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第十章:港町へ

10-23ルラの花婿?

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『惚れた! 我と結婚してくれ!!』


 ルラに見事に一本釣りで陸に引き上げられた一角獣は鼻息荒くルラにそう言う。


「ん~、ごめんなさい。あたしエルフの村に帰らなきゃだから一角獣とは結婚できないよ~」

『がはっ!』


 一角獣はルラに速攻でフラれて情けない声でショックを受ける。


『そんな、我からの求婚がこうもあっさりと否定されるとは! 今まで我から言い寄られればどんな女人もいちころだったと言うのに!!』

 そう言ってごとんごろんと転げまわる一角獣。

 いや、そう言われても……


「一角獣よ、そのようなエルフの小娘の何処が良いのじゃ!? 我の方がバインバインじゃぞ!!」

「一角獣様! 二本足など何処が良いのです!? この滑らかな鱗も尾ひれの一角獣様のモノだと言うのに!!」


 一角獣の求婚に固まっていたセイレーンとマーメイドは石化から戻ってここぞとばかりに自分たちをアピールする。
 そんなに一角獣が良いのだろうか?


「「「よっしぃ! ざまーみろ!!」」」


 後ろでは後ろでデーヴィッドさんと水夫の皆さんが拳を握ってそんな事言ってるし……


『ではどうしたらこの我の愛を受け入れてくれると言うのだ!?』

 それでもあきらめきれない一角獣はしつこくルラにそう言う。
 するとルラは暫し額に人差し指を当ててう~んとか唸っている。
 
 そしてぽつりぽつりと言う。


「う~ん、あたし誰かを好きになったって無いしなぁ~。 好きになる基準と言っても…… それに一角獣って水の中にしかいられないんだよね?」


『なんと、我が水からあがれないのが問題だというのか? だったら簡単である』

 そう言って一角獣は何やらごにょごにょと言い始める。
 そしてそれが終わったとたん体が薄く光り輝いてどんどん小さくなって行き、なんと人間と同じくらいにまでしぼんでしまったのだ。


「ふっ、これならば問題無かろう?」


 それは何処からどう見ても人間の男性。
 しかもかなりのイケメンである。
 
 頭に一本の角があるけど、青味がかった髪の毛が肩まで伸びていてさらさらとしている。
 彫の深い目元にすらっとした鼻先、微笑めば自然と白い歯が光るという細身だけどしっかりと筋肉もある細マッチョで、少女だったらまさしく黄色い声を上げて寄って行くだろう。

 あ、ちなみに見た目はいいけど真っ裸である。


「きゃーっ! 一角獣様ぁ♡ やはりそのお姿も良いですぅ、濡れる♡」

「流石じゃ、流石我が夫と見込んだだけの事はある。一角獣よ、我を好きにして良いのじゃぞ♡」


 いや、少女じゃなくてもそうなるか……
 まあ確かにイケメンで私も嫌いじゃないけどトランさんだって負けていなかった。
 
 もともとエルフ族は美男美女が多いのでこっちの外の世界に来てそれが本当だったと言う事は実感した。
 勿論トランさんはかっこいいお兄さん風で、面倒見も良かったし何より優しかった。

 ただ、顔だけのイケメンって正直に言って私はあまり好きではない。


「ふ~ん、人の姿にもなれるんだ」

「ふっ、我のように長く生きる者はその妖力も高い。人の姿に化けるなぞ容易いものなのだ」

 そう言って「ふっ」とか言って笑いながら白い歯を輝かせる。
 それにセイレーンとマーメイドは更に黄色い声を上げる。

 あ、そう言えばなんかデービッドさんや水夫の皆さんは血の涙を流しながら甲板に四つん這いになって泣いている。


「さあ、エルフの少女よ我と共に」

「ん~、でもやっぱりあたし好きなのはお姉ちゃんだからごめんなさい」


 びきっ!


