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第十章:港町へ

10-30水龍

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「なんだあれはっ!?」

「竜巻だっ! 早く避けろ!!」

「駄目だ間に合わんっ!!」


 甲板上は目の前に現れた竜巻に大騒ぎになっている。
 あれだけの竜巻、飲み込まれたら一巻の終わりである。


「お姉ちゃん!!」

「分かってる、竜巻を『消し去る』!」


 私はすぐにチートスキル「消し去る」を目の前に現れた竜巻に向かって発動させる。
 すると船の目前まで迫っていた竜巻は一瞬で消え去った。


「あ……」

「な、何だあれは……」

「嘘だろ、おい……」


 迫り来る竜巻は消し去った。
 しかしその後にはまるで大きな塔のようにそびえたつ水龍がいた。

 まるで蛇のように鎌首をもたげ、こちらを睨んでいる。


『我の竜巻を消し去ったのはお前たちか?』


 その水龍はコモン語でそう聞いてくる。
 しかしその眼の色はやはり赤く染まっていて落ち着いた言葉遣いなのに隠しきれない怒気が含まれている。


「人の言葉が分かるのか!? 私はこの船の船長だ。水龍よ、何故我らに危害を加えようとする!?」

『我はたまたまここへいただけ。竜巻は我の怒りが勝手に発生させたもの。しかしそれを消し去る強大な力が感じられた。人間よ、お前がやったのか? もしや魔法王国時代の生き残りか??』

 水龍はその瞳を船長に向ける。
 流石に船長さんもビビッて数歩下がるけど、この船の責任者らしく虚勢を張って答える。


「水龍よ、あなたの竜巻を消し去ったのは誰だかわからない。しかし取るに足らぬ我ら、ここを通してもらえないだろうか?」

『ふむ、人間よ我も貴様らに興味はないが、我竜巻を消し去ったその力だけは見逃す事は出来ん。もしその者を差し出すならここを通してやろう』


 うわぁ~。
 何それ。
 あの竜巻を消し去った私をご所望とかありえない。
 
 勿論そんな要求を出されても船長さん他、誰があの竜巻を消し去ったのかなんて分かるはずがない。
 ただ一人を置いて……


「お姉ちゃんをどうするつもり!? いくらお姉ちゃんが竜巻を消し去る力を持っていてもお姉ちゃんに何かしようとしたらこのあたしが許さないよ!!」

 おいこらそこっ!
 何いきなり私がやったって暴露しているのよ!!

 水龍に中指立てて啖呵切っているルラに思わず心の中で突っ込みを入れる私。
 しかし、しっかりとルラの声は聞こえていたらしく水龍はその眼を私たちに向ける。 


『ほう、エルフか…… まだ若いようだがお前らが精霊魔法を使って我の竜巻を鎮めたか? よほど力のある精霊使いのようだな』

「いやいやいや、そんな大層なモノじゃないですよ。それで、私をどうするつもりなんですか?」

 今や水龍は完全にその頭を私に向けて話をする。
 当然ルラは私と水龍の間に入るけど、私はルラの肩に手を置き落ち着かせる。

「ルラ、まずは話合いよ。話が出来るのだからむやみに戦っちゃダメ。それにここはあなたの苦手な海の上なんだから」

「うっ、わ、分かったよお姉ちゃん……」

 この子が私を守りたいってのはうれしいけど、勇敢と無謀は違う。
 地の利が無い場所でいくら「最強」のスキルを持っていても水の中はルラにとって不利すぎる。

 それに話が出来る相手ならまずは話してみるのが一番。
 私は水龍にもう一度顔を向け聞く。


「それで、私に何の用なんですか?」

『精霊使いよ、それだけの力があるなら我に協力してもらいたい。あの憎い一角獣を倒す為にな!!』


 怒気を孕んでそう言う水龍に私は思わず目を丸くする。


 いや、一角獣ってあの一角獣よね?
 ルラにあっさりとフラれて私に愛の巣を消し去られて涙目でどっかに行っちゃったあの一角獣だよね?


