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第十章:港町へ
10-4イーオンの町
しおりを挟むイーオンの町はこのイージム大陸ではごくごく普通の町だった。
他の町や村なんかと同じく魔物除けの立派な城壁に囲まれていて、これなら巨人が来てもそうそう簡単には町に侵入は出来ないだろう
そんなイーオンの町に入るのに門の所で検問にかかる。
「えーと、街に入るには銀貨一枚徴収される。俺みたいにここを根城にしているのは年間の税を払っているからこの通行書があれば通れるんだけどね」
リンガーさんはそう言って通行書を取り出す。
まあ、何処の国や街なんかでも税金とられるから仕方ないので大人しく銀貨二枚出して町に入る。
「さてと、それじゃぁ約束通り町の案内するけど最初は何処へ?」
「えっと、とりあえず女神信教の神殿とかってありますか? ちょっと野暮用がありまして。それとなければ冒険者ギルドとかへ」
私がそう言うとリンガーさんは不思議そうな顔をする。
「その歳で冒険者…… って、エルフは見た目と年齢が違うんだっけ? それに女神信教って信者なのかい?」
「歳は今年で十六です。あ、これって生まれて十六年なんでそのままですよ。それと信者じゃないですけど神殿か教会には野暮用があるんですよ……」
どちらにせよまずは風のメッセンジャーでファイナス長老に私たちが今どこでどうしているかを伝えるべきだった。
カリナさんのような渡りのエルフは自前でエルフのネットワークにつなげる事は出来る。
しかしその精霊魔法はかなり難しく、今の私のレベルじゃ習得は出来そうにもない。
なので「風のメッセンジャー」というマジックアイテムがありそうな場所へ行ってみるしかない。
冒険者ギルドとかはユエバの町のギルドマスター、カーネルさんの紹介状とか有るし、神殿ならバーグ神官がよこしたペンダントがある。
どちらにせよ協力の要請は出来るだろう。
「あいにくここには神殿は無いな。教会と言っても小さなのしかないけどいいかい? あと、冒険者ギルドもあるけどやっぱり支所で小さいよ?」
「うーん、それでも取りあえずはお願いします」
小さな教会や支所の冒険者ギルドだともしかしたら風のメッセンジャーは無いかもしれない。
あれって結構高価なマジックアイテムらしいから。
「んじゃ取りあえず教会へ行ってみるか」
リンガーさんはそう言ってまずは私たちを教会へ案内してくれるのだった。
* * * * *
協会は本当に小さなところだった。
そして孤児院も兼ねていた。
「ここがこの町の教会なんだが、正直な話、今はあまり近寄りたくないんだよなぁ」
リンガーさんはそう言って教会の中の様子を見る。
すると孤児らしい子供たちが数人一生懸命に掃除を手伝っている。
「ここはさ、孤児院も兼ねているんだけど町からの支援もほとんど無くて経営も厳しいからな、余裕がない時とかは近づきずらいんだよなぁ」
「うーん、それでも一応行ってきますね」
私はそう言ってノックをして扉を開ける。
するとすぐにシスターらしき人が私たちに気付く。
「どちらさまで?」
「あ、こんにちは。私はリル、こっちは妹のルラです。えっと、実はこう言う者でお話がありまして……」
私はあのペンダントを引っ張り出してそれを見せる。
すると途端にシスターの顔色が変わっておどおどする。
「神殿の方ですか…… すみません、私共の教会もやっていくのだけで精一杯で、その、献上金とかのお取り立ては……」
「いやいやいや、そう言うのじゃありませんよ! ここに【風のメッセンジャー】があるかどうか聞きに来たんですってば!!」
よよよよよと崩れるシスター。
それをかばうかのように前に出る小さな男の子たち。
「シスターをいじめないで!!」
「僕の食べ物あげるからこれ以上シスターをいじめないで!!」
「ぼ、僕のも!!」
そう言いながら子供たちはカピカピに乾いた食べかけのパンを引っ張り出す。
まるで絵にかいてかのような貧乏っぷり。
「うわぁ~、なんかお姉ちゃんが悪い人みたい……」
「ぐっ、ル、ルラぁ…… あ、あのね君たち、お姉ちゃんは別にシスターをいじめに来たんじゃないんだよ? そうだ、ほらこれあげるからみんなで食べてね!」
そう言ってまだ残っていたガリーの村のドーナッツを引っ張り出す。
本当は見るのもきついけど、こう言った所で役に立てるのであればそれに越した事は無い。
「うわっ! ドーナッツ!!」
「すっげー、こんなに!!」
「た、食べても良いの?」
「お、お金とらない??」
子供たちは一斉にドーナッツによって来る。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんのおごり。みんなに全部上げるから食べていいよ」
私がそう言うと子供たちは一斉にドーナッツを手にして食べ始める。
「あ、あの、ドドスの教会の方がこのような施しを・・・・・」
「えっと、正確には教会の者では無いんです。訳あってこのペンダントは渡されていますけど」
バーグさん、これって何なのよ?
行く先々で協力を得られるのじゃなかったの?
いや、ドドスと言う国柄こうにもなるのかもしれない。
他の国で見た孤児院はここまでのは無かった。
「シスター、良かったな。すまんが今回はまだ金がない。寄付は儲かったらな」
「リンガー、その気持ちだけでも十分だよ。仕事、うまくいってるのかい?」
どうやら顔見知りではあるようだ。
リンガーさんとシスターは何やら話している。
けど、その前に私たちの目的に答えてもらいたい。
「あの、お話し中すみませんが『風のメッセンジャー』は?」
「ああ、すみません。見ての通り貧乏な教会。とてもではありませんがそのような高価なマジックアイテムは……」
分かってはいたけど、一応は確認をする。
「ありがとうございます。あれば少しお借りしたいと思ったのですけどね」
「お役に立てずすみません」
そう言ってシスターは深々と頭を下げる。
うーん……
「お姉ちゃん、あたしもお腹すいて来たなぁ~」
「え? ルラ??」
「お姉ちゃんの料理はおいしいから、この子たちも食べてみたいよね?」
ルラはそう言って子供たちににっこりと笑いかける。
子供たちは夢中でドーナッツを食べていたけどルラにそう言われてきょとんとする。
私は軽くため息をついて言う。
「そうね、まだお昼には少し早いけどお腹すいたわね。シスター、厨房をお借りしますね。みんな、お姉ちゃんがおいしいご飯を食べさせてあげるわよ!!」
私のその言葉に子供たちは大いに喜ぶのだった。
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