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第十章:港町へ

10-3渓谷を抜けて

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「ふっふっふっふっふっ、もう汗臭いなんて言わせないわ!!」


 私は上機嫌で街道を歩いていた。
 自分でもわかるくらい今はいい香りが体からする。
 だってとっておきのシャンプーとボディーソープ使ったんだもん!


「お姉ちゃん、機嫌良いね?」

「あったり前じゃない、昨日はお風呂に入ってさっぱりしたし体もいい香りで気分いいじゃない!」

 妹のルラに心をやられる発言されて何が何でも奇麗になっていい香りを身にまといつかせたかった。
 まあ、それはエルフ族としてで他の種族からすると私たちエルフの体臭は「清々しい森の香りがする」らしい。
 でもエルフどうしではそれって汗臭いって事なので乙女である私としてみれば絶対に容認できない事でもある。
 
 もっとも、体の汚れだけを消すなら私のチートスキル「消し去る」を使えばいいのだけど、以前ルラの服が汚れた時にそれをやったらルラの服まで消し去ってしまい真っ裸にしてしまった。
 汚れの認定が服まで汚れ物認定になっているので、その辺の調整が難しい。
 それに体を奇麗にするならいい香りも身にまといたいと言うもの。
 なので旅の道中だと言うのに久々に湯船につかったのだった。


「はぁ~、お姉ちゃんが元気になったのはいいけど、あたしは昨日お姉ちゃんに胸揉まれて変な気分だよぉ~、あんなの初めてだった……」

「くっ、何うらやましい事言ってるのよ! しっかり成長して同じ双子なのになんで私だけ!!」

 昨日は一緒にお風呂に入りながらルラの胸を揉んで驚かされた。
 コンビニの肉まん一歩手前。
 ちょっと前までそこまで大きく無かったのに!
 私なんかほとんど成長していないと言うのに!!

 同じ双子の姉妹なはずなのにっ!!!!

 
「なんでこうも差が出るのよ……」

「お姉ちゃん?」

 せっかく気分が良かったのに別の問題で気分が沈んでくる。
 軽やかだった足取りも重くなり始めた頃だった。


「お姉ちゃん! あれっ!!」

 ルラがそう言って街道の先を指さす。
 するとそこには旅人らしい人が魔物に襲われていた。


「ルラっ、助けるよ!!」

「うん、あたしは『最強』!!」


 重い気分を一新。
 今はあの旅人を助けなければいけない。

 旅人はロックワームに囲まれていた。
 この辺は岩場が多いのであのムカデみたいなやつが多い。
 小さいやつなら普通の人でもなんとかなるけど、今襲っているのは軒並み一メートルを超えるやつ。
 とても普通の人じゃ対応できない。


「風の精霊よ、彼を守って!!」


 ここからじゃ私の脚じゃ届かないし、ルラが突っ込んだから私のスキルを使うわけにもいかない。
 だから精霊魔法を使って襲われている人を防御する事に徹する。


「うわぁああああぁっ!」


 旅人に飛びかかるロックワームにルラが飛び蹴りをする。

「このぉっ!」


 ばきっ!


 そして次々と襲い来るロックワームをルラはどんどん殴り飛ばしてはじき返す。

「大丈夫!?」

「あ、あんたは?」


 ずさっ!   
 

 旅人の前に立ちふさがるルラ。
 しかし後ろから別のロックワームが飛び掛かる!


 ばしんッ!


 でも私がかけていた精霊魔法の守りがロックワームを弾き飛ばしてくれた。
 そこをルラがすかさず蹴り飛ばして向こうへとやる。

 ロックワームたちもルラに敵わないと悟ったか、殴られたり蹴られたのはすぐに逃げ始めた。
 ルラはその様子を見てしばし状況を確認するも、どうやらみんな逃げて行ったようだ。
 構えを解いてルラはもう一度旅人を見る。

