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第十章:港町へ

10-1山間を抜けて

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「もう、騙された!!」

「お姉ちゃん?」


 ずかずかと岩山と岩山の間の渓谷へ向かって歩いて行く。
 私は何故かものすごく苛立っていた。

 なにが苛立たせているのかとかはよく分からないけど、とにかく苛立っていた。

 たぶん、イリカさんのせいだと思う。
 正直イリカさん自体ここしばらく一緒にいてそんなに悪い人には思えなかった。
 
 でもいくらそんなイリカさんでも秘密結社ジュメルの、しかも七大使徒の一人だなんて!!


「騙された!!」


 そう言って苛立ち紛れに足元に転がっている石ころを蹴飛ばす。


 こんっ!


 それは見事に飛んで行って近くの林に吸い込まれてゆく。
 そして何かに当たったのだろうか、変な泣き声がする。


「ぎゃうっ!」


「ん? なに??」

 蹴飛ばした石ころがどうやら何かに当たってそれがこちらに出てきた。
 見れば小柄な緑色したゴブリンだった。

 そう言えば、ドドスからこちらに向かって旅を始めた頃にゴブリンに出会ったっけ。
 考えても見ればそれから道に迷い、木こりのバージさんに出会い、そしてデルバの村に行って道に迷ったのを助けてもらって、そしてイリカさんに出会って……


「そりゃぁ何もしないなら害は無いかもだけど、私の匂いくんかくんかされたし、ジュメルって何考えている分からないもの、イリカさんだって……」


 今まで出会った人々は私たちがエルフだからと言っても意外と優しくしてくれた人が多い。
 まあジュメルは厄介なのが多かったけど……
 
 イリカさんだって、普通に接している分には……


「ぎゃうぎゃうぎゃうっ!」


「あー、うっさい! ルラっ!」

「うん、あたしは『最強』!!」

 ぶつぶつ言いながらそんなこと考えているとゴブリンがうるさく、そして仲間を呼んだのか私たちを取り囲む。
 でも私がルラの名を呼ぶとすぐにルラは「最強」のスキルを発動させて襲ってきたゴブリンたちをあっさりと撃退する。

 ルラには敵わないと思ったのか、ゴブリンたちは散り散りに林の中に逃げ込んでい行く。


「お姉ちゃん、終わったよ~」

「うん、ありがと。はぁ、それでもなんかむしゃくしゃするの止まんないなぁ……」


 八つ当たりなのはわかっている。 
 でもこのイライラの原因もはっきりしないし、街道に出る魔物たちを駆逐しても誰も困らないだろう。
 そんなこと思っていたら今度は豚顔のオークが出てきた。


「げへっ、げへっ!」

 よだれを垂らして私たちを見ている。
 そしてその後からまた数匹出て来る。

「お姉ちゃん、こいつらも片付けるね」

「ん、今度は私がやるわ」

 私がそう言うと、いやらしい目つきで私たちを見ていたオークが一斉に襲って来た。


「『消し去る』!!」


 しかし飛び掛かるオークは一瞬で私の前から消え去った。
 そして次々と襲ってくるオークも同じく。

 数匹消し去ってからオークに動揺が走る。
 そりゃぁ、私を襲おうとした仲間が忽然と消え去ればその異常さにも気づくだろう。

「ふっふっふっふっふっ、今の私は虫の居所が悪いの。消えたくなければこの場からいなくなる事ね!」


 たむっ!


 足を地面に強く踏みつけ凄んでみるとオークたちは何やらひそひそ話をしている。
 そしてルラを見ると今度は一斉にそちらに襲いかかる。

「あたしは『最強』!」

 そして悲鳴を上げる事すら許されずルラにボコボコに吹き飛ばされるのであった。


 * * * * *


「はぁ~、いい加減疲れた~」

「うん、なんでだろうね? いきなり魔物たちが私たちを襲い始めるなんて」


 あの後なんだか分からないけど小物の魔物含めいろいろな魔物が襲って来た。
 まあ、機嫌が悪いのですべて撃退したり、消し去ったりしているので問題は無いのだけど。


「ふう、なんかちょっと汗かいちゃったなぁ。こんな所じゃ泉も川もないし、やだなぁ、臭っちゃうかなぁ……」

 そう言えばオーガの皆さんもちょっと匂ってたなぁ。


 ……ん?

  臭い??


 私はふとルラがボコボコにした魔物を見る。

 デルバの村は魔物が来ない様に結界が張っていたのではなく、村の人々が人間の姿になるようにオーガの姿を封印していた。
 つまり、魔物除けの結界じゃなかった。
 
 でも村は魔物に襲われる事が無かったって言うのは、もしかしてオーガの匂いに魔物たちが警戒して襲ってこなかった?

 私たちエルフの体臭は森の香りがする。
 特に汗かいちゃったりするとその匂いが強くなるので恥ずかしい。

 でも人間族にはそれが清々しい香りだって言う人もいる

 エルフどうしだとやんわりと泉につかるよう言われるんだけどね。

 そうすると、今の私たちってデルバの村の皆さんから離れたから、そしてこの岩山の渓谷に差し掛かりほとんど緑が無い状況だと……


「私ってそんなに臭うの!?」

「すんすん、うーんまだ大丈夫かな?」


「何がっ!?」


 体臭の事に気付き、そしてルラが私の近くで鼻をすんすんさせる。
 そしてもの凄く気になる事を言うの。


「ルラ、何がまだ大丈夫なのよ!? まさか私って臭いの?? ねえ、ルラったらぁっ!!」

「あ~、大丈夫だよ、あたしはまだ我慢できるから」

「ルラぁっ!!」



 妹のその心遣いにもの凄く傷つく私だった。

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