190 / 437
第十章:港町へ
10-3渓谷を抜けて
しおりを挟む「ふっふっふっふっふっ、もう汗臭いなんて言わせないわ!!」
私は上機嫌で街道を歩いていた。
自分でもわかるくらい今はいい香りが体からする。
だってとっておきのシャンプーとボディーソープ使ったんだもん!
「お姉ちゃん、機嫌良いね?」
「あったり前じゃない、昨日はお風呂に入ってさっぱりしたし体もいい香りで気分いいじゃない!」
妹のルラに心をやられる発言されて何が何でも奇麗になっていい香りを身にまといつかせたかった。
まあ、それはエルフ族としてで他の種族からすると私たちエルフの体臭は「清々しい森の香りがする」らしい。
でもエルフどうしではそれって汗臭いって事なので乙女である私としてみれば絶対に容認できない事でもある。
もっとも、体の汚れだけを消すなら私のチートスキル「消し去る」を使えばいいのだけど、以前ルラの服が汚れた時にそれをやったらルラの服まで消し去ってしまい真っ裸にしてしまった。
汚れの認定が服まで汚れ物認定になっているので、その辺の調整が難しい。
それに体を奇麗にするならいい香りも身にまといたいと言うもの。
なので旅の道中だと言うのに久々に湯船につかったのだった。
「はぁ~、お姉ちゃんが元気になったのはいいけど、あたしは昨日お姉ちゃんに胸揉まれて変な気分だよぉ~、あんなの初めてだった……」
「くっ、何うらやましい事言ってるのよ! しっかり成長して同じ双子なのになんで私だけ!!」
昨日は一緒にお風呂に入りながらルラの胸を揉んで驚かされた。
コンビニの肉まん一歩手前。
ちょっと前までそこまで大きく無かったのに!
私なんかほとんど成長していないと言うのに!!
同じ双子の姉妹なはずなのにっ!!!!
「なんでこうも差が出るのよ……」
「お姉ちゃん?」
せっかく気分が良かったのに別の問題で気分が沈んでくる。
軽やかだった足取りも重くなり始めた頃だった。
「お姉ちゃん! あれっ!!」
ルラがそう言って街道の先を指さす。
するとそこには旅人らしい人が魔物に襲われていた。
「ルラっ、助けるよ!!」
「うん、あたしは『最強』!!」
重い気分を一新。
今はあの旅人を助けなければいけない。
旅人はロックワームに囲まれていた。
この辺は岩場が多いのであのムカデみたいなやつが多い。
小さいやつなら普通の人でもなんとかなるけど、今襲っているのは軒並み一メートルを超えるやつ。
とても普通の人じゃ対応できない。
「風の精霊よ、彼を守って!!」
ここからじゃ私の脚じゃ届かないし、ルラが突っ込んだから私のスキルを使うわけにもいかない。
だから精霊魔法を使って襲われている人を防御する事に徹する。
「うわぁああああぁっ!」
旅人に飛びかかるロックワームにルラが飛び蹴りをする。
「このぉっ!」
ばきっ!
そして次々と襲い来るロックワームをルラはどんどん殴り飛ばしてはじき返す。
「大丈夫!?」
「あ、あんたは?」
ずさっ!
旅人の前に立ちふさがるルラ。
しかし後ろから別のロックワームが飛び掛かる!
ばしんッ!
でも私がかけていた精霊魔法の守りがロックワームを弾き飛ばしてくれた。
そこをルラがすかさず蹴り飛ばして向こうへとやる。
ロックワームたちもルラに敵わないと悟ったか、殴られたり蹴られたのはすぐに逃げ始めた。
ルラはその様子を見てしばし状況を確認するも、どうやらみんな逃げて行ったようだ。
構えを解いてルラはもう一度旅人を見る。
「大丈夫だった?」
「エ、エルフなのか? エルフってこんなに強かったのか…… いや、ありがとう。助かったよ」
そう言って彼は立ち上がり埃を払う。
そんな二人の元へ私もやって来て事情を聴く。
「危なかったですね。私はリル。こっちは双子の妹のルラです」
「もう一人エルフ? ありがとう、助かったよ。俺はリンガー、商人だ」
リンガーと名乗ったその人はそう言って手を差し伸べて来る。
私はその手を取り握手する。
「行商の人ですか? 一人で??」
「ああ、ガリーの村に魔鉱石の買い出しに行ったんだが、丁度有名な『ドーナッツ大会』だったみたいでね、何の戦果もあげずに仕方なしにイーオンに戻る所だったんだよ」
「うっ」
そう言って少々疲れたような笑いをする。
そんな彼に私は思わずうなってしまった。
「そ、それは大変でしたね……」
「ああ、まったくだ。あの村って何時『ドーナッツ大会』が開かれるか分からないからなぁ。もしその時村に入っていたと思うとぞっとするよ」
そう言いながら笑うけど、その当事者だった私たちは笑えない。
あの村にはもう近付くのは遠慮したいほどの思いをした。
それにまだ当分ドーナッツは見るのも嫌だ。
「そう言えば君たちはイーオンに向かっているのかい?」
「イーオン?」
初めて聞くその名前に首をかしげる。
すると彼は苦笑して話始める。
「この先にある町の事だよ。俺はその町を中心に近郊の品物を仕入れて港町であるアスラックに売りつけているんだ。まだ駆け出しだけどいずれはキャラバンを編成するのが夢なんだ」
そう言う彼はよく見れば確かに若い。
多分二十歳ちょっとじゃないだろうか?