 手を差し伸べルラを呼び寄せようとする一角獣はやっぱりルラに断られて石化してひびが入る。
 
 ルラは私の方を見てにっこりと笑う。


「あたしはお姉ちゃんが好きなんだもん♪」

「うっ…… あ、ありがと……」


 天真爛漫に笑顔でそう言うルラ。
 まったく、この子は。
 恋愛の好きでは無いのだろうと言うのは容易に想像できるけど、こうハッキリ言われると流石に照れる。


「そ、そんな…… この我の求婚をここまで頑なに拒むとは!? その『お姉ちゃん』とやらは何処だ!? 我がその者に魅力で負けるというのか!?」

「あ~、その『お姉ちゃん』ってのは私です」

 仕方なく名乗りだすと一角獣は驚き私を見る。


「何と! 同じ顔の貴様が『お姉ちゃん』か!? おのれ、こうなったら貴様も同時に我のモノとして二人とも我が花嫁としてくれる!!」


 いや、何でそうなるのよ?
 と言うか、しっかりと両の手でセイレーンとマーメイドを抱きしめているその成りで何言ってるのよ!?

 まるでモテ男がたくさんの女の子にちょっかい出している構図にしかなっていない。


「お姉ちゃんに手を出すなあぁ!! あたしは『最強』!!」

「へっ?」


 ばきっ!!


「るぶぅごぉらぁぶぅっ!!」


 何故かルラはいきなり最強のスキルを使って白い歯をきらめかせていた一角獣を殴り飛ばす。
 見事に殴り飛ばされた一角獣は両手のセイレーンとマーメイドをその場に残し一人だけ天高く殴り飛ばされ、ひゅるるるるる~ぼでっと! っと地面に顔面から落ちる。


「一角獣よ!」

「一角獣様っ!」


 慌ててセイレーンとマーメイドも殴り飛ばされた一角獣に駆け寄る。


「ふん、お姉ちゃんに手を出すならこのあたしを倒してからにしろ!!」


 びしっ!


 一角獣に決めポーズで指差しして言うルラ。
 いや、あんたを倒せって、それってこの世界じゃ無理なんじゃないだろうか?
 ルラのチートスキル「最強」に単独で勝てる奴なんているのかな?


「むぐぐぐ、ぐぽっ!」

 しかし殴られた一角獣は埋まった地面から頭を引き抜く。
 意外と頑丈そうなのね。


「流石だ、流石は我が惚れただけの事はある。もっと殴ってもらいたいものだ」

「うわっ……」

 頬を染めてそう言う一角獣だけど私は思わずドン引きしてしまった。
 しかしそれに悲鳴に近い声が上がる。


「きゃーっ! 一角獣様の硬くて立派にそそり立っていた角あがぁっ!!」

「何と言う事だ、我を貫く勢いの雄々しい立派に反り返っていた角がぁッ!!」


 いや、そこっ!
 言い方ぁっ!!


 だがそれもそのはず、一角獣の頭にあった一本の硬くて太くて凛々しくそそり立っていた角が折れてしまっていた。

 それはもう、ぽっきりと。



「な、なんとぉっ! 我男の象徴がぁっ!!」


 がっくりと膝をつく一角獣。
 かなりショックだったのだろう。 
 ふるふると震えたいたが、がばっと起き上がってこちらを見て言う。

「しかし、我にはまだ愛の巣がある! 見よこの立派な愛の巣をっ!!」


「『消し去る』!」


 それでもルラにアピールをかまそうとする一角獣の愛の巣を私は消し去った。
 話しでは追い払うか巣を破壊すれば諦めてどっか行くって聞いてたから、こうすれば手っ取り早いだろう。
 
 どうせデービッドさんや水夫の皆さんは血の涙を流して落ち込んでいるから何も見えないだろうし。


「あ”あ”ぁあああああああああああああぁぁぁぁぁ――――っ!?」


 息怏々とルラに指さし自分の愛の巣を紹介しようとしてそれがごっそりと消え去っているのを見て一角獣は顎が外れるくらい驚いている。


「わ、我の愛の巣がぁッ!?」

「なに? 何も無いじゃん?? 一角獣ってなんか良いところないよね?」


 駄目押しにルラにそう言われ一角獣はびくっとなる。
 そして目じりに涙を浮かべ海に向かって猛ダッシュ。

 飛び込む寸前に元の巨大な一角獣の姿に戻ってどこかへ行ってしまった。


 ばっ!

 ざっば~んッ!!


「一角獣よっ!!」

「一角獣様っ!」


 勿論セイレーンもマーメイドも慌てて一角獣を追う。


 ルラは私の所に来てにっこりと笑う。

「これで終わりかな?」

「うん、なんかこれで良いとは思うけど……」



 言いながら甲板で体躯座りで落ち込んでいる皆さんを見る私だったのだ。
   
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