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第十一章:南の大陸
11-5訪問者
しおりを挟むオオトカゲが見据える草むらに私も目を凝らしてそこを見る。
もう周りは暗くなって、明かりはここにある焚火くらい。
今日は月も出ていないので周りは真っ暗だ。
でも私たちエルフは夜目が効く。
流石に昼間まではっきりとは見えないけど焚火の明かりが届かない草むらで何かが動くのが見て取れた。
「ルラ、何かがこっちに来る。目を覚まして」
「う~ん、殺気は感じないんだけどなぁ~、むにゃむにゃ~」
目をこすりながら起き上がるルラ。
私はその草むらから目を離さないまま警戒をする。
そしてそれはのそのそと草むらを分けてこちらへやってきた。
「ルラ、来たわよ!」
一応私もユエバの町で買ったあのナイフを引っ張り出して身構えする。
最初に異変に気付いたオオトカゲは動く事無くそっちをずっと見ている。
がさがさ
こちらが気付いたのが分かったのかそれは隠れる事無く真っ直ぐにこちらに向かって来た。
「魔物!?」
私がそう思わず言ってしまうそれは人くらいの大きさがあってつるつるとした感じの肌を持っていた。
暗いので色までははっきりと分からないけどなんか鱗っぽい?
『あれまぁ、こんな所に女の子だけで野宿かい?』
がさっ!
しかし聞こえてきたのは訛ってはいるけどコモン語だった。
そして現れたそれは正しくトカゲ人間。
「も、もしかしてリザードマンの人ですか?」
『ああ、そうだ。そう言う嬢ちゃんたちはその耳、エルフ族か? こんな所にエルフ族とは珍しい』
そう言って近づいて来たそのリザードマンはしゅるるっと舌を出したり引っ込めたりしていた。
「うわぁ~、リザードマンだ! 本当に鱗で全身覆われてるんだ!!」
『なんだい、俺らを見るのは初めてかい? 俺はパキム。見ての通りリザードマンだ』
初めて見るリザードマンにルラは目を輝かせて近づく。
ちょっと焦ったけど言葉が通じるからいきなり襲ってくる事は無いだろう。
「えっと、私はリル、その子は私の双子の妹ルラです」
「ルラだよ~、ねぇねぇ、その鱗触ってもいい??」
『ああいいけど、それよりこんな所で嬢ちゃんたち二人だけで野宿かい? いくらオオトカゲがいるからってちょっと不用心じゃないかね?』
ルラはパキムと名乗ったリザードマンの腕をペタペタ触っている。
たまにコンコン叩いてみたりするところ見ると意外と固い鱗のようだ。
「えーと、いろいろ有りましてエルフの里へ向かっているんです。でも取りあえずは水上都市スィーフに向かおうと思いまして」
『見た所、冒険者って訳でもなさそうだしな。エルフの里か。旅人としてもやはりちょっと用心が足らないぞ? この辺は盗賊も出る事がるからな』
そう言ってパキムさんはルラの頭を撫でる。
『エルフ族とは言え、嬢ちゃんたちはだいぶ若いようだが?』
「分かりますか? 私たち転移に巻き込まれてイージム大陸にまで飛ばされてやっとここまで帰って来たんですよ。私もルラも十六歳です」
『十六だって? エルフで十六と言ったら子供も子供、よくここまで戻って来られたな!!』
そう言ってパキムさんは喉を大きく膨らませる。
あれって驚いているのかな?
『そんな子供をこんな所に放置しておくわけにはいかん、ツエマの港町に用事が有ったが仕方ない。俺が水上都市スィーフまでついて行ってやる!』
「え、あ、いや、結構と大丈夫なんですけど……」
『何を言う、種族が違えど子供は宝。そんな幼子を放置していてはリザードマンの戦士としての名が泣く。このパキムが嬢ちゃんたちを水上都市スィーフまでしっかりと守ってやるぞ!!』
そう言ってぐっとこぶしを握るパキムさん。
そして鱗が逆立ってなんかとげとげしく見える。
「おおぉ~、戦闘モードだ!! かっこいいっ!!」
いや、ルラこれってここで何かと戦うって訳じゃないんだから……
『とにかくこの俺に任せておけ、えーとリルとルラだったな?』
「はぁ、えっとパキムさんってツエマの港町にどんな用事だったんですか? そちらの方が重要なんじゃないですか??」
好意はありがたいけど、自身の目的を変えてまで付き添ってもらうのは気がひける。
それに水上都市の方からやって来たっぽいから何もしないでまた戻る事になるわけだし。
『うむ、水田で田ウナギの魔物が暴れまわっていてな、このままでは稲が育たなくなってしまう。奴ら数だけは多いので我々だけでは手に負えなくてな。ツエマの冒険者ギルドに増援を頼んでいたのだがなかなか来ないので直々に募集に来たのだがな』
『水田! 稲!?』
意外な所で意外な話が出てきた。
しかもリザードマンの人から!