「なるほど、あ、そう言えば……」
私はポーチから魔鉱石を取り出す。
それを見るとリンガーさんが驚きの表情をする。
「これ、魔鉱石じゃないか!」
「えっと、私たち、つい先日までガリーの村にいまして魔鉱石って面白そうなものが有ったので少し分けてもらったんですよ。どこかの町で売って路銀にでもしよと思って」
「ガリーの村に先日って・・・・・ まさか・・・・・・
「はい、もう当分ドーナッツは見たくないです……」
「・・・・・・ご愁傷様」
リンガーさんは察してくれてそれ以上は何も言わなかった。
でもまあ、過ぎた事だ。
なので気を取り直して話す。
「私たちはサージム大陸のエルフの村に戻ろうとしているんですよ。それで港町を目指しているんです」
私がそう言うとリンガーさんは途端に明るい顔になって言う。
「リルちゃんだっけ、もしかしてイーオンの町でそれ売り払うつもりかい? それ俺に売ってもらえないか!?」
「はははっ、いいですよ」
興味半分でガリーの村で買っておいたけど、意外な所で売れた。
もっとも、地竜のお金もまだまだあるので余裕はあるのだけど多くあって困るモノではない。
それに興味本位で買ったけど私たちじゃ魔鉱石の使い道がない。
なのでリンガーさんに売り払った。
ガリーの村で買った時より一割ほど高く買い取ってくれた。
「いやぁ、助かった。これで納期には間に合うな」
「納期?」
「ああ、アスラックの港から出る船は定期船があるんでね。魔鉱石はこのイージム大陸、特にドドスが多く産出されているからね。他の大陸に売れば良い値になるんだよ。特にガレント王国なんか高く買い取ってくれるらしいからね」
そう言いながら背負いの袋に魔鉱石をしまい込んでいくリンガーさん。
うーん、あの石ってこっちのイージム大陸、しかもドドスの特産物だったんだ。
まあ、魔力伝達とかが格段に良いので腕の良い職人さんが加工すれば素晴らしいものが出来るらしい。
ドドスにいたドワーフのウスターさんみたいな。
それにその先のアスラックって言う港町ではもうじき定期船が出るそうだ。
それに乗ればウェージム大陸に帰れる。
「そう言えば…… この先の町、確かイーオンでしたっけ? リンガーさんはその町に詳しいんですよね?」
「ああ、根城にしているからね」
「だったら一緒にその町に行って案内してもらえませんか? 魔術師ギルドとかありますよね?」
ある程普度大きな町とかならばカリナさんのいたユエバの町みたいに「風のメッセンジャー」が使えるかもしれない。
最悪は教会を探して連絡を取るのも手だけど、それはあまりしたくない。
とにかくファイナス長老には連絡とらないと。
私がそうお願いするとリンガーさんは快く引き受けてくれた。
「ああ、勿論だとも。助けてもらったしね」
こうして私たちはリンガーさんと一緒に次の町、イーオンへと向かうのであった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜
真田音夢李
恋愛
『やぁ‥君の人生はどうだった?』86歳で俺は死んだ。幸せな人生だと思っていた。
死んだ世界に三途の川はなく、俺の前に現れたのは金髪野郎だった。もちろん幸せだった!悔いはない!けれど、金髪野郎は俺に言った。『お前は何も覚えていない。よかったな?幸せだ。』
何言ってんだ?覚えてない?何のこと?だから幸せだったとでも?死ぬ前の俺の人生には一体何が起こってた!?俺は誰かも分からない人物の願いによってその人生を幸せに全うしたと?
一体誰が?『まさに幸せな男よ、拍手してやろう』そう言って薄ら笑いを浮かべてマジで拍手してくるこの金髪野郎は一体なんなんだ!?そして、奴は言う。ある人物の名前を。その名を聞いた途端に
俺の目から流れ落ちる涙。分からないのに悲しみだけが込み上げる。俺の幸せを願った人は誰!?
分からないまま、目覚めると銀髪に暁色の瞳をもった人間に転生していた!けれど、金髪野郎の記憶はある!なのに、聞いた名前を思い出せない!!俺は第二の人生はテオドールという名の赤ん坊だった。此処は帝国アレキサンドライト。母親しか見当たらなかったが、どうやら俺は皇太子の子供らしい。城下街で決して裕福ではないが綺麗な母を持ち、まさに人知れず産まれた王子と生まれ変わっていた。まさか小説のテンプレ?身分差によって生まれた隠された王子?おいおい、俺はそんなのどうでもいい!一体誰を忘れてるんだ?そして7歳になった誕生日になった夜。夢でついに記憶の欠片が・・・。
『そんな都合が言い訳ないだろう?』
またこいつかよ!!お前誰だよ!俺は前世の記憶を取り戻したいんだよ!
初恋に敗れた花魁、遊廓一の遊び人の深愛に溺れる
湊未来
恋愛
ここは、吉原遊郭。男に一夜の夢を売るところ。今宵も、一人の花魁が、仲見世通りを練り歩く。
その名を『雛菊』と言う。
遊女でありながら、客と『情』を交わすことなく高級遊女『花魁』にまでのぼりつめた稀な女に、今宵も見物人は沸く。しかし、そんな歓声とは裏腹に雛菊の心は沈んでいた。
『明日、あちきは身請けされる』
情を売らない花魁『雛菊』×吉原一の遊び人『宗介』
華やかな吉原遊郭で繰り広げられる和風シンデレラストーリー。果たして、雛菊は情を売らずに、宗介の魔の手から逃れられるのか?
絢爛豪華な廓ものがたり、始まりでありんす
R18には※をつけます。
一部、流血シーンがあります。苦手な方はご自衛ください。
時代考証や廓言葉等、曖昧な点も多々あるかと思います。耐えられない方は、そっとブラウザバックを。
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
前話
【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる