感じる。
 私は大きくため息を吐いてから言う。


「そんな事言ってるとこの勝負、負けちゃいますよ? ベストフォーに入らないとヤリスはまずいのでしょう、お姉さんが見に来ているんだから」

「うっ、そ、そうだった…… あまりにも眼福過ぎて忘れる所だった」

 眼福って……
 まあその辺は個人の問題なので突っ込まないでおくけど、ヤリスったらずっと覚醒した姿のままなんだからちゃんとしてもらいたい。
 少なくとも今の姿だと身体能力は大幅に上がっているらしいし、魔力量も私たちを軽く凌駕するらしい。
 残念ながら無詠唱魔法は出来ないらしいけど、呪文さえ唱えられれば連続で大魔法を使っても問題無いらしい。

 アニシス様もアニシス様でその卓越した魔法は高速詠唱を取得しているほか、かなりの種類の魔法も使えるらしい。
 簡単な精霊魔法も使える様で、はっきりは見えないけど精霊の気配は感じとれるそうだ。
 更に神聖魔法も使える様で、ほぼすべての魔法を使えるってのは天才的なんだそうだ。


「お姉ちゃん、行こう!」

「あ、うん、行こうか」

 ルラはルラで障害物レースくらいにしか考えていないからいつも通り元気だ。
 私と同じ型の黒にピンク色のリボンでふりふりのワンピース水着姿で屈託なく笑っている。

 そんなルラにちょっと癒されて私はステージを見る。
 そこには今回の対戦相手、ノルウェンチームが既に待っていた。


 ノルウェン王国はウェージム大陸の北西部にある小国だけど、魔晶石の採掘が世界最大でそれにより国力はそこそこある国らしい。
 魔法についても魔晶石を使った研究が進んでおり、噂ではいまだに機械人形がたくさん実稼働しているとか。

 あ、機械人形ってのはある程度自立できる機構を持った女性型の全身甲冑のゴーレムみたいなもので、以前は国防の要とかになっていたらしい。
 高級機種によっては完全に自立して動き回れ、魔力供与しないで動き回れるとか。

 現代では国防は「鋼鉄の鎧騎士」が主流となっているらしく、機械人形はほとんどが王族やお城の警備に回されているとか。


「私たちの相手はノルウェンチームですの?」

「みたいね、相手にとって不足は無い所ね!」


 アニシス様もヤリスも同じくステージの上にいるノルウェンチームを見てそう言う。
 相手側もこちらを見て闘志を燃やしている様だ。


『さ、それでは次の試合を始めます。三戦目は【ノルウェンチーム】対【エルフは私の嫁チーム】だぁ! 両チームとも準備は良いか? それでは三戦目、はじめっ!!』


 両チームとも舞台に上がると司会が軽くチーム紹介をしてから試合開始の合図をする。
 途端に両チームとも走り出し、第一障害の前までたどり着く。


「よっし、こんなの簡単に飛び越えられるわ!」

 ヤリスはそう言って思い切りジャンプをするとルラのチートスキル「最強」並みに上空高く飛び上がる。

 飛び上がるのだけど、あれってどう考えても飛び過ぎなのでは?
 隣ではアニシス様が【浮遊魔法】を高速詠唱して私たち含めて宙に浮かび上がらせている。


「ヤリス、張り切りすぎではないのですの?」

「た、多分そうですね……」

 飛び上がったヤリスを見ると高さはゆうに十数メートル、落下地点を目線で追えばどう見てもプールの中……


「のわぁっ! しまった飛び過ぎたぁっ!!」  


 あ、やっぱし。
 空中で騒ぎ立てるヤリスだったけど、何やら急いで呪文を唱えている様だ。
 唱えている様だけど、間に合わないで大きな水柱を立ててプールに落下する。


 ばっしゃーんっ!


「もう、ヤリスったらまだ始まったばかりですわよ!」

 そう言いながらもアニシス様は私たちを第一障害が終わった足場まで運び呪文を解除する。

 が、魔法を使い始めたヤリスはとんでもない事になっていた。


「こ、こらっ! 引っ付くなぁッ!! 駄目だってそこは、こ、こらぁ///////」


 ヤリスにしては珍しく焦ったような声を上げている。
 どうしたのか見るとあのちっちゃいクラーケンがヤリスにへばりついている。

「なんでヤリスにあんなのクラーケンが!?」

「落下中に呪文詠唱して魔力を高めていたのですわね? ノルウェンチームも第一障害を越えて来ましたわ。ここはヤリス自身に頑張ってもらって私たちは先に進みますわよ!」

「助けないんですか?」

「ヤリスなら魔力を切って覚醒者として力を振るえば大丈夫ですわよ」

 アニシス様はそう言って先を進む。
 確かに高速詠唱できなかったノルウェンチームも同じく浮遊魔法で障害を越えてきたのであまり差が無い。
 ここはヤリス自身に頑張ってもらって自力で脱出してもらおう。


「んもぅ、いいかげんにしろぉっ!」


 ヤリスはそう声を上げて魔力を切ってクラーケンを引っぺがし始める。
 が、それがまずかった。


「ひゃっ///////」


 無理矢理剥がしたので、何とヤリスのビキニの上がクラーケンと一緒に剥がされてしまった!!
 

 おおぉっ!


 何と言うお約束のハプニング。
 まさしく芸能人水泳大会のポロリイベント!

「くっ、返しなさいこのバカ! くっそぉ~」

 プールの中で、それでもすぐに片腕で胸元を隠したからほとんど見られていないとは思う。
 ヤリスは水着をすぐに取り返して呪文を唱える。


「消し去ってやる! 【爆裂核魔法】!!」


 ヤリスがそう言って手をかざすとその先に赤い光が収束して一気に小さくなりその瞬間上空に向かって高熱と爆風の光の柱が立ち上る。


 カッ!

 どがぁあああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁん!!


 その瞬間ヤリスの周りにあった海水とクラーケンたちが巻き上げられ上空高くへ吹き飛ばされ奇麗に塵と化す。
 まるでドラゴンのブレスのようなそれは上空へと放たれたお陰で周辺の空気も巻き上げる。


「おおぉ、凄いヤリスの魔法!」

「って、引っ張られるぅ!」

「リルさん掴まってですわ!!」


 先行していた私たちにまで影響があるそれは危うく私もプールに落ちる所だった。
 アニシス様に手を差し伸べられ何とかプールに落ちるのは回避したけど、ノルウェンチームに追いつかれてしまった。
 そしてヤリスは少々赤い顔して浮いている足場に戻って私たちに追いついて来た。


「くぅ~、見られちゃったかしら?」

「う~ん、ちょっとだけ~」

「ヤリス、うかつすぎですわ」

「取りあえず大事は無かったよね、ヤリス先に進みましょう!」



 合流したヤリスと一緒に私たちは第二の障害物へと向かうのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

女体化してしまった俺と親友の恋

無名
恋愛
斉藤玲(さいとうれい)は、ある日トイレで用を足していたら、大量の血尿を出して気絶した。すぐに病院に運ばれたところ、最近はやりの病「TS病」だと判明した。玲は、徐々に女化していくことになり、これからの人生をどう生きるか模索し始めた。そんな中、玲の親友、宮藤武尊(くどうたける)は女になっていく玲を意識し始め!?

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...