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第十一章:南の大陸
11-17エルフの長老
しおりを挟む『リルにルラ、よくぞ水上都市スィーフにまで戻って来てくれました。あなたたちの事はカリナたちから聞いています』
貝殻を開いたようなその風のメッセンジャーは開いた真ん中にオーブがある。
今その上に小さなファイナス長老が上半身を半透明に映し出されている。
うーん、ファイナス長老は事実上外界との接触を管理している人物だけど、物腰は柔らかいわりに結構ときつい事をしてくれるんだよなぁ。
今回も私たちのチートスキルの事が知れ渡ったらエルフ族の被害を押さえる為に自力で帰って来いと言った人物でもある。
もし私たちが転生者でなく、チートスキルが無かったらとうの昔に死んでいたと言うのに。
それにいくらチートスキルがあるとは言え、あのイージム大陸から自力で帰って来いってかなりの無理ゲーである。
それなのに今映し出されているファイナス長老はにこやかな表情で話を続ける。
『あなたたちが水上都市スィーフにまで戻って来たと言うことを確認しましたのでそちらに迎えの者を送ります。ですから水上都市スィーフに迎えの者が来るまで大人しく待っているように。間違ってもこれ以上ややこしい事に首を突っ込まない様に気を付けるのですよ』
そこまで言って一方的にそのメッセージは切れた。
「……なんですって?」
「へぇ~お迎えが来るんだ~」
風のメッセンジャーが完全に止まってから私は思わずそう言う。
ルラは隣でのほほ~んとしているけど、これって酷くない?
なんで今更迎えなんかよこす気になったのよ?
「しかし、そうなるとしばらくはここで迎えが来るまで待っていなきゃか…… グエラさん、ありがとうございました」
「いえいえ、エルフの村に戻りましたら是非にもシェル様によろしくお伝えください」
手もみをしながらそう言うギルドマスターって……
いや、そもそもシェルさんが問題なんだわね。
私は「分かりました」と言って、もしギルドに迎えが来た時の事を考えて寝泊まりいている宿屋の場所を教えるのだった。
* * *
「しかしそうなると暇ね……」
「じゃあさ、その間にチャーハン作ってよ、チャーハン! あたしチャーハン食べたい!!」
厨房に戻りながらぶつぶつ言うとルラはそんな事を言ってくる。
とりあえずギルドの厨房は使っていいって言われてるからこの際お米を使った料理をここでぞんぶんに作るのもいいかもしれない。
「そうね、せっかくだからチャーハンも作っちゃおうか!」
「わーい、やたたぁっ!!」
私はそう言いながらナムニさんに話をする。
ナムニさんたちはさっき作ったおこげのあんかけの周りにまだいた。
「おお、エルフの嬢ちゃんたち。これすごく美味かったぞ!」
「ははは、それはそれは…… って、全部食べちゃったんですか!?」
お皿はまるで舐めたかのように奇麗さっぱり何も残っていなかった。
まだ一口しか食べてなかったのにぃ~!!
しかし途中で席を外したし、皆さんにもどうぞと言ってしまった手前何も言えなくなってしまっていた。
私は軽くため息をついてルラの言っていたチャーハンを作る事にする。
「それじゃぁ他のお米料理作りますので、また厨房お借りしますね」
「おお、どうぞどうぞ俺らも勉強させてもらうよ」
そう言ってナムニさんはにっこりとサムズアップするのだった。
* * *
厨房の食材は自由に使っていいと言うことなので色々と物色をする。
私は野菜置き場やお肉や魚の貯蔵箱を確認する。
「取りあえずお米は炊いておいて、他の食材はっと……」
チャーハンに必要な食材を確認する。
たまごに長ネギは、無いので代わりにエシャレット、人参やお肉、グリンピースとか……
そうそう、ここスィーフは香辛料が豊富で胡椒とかも格安で手に入る。
なので白胡椒と黒胡椒も使いたい放題!
私はそれらの食材を並べて準備を進める。
「へぇ、これで米をどうにするんだい?」
「チャーハンと言う食べ物を作ろうと思います。そうだ、鶏肉も茹でておかないと!」
言いながらコカトリスのお肉をポーチから引っ張り出す。
私たちエルフは肉も魚も食べられるけど消化が悪いのであまり量が食べられない。
なので以前捕まえたコカトリスのお肉も結構と残っている。
ただ、このお肉ってもの凄く硬いのでそのまま焼いて食べるのはきつい。
でも茹でると結構と良い味のスープも取れるのでそれを使う前提でコカトリスのお肉も茹でておく。
そしてルラに頼んでおいたご飯も炊けたようなのでいよいよチャーハンを作り始める。
まずは食材を細かく切っておく。
お肉は豚肉のようなので細切れにして軽く塩コショウしてお酒と魚醤を垂らして片栗粉を軽くまぶしておいておく。
次に人参とエシャレットをみじん切りにしておく。
卵を割ってよく掻き回し、一振りの塩とお酒を少々混ぜておく。
お鍋に油を多めに入れて火にかけ温める。
そして縁から少し煙が出るくらいに熱しておいてここからが勝負!
