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第十章:港町へ

10-5現状

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「お姉ちゃんありがと~」

「また来てねぇ~」

「ばいばいぃ~!!」


 私とルラ、そしてリンガーさんは見送りの子供たちに手を振りながら教会兼孤児院を後にした。


「う~ん、相変わらずお姉ちゃんの料理はおいしかったねぇ~」

「いや、本当だよ、驚いた。エルフってのはいつもあんな旨いモン食っているのかい?」

 とぼとぼと歩きながら冒険者ギルド支部へと向かう。
 あの後シスターにお願いして厨房を使わせてもらったのだけど、まあ、何と言うか薪すらろくに無かった。
 仕方なしにポーチから薪を取り出したり、ひびが入ってあまり備蓄できない水瓶を精霊魔法で直して【水生成魔法】で補充したり、芽が出てしおしおになったりしているジャガイモや玉ねぎを庭先の花壇に植えるように言って、手持ちの食材を出して補充してやったりと……


「一体このイーオンの町ってどうなっているんですか? いくら貧しい孤児院たってあれじゃ」

「言いたい事は分かるよ。でもねここドドスは共和国制をとっているくせに中央のドドスの街の連中だけが潤っている。いくら女神様が降臨された場所とは言えそれを理由に横暴な事をしまくっているんだ。近隣の村や町は抵抗はしても結局公王や貴族共に税金を取られてね…… よほど女神様か魔王様にゆかりのある町や村でない限りあいつらのカモになっちまう」

 リンガーさんは疲れたようにそう言う。
 
「そんな連中やっつけちゃえばいいんだよ!」

「そうしたいのはやまやまだけどね、町や村の外で強い魔物が出た時はやはり中央の『鋼鉄の鎧騎士』に助けを求めるしか無いんだよ。それにあれに普通の人間が対抗なんて出来ないしね……」

 そう言ってリンガーさんはため息をつく。

 確かにここイージム大陸は人が住むには過酷な場所だ。
 町の外に出れば魔物は多いし、土地も痩せているようで作物の育ちも悪い。
 代わりに鉱石なんかの採掘量は多いみたいだけど、そんなモノは食べる事が出来ない。
 せいぜい諸外国に売りつけ稼ぐくらいだけど、結局そうするとそのお金はお偉い方の懐にしか入らない。

 同じイージム大陸でもイザンカ王国なんかまだましだったと言うのに……


「あたしやっぱりその公王とか言う人嫌い。コクさんたちのいたジマの国なんかすごくよかったのに」

「ジマの国は黒龍様がお守りしてくれているからね。ドドスもその昔に無謀にもジマの国に戦争を仕掛けこっぴどくやられたって話だけどね」

 ルラのその言葉にリンガーさんは自国の事だと言うのに愉快そうに話す。
 そう言えばドドス共和国はドドスの街以外みんな自分がドドスの国に属しているつもりなんて無いって言ってたっけ。


「だとしても、あそこまでとは……」

「仕方ないんだよ、このイーオンの町は可もなく不可もなく。特徴も産業も無いから町のみんなも自分が喰っていくので精一杯さ。とても他人の心配をする程余裕なんて無いんだよ……」

 確かにそうなのかもしれないけど……
 
「じゃぁさ、ガーリーの村でもっと魔鉱石買い付けて港町のアスラックで売ればお金出来るじゃないの?」

「ああ、だから俺はキャラバンを編成してこの町が潤うようにしたいんだ」

 ルラのその言葉にリンガーさんはそう言ってぐっとこぶしを握る。
 通りすがりの私たちがこれ以上何かを手伝うってのは難しいけど、リンガーさんの成功を祈るくらいは出来る。


「じゃあ、頑張って立派なキャラバンの隊長になってくださいね!」

「ああ、勿論だとも!」


 私はリンガーさんの夢が叶うよう祈るのだった。


 * * * * *


「ここが冒険者ギルドの支部ですか……」

「ああ、そうだよ」


 いや、確かに看板あるよ?
 でもなにこれ、支部って呼ぶにはいささか小さすぎない?