「あの、私たちツエマの冒険者ギルドからも手紙をもらっているんですけど!」
言いながらギルドマスターが書いた手紙を出す。
本来は水上都市スィーフの冒険者ギルド宛なんだけど、ウナギの魔物を倒す代わりにお米を融通して欲しい旨が書かれている。
パキムさんはその手紙を受け取り器用に爪でそれを開ける。
そして内容を呼んで驚きまた喉を膨らませる。
『なんと、嬢ちゃんたちがツエマの冒険者ギルドからの推薦者だと!? こんな幼子に面倒事を押し付けるか人間族は!?』
「あ、いや、私たちってちょっと特殊な能力もってるんでそれでお手伝いできるかな~って」
なにやらこめかみらしきところがぷくっと膨れてまた鱗が逆立つ。
これってご立腹なのかしら?
『能力か何か知らんがそれでもこんな子供に仕事を押し付けるとは! 今からツエマの町に行って文句を言ってきてやるわ!!』
「いやいやいや、大丈夫ですから、だいじょーぶですってば! ああ、その手紙持って行かないでぇっ!!」
意気り立って手紙を掴んだままツエマの町に向かおうとするパキムさんにしがみついて止める。
ぢゃなきゃ手紙が持って行かれちゃう。
いちいち交渉する手間が無くなるのがその手紙が無くなっちゃうとできなくなる!
『むっ? しかしこれは大人のやる事ではないぞ?』
「大丈夫ですってば! だから手紙返してください!!」
『むぅ~』
私の必死な言い分に何やら納得いかない感じだったけど手紙を返してくれた。
私は慌てて奇麗に封筒へまたしまい込み、ポーチにそれをしまう。
『しかし、リルとルラで何が出来ると言うのだ?』
「えっと、あたしは『最強』なんだよ~、お姉ちゃんは何でも消せるの!」
ルラはトタトタとパキムさんの前にまで来てそう言うとパキムさんは大笑いをする。
『がはははははは、こんな嬢ちゃんが最強だと? そうさな、その天真爛漫な所は最強かもしれんな!!』
「あ~信じてないね? よぉしぃ、見てて!」
笑うパキムさんにルラは私たちが休んでいた近くにある大岩に向かう。
「見ててね! あたしは『最強』!!」
だっ!
ぼごっ!
ばごーんっ!!
「うわっ、ちょっとルラ!! 『消し去る』!!」
ルラは最強のスキルを使って自分の何倍もある岩を殴ってバラバラに飛散させる。
いくつか岩の砕けたものが飛んでくるので私は慌ててチートスキル「消し去る」を使って飛び来るぶつかりそうな岩を消し去る。
『はぁっ!?』
それを見たパキムさんは思わず驚きに喉を膨らませ鱗まで逆立ててそして大口を開けて変な声を出す。
「どうパキムさん! あたしって強いでしょ!!」
「もう、ルラいきなりスキル使わない! 本当はあんまり人に見せたくないんだから」
相手を納得させるには実践するのが一番早いけど、本当はスキルの事はなるべく秘密にしたかったんだけどなぁ……
『ななななななぁ、エルフにこんな力があるとは!? はっ!? もしやあなた様は【女神の伴侶シェル】様なのでは!?』
「違いますって!! さっきも名乗った通り、リルとルラです! お願いだからシェルさんと一緒にしないで!!」
思い切りドン引きするパキムさん。
いや、そもそもそこでシェルさんの名前が出ること自体あれなんだけど……
「お姉ちゃんって最近シェルさんに間違われるよね~」
「それあんたもよ!! もう、違うったら違うのぉっ!!」
深夜深くに私の叫び声が響くのであった。
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