まずは油の中に先程下準備しておいた豚肉のこま切れを入れる。
じゅぅうううぅっ!!
そしてすぐにそれをへらで掻き回しほぐしながら全体がこんがりときつね色になるまで炒める。
このころになるといい感じでほぐれそぼろ肉の様になってくる。
それを一旦お皿に出してまた少し油を入れて鍋を熱する。
ルラに準備してもらったご飯を横に、溶き卵を鍋に入れる。
じゅわぁあああぁぁぁぁ!!
溶き卵はまるで花が咲いたかのようにふわっとなるけど真ん中の辺はまだ生のまま。
そこへ準備しておいたご飯を入れて手早くからめる。
チャーハンの極意の一つであるお米を卵でコーティングをするとパラパラの美味しいチャーハンになる。
なのでここが勝負でうまくご飯と卵が混ざるように炒める。
そして先ほどの肉、切っておいたエシャレットと人参、グリンピースを入れてさっと掻き回す。
全体に混ざったら塩コショウを振って味を調える。
「いい匂い! おいしそう!!」
ルラは見えない尻尾を振って私の横でよだれが垂れるのではないかと言う程覗き込んでいる。
「まだまだよ!」
ルラにマテをしてから、煮込んでおいたコカトリスの煮汁をお玉ですくって入れてからさらに炒める。
じゅわぁっ!!
だし汁を入れる事によって乾き始めるのを防止しながらちょっと味見。
「うんいい感じ! さて最後にっと」
私は最後に鍋の淵にわずかなごま油を垂らす。
そしてすぐにそれをぐるっと掻き回して鍋を振って出来上がり!
お皿にチャーハンをよそってみると最後に入れたごま油の香ばしい香りがふわっと漂う。
「やったぁ! チャーハンだぁ!!」
「へぇ、すごくいい香りだな!」
ルラは見えない尻尾をぶんぶん振っている。
私がチャーハンを作っている様子をずっと見てたナムニさんも出来あがったチャーハンを覗き込む。
私はスプーンと取り皿を配って言う。
「さあ、温かいうちにどうぞ!」
「いただきま~す!」
ルラはすぐに取り皿にチャーハンを取ってそれを口にする。
ぱくっ!
「んふっ! おいひぃっ!!」
「どれどれ?」
ナムニさんもそれを口に運んで目を見開く。
「なんだこれ!? 米がふんわりとしていながらもパラパラと香ばしく、これは胡椒か? いい塩気の中にスパイシーさが絡まりとても美味いぞ!!」
「どれどれ!」
「お、俺も!!」
しっかりと私は自分の分を取っておいてから他の皆さんも手を出し始める。
そして次々と驚きの声をあげる。
「なんだこれ! コメの淡白な味がベースになっているのにどんどん行けてしまう!!」
「具材と卵、それ等が米に絡まって旨味を出しているんだ、淡白な米だからこそできる調和の取れた味! これは凄いぞ!!」
「さっきの米を油で揚げたパリパリとはまた違ってふっくらとしていながらも香ばしさがあって、しかしぱさぱさとは違う、米を噛むと一つ一つがしっとりとしている!? これは一体どう言うことだ!?」
皆さん口々にそんな事を言いながらチャーハンを食べて行く。
私もチャーハンを口に運ぶ。
「ぱくっ! もごもご、ごくん。 うん、ちゃんとパラパラになってる。五目チャーハンになっていておいしい」
塩味のそれは結構油を使っていてもそれほど気にならない。
白胡椒が良い感じに調和を醸し出し、そこに黒胡椒のあらびきを入れた事でスパイシーさが強調されて美味しい。
スパイスが豊富に使えるからこそできる訳だ。
「驚いたよ、米にこんな使い方があっただなんて」
「お米はまだまだ使い方があるんですよ、主食としてそのまま他のおかずと一緒に食べるのもいいんですけどこう言う料理にも出来るんです」
既に取り合いになっているチャーハンを横目に私はナムニさんにそう言う。
ナムニさんは最後の一口を口に運んで食べ終わってから言う。
「リルちゃんだっけ? 他にも米を使った料理が有ったら是非教えてほしい。こりゃぁ米の価値観が変わっちまうよ」
「ええいいですよ、だからスィーフにはいいお米を沢山作ってもらわないと!」
ここでお米のすばらしさをアピールして増産をしてもらえば更に今後お米の入手が容易になるだろう。
私はそんな野望を持ちながら次なるお米を使った食べ物を準備し始めるのだった。
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