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第十二章:留学

12-8ヤリス

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「ただいまぁ~」

「只今戻りました」


 今日の授業は終わって学園長の家に戻って来る。
 とは言え、同じ学園内にある場所でここだけ仕切りがされていて和風な場所になっている。

「あらあら~お帰りなさい。どうだった学校は?」

「はい、ソルミナさん……じゃなくて、教授の授業はためになると思います」

「難しくてちんぷんかんぷんだよぉ~」

 玄関で靴を脱いでいるとマーヤさんが出迎えてくれた。
 マーヤさんはにこにこしながら私たちの話を聞いている。

「う~ん、新鮮。こうやって子供たちが学校から帰って来るのを母親が出迎えるのね~。ねぇねぇ、もっと色々話を聞かせてね」

 そう言って洗面所で手を洗ってくるように言われてタオルをよこされる。
 一応勉強道具を部屋に持って行き、置いてからルラと洗面所に行く。

 
 なんか生前を思い出すなぁ。
 この家は本当に和式だけど変な所が生前の私の時代と同じような所があった。

 水洗トイレとかは洋式だったし、お風呂も湯船だけはヒノキだけど他はタイル張りとか。
 今顔を洗っているこの洗面所もなんか私たちが普通に使っている時代の物によく似ていた。


「プはぁ~、お姉ちゃんタオルタオル!」

「はいはい、ちゃんと拭くのよ?」


 顔を洗い終わりルラにタオルを渡しさっぱりとする。
 タオルは洗い物籠に入れておいてとマーヤさんに言われているので言う通りにする。
 そして広間に戻るとテーブルに学園長が座っていてお茶を飲んでいた。


「ただいま戻りました」

「ただいまぁ~ユカ父さん!」

「ぐっ! ル、ルラ、ユカ母さんでも良いのですよ……」


 何故かダメージを受ける学園長。
 しかし軽く咳払いをしてから湯呑を置いて話始める。


「座学については授業を受けることにより知識も増えるでしょう。それは魔法と言うものやその理を理解するのに役立ちますから勉学も励む様に」


 そう言って私たちを見る。
 それからすっと立ち上がり付いて来るように言う。


「あの、何処へ?」

「試験場です。あそこは魔法も使えるしちょっとやそっとでは壊れる事はありませんからね」

「ユカぁ~、本当にあれやるつもりなの?」

 玄関まで行って靴を履いてそのまま家を出る。
 何処へ行くのか分からないまま学園長にくっついて行ってやがてドーム状の体育館のような所まで来る。
 そして中に入ると闘技場のような場所になっていた。


「ここは魔道具の開発などに使う試験場。リルとルラの二人にはこれを手足に付けてもらいます」

 そう言って手渡されたのはものすごい重い重りだった。


「こ、これ、何なんですか!?」

「おもいぃ~」


 動揺する私たちをよそにマーヤさんは手慣れた手つきでそれを次々に私とルラに取り付けていく。
 そして両手両足に取り付けられた重りによって私は全く身動きが出来なくなってしまう。


「これからは実技となります。学園で教えるそれとは別にこの私が直々に鍛えてあげますから覚悟するように」

 そう言って学園長はニヤリと口元に笑いを浮かべる。

 いやいやいや、いきなりそんな事言われてもどうしろと?
 まさかこの重さに慣れて何かしろと!?


「まずは【念動魔法】を教えます。念動魔法によってその両手両足の重りを軽くして私の攻撃を避ける訓練をしてもらいます」

「はぁ? あ、あの、これ付けたまま学園長の攻撃をかわせと!?」

「むりぃ~、これ重いよぉ~」

 いきなり何言ってんだこの人は!?
 英雄とか言われている学園長の攻撃を避けろですって?


「ユカぁ~やっぱりこの子たちにはまだ早いわよぉ~」

「いいえ、ライオンは千尋の谷に我が子を落すと言われています。リルとルラのスキルはそれ程大きな力を秘めている。ですからきちっと鍛えなければいけません!!」

 何それ、何処のスパルタ教育よ!?
 この学園長って思っていた以上にやばい!!


「仕方ないわねぇ~、『戒めの腕輪』の効力は消したから、『念動魔法』を教えるわね。これも生活魔法として使われる事あるから覚えておいても損はないわよ?」

 マーヤさんはそう言って「戒めの腕輪」の効力を消して念動魔法の呪文を教えてくれる。
 しかし問題はその魔法が使えても四つ一度に魔法をかけないと意味がない。


「ちょ、これ無理ですってば! 一度に四つも『念動魔法』をかけるなんて!」

「ん~、じゃあ自分自身に魔法をかければいいのよ。ユカの攻撃を避けるために体を魔法で動かすの」


 さらっととんでもない事を言うマーヤさん。
 マーヤさん、あなたもなんですか!?
 スパルタ教育なんですか!?


「うーん、魔法難しいよぉ~うまく操れない~」

 言いながらルラは【念動魔法】で自分の身体を左右に移動させている。

「えっ!? ルラそんな事出来たの!?」

「うん、あたしは魔法を使うのも『最強』ってやったらできた~」

 何それずるい! 
 まさか「最強」スキルにそんな使い方があっただなんて!

 ……ん?
 ちょっと待てよ、じゃあ私も重さを消し去れば……

 私は慌てて手足の重りの重さを「消し去る」。
 すると手足にかかっていた重さは全くと言って良いほどなくなり、普通に動けるようになる。


「準備は良いようですね? では参ります!」

「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください!!」


 どがどがどがっ!
 ぼふぼふぼふっ!!

 
 いきなり学園長は【炎の矢】を数本自分の目の前に出しそれを飛ばして来る。
 あまりにいきなりだったので私はそれをもろに喰らってしまった!


「くわっっ! って、あ、あれ?」


 【炎の矢】が直撃したお腹に手を当ててみるけどなんともない?


「その制服には対魔処理がされています。この位の魔法では傷一つ付きませんから安心して避けなさい。但し、服に覆われていない場所に着弾すると大やけどになりますから注意しなさい」

「えっ!? ちょ、ちょっと待っ…… うわっきゃっやぁーっ!!!!」


 こうして学園長直々のスパルタ特訓が始まるのであった。


 * * * * *


「ううぅ、昨日は酷い目に遭った……」


「おはようリル、ルラ。どうしたの朝から疲れた顔して?」

 翌日座学の為に教室に行って机に突っ伏しているとヤリスがやって来た。
 彼女は私たちの隣に座ると机に突っ伏している私を覗き込んでくる。

「なにこれ? ほっぺたにばんそうこうって」

「あ~お姉ちゃんよけきれずに【炎の矢】を喰らっちゃって火傷したんだよね~」

 のっそりと置き上がる私が答えるより先にルラが答える。
 それを聞いたヤリスは驚きの声をあげる。


「【炎の矢】!? 大丈夫なのリル!?」


「あ、うん、腕で何とか避けたんでそのとばっちりで少し頬をね~」

 苦笑を浮かべそう言う私にヤリスが立ち上がり憤慨する。


「どこの誰にやられたの!? 私の友達に手を出すなんて! このヤリス=ルナ・シード・ガレントの友人と知っての狼藉か!?」

「はい?」


 ヤリスは口調まで変わって憤慨している。
 って、それよりヤリスの名前って……



 立ち上がり憤慨するヤリスに周りの生徒も遠巻きに怯えるのだった。  

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