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第十一章:南の大陸
11-24:役目
しおりを挟む私はひとしきり泣き終わってからお母さんとお父さんにお願いする。
「お母さん、お父さん、トランさんのご家族の家に行ってもいいでしょう? それとジッタさんのご家族の元にも!」
お母さんとお父さんは私の手元の遺髪を見る。
そして静かに頷く。
「そうね、一緒に生きましょう。あなたたちがお世話になった訳だしね」
「そうだね、ソルガこの事は彼らのご家族は?」
「ファイナス長老が伝えてある。それが私たちの役目でもあるしな」
そう言いながらソルガさんは立ち上がる。
それを合図に私たち全員が立ち上がるのだった。
* * * * *
「そうか、トランは最後まで立派だったか……」
私からトランさんの遺髪を受け取ったトランさんのお父さんはそう言って金色の髪の毛を見る。
後ろでそれを見ていたトランさんのお母さんも泣き出した。
「あの、トランさんにはとても良くしてもらって、私、私は……」
言いながら私もまた涙が出て来る。
トランさんと過ごした時間は短い間だったけど、エルフとして初めて好きになった人。
「大きくなったらお嫁さんにしてあげる」と言う約束にどれだけ私は心弾んだだろう。
トランさんの為にお料理を作って、トランさんが冒険から帰って来るのを首を長くして待って……
そんな夢のような未来はもうない。
しかし、ここにトランさんの遺髪を持って帰って来た。
今はそれが私に課せられた大きな役目だと思う。
「リル、ルラ。お前たちも大変だっただろう。でもありがとう。トランの魂を運んで来てくれて……」
トランさんのお父さんは涙を浮かべて私とルラの手を取ってお礼を言ってくれる。
もの凄く心が痛い。
でも誰かがトランさんとジッタさんの魂をここへ連れてこなければならなかった。
「あの、お墓の場所を教えてください。お花を添えたいので……」
「ああ、分かったよ後で知らせてあげるね。これであの子も安らかに眠れるだろう。やっとここへ帰って来たのだからね」
そう言ってトランさんの遺髪を布でそっと包む。
ルラが私の手をぎゅっと握って来る。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう、ルラ」
涙を手でぬるい、トランさんのご両親に頭を下げて後ろで待っていたお母さんとお父さんの所まで行く。
そして何も言わずにお母さんに抱き着いた。
「よくやったわ、リル。あなた、トランの事が好きだったの?」
「う、うん。大きくなったらお嫁さんにしてくれるって約束してたの……」
私がお母さんに抱き着きながらそう言うと向こうでお父さんが騒がしくなっているけど、ルラがその辺は対処してくれていたようだ。
私はお母さんから離れて涙をぬぐってから言う。
「ジッタさんの家にもいかなきゃ。ジッタさんもやっと帰って来られたんだから。」
「そうね、それじゃジッタの家に行きましょう」
お母さんはそう言ってソルガさんと頷きあってからこの場を後にするのだった。
* * * * *
「こんな事になるだなんて……」
ジッタさんの家に行って娘さんに遺髪を手渡す。
娘さんはそれをぎゅっと抱きしめてその場にうずくまって泣いている。
ジッタさんは私たちが村にいた頃に狩りで山鳥とかイノシシを捕まえて来るとよく話しかけてくれていた。
ルラは特にお肉が好きだったからジッタさんともよく話していたし、村の中で一番幼かった私たちにジッタさんも良くしてくれていた。
だからファイナス長老が私たちを迎えに行かせるエルフを決める時にジッタさんは自分から立候補してくれていた。
それがジュメルのせいで魂を持っていかれ、「賢者の石」の材料に使われてしまった。
「リル、ルラ…… ありがとうね。お父さんの魂を運んで来てくれて……」
本来なら八つ当たりの一つもされてもおかしくない。
でもジッタさんの娘さんはゆっくりと立ち上がりながら私の頭に手を載せて言う。
「あなたたちが無事に帰って来てくれただけでもお父さんも喜んでくれているわ。だからお父さんの分までしっかりと生きるのよ。お願い、その命はあなたたちが大樹になって次代の若木たちを産む為に大切に使って……」
「……あ、あの、その、ごめんなさい」
思わずそう言ってしまうと娘さんは一瞬ビクッとしたけど首を横に振って言う。
「ううぅん、あなたが謝る必要はないわ。あなたたち若木は私たちエルフの希望なのだから。大樹もいつかは朽ち果てる。でも森は死なない、次代の若木たちがいれさえすればね……」
そう言って悲しい目のまま無理やりにでも笑顔になる。
私はそれを見る事が出来なくてうつむいてしまう。
「ジッタさんの仇はあたしたちがとるよ、絶対に!」
今まで黙っていたルラだけど、いきなりそんな事を言う。
実際にはもう仇はとったと思う。
ジッタさんの命を奪ったのはジュメルの七大使徒の一人アンダリヤなのだから。
「ルラ、お父さんはあなたにそんな事をさせようなんて思わないわ。あなたには他にやるべき事があるはずよ。だからその拳はおさめなさい」
そう言ってルラの握った拳にそっと手を載せる彼女。
「でもそれじゃ……」
「女の子が仇討ちだなんて物騒な事言わないの。あなたたちはまだまだ若木。他に学ぶことがまだまだたくさんあるのだからね」
そう言ってルラの拳を下げさせ、私と同じく頭に手を載せ優しく撫でてくれる。
「その気持ちだけで十分よ、優しい子。ありがとうね」
ルラはそう言われれ私と同じくうつむく。
そんな私たちをお母さんは後ろから優しく抱きしめてくれるのだった。
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