「大丈夫だった?」

「エ、エルフなのか? エルフってこんなに強かったのか…… いや、ありがとう。助かったよ」

 そう言って彼は立ち上がり埃を払う。
 そんな二人の元へ私もやって来て事情を聴く。


「危なかったですね。私はリル。こっちは双子の妹のルラです」

「もう一人エルフ? ありがとう、助かったよ。俺はリンガー、商人だ」

 リンガーと名乗ったその人はそう言って手を差し伸べて来る。
 私はその手を取り握手する。

「行商の人ですか? 一人で??」

「ああ、ガリーの村に魔鉱石の買い出しに行ったんだが、丁度有名な『ドーナッツ大会』だったみたいでね、何の戦果もあげずに仕方なしにイーオンに戻る所だったんだよ」

「うっ」

 そう言って少々疲れたような笑いをする。
 そんな彼に私は思わずうなってしまった。
 
「そ、それは大変でしたね……」

「ああ、まったくだ。あの村って何時『ドーナッツ大会』が開かれるか分からないからなぁ。もしその時村に入っていたと思うとぞっとするよ」

 そう言いながら笑うけど、その当事者だった私たちは笑えない。
 あの村にはもう近付くのは遠慮したいほどの思いをした。
 それにまだ当分ドーナッツは見るのも嫌だ。

「そう言えば君たちはイーオンに向かっているのかい?」

「イーオン?」

 初めて聞くその名前に首をかしげる。
 すると彼は苦笑して話始める。

「この先にある町の事だよ。俺はその町を中心に近郊の品物を仕入れて港町であるアスラックに売りつけているんだ。まだ駆け出しだけどいずれはキャラバンを編成するのが夢なんだ」

 そう言う彼はよく見れば確かに若い。
 多分二十歳ちょっとじゃないだろうか?

「なるほど、あ、そう言えば……」

 私はポーチから魔鉱石を取り出す。
 それを見るとリンガーさんが驚きの表情をする。


「これ、魔鉱石じゃないか!」


「えっと、私たち、つい先日までガリーの村にいまして魔鉱石って面白そうなものが有ったので少し分けてもらったんですよ。どこかの町で売って路銀にでもしよと思って」

「ガリーの村に先日って・・・・・ まさか・・・・・・

「はい、もう当分ドーナッツは見たくないです……」

「・・・・・・ご愁傷様」

 リンガーさんは察してくれてそれ以上は何も言わなかった。
 でもまあ、過ぎた事だ。
 なので気を取り直して話す。

「私たちはサージム大陸のエルフの村に戻ろうとしているんですよ。それで港町を目指しているんです」

 私がそう言うとリンガーさんは途端に明るい顔になって言う。

「リルちゃんだっけ、もしかしてイーオンの町でそれ売り払うつもりかい? それ俺に売ってもらえないか!?」

「はははっ、いいですよ」

 興味半分でガリーの村で買っておいたけど、意外な所で売れた。
 もっとも、地竜のお金もまだまだあるので余裕はあるのだけど多くあって困るモノではない。
 それに興味本位で買ったけど私たちじゃ魔鉱石の使い道がない。
 
 なのでリンガーさんに売り払った。
 ガリーの村で買った時より一割ほど高く買い取ってくれた。

「いやぁ、助かった。これで納期には間に合うな」

「納期?」

「ああ、アスラックの港から出る船は定期船があるんでね。魔鉱石はこのイージム大陸、特にドドスが多く産出されているからね。他の大陸に売れば良い値になるんだよ。特にガレント王国なんか高く買い取ってくれるらしいからね」

 そう言いながら背負いの袋に魔鉱石をしまい込んでいくリンガーさん。

 うーん、あの石ってこっちのイージム大陸、しかもドドスの特産物だったんだ。
 まあ、魔力伝達とかが格段に良いので腕の良い職人さんが加工すれば素晴らしいものが出来るらしい。
 ドドスにいたドワーフのウスターさんみたいな。 

 それにその先のアスラックって言う港町ではもうじき定期船が出るそうだ。
 それに乗ればウェージム大陸に帰れる。


「そう言えば…… この先の町、確かイーオンでしたっけ? リンガーさんはその町に詳しいんですよね?」

「ああ、根城にしているからね」

「だったら一緒にその町に行って案内してもらえませんか? 魔術師ギルドとかありますよね?」

 ある程普度大きな町とかならばカリナさんのいたユエバの町みたいに「風のメッセンジャー」が使えるかもしれない。
 最悪は教会を探して連絡を取るのも手だけど、それはあまりしたくない。

 とにかくファイナス長老には連絡とらないと。

 私がそうお願いするとリンガーさんは快く引き受けてくれた。

「ああ、勿論だとも。助けてもらったしね」



 こうして私たちはリンガーさんと一緒に次の町、イーオンへと向かうのであった。 

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