 前世の世界でほとんど絶滅状態だったタバコ屋さんのように、小さな窓口が一つ。
 窓口の隣に依頼事項が張ってある掲示板があるけど、何時のだか分からないような古ぼけた依頼書が数枚あるだけだった。


「ロゼッタ婆ちゃん、元気にしてるかい?」

「なんだい、誰かと思えばリンガーじゃないか? うちに来るなんて珍しいね」

 リンガーさんは小窓を覗き込みその奥に座っているお婆さんに声をかける。
 なんかまさしくタバコ屋に久しぶりに来たお客さんを見ている様だ。

「いやな、こっちのエルフの嬢ちゃんたちが用事が有るとかで連れてきた」

 そう言って私たちの方を親指で指さす。
 言われたので私は慌てて挨拶をする。

「あ、こんにちは。はじめまして私リルって言います。こっちは双子の妹のルラ。実はこちらの冒険者ギルドに『風のメッセンジャー』が無いかと思いまして……」

「あらまぁ、エルフのお客さんなんて久しぶりだね。いらっしゃい。でもね、こんな小さな冒険者ギルドの支部に高価な『風のメッセンジャー』は無いんだよ。ごめんね」

「はぁ、そうですか。ありがとうございます……」

 予想はしていたけど、やっぱり風のメッセンジャーは無い。
 こうなってくると仕方ないので港町のアスラックに行ってもう一度冒険者ギルドか教会に行くしかない。

 私はリンガーさんを見て頷く。
 するとリンガーさんは肩をすくめ、そしてお婆さんに聞く。

「そういやロゼッタ婆ちゃん、伝言のサービスはまだやってるのかい?」

「伝言サービスはやっているよ、伝書鳩だけどね」

 それを聞いてからリンガーさんは私に言う。

「この支部はさ、伝言の委託サービスもやっているんだよ。ここからアスラックのギルドに伝言を頼むと、冒険者ギルド間で伝言を届けるサービスをやってくれる。目的地の近くの冒険者ギルド宛に伝言を頼んでおけば伝えたい事くらいは届くかもしれないよ?」

「え? そんなサービスもあるんですか??」

 それは初めて聞いた。
 でも考えてもみれば冒険者ギルド、いや、他のギルドでも全世界に連絡網があるらしいからそう言ったサービスがあっても不思議ではない。

 私はお婆さんにすぐに伝言サービスについてもっと詳しく話を聞く。


「あの、伝書鳩でアスラックのギルドに伝達したのが精霊都市ユグリアの冒険者ギルドに伝達されるのってどのくらい時間がかかりますか?」

「そうさね、鳩はすぐにつくだろうから明日か明後日には伝達されるだろうね」

 お婆さんはにこにこしながらそう言う。
 私はすぐにそのサービスを使う事にした。

「それじゃ、伝言をお願いします。あて先は精霊都市ユグリアのファイナス長老、じゃなくて市長。『リルとルラはもうすぐ船に乗ってサージム大陸に渡る』って!」

 私は勇んでそう言うとお婆さんは眼鏡とメモを取り出し今の伝言を書き始める。

「えーと、『リルとルラはもうじき船に乗りサージム大陸に戻る』っと。これで良いかい?」

「はい! あ、お代は……」

「銅貨五枚だよ。確かに伝言預かったよ」

 お婆さんはそう言い小さな筒にそのメモを巻いて詰め込む。
 そして奥に行ってしばらくすると鳩を一匹連れてきた。
 人慣れした鳩の様で足にその筒をくくり付けるのを大人しくじっと待っている。
 そして括り付け終わるとお婆さんは鳩を放り投げ大空に飛ばす。

「はい、これで明日か明後日には精霊都市の冒険者ギルドには伝言が届くよ」

「良かったぁ、とにかくこれで一安心です」



 私は大空を何回か回ってから南に向かう鳩を見送るのだった。   
  
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