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第九章:道に迷う
9-30無事回収したけれど
しおりを挟む最後の封印のひょうたんが納められているという祠はこの大きな滝の裏側になるらしい。
イリカさんのその情報をもとに私たちはここへ来たのだけど……
「あたしは『最強』!!」
『どひーっ!』
『ぬっはぁーっ!!』
9-30無事回収したけれど
どばっしゃ~んっ!
オーガの皆さんが水龍によりふっ飛ばされた滝つぼに落っこちる。
この滝つぼには一匹の水龍が住み着いていた。
大きさはそれ程ではないけど、自我がもう芽生えている龍らしく私たちにここを立ち去るように警告をしているそうだ。
「こんのぉっ!」
ルラはオーガの皆さんを吹き飛ばした水龍に殴りかかろうとすると尻尾を器用に水面にたたきつけ水の壁を作り出す。
「ぶっ!」
ばしゃっ!
どぼーんっ!
「ルラっ!」
いくら「最強」のスキルを持っていてもルラは相手に接触しなければその力を発揮できない。
ましてや相手は滝つぼに陣取った水を操る水龍。
水壁が邪魔して飛び出したルラも滝つぼに落ちる。
「ルラっ! こうなったら、滝つぼの水を『消し去る』!!」
私は水に沈んでしまったルラを救出する為に滝つぼの水をチートスキル、「消し去る」で消し去った。
『なんとっ!』
滝つぼにあった水は私のスキルで一瞬で消えてしまった。
それに驚く水龍が声を上げた。
そしてそこに水に沈んだオーガの皆さんやルラが水底だった地面に立ち上がる。
「げほげほっ、う~、お姉ちゃんありがとう」
「ルラ、それでも滝の水が流れ込んでいる、すぐにかたを付けないとまた水龍が!」
『まてまてっ! 私の負けだ、水が無ければ私はまっとうに動く事すらできん!!』
ルラやオーガの皆さんが水の無くなった水底で蛇のようにのたうち回っている水龍に近づくとコモン語でそう語りかけて来た。
「会話もできるんだ。なんで私たちを襲って来たんですか?」
『魔物たちが来たのだ、自分の縄張りを守るのは当然だろう?』
魔物たちって……
そう思って自分たちを改めてみると、確かに亜人のエルフとオーガの皆さん。
人族はイリカさんだけだけど、この濃ゆいメンバーのせいでその存在は薄まってしまっている。
「あー」
『お前たちは言葉が分かる。私の負けだ、だから殺さないでくれ!!』
うーん命乞いする竜って初めて見た。
どうしたものか迷ってイリカさんを見ると、イリカさんは目を輝かせて水龍を見ている。
「幻獣と言われる竜族の水龍が目の前に! この素材は魔法の素材としても貴重、ああ、でその前に身体構造がどうなっているのか気になる!!」
『まてまてまてぇっ! そこの女は魔導士か? ちょっと待てよ、私は自我がやっと芽生えたばかりなんだ、こんな事で死ぬのは嫌だぁ!』
なんか情けない声を出して命乞いを続ける。
なんかちょっとかわいそう。
「イリカさん、どうするつもりですか?」
「うーん、本当はサクッとやってもらって素材として欲しい所ですが、流石に意識が芽生えたドラゴンを無下に殺すのはもったいないですしね。とりあえず血液だけでももらっておきましょう♪」
『うおぉぃっ!!』
まあ殺されるよりはましだろう。
ウキウキと小瓶を取りだすイリカさんに青くなる水龍。
『まてまて、そうだ、いい事教えてやるからそれで見逃してくれないか? 実はあの滝の裏に魔王の残したアイテムがあるらしいんだ。どうだ、そっちの方が良いだろう?』
「あ、それを回収に来たんですよ。そしたらいきなりあなたに襲われたんで、その慰謝料として血をもらいますね~」
そう言ってイリカさんがぱちんと指を鳴らすとオーガの皆さんが指をぽきぽきと鳴らして水龍を取り囲んでいる。
「それではみなさん、お願いします。この小瓶にたまるくらいで許してやってくださいね~」
『分かった』
『よくもやってくれたなっし!!』
『覚悟するだがや!』
『どひぃーっ!!!!』
ばきぼこどがっ!
「うーん、水の中だとあたしの『最強』が使えない~ぃ」
「お疲れ様ルラ、でもやり方じゃないかな? 岸から石投げるとかまだ方法もあるだろうし」
なんか珍しくルラは弱気だった。
まあ、肉弾戦を得意とするルラが水の中では手足が出なかったのは流石にショックだったのだろう。
でも戦い方なんて工夫すれば何とかなるもんだと思う。
私のチートスキル、「消し去る」だって使い方では相手を倒せると知ったし、天の声では相手の周りの空気とか消し去ればいいとか、内臓を消し去ればいいとか凶悪な声も聞こえてくる時があるけど流石にねぇ~。
まあ、急な場合に指定して認証してって工程があるからぱっと見の場所を消し去るの方が楽でいいのだけどね。
「でもお姉ちゃんおかげで助かったよ~、ありがと」
「うん、さてと滝の水が溜まる前に封印のひょうたんを回収しちゃおう」
既にボコボコにされて涙目の水龍を横目に私はそう言って霧雨のようになっている滝の裏側を見るのだった。
* * * * *
「ありました!」
イリカさんはそう言って滝の裏にあった祠から最後のひょうたんを取りだしていた。
魔法のアイテムなので風化はしていない様だけど、他の封印のひょうたんと同じものだった。
「これで魔王様の作った封印のひょうたんは全て回収出来ました。幸い壊れたのは一個だけ、他のは今のところ問題無いようですね」
「良かったですね~、これで巨人族の脅威は無くなりましたね」
「ええ、とりあえずこれで有用に使えるようになりましたよ」
イリカさんはそう言ってにっこりと笑う。
でも、これで私たちもお手伝いは終わりでやっと港町に向かって動けそうだ。
『イリカさ、見つかっただがに?』
「はい、この通り。これでもう大丈夫ですね」
『それはいがっただに。それにしても腹減っただがに~。そうだ、まだ団子あっただがに!』
そう言えばもったいないから取っておいたジビのお団子がまだあったんだった。
私もそれを思い出し、引っ張り出してみるけど流石にちょっと硬くなっている。
「うーん、柔らかいうちは美味しかったんだけどなぁ、これじゃそのまま食べるのが大変だよね?」
『ん? どしただ、リルの嬢ちゃん??』
一つ取り出してかじりつくと結構硬くなっていた。
しかしオーガの皆さんはそれをバリバリ食べている。
「お姉ちゃん、あたしもお腹すいた~」
「う~ん、これもったいないしなぁ、そうだ!」
私はポーチからフライパンとオリーブオイル、フライ返しを引っ張り出す。
そして油を引いてからその上にジビ団子を載せて焼き始める。
しばらくすると柔らかくなってふにゃ~っとなり始めフライ返しで押すと平たくなり始める。
それをこんがり両面焼いてから、お皿に取り出して、メープルシロップをかけて出来上がり!
「うわっ! おいしそう!!」
「本当は砂糖とお醤油ってのもありなんだけど、今回はメープルシロップね。ちょっと塩を振ったから塩気もあっておいしいわよ?」
ルラに手渡ししているとイリカさんたちもこっちを見ている。
「あのぉ……」
「はいはい、分かってますってば、皆さんのジビ団子もこっちに持って来て下さい」
私がそう言うとすぐにみんなジビ団子を持ってくるのだった。
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