「倒すも何も、あの一角獣はここに居るルラにフラれて涙目でどっかに行っちゃいましたけど……」

『なんと!? それではきゃつはこの地におらぬのか!? 我が愛しのマーメイドをたぶらかし、そしてこんな南の島々にまで逃避行していたのにか!? しかもエルフの娘に横恋慕だとぉ!? ますます許せん! あの愛くるしいマーメイドの純情な心をもてあそぶか!? だからあんな角ばかり太くて長くてかたくり立派だが他がボテ腹はやめておけと言ったのだ! やはり同じ鱗を持つ我こそマーメイドにふさわしい! そもそも水龍である我の寵愛を受けれるのだ、水性の魔物にとってこれほどの栄誉があろうか? 我の后となれば~』


 あ~、なんか長々と語り始めた。
 
 しかしこの水龍、あのマーメイドに気があったのか。
 あのマーメイドもマーメイドで何で一角獣なんて好きになっちゃたんだろう?
 見た目ならこっちの水龍だって強そうでいいとは思うのに。
 
 いや、精霊たちが困るほど強大な魔力をまき散らすんだからこっちの方が優良株なんじゃないだろうか?


「ねえお姉ちゃん、これどうしたらいいの?」

「う~ん、なんか話が終わりそうもないよね? 放っておいて通り過ぎちゃえばいいんじゃないの?」

 一角獣の事をぼろくそに言って、マーメイドのアレが良いとかこれが良いとか絶賛して、そして自分がどれほど偉大だとか語っている水龍の横を私たちは船長さんに言ってそお~っと通り過ぎる事にした。

 そしてだいぶ水龍から離れた頃にやっと私たちがいない事に気付いた水龍は慌ててこちらにやってきた!


『待たんか、こら! まだ見目麗しきマーメイドの良さについて語り切っておらん!』

「もう結構ですってば! それに一角獣が何処行ったかなんて私たちは知りませんってば!!」

『なら我の話を最後まで聞いて行け!! まだ十分の一も語り切っておらんわぁ!!』


 あれだけ長々と話していてまだ一割も終わってないの!?
 冗談じゃない、そんな話を長々と聞いてなんかいられないっての!!

 必死に水龍から逃げる私たち。
 しかし、しつこく話を聞けと言ってくる水龍。


『ええぇぃ、待たぬか! こうなったら!!』


 ざっぱぁ~ん!

 ばっ!!


 一旦海面にもぐった水龍は一気に水面に飛び上がり私たちのいる船の上に飛び掛かって来る。


『我の話を聞けぇっ!!』


「あーっ、もうしつこい!! あたしは『最強』! こっち来るなぁッ!!」


 ぴょんっ!

 ばきっ!!


『るぶぐろぼふぅっ!』


 どばっしゃ~んッ!!


 あわや船に乗り上がて来そうな勢いの水龍を空中にいた事もあってルラは最強のスキルでその横顔をぶん殴って向こうの海面に吹き飛ばした。


 とん


「ふん、あたししつこいやつ嫌い!」

「いや、それはそうなんだけど……」

 ルラのその活躍に周りにいた皆さんは目を点にして驚いている。
 でもあのまま水龍が船に乗り上げていたら重すぎて沈没していたかもしれないからそれはそれで助かってもいた。


『ぐはっ…… そ、そんな、この我を殴り飛ばせる者がいるとは…… マーメイドの尾ひれのビンタンよりも凄い。惚れた、そこのエルフよ、我の后となってくれぇっ!』

「あたししつこいやつ嫌いなの! あっち行って!!」


『ぐはっ!』


 殴られていきなりルラに惚れた水龍をルラはあっさりとフッてしまった。
 情けなく水龍はブクブクと水に沈んでいくけど、何なのこの辺にいる海洋生物って?
 
 更に周りの皆さんは開いた口が塞がらない状況だったけど、沈んだ水龍が浮かび上がってこないようなのでこの場をそそくさと離れる事にした。


「へへへ、お姉ちゃんこれで水の精霊たちも大丈夫だよね?」

「うん、まあ大丈夫だとは思うけど……」

 惚れっぽい海洋生物の脅威は去った。
 しかしこの大海原にはまだ私たちの知らない脅威が潜んでいるかもしれない。

 我々人類の知ることなどまだまだほんのわずかなのだから……




 私は沈んで浮かび上がってこない水龍の海面を見てため息を吐くのだった。
  
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